57. シリウスとルイ
あと、少しです。頑張らなくては。
ところで、タイトルを変えた方が良いという
ご意見を頂くことがありまして・・・
どうしようか考え中です。
打ち合わせることがあると言われて、部屋に二人きりになる。メルト王国筆頭公爵家の出身で、宮廷近衛騎士団の副団長というこの男と。
まじまじと、真正面に座った彼の顔を見た。噂には聞いていたが、確かに美しいなと思った。女性的な美しさは無い。無駄な物を一切削ぎ落し、そこに ≪華麗≫ で ≪豪華≫ ≪美しい≫ と思われるパーツを配置し直したような完璧な容姿。サファイアブルーの瞳に見詰められると、身体の内側まで見られているようでドキリとする。黄金色の緩やかに波打つ長い髪も、華やかな宮廷近衛騎士の制服に良く映える。
ルイがじっとシリウスを観察している間、シリウスもルイを見ていた。
肩下で切り添えられた癖のない艶やかな銀髪は、隣国の王家の血統を継いでいる。薄いアクアマリンの瞳は、聡明さを表すようにスッキリとした表情だ。伏せた銀色の長い睫毛が煙るように頬に影を落とす。陽よりは陰。太陽より月の静けさが似合う冴え冴えとした美貌。全体的に色素が薄い感じが、余計にそう感じさせるのか。
「お身体は大丈夫ですか?」
耳障りの良い、静かな声に顔を上げる。真っ直ぐに顔を見て問われた。
「ええ。熱も下がりましたし、良く寝たせいか気分も良いです。ご心配をお掛けしました」
「それは良かった」
ルイは、一瞬身構えた。シリウスが何か言いたそうで、言いたいことは仕事以外の事だと思ったから。そう多分、というか絶対リリの事だから。
「先程、お話ししたように、怪我が完治するまでは、この部屋でお過ごしください。必要な物がございましたら、部屋付の侍女に言って下さればお届けします。それから、警備には部屋前に2名、24時間体制で配置致します。申し訳ございませんが、ご自身の安全の為にも王宮内の行動は、お控え頂くようお願いします」
「解りました。当面はここから出ないように、ということですね。他と連絡を取りたい場合は?」
「午前に1度、私か、クラウス、セーヴルの何れかがご様子を伺いに参ります。それ以外に何かありましたら、騎士に伝えて頂ければ結構です。オーキッド殿、カルバーン殿は自由に出入りして頂けます」
「お気遣い、ありがとうございます」
「いいえ。ご不便をお掛けして申し訳ございませんが」
「・・・・」
「・・・・」
微妙な空気に、ルイは居た堪れない。
「他に、ご質問はありますか?」
「いいえ。私からは・・・」
「・・・それでは、何かございましたらご連絡下さい。失礼致します」
「!?」
本当に、業務連絡だったのか?とルイは面食らった。席を立つシリウスに続き、扉に向かって歩みを進めた。前を行くシリウスの方が少し背が高く、肩幅も広い。騎士の身体だ。
扉に手を掛け、シリウスが振り向いた。
「ああ。一つだけ」
思わず、顔を見上げた。
「リリは、私の妻ですので。お忘れなきように」
にっこりと、極上の微笑みで言い渡された。
「いずれ、返して頂きますよ?」
サファイアブルーの瞳の奥は、笑っていない。
「何の事ですか?」
「貴方が、奪ったものです」
「!?」
華やかで艶やかな表情とは裏腹な、冴え冴えとした冷気を感じた。しかし、それも一瞬の事だった。扉が閉まる瞬間には宮廷近衛騎士の副団長の表情になり、騎士の礼をとっていた姿が見えた。
「なんなの?あの人・・・」
冷静そうに見えたのは表面だけということか。二人きりになった時から醸し出していた雰囲気も、ずっと自分を牽制していたらしい。
「どこまでリリ嬢から聞いたんだろうね?・・・まあ、長い付き合いになりそうだからイイか?」
何だか、自分がオーキッドと似てきたような気がした。オーキッドがリリとシリウスにちょっかいを出したい気持ちが何となく判った。見た目と実物がかなり違う二人だと思うから。
オーキッドは、リリと自分を結婚させたくて画策していたようだったけど、自分はオーキッドの結婚相手だと思っていたから、誘拐事件の時に必要以上に関わるつもりは無かった。しかし、デビュタントでリリを初めて見た時に、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。
王族の前で挨拶するリリは、周りを圧倒する美しさだった。確かに、良く似た美貌の兄とセットでいる事で、三割増し効果があったとしてもだ。コロコロと変わる表情に目を奪われた。
陛下に ≪妖精姫≫ と渾名された時、ルイは広間にいた。さすがに銀髪は目立つので、王国では一般的な栗色の髪色の鬘を被っていた。初めて見るリリを見極めて、誘拐するタイミングを計るためだった。
攫ってから、馬車に二人きりになったのも、今思えばオーキッドの作戦だったのだろう。そして、それにまんまと嵌められた。恩人であるオーキッドの伴侶となると思っていたリリに、口移しで薬を飲ませた。飲まないというリリに強引に飲ませるためには、仕方なかったから。と理由を付けた。
それが、最初で最後になるはずだったけれど。
思えば、あれが自分にとっての初恋だったのかもしれない。口付けの事は当然オーキッドには内緒だった。出会ってから初めてオーキッドに秘密を持った。
そして、初恋相手と思った ≪妖精姫≫ は、今は美貌の宮廷近衛騎士の妻になって現れた。それも、憚ることの無い相思相愛の体で。幸せそうな二人の姿に面食らってしまった。
「ふふふ・・。しかし、どうやって返せと?」
ルイは首をかしげると、リリから貰った花籠を持って寝室に向かった。ベッドサイドのテーブルに置いておこうと思っていた。
ルイの部屋から出たシリウスは、アレッド王太子の執務室に向かって歩いていた。
少し、大人気ないとも思ったが、彼が暫くここに滞在する以上、リリとの繋がりも継続したままになる。いくら結婚したとはいえ、記憶を取り戻したリリにとって、2年前のルイのインパクトは大きいはずだ。それに、彼に起きた今までの出来事は、多感な少女の感情を少なからず揺さぶるものではないか?まして、あの容姿であれば尚更その気持ちは強くなるのではないか?ルイの容姿を思い出してそう思った。
ふっと、ルイとリリが二人で寄り添う姿を想像してしまった。
「まるで、美しい人形のようだ」
思わず口に出てしまった。どちらかというと色素の薄い二人だ。儚く優美なその姿は、精巧に作られた名工による作品のようだろう。
しかし、シリウスは知っている。リリが美しいだけの人形では無いことを。斜め上をいく珍回答も、王族相手にはったりをかますところも。見た目を上回る予想外の行動と言動が自分にとって新鮮で、愛おしく、唯一無二の存在であることが毎日毎日上書きされるのだった。
「誰にも、渡さない」
リリの待つ部屋の前で呟く。案外自分は嫉妬深い。と思いながら。
誤字脱字は気づき次第修正します。
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