51. 辺境伯は打ち明ける(1)
オーキッド様の打ち明け話です。
長くなるので、分割しました。
そこにいた全員がオーキッド様を見ました。
名前を呼ばれたルシェール様も、仲間であるはずのカルバーン様も同じようなびっくり顔です。皆が目と口を開けて無言でいる間、オーキッド様はご機嫌な様子でお茶を飲んでいます。
「パルマン辺境伯」
「オーキッドで良いよ。クラウス君。皆もね?」
クラウスお兄様が、口火を切って話しかけようとしたのを遮ってオーキッド様が言いました。年上の先輩で高位貴族である辺境伯に、皆遠慮していましたので気を使って下さったのですが・・・
「だって、その方が親しい感じじゃない?ある意味、私達は親密だしね?」
そうでした。この方、少し感覚が変わっていらっしゃいました。さすがに、このままでは話が続かないのでクラウスお兄様がそこには突っ込まずに続けました。
「それでは、遠慮なく。オーキッド殿、今あなたはご自分では無く、ルシェール様とリリを結婚させようとしたとおっしゃったのですか?」
「そうだよ。ルイのお嫁さん」
「オーキッド!聞いていませんよ!?貴方は、リリ嬢を妻に欲しいとおっしゃったでは無いですか?」
オーキッド様の隣にいたルシェール様が、慌てたように詰め寄りました。カルバーン様も頷いていますが、オーキッド様は肩を竦めてチラッと見ただけでした。
「ここから先は、ルイにもカーンにも言っていない。私一人が画策したこと。二人は私の頼みを聞いてくれたに過ぎないんだ」
ルシェール様とカルバーン様がぐっと息を飲んだのが判りました。この二人にも秘密にしていたことがあったのですね。
「それでは、オーキッド様のお考えになっていた事、お話して頂けますか?」
じっと黙って聞いていましたが、ここは当事者である私からお願いしましょう。だって、数年分の色々をここで埋めなければ、皆の心に穴が開いたままですもの!
オーキッド様が、(貴方には聞く権利があるね)と私の顔を見ながら言うと、チラッと隣にいるシリウス様を見ました。シリウス様は何も言いませんでしたが頷いて先を促します。
フーッと、深く溜息を吐くとオーキッド様が話始めました。
「5年前から、彼はこの世界にいない人間になってたんだ」
そうでした。ルシェール様は隣国からオーキッド様によって助けられた時、火事に紛れて脱出したということです。確かに、死んだことにしたとおっしゃいました。
「パルマン領にいて、彼の体調や精神状態が回復するのを待っていた。その間にも、隣国からの情報は得ていたけど、国内が落ち着くにはまだ当分かかりそうだったから、彼の生存を明かすことはしなかった。でもね、いつまでもそれでは、彼はずっと日陰の生活になってしまう」
オーキッド様が優しい眼差しでルシェール様を見ています。
「名誉が回復されて、隣国に帰れるのがいつになるか判らないまま、ずっと辺境に留めて私の傍にいることが、彼の為に良いのかずっと考えていた。ルイは優秀だよ。とてもね。本来ならば国政に関われる資質を持った王族の一人なのに。で、考えた結果、二年半前にグランデルク伯爵の所に使いを出したワケ」
「は?そこでなぜ、当家にいらっしゃるということになるのでしょう?」
思わずオーキッド様に聞いてしまいました。どうしてそこから、お父様に会うことになるのでしょうか?
疑問を口にした私ですが、それに答えたのはクラウスお兄様でした。
「メルト国においての後ろ盾?といったことでしょうか?」
「さすが!クラウス君。良く判ったね?」
後ろ盾ですか。確かに、お父様は我が国の法務大臣を務めていますが・・・
「リリ。王族としての系譜から除外されて、戸籍すら持たないルシェール様は、隣国でも我が国でも存在しないことになってしまう。まして、隣国で死んだことになっていれば、ここに存在する彼が何者であるか証明もできない。でも、何年掛かろうと、いずれ復権できれば第八王子の嫡男として表に出られる。但し、何も無い状態と、ある程度後ろ盾を持って地位を固めた状態とでは身の振り方が違う。現王に特別な感情を持たれた弟王子の息子だ。その存在は優秀であれば在る程、国政に影響を及ぼすことになる。かもしれない」
「そう。そこで色々国内を物色したんだけど、あまり他の貴族の事に詳しくは無いし、力があって、口が堅くて、信頼できる賢い家を探したんだよ。でも、はっきりルイの事を頼むなんて最初から聞いてもらえるはずないでしょ?」
「まあ。確かにそうでしょうね。でも、何で、それが、我がグランデルク伯爵家になったのですか?」
クラウスお兄様が、詰め寄ります。
「それはね、以前王都に来て遊んだ時に、君の父上にとってもお世話になったから。思い出したんだよ。グランデルク法務大臣の伯爵家の存在をね?」
そう言えば、数年前にオーキッド様が王都にいらしてとんでもない大騒ぎをしたことは伺っていました。その時の後始末をしたのが、法務大臣の父だったのです。多分、陛下や王妃様、アレッド王太子様、そして騎士団長からも泣きつかれたため、大臣自らが動いたのでしょう。確かにその時にお父様とオーキッド様はお会いしていたと言っていましたもの。
「グランデルク伯爵は、私の理想にぴったりだったよ。怒ると怖いけど、真面目で愛情深い御仁だよね。王家の信頼も厚く、由緒ある伯爵家で法務大臣を務め、嫡男であるクラウス君は次代の宰相候補だし。でもさ、随分迷惑かけちゃったでしょ?普通に行ってもダメだと思ったんだ」
「それで、私に求婚を?」
「そう。グランデルク伯爵家の情報を調べたら、一番最初にリリちゃん、君の事が出てきたんだ。幻の美少女ってね。社交界にデビュー前なのにその噂は国中の貴族の噂になっていると。でも、その姿を見た者はほとんどいないという、鉄壁の箱入り令嬢だったよね?なんせ、伯爵とクラウス君が学園にも入学させない徹底ぶりだったでしょう。本当は存在しないんじゃないか?って思われていたんだよ?」
「噂って怖いですわね?結構ゆるーく過ごしていましたのに」
「リリ。それはお前だけだ。結構大変だったんだ。婚約申し込みやら何やら・・・」
クラウスお兄様が、思い出したように遠い目をしました。一瞬凄く疲れた表情をしましたが、それには触れずに話の続きを待ちます。
「存在が表に出きっていない幻の令嬢が、ルイと2歳しか違わないと聞いてこれしかないと思ったよ。グランデルク伯爵家の令嬢なら復権したルイとも釣り合うし、法務大臣や次期宰相の兄とも繋がれる。つまりは王室とも近しい関係を築けるって。ごめんね、リリちゃん。この時には君の人となりなんて、何も考えていなかったんだ」
オーキッド様がそう言って頭を下げました。この方は、本当にルシェール様を救いたかったのですね。まあ、聞けば私よりも最初にお父様がこの方に気に入られたのが運のツキ?のような感じがします。
「でもね、ルイが申し込みに行ける訳ないし、当時の私はアレッド殿下から ≪もう王都には来るな!!≫ と勅命を貰った後だったから領地からは出られないでしょ?だからカーンに行ってもらったんだけどね。はっきり言えなかった理由は、何となく判って貰えた?」
クラウスお兄様が、私に向かって(どう?)と言うように顔を向けました。私は頷くと口を開きました。
「つまり、存在しないことになっているルイ様の、後ろ盾を探していたオーキッド様の眼鏡に叶ったのが、グランデルク伯爵家であり、関係を作るために私との結婚話を打診してきた。でも、用心のためにはっきりした情報を伝えなかったために、お父様が怒りだして話は流れた・・・ということでしょうか?」
「そう。そんな感じだね。だって、私と結婚する訳では無いから、そこを上手く説明できなくて妾云々の話に拗れたみたいだけど。本当に失礼な話だったよね?ゴメンね?リリちゃん」
オーキッド様は、隣のルシェール様にも小さく(ごめんね)と言いました。この方は本当にルシェール様を大事に思っているようです。それはそれで微笑ましくもありますが、そこからどうして ≪拉致・誘拐≫ になったのでしょう。
「事情は大体判った。で?どうしてリリ嬢を誘拐することになったのだ?」
アレッド王太子様が聞いて下さいました。そうですわ。それが聞きたかったのです!
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