第2幕 ダルいから回想は入れない
魔女の家のリビングで包まれた光を抜けると、そこはもうフェアリーランドだった。
「おおー!いつのまにか、もう着いているのです!」
ミス・セプテンバーからの招待状に込められた転送の魔法によってフェアリーランドに飛ばされたプリンの目に映ったのは、豊かな自然に包まれた森のなかの開けたスペースだった。小さな妖精たちが飛びかっているその広場の中心には湧き水によって出来た泉が広がり、その泉を取り囲むように色とりどりの草花が茂っている。
さらにそのスペースの外周となる樹々に目をやると、その幹の上にはいくつものドールハウスのような小さな家が建ち並んでいるのも見えた。と言っても、それは本当にオモチャの家なのではなく、それぞれの家からは何者かの気配が感じられるので、おそらくはこの飛び交っている妖精たちの住居なのだろうということは想像に難くない。
「へぇー、すごいや。見てごらんよ、向こうにはお城まであるよ」
スケさんの言葉に促されプリンがその方向に目をやると、植物のツルと木々で形作られた小柄なお城が奥の方に確認できる。プリンがスケさんとそちらの方へ行ってみようかと話していたら、どこからか聞き覚えのある声が響いてきた。
「二人とも来てくれたんだね、待ってたよ!」
その声の方に注目すると、飛び交う妖精たちをかいくぐるように、プリンに向かって一直線に飛んでくる妖精の姿があった。
「おおーっ、ミス・セプテン婆ーですよ!」
自分の方に向かってくる妖精に手を振って迎えるプリンだったが、ミス・セプテンバーは急ブレーキをかけるように彼女の目の前で止まり、眉をしかめてプリンを睨みつける。
「なにか今、すごい悪意を感じたんですケド?」
「気のせいなのです!それよりも久しぶりなのです」
「だね、元気にしてた?」
「それはもう、元気が有り余って仕方がないのです!」
「だろうね・・・、見てたらわかるよ。相変わらずスケさんも苦労が絶えないね」
「キミに理解してもらえて幸いだよ」
ミス・セプテンバーとスケさんはウンウンと無言でうなずきあった。
そんな妖精とクロネコを無視してキョロキョロと辺りをうかがっていたプリンが口を開く。
「それよりもズンズのおっちゃんは一緒じゃないのですか?」
「そう!困った事っていうのは、他でもないその事なんだよ。まあ立ち話ってのもアレだからさ、とりあえず行こうか」
「って、どこにですか?」
プリンは小さな首をかしげて尋ねるが、妖精はそんなことも分からないのかという勢いで返してくる。
「どこってティターニャ様がいるお城に決まってんじゃん!」
「いや決まってはいないと思うのですけど」
確認のために言っておくが、そんな事前の打ち合わせなどは全くなかったのでご心配なく。
「細かいことは気にしない!気にしない!さあ行くよ」
「キミのそのいい加減さが健在で何よりだよ」
「でしょ!よく言われる」
「いや、褒めていないから」
いわずもがな皮肉という攻撃にたいして、この妖精は鉄壁の防御力をもっているようだ・・・。スケさんは細かいことを気にするのを諦めた。
こうしてお城へと向かう道すがらミス・セプテンバーから聞いた話の概要はこうだった。
スケさん騒動(不思議の双子)のあとプリンたちと別れて、ここフェアリーランドでヨンズと合流できたミス・セプテンバーだったが、そのときヨンズはガラの悪いハゲのジジイに絡まれていたらしい。
どこかにヨンズを連れ出そうとするハゲと、記憶がまだ戻っていないから話がぜんぜん見えておらず戸惑っているヨンズがさっきの広場でスッタモンダやってるところに、美少年の絶対的味方であるミス・セプテンバーが合流したことで心ならず(注:ミス・セプテンバー談)も騒ぎがさらに大きくなってしまったそうだ。
その結果、街中で騒ぎが起これば、お城の兵士がシャシャリ出てくるのは必然なわけで、ヨンズもハゲジジイもミス・セプテンバーもその兵士たちに取り囲まれて、そのままお城へと連行されてしまったとのことだった。
「ああ、なるほどね。それで兵士に捕まったヨンズを助けるためにボクたちの協力を必要として、こうしてボクたちはキミに呼び出されたということか」
だがそんなスケさんの言葉をミス・セプテンバーはぴしゃりと遮る。
「違うちがう、私の話はまだスタートラインにも立っていないよ」
「ん?」
ミス・セプテンバーが言うには、その後女王ティターニャの御前に連行された彼女たちは衝撃の事実を知ることになったのだそうだ。
「端的に言うと、記憶を失ったヨンズくんの正体はオベロンだったんだよ」
「なんだって!?」
「ズンズのおっちゃんは有名なんですか?」
「妖精女王ティターニャの王配だよ」
「王配?」
「つまりはマスオさん的な王様ってことさ」
まわりくどいスケさんとプリンのやりとりにミス・セプテンバーが口をはさむ。
「女王ティターニャと結婚して王様になったって言えばわかるんじゃない?究極の逆タマ的な?」
「おおーっ!」
「だけど、あの方はフーテンのオベロンさんだから、あっちをフラフラ、こっちをフラフラ。放浪先でいいオンナがいればすぐに恋に落ちる浮気者なんだけどさ、これが"もてないオトコ"だったら行く先々でフラれて話をチャンチャンで締めて収められるんだけど、オベロンは恐るべきチャーム(魅了)体質の持ち主だからね話がとてつもなく厄介なんだ」
「そりゃそうさ、だって妖精女王ですら落とされてしまうほどのチカラなんだからね」
流石のスケさんもヨンズ恐るべしといった表情で語る。
とここまで話したところで、一行は城の入り口に着いてしまった。
「つづきは城の中で、皆で話したほうが手っ取り早いかな?まあ回想シーンを入れようかとも思ったんだけど、ダルいからさあ。キャハハハ」
「それはキミの言葉なのか、それとも別の誰かの言葉なのか・・・」
呆れた様子のスケさんをおいて、ともあれ妖精女王ティターニャの城へ着いたプリンたちは、城の兵士の誘導にしたがってヨンズことオベロンの待つ城のなかへと進むのであった。