56. お見舞いはお静かに
「ルイ? 起きているかい?」
来賓用のお部屋は、書斎に応接室、寝室が続きになっている立派な造りです。応接室でシリウス様と待っている間に、オーキッド様が寝室のルシェール様に声を掛けました。カルバーン様は、お茶を頂くため部屋付の侍女さんを探しています。
オーキッド様は、声掛けに小さくお返事があったので、そっと中に入って行かれました。大丈夫なのでしょうか。
「少しだけ待ってね。熱は下がっているみたいだから」
寝室から、オーキッド様の声が通りました。きっと、身支度をされるのでしょう。熱が下がってようございました。
シリウス様は黙ったまま、部屋の窓から外をご覧になっています。一応、部屋の前には宮廷近衛騎士団の騎士様が警備に当たっていました。
「シリウス様?何か気になることがございまして?」
ずっと、外を見ているシリウス様に声を掛けました。警備上、何かあるのでしょうか?
「彼に、何と言おうかと思いまして?」
「ほえっ?」
「役得の話です」
えっ?今、それ、考えていたのですか?シリウス様、どうしました?
カルバーン様がワゴンに乗せたお茶を持って来て下さいました。お見舞いのパイはワンホールづつあるので、皆で頂いても十分ですわ。ルシェール様が食べられれば良いのですけど。
「お待たせしました」
ルシェール様はゆったりした部屋着の上に、ガウンを羽織っています。まだ腕を吊ったままなのできちんとした服装は無理なようです。でも、サラサラの銀髪は乱れたところも無く、顔色もそう悪くは見えません。
「ルシェール様、お休みのところ押しかけてしまい申し訳ございません。お加減は如何ですか?あの、宜しければこちらをどうぞ・・・」
儚いような笑みを浮かべているルシェール様に、ちょっとドキドキしてしまいます。いけませんね。旦那様がすぐ隣にいますのに。私は、花籠をルシェール様に手渡します。
「ありがとう、リリ様。ああ、いい香りですね。それに元気が出るような明るい色ですね」
ルシェール様は花籠に顔を近づけると、深呼吸をしました。そうでしょう?この花はとってもいい香りがするのですわ。私は、彼が思い通りの事を言ってくれたので、ひとまず安堵しました。
「それと、お菓子をお持ちしたのですが、召し上がれますか?フルーツのクリームパイとあまり甘くないチーズパイなのですけど・・・」
食欲が無いのに、無理をさせては申し訳ありませんものね。如何でしょうか?
「わあ。嬉しいな。丁度お腹が空いたと思っていたのです」
良かったですわ!食欲が出てきたのなら、治りも早いですわよね?どちらにします?とパイを見せると、こっち、っと指差しました。
「この、フルーツの沢山のったクリームパイを!」
とっても可愛い笑顔ですわ!!
五人でお茶をしていますわ。
丸テーブルを囲んで、私の前にはルシェール様、隣にはシリウス様。そして、オーキッド様とカルバーン様がルシェール様の両隣にいます。
「・・・・・」
「・・・・・」
「美味しいね!!このフルーツパイ!!いろんな種類のベリーの酸味がいいねぇ。グランデルク伯爵家は良い調理人がいるね」
食べ始めたルシェール様、カルバーン様、シリウス様は無言です。因みに、チーズパイを召し上がっているのは、カルバーン様とシリウス様です。お二人は甘い物が少し苦手なようですから。
「ちょっと!?美味しいものを食べたら、そう言おうよ?気持ちを分かち合おうよ?」
まさかと思いますが、オーキッド様が気を使っていらっしゃいますか?この方に気を遣わせるこのメンツというのは如何なものでしょう。
「オーキッド。早く食べろ。そろそろ戻ってタウンハウスに移動の準備をするぞ」
カルバーン様が、オーキッド様に向かってぴしゃりと言いました。タウンハウスに移動するため、一旦宿泊場所に戻るようです。それを聞いたルシェール様がぴくっと顔を上げました。
「ルシェール殿には、怪我が回復するまでは、王宮のこの部屋にお留まり頂くようお願いします。怪我が治りましたら、オーキッド殿と合流するも、国賓としてこのまま王宮に残るもご自由にして頂けます。王宮にいらっしゃる間は、宮廷近衛騎士団が貴殿の警備をさせて頂くことになりましたので、ご承知ください」
シリウス様が、先程のお話をルシェール様に改めてお伝えしました。ルシェール様は、オーキッド様の方を見ると頷き合いました。ご了承されたようですわ。
「それで、償いの件ですが、ルシェール様の体調が、もう少し良くなってから全員揃ったところでお話しします。ですので、ルシェール様は、お身体を直すことをお考え下さいね?」
あまり長居をしてご負担を掛ける訳にもいかないので、必要なことを手短にお伝えします。
「分かりました。感謝いたします。その、お見舞いもありがとうございます。貴方にお会いできて、元気が出ました。・・・また、来てくださいますか?」
ルシェール様は、そう言って蕩ける様な笑顔を向けてきました。この方も、最初にお会いした時と随分違いますよね?もっと、ツンツン、厭味ったらしい感じでしたけど。
「ええ。よろし・・・「私が妻を連れて参りましょう」」
シリウス様が、私の返事に被せてきましたよ?そうでした。シリウス様はルシェール様を警戒していたのでした。
「私は、貴方の警備の責任者ですから、私の許可なく面会はさせません。ですから、妻は私の許可を得てから面会させます。良いですね?」
多分、最期の言葉は、私とルシェール様の両方に念押ししたのですね。結構な冷たさの冷気が漂っていますもの。公私混同では無いですか?
じっと様子を見ていたオーキッド様が、冷たい空気を吹き飛ばすように明るく言いました。
「あれぇ? シリウス君、君って随分重い男だね!?あんまり重いとリリちゃんに嫌われるよ?あっ。嫌われれば、別れてくれるから・・・・うん。もっと重くなって良いよ!!」
この方、やっぱり変人かも。しれませんわ。
ようやっと、オーキッド様とカルバーン様が部屋を出て行かれました。オーキッド様は、シリウス様を揶揄いつつ、とっても名残惜しそうな感じでしたけど。
三人だけでテーブルに着いていますが、何とも居た堪れない空気ですわ。シリウス様とルシェール様は澄ましたお顔でお茶を飲んでいますけど。
「リリ?」
「・・・は、はいっ?」
様子を伺うことに、集中していましたわ。
「何でしょう?もうお暇しますか?」
「いいえ。もう少し。リリは、クラウスの所に行けますか?」
「クラウスお兄様の所ですか?それは、アレッド王太子様の執務室ということでしょうか?」
頷くシリウス様に、判ります。と言うと、
「それでは、近衛の騎士と一緒に先に戻っていてください。私は、ルシェール殿と少し打ち合わせをしてから戻りますので」
「・・・はい」
シリウス様は私の頭を撫でると、扉の向こうの騎士様に声を掛けました。
「そんなに遅くにはなりませんから」
そう言って、部屋の扉は閉められました。
シリウス様、ルシェール様とは本当に打ち合わせですわよね?
誤字脱字は気づき次第修正します。
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最終話まで、先が見えてきましたので、
頑張れるパワーをお願いします。
別話の「異世界エステティシャンは、王室御用達!」
も、更新を再開しています。少しゆっくりですが
進めますので、こちらも宜しければ
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