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第4幕 いざ!パンナコッタ・ヘブン


スケさんに促されてヨンズはこれまでの経緯を語り始めた。


「あれから君たちと別れてここフェアリーランドに着いたはいいけど、僕の記憶は戻らなくてね。この先どうしたものかと途方に暮れていたところ、チョビンさんから声をかけられたんだ」

「ふたりは知り合いだったのかい?」

ヨンズは困った顔で首を傾げた。


「それが彼と話をしていても記憶が戻らなくて、よくわからないんだ。だけどチョビンさんが言うには僕は記憶を失う前に彼とある約束をしていたらしいんだよ」

「どんな約束?」

「チョビンさんはカジノ"パンナコッタ・ヘブン"という所へ行って、そこの支配人マダム・ヤンから"遠見の水晶球"を貸してもらいたいという事なんだけど、どうも彼女がなかなか首を縦に振らないらしいんだ。それでその水晶球を譲り受けるための交渉役として僕の力を貸すことになっていたんだってさ・・・」

「・・・いやいや、貸してもらうがいつの間にか譲り受けるになっちゃってるよ。それはつまり平たく言えば、そのマダム・ヤンから"遠見の水晶球"をだまし取るために、ヨンズさんのチャーム体質(魅了の力)を使うってことでいいのかな?」


スケさんのその言葉にチョビンが激しく反論する。

「そういう風に言うからややこしくなるのだ!少しの間拝借するだけだというのに!」

フンガーと暴れまくる老人にミス・セプテンバーがアンタは黙ってろと抑えつけてくれている。


「まあいいや、それで?何が問題になってるんだい?」

「まずひとつは、そのカジノへ行くにはリザードマンが生息する危険な沼地を超えなくちゃならないという事。だけどチョビンさんは高レベルの格闘家だから、そこはあまり心配しなくてもいいかもしれない、もっと厄介なのはふたつめ。マダム・ヤンは魔女なんだよ」

ヨンズはムーっと唸りながら神妙な顔つきで語る。


「それは失敗して戦闘になったら厄介って事?」

「まあそれもなくはないんだけど、それ以前の問題としてカジノにはマダムによって結界が張られてあってね、ソレを越えられるだけの魔力を持たない者は中にすら入れないらしいんだ。僕も記憶を失う前はいくらか魔術の心得があったみたいなんだけど、今は記憶と一緒に魔力も消えてしまっているみたいでさ。いや違うな、MPはあるのに魔法の力が抜け落ちてると言った方がわかりやすいのかな?」

「なるほど、それでプリンの力が必要だったってことか。でもなんでマダムは、そんなわざわざ金を落としていく客を遠ざけるような結界を施しているのか・・・」

「それは簡単だよ、それだけの力を持たない者は金も持ってない。その結界は金を持たない者をマダムのカジノに寄せ付けないためのフィルターなんだよ」

しかしその言葉をスケさんは納得しかねた。


「でも全ての金持ちが魔法を使えるわけじゃないでしょ?」

「いや・・・、それだけの金を持ってる者は、かならずそれなりの人脈をも持っている。必要な時に、必要な人材を準備できないようじゃ、金持ちとして大した器じゃないってのがマダムの持論なんだろう。それに一度中に入って高額なパスを購入すれば、以降はひとりでも結界を抜けられるらしいしね」

その理屈にスケさんも一定の理解を示すが、それでも何やら腹落ちしない表情を浮かべていた。


「ちょっと待てぇーい☆一番の問題はソコじゃないじゃろー!」

いままでヨンズの状況説明をおとなしく聞いていたティターニャだったが、急にオカンムリの様子で会話に割り込んでくる。

「イチバンの問題は、ワラワがこのエロジジイどもをまるで信用できないってことじゃ!」

「ズンズの元おっちゃんはエロジジイですか?」

プリンのその言葉にヨンズは困ったなあと端正な顔を曇らせた。

「どうも記憶を失う前の僕は、けっこうなプレイボーイだったようでね。彼女の信用をまるで得られていないんだよ。さっきは魔女マダムの結界を抜けるためにプリンの力が必要だと言ったけど、もうひとつの役割として、ティターニャは君たちに僕らの見張りを望んでいるんだ」

「それはまた、結構な信用のなさで・・・」

流石のスケさんも呆れてものが言えないといった様子だった。


「でもなんで女王は、ボクたちの事をそこまで信用するのさ?」

スケさんの疑問はもっともだった。なんの面識もないプリンたちをなぜ"お目付け役"としてそこまで信用できるのか、美少年とはいえ体格は大人と変わらないヨンズが好き勝手に動き出したら、子供のプリンに止められるはずがないというのに。

「ソチらの先日の騒動は長老エントより聞き及んでおるのじゃー。そして我が夫オベロンが、ソチらに大変世話になったとも聞いた。この男そういうところは妙に義理堅いからな、ソチらに迷惑をかけることになると思えば、さすがのエロジジイであっても行動を慎むじゃろう」

プレイボーイとはいえ当人に魅力がなければそれは成立しない。たしかにチャーム体質が働いての結果というのも推察できるが、いくら体質でゲタをはいても元が低すぎれば効果は薄い。そういう義理堅いところや元から持ちあわせている優しさのうえにチャーム体質が底上げをしてプレイボーイ足りえたのであろう。

「もしかすると当のヨンズさんに非はなかったのかもしれないね。一方的に言い寄ってくるのは相手の方で、ヨンズさん自身にその気がないのに周囲から見ればただのスケコマシという・・・」

「だったらヨンズ君は被害者の方じゃないさ!」

プリンたちが到着する前にひと悶着もふた悶着もしたのだろう、これまでおとなしくしていたミス・セプテンバーがもう我慢できないとばかりに声を張り上げる。もしかすると彼女の方こそヨンズのチャーム体質の被害者なのかもしれなかったが、調子づかせるとメンドくさいのでスケさんは黙っておくことにした。


「まあというわけで、僕としては記憶がなくなったからと言ってそれを反故にするわけにもいかず、かといって手助けしようにもティターニャがそれを許さず、それを無理やり振り切ったとしてもマダムのカジノには入れずということで行き詰ってたという訳なんだよ」

「なるほど事情は理解できたよ。で、どうするのプリン?」

「却下です!」

即答だった。スケさんがどうする?と問いかけ終わるか終わらないかというタイミングで即答だった。

それと同時にやる気満々でノリノリだったミス・セプテンバーがズッコケる。

「え~っ!ソコはふつう物語の主人公が、困ってる人を助けるために立ち上がるってノリじゃないの!?」

ミス・セプテンバーの言い分に、プリンはチッチッチとたてた人差し指を左右に振ってみせた。

「アタチは今それどころじゃないのです!フケツの王にかけられた呪いを解くために、幸せになれるというフォーチュンダイスを探しに行かなくちゃならないのですから。フーッ!」

「どこにあるかも分かってないくせに?」

鼻息荒くそう"のたまう"プリンに、スケさんは半目を開いてプリンを咎めるようにつぶやく。しかしプリンはイーっと顔をしかめて駄々をこねるように拒絶した。

「今すぐ行かなきゃダメなのです!」

「行くとは言っても、プランも何もないのに?」

「ふ~~~~っ!」

プリンは顔を真っ赤にしてひどくご立腹の様子だが、返す言葉もなくて怒りの矛先をどこに向けていいのか探しあぐねているようだった。


しかしその様子を見てチョビンが一つの策を提案する。

「それならば、それこそパンナコッタ・ヘブンへ行ってみるべきじゃないのか?あそこにはカジノの景品として、世界中のありとあらゆるものが揃っているという噂だぞ?」

その言葉にプリンの顔色が変わった。

「何をしているですか、皆の者。さっさと出かける準備をするのです!時間はいつまでも待ってはくれないのですよ!」

「やれやれ・・・、まったく調子がいいんだから」

呆れかえるスケさんだったが、しかし皆の苦労と引き換えに話はまとまり方向性は定まったようだ。


そして皆がプリンの気が変わらぬうちにと身支度を整えるなか、ふいにティターニャがプリンを呼び止めた。

「しかしいつ来るかもわからん不幸の呪いとはナンギなことよのぉ。どれ、ワラワの力で幾らか軽くしてやろうではないか」

そう言いながらティターニャは綺麗な石ころをプリンに手渡す。

「なんですか、コレは?」

「押し寄せてくる不幸を一時的にせき止めるお守りじゃ」

「おおーっ!それならもうフォーチュンダイスはいらないのです!」

喜びを体全体で表現するプリンだったが、それをティターニャは慌てて引き留めた。

「ダメじゃダメじゃ、これにそれほどの力はない。言わば風呂の栓みたいなものじゃからなぁ」

「セン?」

「流れてくる湯を一時的に溜めることはできるが、溜めすぎて湯が浴槽から溢れかえったら周囲が水浸しで大変なことになるようなものじゃ。だから頃合いを見計らって、時々は栓を抜いて不幸を放出してやらなきゃならんのだぁ」

「どうやって、その栓を抜くですか?」

「頭の上にその石を置いて、腹を両手で2回叩く。そうすれば栓抜きの開始で、逆に栓をするときには1回叩けばいいのじゃ」

「なんだかカッコ悪いのです・・・」


しかし二人から離れた場所でプリンたちのやり取りを聞いていたスケさんが、興味深そうにその会話に割り込んできた。

「でもさ女王様、不幸がいつ溢れそうになるかは、どうやって判断すればいいの?」

「それは簡単なのだ、いま青いその石が緑から黄色、そしてオレンジ色になったら注意じゃ。赤になったらもう溢れる寸前じゃからなぁ」

「へぇー、それは便利だね」

「しかし気を付けることじゃ、あまり溜め込みすぎて一気に放出すると、そのぶん大きな不幸が自身に降りかかるからのぉ」

それでも不幸の呪いをある程度コントロールできるというのは、プリンたちにとって大きな収穫だった。

ここぞという肝心な時に呪いのせいで足元をすくわれては敵わないし、かといってその都度呪いを警戒していても集中力が持たない。

「フフン、これぞ"妖精女王の護り石"!どうじゃRPGの重要アイテムっぽくていいじゃろう!」

得意げにふんぞり返るティターニャだったが、プリンたちの姿はそこになかった。


「いやぁ、いいもの貰ったのです」

「そうだね」

「あ、アンタたちどこいってたのよ!もう旅立ちの準備は終わったんだから、早くしてよね」

「ゴメンゴメン、すぐ行くよ」

プリンたちの声が遠くから響いてくる。


「・・・妖精女王の護り石」

がんばれティターニャ!

きっと世界は君の味方だ。

・・・たぶん。




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