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32. 妖精姫はあの時を思い出す?

短めですけど、今日はここまでです。

「失われた記憶・・・?」


 思わずシリウス様の顔を見つめました。デヴュタントからの覚書って、日付からも2年前の ≪あの日≫ の事ですよね?でも、これを書いた記憶がありません。確かに文字は私の書いた文字ですが。


「貴方は屋敷に戻った夜に、これを書いてから眠ったのでしょう。次の日に私が事情聴取に伺うと約束していましたから。それに備えて書き置いていたのでしょうね。かなり詳細に書いてあるようですよ」


「そうかもしれませんが、どうして今になって見つけるのでしょう。このタイミングで」


 2年も経っているのです。≪マートン≫ はずっと私の傍にいて、彼はちゃんと守ってくれていたのに。

気が付かなかったのは私のせいです。


「今更と思う気持ちは判らんでもありませんが、私と一緒に見つけることに意味があったのです。もしも、貴方が一人で見つけたら多分捨ててしまった可能性もあります。事情を知っている私と一緒に見つけたことに意味があったのです」


「確かにそうですわね。私だけでは何のことか判らずに、捨ててしまいましたわ」


「とにかく、全部ちゃんと読みましょう。それから、リリ?」


 シリウス様は私の頬に手を当てて自分の方を向かせました。


「一旦ベッドから出てくれませんか?いくら私でもこの状況が長く続くのは・・・」


 そうでした。私はベッドにいてシリウス様と密着状態でいました。いくら結婚したと言っても、冷静になってみれば物凄く恥ずかしい体勢でした。カッと顔が熱くなりましたよ!多分顔が真っ赤になっていたと思います。

 シリウス様は、クスクスと笑いながらベッドに腰かけた私に、靴を差し出して下さいました。あら?この場面、もしかして・・・


「シリウス様、以前にもこうしてシリウス様に靴を履かせて頂いたことがありますか?」


 ピックとシリウス様の手が止まり、跪いたシリウス様が私の顔を見上げました。そうです。この角度です。以前にも見たことがあるような気がします。


「ええ。初めて私が女性に靴を履かせたのは、リリ、貴方にです。思い出しましたか?」


「何となくですが、覚えているかもしれません・・・」


 昨日からシリウス様と一緒にいる事で、記憶が戻ってきているような気がします。但し、ほんのカケラ程度ですけど。このまま、一緒にいればもっと思い出せるかもしれないです。そんなことを考えていたらまた抱き上げられました。


「えっ?えっ?」


 思わずシリウス様の首に抱き付きます。不意打ちですから仕方ないですよ!


「さあ、ソファでゆっくり読みましょうか。一緒に貴方の記憶を追い掛けましょう」


 二人掛けのソファに横抱きにされてシリウス様のお膝の上に座らせられました。

 なんの苦行でしょう?また膝の上ですよ?この方は、見かけによらず、こんなに甘やかし系。いいえ、溺愛系なのでしょうか?


 今後の事もありますから、この際ちゃんと言っときましょう。


「シリウス様?私、自分で座れますし、もう逃げませんわよ?」


「そうでしょうね。でも変な誤解をした挙句、逃げたのは貴方ですから。その罰として私の好きにさせて頂きます」


 悪びれる様子も、恥ずかしがる様子も全く無く、(とても傷ついたのです。)なんて涼しそうな表情で言いました。この方、やっぱり()()()()()




 他から見れば激アマな雰囲気でソファに座り、やっと ≪覚書≫ を読みます。

 ここに、無くしてしまった二日間があるのですね。当時の私、さ・す・が・で・す!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「・・・百合に蛇の模様ですか」


「そうみたいですね。趣味悪いですわ。馬車の壁布にドレスの刺繍、靴の飾りになんて」


 本物を見てみたいですね。そんな絵柄をデザインする人の気が知れませんけど、オーダーメイドですよね。


 それから、会った人達の事も書いてあります。ルイ様、カーン様、侍女さん達4人に侍女リーダーさん、そして主と呼ばれていたけど、姿を見ることは無かった人。この人達が私を誘拐した犯人なんですね。


「リリ、このルイという人物に覚えはありますか?」


 うーん。ここに書いてあるルイという人は、銀髪のほっそりしたイケメンさんです。私より少し年上のようですね。馬車の中では彼と二人きりだったみたいです。

 それに、彼が薬を使っていましたのね。王宮から攫うときの嗅ぎ薬も、屋敷に付く前に飲まされた水薬も。紙には薬の色や匂い、味も書いてありますが・・・一瞬、頭の奥で何かが閃きました。



「あっ!飲み薬!!」




 いきなり、強烈なフラッシュバックです!!私の大きな声に、シリウス様がビックと身体を揺らしました。


 そうです。思い出しました!!あの時、無理やり飲まされたのです。口移しで!!ルイ様に!


 心臓がバクバクしています。薬を飲まされた時のことを思い出しました。あの時、飲め、飲まないの攻防をしているうちにイキナリ口移しで飲まされたのです。

 そしてその時、ルイ様の頬を打った為に被っていた仮面が外れて初めてお顔を見たのでした。





「リリ。どうかしましたか?何か思い出しましたか?」


 優しく、顔を覗き込まれました。ええ。思い出しましたとも。


 これ、絶対に旦那様には知られたくないことですけど!


誤字脱字は気づき次第修正します。

面白かった、続きが気になると思って頂けましたら、

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ブックマークしてくださった皆様もありがとうございます。


「異世界エステティシャンは、王室御用達!」もゆるゆる

投稿しますのでこちらもよろしくお願いします。

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