9. 妖精姫は宮廷近衛騎士に見つけられた
サブタイトルをリリ目線に修正しました。
ようやく、リリとシリウスの時間が重なってきました。
そして、二人の(地理的な)距離もいよいよ近づいてきました。
ピチャン とお湯が跳ねます。
侍女さんsに両腕を取られて、隣部屋の浴室に連れ込まれました。
4人がかりでコルセットとドレスを剥かれ、結っていた髪もあっという間に解かれました。
「お化粧を落としますわね」
そう声かけられると、トロトロの化粧落としですっきりとメイクオフされました。
そして、あっという間に良い香りの花びらが浮かんだ湯船に放り込まれました。
侍女さんsは壁際に並んで、色々なシャボンやお風呂道具を揃えながら私の方を見ないように気を使ってくれているようです。ふーっと息を吐いた私の後ろから、一番年嵩の侍女リーダー(?)さんが水連を花瓶に生けながら鏡越しに話しかけました。
「お湯加減は如何でしょう?」
「丁度いいですわ。それにこの花がとっても良い香りです・・・」
「それはようございました。奥様のためにと取り寄せましたので」
「!」
まただわ。先程といい、今といい誤解されてます!!
「あの、私は奥様ではありません!誤解されています!」
「左様でございますか? ルイ様からそのように伺っていたものですから」
「ルイ様?」
「はい。ルイ様がリリ様を馬車からこの部屋にお運びくださった時にそう伺いました」
「運ばれた?、ルイ様というのは、もしかして銀髪の方ですか?」
「はい、そうです。ルイ様がリリ様を抱いて運んでくださったのです」
(あの銀髪仮面(もう、仮面は取ってやりましたが)は、ルイ様というのね)
「あの、こちらのご主人様のお名前は何とおっしゃったかしら?」
(ようやく聞きたいことが聞けますわ)
「・・・・さあ、お喋りはこの位に致しましょう。のぼせる前に最新流行のシャボンがで体も髪も磨きましょう」
「こちらのご主人は・・・「こちらの花瓶はお部屋に飾っておきますわね」」
答える気が無いようです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
馬を走らせていたシリウスは先遣隊の一団に漸く追いつくことができた。
「シリウス!」
「サイロンか、状況を教えろ」
王宮の探索隊は、街道から伸びている脇道の手前にいた。第二騎士団のサイロン副団長がシリウスの近くに寄ってきた。
「ああ。街道から、この脇道をしばらく行くと更に道が分かれる。その道は石畳が敷かれた立派な道だ」
「石畳で舗装された道か」
「そうだ。道は凝った庭園に続き、その先には立派な邸宅があった」
「我々が邸宅を見つけたときには馬車は見えなかったが、マルカムはリリ嬢と思われる少女が馬車から降ろされたのを見たという」
「そうか。確実だな。マルカムは近くにいるな」
「マルカムは正面近くに。警備団と騎士団は二手に分かれ正面と裏口に配備している」
「分かった。セーヴル、私達も行こう」
「いやいや、俺はここで殿下達を待っているぞ」
「セーヴル様、何をおっしゃっているのですか!?」
栗毛の馬に乗ったドレス姿のレチルがセーヴルに向かって突進してきた。
「うおお!レチル!来ていたのか?」
「当たり前です。シリウス副団長がいらっしゃるのですから。同じ近衛の私がいても不思議では無いでしょう。シリウス副団長、宜しいですわね」
「・・・・それでは、レチル班長にはリリ嬢の保護を頼む」
「承知致しました。さあ、マルカムの所に行きましょう。救出作戦を立てなければ」
深い森に囲まれたそこは、朝靄がたなびき幾何学模様の庭園が幻想的な雰囲気になっている。
まだ、薄暗い森の中に息をひそめた騎士達がじっと邸宅をの様子を伺っていた。
「マルカム、ご苦労だった。リリ嬢はどの部屋かわかるか?」
「ああ。シリウス副団長。申し訳ありません。はっきりとは分かりませんが、2階の正面玄関左の部屋に誰ががいると思われますが」
「馬車から降りた人物は見えたのか?」
「はい。馬車の1台目から2人、2台目からリリ嬢を抱いた男が降りてきました」
「リリ嬢を抱いていた?」
「多分ですが、気を失っているような感じでした。先に降りた2人は黒いローブ姿であったのは見えたのですが細かくは判りません。リリ嬢を抱いていたのは銀髪の青年のようでした」
「4人が屋敷に入った後で、先程申し上げた部屋の窓際で明かりが一瞬見えたような気がするのです」
「そうか。どこの部屋にいるか確実でない以上、迂闊に飛び込むのはリリ嬢の命を危険に晒すことになるな」
「明るくなれば、必ず屋敷に動きが出るはずだ。そこを狙う。リリ嬢の命の安全を第一とする。深追いはしなくて良い。いいな」
シリウスは、そう言うと息をひそめて屋敷を観察した。
もうすぐ朝日が上がる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
深い鬱蒼とした森の向こうから太陽が昇る。
樹々は背が高く、太陽はかなり上ってからでないと幾何学模様の庭に光の帯を放つことができない。
「そろそろ動くか」
シリウス達は、明るくなった庭園を挟んで屋敷の様子を探った。召使いたちが動き始めているはずだが、正面玄関は未だ開く気配はなく屋敷は静かなままだった。
バンッ!! といきなり窓が開いた。マルカムが言っていた部屋だ。
プラチナブロンドの長い髪に、白いドレス姿の少女がベランダに出てきた。
((((リリ嬢!!))))
見ていた皆が固唾を飲んだのが分かった。
(無事だった!)
シリウスはベランダを動き回るリリをじっと見ていた。
(何をしている? そんなに乗りだしたらベランダから落ちそうだ)
ふっと人の気配に目を見開くと、庭園の中央にある池の畔に銀髪の青年がいた。
(いつどこから来たのだ。気配が感じられなかったが、あの彼がリリ嬢を攫った実行犯か)
青年は、池の水連の花を摘むとリリのいる部屋を見上げた。
同時にシリウスも部屋を見上げると、ベランダの手すりの陰に慌てて隠れるリリが見えた。
花を抱えたまま青年は正面玄関に向かって歩き始めたが、一瞬止まって後ろを振り向いた。
(気づかれたか?)シリウスは息を詰めた。
しかし、青年はこちらを見ることもなく、すぐに前を向くと足取りも軽く屋敷の中に入って行った。
リリは、ベランダから隠れて部屋に戻ったようだ。すると部屋のカーテンが勢いよく開き始めた。幾つもの窓のカーテンが開かれ彼女が囚われているらしい部屋に明るい日の光が注がれている。
「あの部屋にいる」
リリの元気な姿を見ることができたが、怪我一つなく救出しなければならない。屋敷の中にどれだけの人数がいるか分からないが、これだけの屋敷ならば相当数の人数がいることも考えられる。
と、そこにサイロンの所から伝令が来た。
「シリウス副団長。王太子様達がサイロン様の所に着かれました。もう少しでこちらに来られます」
今は無事だが、これ以上は何が起きるか分からない。タイムリミットか。
「承知した。後続隊が配備でき次第突入する」
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