40. 辺境伯と王太子と侍女リーダー?
パルマン辺境伯はハチャメチャです。
巻き込まれたアレッドは残念な殿下になってしまいました。
そして、ついにリリが彼の事を思い出します。
パルマン辺境伯が王都にいらっしゃる。らしいですわ。
クラウスお兄様からの説明からすると、多分誘拐の首謀者はパルマン辺境伯なのでしょう。でも、なぜでしょう?皆様がおっしゃるように正式に望まれればお断りなどできませんでしたのに。デビュタントの前でしたから、約二年半ほどの婚約期間があったとしてもまあ、普通ですよね?年齢だって離れていますが(11歳)それでもまあ、無いわけではありません。
「シリウス様は、パルマン辺境伯にお会いしたことがあるのですか?」
お隣に座るシリウス様に伺います。
「学園に在学していた時にお会いしただけなのです。ですから、かれこれ13、4年前に会ったのが最後です。クラウスもセーヴルも同じです。ただ、殿下だけは5年前にお会いしていらっしゃいます」
「そうなのですね。どんなお方なのですか?」
当然、気になりますわ。自分を攫おうとした人の事ですもの。でも、どうしたのでしょうか。アレッド王太子様は凛々しいお顔に、何か変な物を口にしたような苦い表情をされて天井を睨んでいます。お兄様とセーヴルは顔を見合わせると、そんな王太子様を見つめています。
シリウス様だけは、じっと私の顔を見ていますけど。なに?
「・・・・」
「あの・・・?」
「リリ、パルマン辺境伯はとても変わっていらっしゃるのだよ」
それまで、ずっと話を聞いていたお父様が口を開きました。そうでした。お父様もいらっしゃいましたわね。忘れていた訳ではありませんよ!
「変わっている方?ですか?」
「ああ。5年前に王都に来られた時に、私もお会いしているのだ」
「お会いしていらっしゃるのですね?どんな方でしたの?」
「滞在中、騎士団への道場破りに、貴族院では議員と議会潰しをした。剣も頭も切れて口もよく回る辺境伯にやられて、再起不能になった騎士と議員は数知れない。お世話をしていた第一師団などは疲れ果て団長から二度と請け負わないと苦情が来たほどだった。そして、社交界に驚くべき格好で参加して皆の度肝を抜いていた」
「驚くべき格好?」
「ああ。女装姿で仮面舞踏会を開催したのだ。伯はドレス姿で女主人を気どり、更に・・・・」
そこまで言うとお父様は、王太子様の方をちらっと申し訳なさそうな顔を向けると、
「あろうことか、アレッド殿下にもそれを強要したのだ」
「強要?ですか?」
「つまり、殿下にドレス姿の女装を強要したのだ」
「「「「「ええっ!?」」」」
王太子様が机に突っ伏して頭を搔き乱しました。シリウス様もお兄様達もご存じなかったのね?殿下とお父様以外の人の目と口が真ん丸に開きましたわ。
「殿下!?どういうことですか?私達も知りませんでしたよ!?」
お兄様が王太子様に詰め寄りました。王太子様は眉根を寄せた顔を上げると、拗ねたような口調でぼそぼそとお吐きになりました。
「そんなところをお前たちに見せられるか。そもそもお前たちは招待もしていない。あんな舞踏会は無かったことと、かん口令を引いた」
「・・・殿下。それ聞いたことありますよ?いかがわしい秘密倶楽部のようだったのでしょう?高級娼館の一室で行われたという?」
セーヴル様が、いつになく冷めた目で王太子様を見ながらおっしゃいました。
「うっ。仕方なかったのだ。賭け遊戯に負けてしまい、何でも一つ言うことを聞くということになって、無理なことを並べられた挙句、できそうだったのが仮面舞踏会への参加だったのだ。でも、その時は、女装などとは聞いていなかったのだ!本当だ!信じてくれ!」
「そうだったのですか。アレッド王太子様の女装姿・・・お綺麗でしたでしょうね?」
つい、想像してしまいました。
「リリ、そこはどうでもいいです」
シリウス様が、メっと私を見ました。すみません。だってお綺麗だったと思いますのよ?
気を取り直し姿勢を正してお父様を見つめます。
「舞踏会は別に良いが、王太子様をそのようないかがわしい会に連れ出したことが問題だ。それも側近である皆を巻いてだ。それに、舞踏会は娼館から市中へパレードのように広がって、庶民まで巻き込んで大騒ぎになった」
治安と法を守る法務大臣であるお父様が、被害にあったらしいです。そう言えば、お祭りでもないのに大きな花火が幾つも上がった賑やかな夜がありましたわ。翌日の新聞では、主催者不明の ≪お祭り騒ぎ≫ と話題になっていました。それ、パルマン辺境伯の仕業だったのですか。
「まあ、さすがに伯が仕組んだ証拠もなく、舞踏会に参加されていただけだし、殿下はある意味ご自分の意志でご参加されていたということで、お二人には厳重注意で終わったが」
言い終わるとお父様が、お茶のお替りをレブランド様に合図しました。そうでしたの。お疲れさまでしたのね。
「とにかく、そういう破天荒なこと平気でするし、他者への悪影響が大きいから気を付けることに越したことは無い。それに変わっていなければ、まだ女装をしているかもしれない。顔を知っている者が少ないから、見かけぬ者には注意を払うようにしてくれ」
王太子様も新しく注がれたお茶を飲みながら、そうおっしゃいました。
「なんだか、大変なお方のようですね?お近づきになりたくないですわ。でも、私は辺境伯のお顔を見ていないのです。大丈夫でしょうか・・・」
するとそこで、クラウスお兄様が何かを思い出したようにトンっと手を打ちました。そして執務室にある大きな書棚から、これまた大きくて立派な革表紙の本を出してきました。
「更新されていないので随分前の肖像画だが、面影はあるはずだ。リリ、これがオーキッド・フォン・パルマン辺境伯だ」
指差されたページには17、8歳位でしょうか、若い男性の肖像画が描かれていました。長い黒髪に意志の強そうな瞳が印象的ですが、ほっそりとした女性のような美しさは、どこかで見覚えがあるような感じがしました。
頭の奥がツキっと引っ張られるような感覚がしました。
「・・・侍女リーダーさん?」
一気に、お屋敷でのことを思い出しました。
そうです。この方、お屋敷で5人いた侍女さん達のリーダーさんですよ!黒髪に大人びた美しい方でしたよ?髪を解いた時は妖艶な感じがした大人の女性に思いましたが・・・
「この方、お会いしています!!侍女リーダーさんです!ああ、でもこの方がパルマン辺境伯なのですね?」
「「「「「「思い出した!?」」」」」
パルマン辺境伯は女装をしていました。そして、オーキッド・フォン・パルマン辺境伯が私を誘拐した首謀者でしたのね。
まったく、疑うことなく女性と信じていました。確かに、背の高い方だとは思いましたけど。
「これで、パルマン辺境伯が黒だと確定したな。しかし、まだ記憶が戻っていないままとしよう。相手がどう出るか判らないからな。シリウス、それでいいか?」
ぶ厚い貴族年鑑を閉じながらお兄様がシリウス様に問いました。
「そうしよう。リリの事は私が守ります」
二人で顔を見合わせてふふっと笑い合っていましたら、シリウス様と二人、王太子様に近くに来るようにと手招きされました。すこーし、笑顔が黒い感じがしますけど、なんでしょうか?
「パルマン辺境伯は、無類の美しいモノ好きだ。王国の至宝ともいうべき美貌の ≪妖精姫と宮廷近衛騎士≫ のカップルだ。 二人とも気を付けろ?」
シリウス様と私は、思わず顔を見合わせましたわ。
それからは、お茶会の具体的なことを確認し合いました。時間やメンバー、席次に私達の結婚報告と、お誕生日祝いの進行など、細かなことまで相談すると、ようやく私達は王太子様の執務室を退出することになりました。お兄様、セーヴル様、お父様はそのまま王宮に留まるとのことです。私とお母様はグランデルク家の馬車に乗って屋敷に帰りますが、シリウス様が送って下さることになりました。馬車ではなく、馬に騎乗して付き添って下さいます。それならば安心です。
「それでは、屋敷までお送りしましょう」
騎乗したシリウス様の絵の様な凛々しいお姿は、何度でも言いますよ! 眼福です!!
誤字脱字は気づき次第修正します。
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試行錯誤しながら、ついに40話まできました。拙いながらも楽しんでいただけるように
頑張ります。
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