44. お茶会は艶やかに、華やかに
遂に、ルイ君登場です。
彼は、何者なのでしょうか。
少し、長くなりましたがお付き合いください。
「ご無沙汰しておりました。お目に掛かれて光栄です」
王妃様の前に跪き、騎士の礼をとってご挨拶されています。この方、やっぱりあの侍女リーダーさんですわ。確かに着ている物はドレスではありませんが。
黒地に金色の刺繍は、シリウス様がお召の宮廷近衛騎士の式服と良く似たデザインですが、近衛騎士の方は優美で華やかな色合いなのに対して、辺境騎士団の方は、もっと剛健な威圧感がある色合いに見えます。
ただ、パルマン辺境伯の男性にしてはしなやかでほっそりとした身体つきと、長い黒髪、白く線の細い顔立ちに、女装姿を知っている私には何だか男装しているという方がしっくりくる感じがします。以前あった時よりも、頬がほっそりして少し精悍な感じがしないでもありませんが・・・お化粧されていないからでしょうか。そんな風にまじまじと王妃様とパルマン辺境伯のご挨拶を見ておりました。
「ところで、オーキッド、貴方何のために王都へいらしたの?さっき、貴方の従者はリリちゃんのお祝いとかおっしゃっていましたけど?」
王妃様が、そう言ってカーン様、もといカルバーン様をちらっとご覧になりました。カルバーン様はというと、パルマン辺境伯の後ろに控えて、ご婦人方にニコニコと笑顔を振り撒いています。
「今回王都に来たのは、ある目的がございまして。それよりも、久しぶりの王都ですから、王家の皆様にもご挨拶と思って王宮に来てみれば、王妃様のお茶会が行われているとか。ここまで来て王妃様にお会いできないのも何なので、アレッド殿下にお願いしてお茶会でご挨拶ができるよう、お願いしたのです」
うん。ある目的とか言っていますね。でも、ここまでは、至って普通のやり取りです。変人風な所は見当たりませんけど。
「そうですの。それはありがとう。オーキッドもお元気で何よりです。それでは、アレッド。後はよろしくね?」
「ええっ!?」
王妃様は、さっさとパルマン辺境伯をアレッド様に押し付けようとしましたわね。自分の役割は案内するまでと気を緩めていたアレッド様が驚いたように声を上げました。アレッド様、驚きすぎですというか、そんなにパルマン辺境伯を苦手にしているのですね?
「やだなぁ。まだ帰りませんよ?王妃様、皆様にご紹介して頂いても宜しいですか?」
ニコニコ顔で、イケメンオーラが迸ります。ここにいる男性の顔面偏差値が高いのなんのって・・・皆様それぞれに種類が違うイケメンさんです。
「・・・・こちら、オーキッド・フォン・パルマン辺境伯ですわ。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんけど・・・」
王妃様が抑揚の無い声でご紹介されると、きりっとした表情を浮かべて周りを見回しました。
「オーキッド・フォン・パルマンと申します。今日は淑女のお茶会にお邪魔させて頂き、ありがとうございます」
そう言うと、凛々しい騎士の表情から打って変わって花が綻ぶように艶やかに微笑みました。
何人かのお嬢様の声にならない歓喜の声が聞こえましたよ?
そうです。ここにもいました。王国最優良物件が。
ご挨拶を終えると、オーキッド様が私に眼を止められました。そして、一瞬私の後ろにいるシリウス様を見たようにも感じます。
「貴方が、リリ・アンナ・グランデルク伯爵令嬢ですね?今日は17歳のお誕生日と伺っています。おめでとうございます」
「初めまして。パルマン辺境伯様。ありがとうございます。でも、リリ・アンナ・スタンフォードになりましたのよ」
初めて会う風を装います。そして、結婚したことお伝えします。できる限り自然な感じで。
「ご結婚されたのですね?スタンフォードということは、貴方がお相手ですか?シリウス君?」
私の後ろに立っているシリウス様に向かって、オーキッド様が話しかけます。学園の先輩ですから ≪シリウス君≫ と君呼びなのしょうか。
「お久し振りです。パルマン辺境伯。十数年振りになりますでしょうか?お元気そうで何よりです」
シリウス様は、あくまでも自然に懐かしそうな感じでお答えされています。頭の上で交わされている二人の会話に聞き耳を立てていると、カルバーン様と目が合いました。
彼は片目をパチリと瞑るとオーキッド様に耳打ちして会場から出て行かれました。もちろん、会場から出るときは大きな身振りでご挨拶されましたわよ?数人のお嬢様が彼を追いかけていかれましたけど・・・大丈夫でしょうか。
「君がリリ嬢とねぇ?シリウス君の噂は、王都から離れた私の所まで届いていたけどね。女っ気のない、朴念仁って?」
ん!?何気に、オーキッド様がシリウス様をディスっているように聞こえましたが?王妃様もアレッド王太子様も聞き耳を立てていましたから、思わず顔を見合わせてしまいました。
「その通りです。リリ以外に、私の気持ちを引き付ける女性は誰一人いませんでしたから」
「ふーん。君がそんなこと言うなんてね。リリちゃん、彼はずいぶん重そうだよ?大丈夫?」
いきなり話を振られました。重い?重いとは?意味が良く判らず、目が泳いでしまいました。
「少し重しをしておかないと。誰かに持っていかれてはかないませんから。ねえ、リリ」
私の代わりにシリウス様が、しれっと返されました。オーキッド様が、ちょっと驚いたようにシリウス様を見て、にんまりと微笑みました。何だか、とっても嬉しそうですけど。
「君も言うようになったね?以前はそんなこと言うようには思えかったけど。ところで、君達の馴れ初めとか聞きたいな。アレッド殿下もご一緒にどう?」
オーキッド様が王妃様にテーブルをお願いすると、すぐさま新しいテーブル席が用意されました。アレッド様は、すでに諦めたように大人しく巻き込まれていらっしゃいます。
「さあ、リリちゃん。こちらにどうぞ」
オーキッド様が手を差し出しかけましたが、シリウス様の方が一瞬早く私の手を取って下さいました。そうですね。ここは旦那様の役目ですわ。助かりました。
新しいテーブル席には、私とシリウス様、オーキッド様にアレッド様、あと2つほど席は空いていますが、どなたもいらっしゃいません。王妃様とレチル様、お母様もこちらを気にしていらっしゃいますが、あくまでも自然を装います。
「で?いつ結婚したの?」
「数日前です。リリの17歳の誕生日である今日、初めて皆さんにご報告させて頂きました」
「そう。二人はいつから知り合っていたの?」
優雅な仕草でオーキッド様は、淹れ立てのお茶を飲んでいます。正面にお座りになっているアレッド様と雰囲気が良く似ていらっしゃるように思いますが、何代か前の血がそうさせるのでしょう。
「二年ほど前でしょうか。リリが社交界デビューしてからですね」
「そう言えば、リリちゃんの兄上、クラウス君だったか。君達仲が良かったよね?アレッド殿下とあと、タンザール侯爵の息子と」
「ええ。お兄様達は今でも仲が宜しいですわ。兄もシリウス様との結婚をとても喜んでくれていますの」
これは本当の事です。
「ああ、タンザール侯爵の息子、セーヴルの奥方がいる。王妃の隣にいるのがレチル・タンザール侯爵夫人だ」
アレッド様がレチル様の方に視線を向けてご説明されましたが、ふーん。とあまり興味が無さそうな感じです。
「ところで、パルマン辺境伯、先程王都に来たのは目的があるとおっしゃっていましたが?」
「そうなんだけど・・・それより、リリちゃんに誕生日のお祝いを持ってきたから受け取って欲しくて」
オーキッド様が襟の隠しに挟んでいた小さな金色の小指程の笛を取り出して短く2回吹きました。良く通る高い音です。これって、伝令用ですよね。初めて聞きました。
「この音階が私専用なんだよ?ああ、来たよ」
先程中庭を出て行ったカルバーン様が、白百合の花束と小さな箱をお持ちになって戻っていらっしゃいました。カルバーン様は流石、元舞台俳優ですわ。入って来ただけで華やかな雰囲気が広がります。これが俳優のオーラという物でしょうか。
カルバーン様から手渡された花束と小箱を受け取ると、オーキッド様が私の席までいらっしゃいました。思わず私も席を立ちました。
「どうぞ、これを受け取って下さい。お誕生日と伺ってご用意させて頂きました」
「でも・・・、今日初めてお会いした方に、そんな・・・」
一瞬、オーキッド様の瞳が大きくなったような気がしましたが、でもそこは気づかない振りで、まずはご辞退致しましょう。花束はともかく、その小箱は何でしょうか?怖いですもの。そんな事を考えていると、シリウス様が私の背に手を添えて、屈んで顔を覗き込まれました。
「お受けしたら良いですよ。折角、パルマン辺境伯からのご厚意です」
「・・・はい」
シリウス様がそうおっしゃるならば、頂きますとも。私はカーテーシーして、オーキッド様とカルバーン様にこれ以上無い位の笑みを浮かべて顔を上げました。
「本当に、可愛いねぇ。≪妖精姫≫ とはよく言ったものだ。シリウス君、リリちゃんを私に譲る気無い?」
「ありません(冷)」
お茶らけたオーキッド様の言葉に、氷の吹きすさぶ冷たさでシリウス様が言い放ちました。何だか、空気が少しピリピリしているような感じがします。とにかく、お礼は言わないと。
「オーキッド様、それでは、旦那様のお許しを頂きましたので遠慮なく頂戴いたします。ありがとうございます」
花束と小箱を手渡しで頂くときに、キュッと手を握られました!!多分、シリウス様には見えていません。この方、やっぱり油断なりません。私がアタワタとしている間に、シリウス様とオーキッド様の間に漂うピリピリに、耐えられなくなったアレッド様が空気破壊を試みました。
「さっき言いかけた、オーキッド殿の目的とは何なのだ?」
オーキッド様が席に座られたので、私とシリウス様も席に掛けました。カルバーン様はオーキッド様の後ろに立ったままです。
「気になる?それはね」
そこまで言うと、中庭の入り口に眼を向けました。私達も釣られて視線を追うと、一人の男性が歩いて来るのが見えました。
煌めく銀髪に、臙脂色の上着です。見覚えのある、あの見事な銀髪。
オーキッド様が席を立って、彼を迎えに近寄りました。そして王妃様にご紹介すべく、テーブルまで並んで歩かれます。
そして、ゆっくりと私の前を通り過ぎるその横顔は、薄いアクアマリンの瞳に、スッと通った鼻梁、白くて憂いのある横顔は、確かに彼です。
「彼をご紹介したかったのです。ルシェール・サウザランド。トウレンブルク国の元王弟のご子息です」
王妃様にご紹介されると、ルイ様は完璧な所作でご挨拶をされました。
「ルシェール・サウザランドと申します」
隣国?、王弟の息子?、王族ですか?でも、この方、私を攫った実行犯のルイ様ですよ!?
やっとルイ君の正体が判りました。
でも、なんでパルマン辺境伯と一緒にいるのかは、
次話以降に。
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