55. それぞれの翌日
オーキッド、シリウス、クラウスお兄様、リリちゃんの目線です。
それぞれが、見ていたほぼ同時刻の
状況です。
王宮内にある来賓用の部屋で、ルイは眠っていた。傷はそれ程重症では無かったが、縫って縫合したことと、その後の話し合いで消耗したせいか高い熱が出ていた。医官が付き添うというのを断り、オーキッドが付きっ切りで看病していた。オーキッドにとっては、父親を看取った以来の世話事だった。冷たい水で濡らした布を絞りそっと額に置く。痛み止めと熱冷ましの薬を飲んでいるが、まだ熱は高いようで頬は赤く、少し荒い息遣いが苦しそうだった。
「ルイ・・・。早く良くなっておくれ」
ベッドサイドに膝を付き、ルイの眠っている布団の上にそっと顔を埋めた。家族の縁に薄かった自分にとって、同じように家族を亡くした彼は過去の自分に思えていた。でも、もっと彼の状況の方が悪い。悲しみも相当なものだと知っている。慕って付いて来てくれた彼を、弟の様に庇護してきたつもりだったが、彼がいるから自分は現実に留められていたと思い知らされた。
(でも、これももう少しの間だけだ・・・)
そう呟いて立ち上がると、はだけてしまったルイの首元の汗を拭ってやった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「シリウス様!!」
グランデルク伯爵家の馬車が王宮に着くころを見計らって、シリウスは玄関ホールまで迎えに来ていた。花籠を持って小走りに駆けてくる美しい少女が見える。
今日は明るい花柄の刺繍が可愛らしい、クリームイエローのドレスだ。王宮への登城にしては少し軽装な感じではあるが、昼間の正式な訪問というよりは、宿泊客のお見舞いが目的なので問題は無い。むしろ、明るい軽やかな佇まいは、太陽を浴びて可憐に咲く花の妖精が現れたようだ。思わず見惚れてしまった。
「シリウス様!ごきげんよう!・・・ん? どうかされまして?」
一瞬のタイミングのズレを気付かれてしまった。この娘は案外鋭いところもあるのだ。
「ああ。リリ。元気そうで何よりだ。今日は迎えに行けなくて済まなかった。ところで、挨拶をしても構わないか?」
「えっ?ご挨拶なら今していますけど? ひえっ!?」
小首を傾げながら見上げている、リリの滑らかな頬に口付けをする。リリの後ろでクラウスが、眉間に皺を寄せてこちらを見ているが、構うことでは無い。夫婦なのだから。
「もう!!シリウス様ったら!お兄様の前で!」
真っ赤になって抗議するリリが可愛くて、つい意地悪をしたくなって、耳元にこそっと囁いた。
「今日は、髪を下ろしているのですね?ああ、昨日の印がまだ消えていませんか?」
「(きゃぁぁ!?)!?」
声にならない悲鳴を上げたリリを、何事も無いようにエスコートして廊下を歩く。ぎこちなく歩みを進めるリリは、若干涙目になって私を見上げている。本当に可愛い。
「おい。いい加減にしろよ?」
後ろから、クラウスの超絶不機嫌な声が響いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
これは、拷問か?
目の前で甘々な光景を見せているのは、幼い頃から王家を支えるべく、切磋琢磨してきた親友だ。
公爵家出身で、騎士としての腕は超一流。誰もが見惚れる美貌のくせに、女性の影を全く感じさせない堅物の真面目男だった。だった男だ。
それが、人前でも憚らずイチャついている。それも、自分の妹相手に。
確かに、結婚してくれと口にしたのは自分だが、それからまだ数日しか経っていない。何を、どうしたらこの状態になるのか・・・・
「まあ、幸せなら良い。しかし、場所と状況を見てくれよ。良いか?このバカップルが!」
くっついて歩いている二人をそそくさと追い越すと、すれ違いざまにそう言って足早に先を急いだ。何の拷問かと思う。拷問ならされる方より、する方がイイ。したことは無いけれど・・・
「先に行っているからな」
振り返りざまにそう言うと、立ち止まって口付けを交わしている二人を見てしまった。
「!!!ったく!!!・・・早く来い!!!」
もう、自分の味方はアレッド殿下だけだ。と、思った。意味も分からず早く会いたくなって、二人を置いて大股に歩きを速めた。
断じて言う。決して、二人を羨ましく思った訳では無い!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
シリウス様に揶揄われ、翻弄され、(だって、髪を下ろしているのも、確かに印が消えていないからです!見つけた侍女のマーサの方が、真っ赤になって卒倒しそうでしたわ(汗))
更には、また、く、口付けをされて(それも、お兄様の見てない所で、唇にされたと思ったら、バッチリ見られました!!)
シリウス様と一緒にいると、心臓が持ちませんわ!!
アレッド王太子様の執務室には、すでに殿下、オーキッド様、カーン様、クラウスお兄様とセーヴル様がお集まりしていました。私とシリウス様が席に着くと、オーキッド様から、ルシェール様は熱がまだ高くて起きられないと言われました。そうですわね、昨日の今日ですものね。
「さて、昨日の続きだが、まず今後のオーキッド殿らについてだが、それについてはセーヴル?」
「はい。ようやく出番ですね。まず、パルマン辺境伯、オーキッド殿は幻惑の館に宿泊していますね?とりあえず、そこは引き払って王都内のご自分のタウンハウスに移動して下さい。侍女と御者も含めて全員で8名ですか?タウンハウスに行っても問題無いでしょう?人手が足りないのならこちらで手配しますが」
セーヴル様が手元の紙を見ながらオーキッド様に向かって言いました。
「えーっ?幻惑の館は居心地良くて最高なんだけど・・・」
「何か相談や、厄介ごとが起きる度に、近衛騎士や王太子の馬車が娼館に向かう訳ですか?それはダメでしょう!?いくら何でも」
「う・・・ん。判った。タウンハウスに行こう。頻繁にアレッド殿下に娼館まで来てもらったら、ステーシア王妃に殺されるね!?うん。殺される!」
何でしょう。オーキッド様が楽しそうに見えますが?
「コホン!。とにかく、今日中に移動して下さい。それから、ルシェール・サウザランド殿ですが、王宮内で怪我をされましたので、王国で責任を持って治療させて頂きます。ですから、今のお部屋にお留まり頂くようお願いします。お元気になってから、国賓として王宮に留まるか、パルマン辺境伯の客人としてそちらに合流するかを選択して頂きます。そこは、ご自身のお気持ちを尊重して頂きましょう」
暫く離れて暮らすことになるのですね。オーキッド様は先程とは変わって、真剣な表情で聞いています。カーン様もオーキッド様の後ろに立ってじっと聞いています。
「オーキッド殿。ご心配は判るが、まだルシェール殿を襲った騎士は単独行動だったとはいえ、復権が現実的になった今こそ、反乱者の他の残党が活発化するかもしれない。ここはどうか我らに任せて貰えないだろうか?」
シリウス様が、宮廷近衛騎士団の副団長としてご説明されました。確かに、ここにいた方が安全ですわよね。オーキッド様は決心したように顔を上げました。
「判りました。ご配慮頂き感謝します。ルシェールの事、よろしくお願いします。それから、私の従者はカーンを含めて諜報や偵察に優れた者がおりますので、ぜひご協力させて下さい」
「それで、オーキッド殿には、もう暫くは王都にいて頂きたい。リリへの ≪償い≫ について果たしてもらう必要がありますから」
クラウスお兄様が、私の方をチラッとご覧になりました。
「そうだよね。それも判ってるよ。リリちゃん、決めたの?」
皆さんの視線が、私に集まりました。
よく見たら、この部屋にはイケメンしかいませんわ。それも、王国クラスの。あらゆるタイプの超絶美形さんばかり。今ここにいらっしゃらないルシェール様も含めたら、更にレベルがアップしますわ。
眼福です。
「あの、それについては、ルシェール様がいらっしゃるときにお話ししたいのです。あと数日もすればベッドから出られますわね?その時に」
そうです。やはりここは関係者皆揃っての方が良いですもの。私も、もう少し時間が欲しいですから。幸い、皆さんからご了承を頂きましたので、集まるのは別途日にちを調整することになりました。それでは、目的のもう一つを行いましょう。
「オーキッド様、ルシェール様にお見舞いを持って参りましたの。お渡し願えますか?」
オーキッド様に、花籠と手籠をお見せします。お熱があるようでしたら、お渡しして頂きましょう。
「ああ。ありがとう。さっきまでは眠っていたけど、今はどうかな?目を覚ましていたら会って欲しいけど。リリちゃんに会えば、熱も下がっちゃうかもね?あ、上がっちゃうかな?」
そんな冗談を言って、オーキッド様がお部屋まで案内して下さることになりました。王太子様や他の皆様にご挨拶して部屋を出ます。
「シリウス様?」
オーキッド様とカーン様もご一緒に部屋を出るのは判りますが、シリウス様も一緒に出て来られました。
「あの、大丈夫ですよ?お見舞いするだけですから」
「いいえ。私もご一緒します。今後、警備対象となるお方ですから」
「・・・?」
「・・・・また、役得を取られたら目も当てられませんから」
シリウス様は、忘れていなかったのですね!?ううっ。この方、意外と嫉妬深い方なのですね!
オーキッド様とカルバーン様が、興味津々に何の事?と聞いてきますが、
(言えませんわ!そんなこと!!)心の中で叫びました。
誤字脱字は気づき次第修正します。
面白かった、続きが気になると思われましたら
評価ボタンを押して下さると嬉しいです。
これからの励みになりますでの、ぜひボタンを
押して下さると頑張るパワーになります。
ブックマークしてくださった皆様もありがとうございます。




