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7. 妖精姫はお屋敷の中で目覚める

長い夜が明けました。

リリと王宮の状況を時間差で書いています。


「うううん・・・・」


 寝返りをうったところで、いきなり目が覚めました。



「あらっ。ここは?」


 がばっと布団から起き上がりました。馬車の中で目覚めたときはあんなに気分が悪かったのに、今は全然大丈夫です。寧ろ熟睡して目を覚ましたようにスッキリしています。


「今は一体何時なのでしょう・・・」


 部屋の中は暗く、ランプの明かりだけがだいぶ離れたテーブルの上に小さく灯っています。


 「ここはどこかしら。どこかのお屋敷の中よね」


 意を決して、寝台を出るとうっすら見える窓に向かいました。毛足の長い上等な絨毯の上をそっと歩きます。靴を履いていませんので足音はしないですわね。できるだけ音を立てないように歩きます。 


 窓辺についた私は、分厚い布を握ると「えいっ!!」と力を込めました。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 王宮の一室。


「シリウス様、騎士団のトーレス様がお着きになりました」 


 さすがのレブランドも事が事だけに、走って伝言しに来たようだ。


「通してくれ。トーレスご苦労だった」


 部屋に入ったトーレスは、アレッド皇太子がいることを見止めると膝をついて騎士の礼を取った。




「トーレス、話を聞く前にこちらの状況を伝える。グランデルク伯爵家の令嬢がデビュタントの最中に王宮から連れ去られたらしい。こちらでは、王宮から出て行った2台の馬車を追っているところだ」


「そういうことなのですね。ご報告します。2台の馬車は、王都を出たのち西の街道をひた走りハルナ湖に近い森で一時休んでおりました」


「その時に、馬車から白いドレスの少女と仮面を着けた男が出てきました。残念ながら少し離れた場所にいたので、話は聞くことはできませんでした。それから、もう1台の馬車からは誰も出てくることはありませんでした。その後2人はすぐ馬車に乗り込んで更に街道を西に向かいました。」


「その少女というのは!!」


「その少女が馬車の下にこれを蹴りこんでいました」


 トーレスは、懐から白絹の小さな靴を差し出した。





「「「リリの靴!!」」」


 グランデルク伯爵家の3人が声を揃えて叫びました。


「はっきりしたな。これは誘拐だ」


アレッドは、シリウスとクラウス、セーヴルの顔を見据えて断言した。





アレッドの視線を受け止めたシリウスがトーレスに聞き返す。


「トーレス、マルカムはまだ馬車を追っているのか?」


「はい。私が戻ってくる途中で王宮の警護団と第二騎士団の一行と会えましたので、マルカムの後を追うように伝えました」


「いい判断だ。トーレス、馬を休めてお前も休んでくれ」


「いえ。ご令嬢が心配です。私も救助に向かいます」


 シリウスとトーレスのやり取りを聞きながら、クラウスとセーヴルは地図を広げて行き先を探っていた。王都から西に向かったということは・・・


 クラウスは地図を指でなぞりながら言った。


「西側の国境はハルナ山脈に囲まれている。馬車で隣国まで行くのはパルマン領の関所を通る大路を行くしかないが、目立つ馬車では無理だ」


「すると、隣国には行かず国内。パルマン領のどこかにいるのか」


 それを聞いたアレッドは何か考えるように目を瞑った。


「レブランド。パルマンを今日は見かけたか?招待はしていたはずだが」


「はい。パルマン辺境伯にはご招待状はお送りしてありますし、お返事も頂いておりますが、本日私はお姿を拝見しておりません」


「まさか、パルマンが絡んでいるのか?もしそうなら、隣国への逃亡も可能になってしまうぞ」


「シリウス。戻ったばかりではあるが、パルマン領に向かってくれ。クラウス、セーヴル、私達も向かうぞ」


「いやいや! 殿下を行かせる訳にはいきませんよ!王宮でお待ちください」


 セーヴルが慌てて止める。


「いや。行くぞ。グランデルク伯爵の願いを聞かねばならん。子を思う親の気持ちに打たれたのだ」



 アレッドは言いながら大股で部屋を出ていく。その後ろに付き従うシリウスが真っすぐ前を見ながら冷静な声で言う。


「アレッド殿下、せめて馬車で追って来て下さい」


「馬車では遅いではないか」


「私に、馬・に・乗・る・殿・下・の・心・配・も・さ・せ・ま・す・か・?」


「・・・お前」


「クラウスと一緒に策を練って下さい。最悪の場合がありえますから」


「・・・分かった。クラウス!馬車に乗れ! セーヴルは馬でシリウスと行け」


「「「御意」」」」


「王太子様、我が娘の事、我らもご一緒させて下さい」



 グランデルク伯爵と夫人も立ち上がった。





 王宮から、数十騎の馬と3台の馬車が西に向かって奔って行った。


まだ夜は深く、雲に隠れていた月がようやく大路を淡く照らし出した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 リリは重く垂れていたカーテンを力いっぱい思いっきり開けた。


「!眩しい!」


 暗かった部屋に一気に明るい光が差し込んだ。


「窓は開くのかしら・・・あら、開きましたわ。ここはどこなのかしら」


 窓を開けて、バルコニーに出てみる。靴を履いていないので、大理石の床が冷たい。





 (森です。森の中です。)


 良く手入れをされた庭が見えます。低い庭木は青々とした緑で、幾何学模様を描いています。庭の中央には池があって睡蓮のピンクや白の花が咲いているのが見えます。


「睡蓮が咲いている・・・ということは、まだ朝ですわね」


 庭の先は、鬱蒼とした森です。道は一本だけで庭から森に真っすぐ伸びています。


 時刻を知るため太陽と影の長さを見ようとバルコニーに手をついて身を乗り出しました。




「あら?」


 池の睡蓮を手繰りよせて摘んでいる人がいます。


(あの銀髪は、あの方ではありませんか?)


 数本の蓮の花を抱えると、彼はこちらを振り向いて私のいる部屋を見上げました。



(うっ!)


 思わず手すりの陰にしゃがみ込みました。





「見つかりましたわね」


 

 目が覚めているのがバレた以上、彼はすぐに部屋に来るでしょう。大急ぎで広い部屋のカーテンを全部開けてやりました。


 さあ。お日様の下で申し開きをしてみなさいな。



 それから私は、部屋のドレッサーで自分を見ました。あら、良く見れば、このドレッサーもお部屋の雰囲気に合った素敵な彫刻がされています。サイドテーブルも寝ていた寝台も、家具はすべて繊細な彫刻が施された豪華な物ばかりですわ。おっと、部屋を見廻している場合ではありませんでした。



 もう一度私は鏡の中を見ます。お化粧も髪もお飾りも服もコルセットもしていて、デビュタントのドレスを着たままです。よくこれでぐっすり眠れました。


 でも良かったです。少し安心しました。


 無体な真似はされていないようです。



「いえ!されましたとも!!」


馬車の中のことを思い出して思いっきり叫びました。



「何を騒いでいるの?」


 銀髪の彼が笑いをこらえた顔で入ってきました。先程摘んだ蓮の花を抱えています。


 その姿だけ見れば、どちらの王子様ですか?という風情です。今は仮面も着けていないのでアクアマリンの瞳も涼やかなお美しいお顔が見えます。


「おはよう。リリ嬢。お元気そうで何よりです。お腹もすいたでしょう。でもその前に入浴して身支度をしましょう」



 全く悪びれた風もなくニコニコしながら花を差し出します。


「どうぞ。まだ露を含んでいます」


「あ、ありがとう・・・」


 花はしっとりと露を含んでいて儚げな香りがします。綺麗ですけど・・・




「それでは、あちらの部屋にどうぞ」


 そう言い終わると同時に、5人の侍女達がいそいそと部屋に入ってきました。



 聞きたいことが山ほどあるのに、ことごとくタイミングが合わない感じです。


 そして、一番年嵩の侍女が私から蓮の花を受けとると部屋の奥にあるドアを指して言いました。




「さあ、奥様こちらへどうぞ」



 おいこら!! 今なんて言いました!?


ようやく皆が動き出しました。でもまだ前の馬車の人は出ません。もう少しお待ちください。

面白かった。続きが気になる。など思って頂けましたら、

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ブックマークもありがとうございます。励みになりますので、よろしくお願いします。

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