28. 宮廷近衛騎士は女の勘が解らない?
雲行きが怪しくなってきました。
「誘拐されて、拉致されて、救出されても記憶無し?」
こう言うと何だか最低です。第一、なんで誘拐されたのでしょうか?それも王宮からなんて、大胆過ぎるでしょうに。
デヴュタントまでは、お父様とお兄様の方針で社交の場に行ったこともありませんから、どこで私を攫うことを思いついたのでしょうか。それに王宮からなんて、貴族が関係していなければ無理なんじゃないかしら?思いも寄らないできごとに、更に疑問は募ります。
「リリ、大丈夫ですか?」
シリウス様が、顔を覗き込むように目を合わせてきました。サファイアブルーの瞳に、顔を強張らせた私が映っています。大丈夫・・・ではないですが、伺ったことが事実であることは確かのようです。
「シリウス様、教えて下さってありがとうございます。それでですね、もっと伺いたいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「結構ですよ。私が答えられることであれば、できるだけお答えしましょう」
それから私は、シリウス様を質問責めにしました。まず、デビュタントの舞踏会でどのように誘拐されたか。そして、発見されたときに私は何を言っていたのか。首謀者の手がかりになるような物は無かったのかと。
彼は、丁寧に答えて下さいました。ホールから出てすぐの柱付近で薬を嗅がされて気を失い、靴が片方落ちていたことから、本人の意思でなく拉致られたことが発覚。
2台組みの黒馬車に乗せられてハルナ湖付近まで行ったところで、馬車から降りてきた私を追跡してくれていた騎士様が発見したそうです。その時に、馬車の下にもう片方の靴を落としていったので、その靴のお陰で私だということが確認されたそうです。
「靴を置いていってくれたお陰で、貴方が馬車に乗せられていることがはっきりと分かったのです。良い判断でした。当時、誰も貴方の顔を知らないので、それが無ければもっと時間が掛かったかもしれません」
「よく頑張ったと、当時の私を褒めたいですわね」
記憶にはありませんが、良くやりました。私。攫われている割には、随分冷静に行動したのですね?
「本当に。手掛かりとしてはベストでした。オーダーメイドのデヴュタント用の靴ですから。間違えようもまりません」
シリウス様は、私の頭を撫でてくれます。これは褒めて下さっているのですね?優しい手つきに は・ず・か・し・いです!
「それから、お屋敷に連れていかれたのですね?シリウス様が私を見つけた時はどんな様子でしたの?」
「貴方を見付けたのは翌朝の事です。囚われていた部屋から、ベランダに出てきたと思ったらウロウロしていました。その時は大変お元気そうに見えました。でも、丁度その時に銀髪の青年が庭に表れたので、慌てて部屋の中に戻って行かれました。その後は部屋中のカーテンを開けまくっていたので、貴方のいる部屋がどこかと明確に識別できたのです」
「そうですか。覚えていないとは言え、どんな行動なのでしょうか。恥ずかしいですわ」
「いいえ、それによって私達は3手に分かれて貴方を救出することに成功したのです」
「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、見つかった時は私一人しかいなかったというのは?」
「次に貴方を見た時には、デヴュタントのドレスから薄桃色のドレスに着替えて、身支度も出来ていましたから、貴方は5人の侍女がいたと言っていました。それに、ルイとカーンという二人の青年が貴方を攫った実行犯で、もう一人彼らの主人がいたと言っていました」
「でも、その方達はシリウス様達が、屋敷に入って来た時にはいなかったのですね?逃げてしまったのですか?」
「ええ、裏口に配備していた警備兵達が薬で眠らされていたため、まんまと逃げられてしまったのです」
「そうだったのですか・・・」
「ところで、ここまで聞いてみて記憶が戻ったりはしていますか?」
「・・・全然」
さすがにシリウス様もお疲れになったと思います。喉を潤すため冷めてしまったハーブティーを飲み干されると、ここから先はクラウスの方が詳しいのです。と言ってお兄様をお呼びすることにしました。
もう何を聞いても驚きませんわ。
「それで、屋敷に忍び込んだ何者かが、リリに催眠術だかを掛けたと思うんだ。そうでなければこんなショッキングな事を翌日にすっかり忘れて、更に記憶の上書きをされるなんて考えられないからね」
部屋にお呼びしたクラウスお兄様は、シリウス様のお隣に腰かけていらっしゃいます。私が思いのほか落ち着いていた様子に安心されたようです。
つまり、誘拐されて翌日に自宅に侵入されたということですね。なんてことでしょうか。危機管理なさ過ぎです。
とにかく、全部ではないですが事情が分かりました。
「で?、私を誘拐した首謀者の目星はついているのですか?」
「それが、確定ではないが、パルマン辺境伯が絡んでいるのではないかと思われている。使用された屋敷が彼の物であるということと、お前に求婚?妾?の申し入れをしてきたのも彼らしいからな」
「申し込み?求婚?妾?何ですの。それ?初めて伺いましたよ」
クラウスお兄様が一瞬、まずい。という顔をしましたが、諦めたように言葉を続けました。
「お前には言っていなかったが、デヴュタントの半年前くらい、今から2年半前に高位貴族から申し込みがあったのだ。しかし名を名乗らずに打診に来たということと、ふざけた言い分に父上が立腹されて追い出した。その時の使者が、お前の言ったカーンという同じ名前なのだ。同一人物だとしたらその求婚者が誘拐の首謀者である可能性が高い」
そして、シリウス様がおっしゃるには、領地に引き籠りのパルマン辺境伯がこの求婚者であり、誘拐の首謀者であるらしい。なぜなら、彼に当てハマるピースが多すぎるからとのことです。
「パルマン辺境伯なんて、知りませんけど?誘拐の目的って何でしょうか」
「求婚者は、社交界にお前を出すな。出さずに自分の元に来させろと言っていたらしい。でも、私達はそれを無視して、デヴュタントにお前を出した」
「つまり、社交界に出られなくするため、お前に醜聞を仕掛けたのではないかというのが私達の考えだ」
随分手の込んだ嫌がらせですわね。もし、それが目的ならサイテーですわ!
落ち着いていたはずの私ですが、何だか腹が立ってきました。お兄様に伺う限り、求婚者はふざけた使者を送って来たばかりか、断ったら醜聞を仕掛けて、私の立場を悪くするなんて!これが本当ならば(多分本当なのでしょうが)許されませんよ!私の一生を何だと思っているのでしょうか。
覚えていない歯がゆさと、されたことの理不尽さに、とっても気分が悪いです。悪いのですが、また一つ聞きたいことが浮かびました。
「シリウス様は、なぜそんな私に求婚して下さったのですか?・・・同情されたのですか?・・・」
この方の本心が判らなくなってしまいました。醜聞を仕掛けられて傷持ちになった、こんなややこしい状態の娘に求婚するなんて、何か目的が別にあるのではないですか?なぜ、結婚したのですか? 結婚と引き換えにしても良いほどの何かがあるのですか?
さっきまで、急に決まった結婚に驚きはしても、結局はとっても嬉しかったのです。だって、シリウス様は思っていた以上にお優しかったし・・・私が他の人のものになるのが我慢できなかった。なんておっしゃって下さいましたから・・・
胸の中がグルグル渦巻いて、とても悲しくなってきました。
「同情などではありません」
シリウス様は真剣な目で私を見詰めています。信じていいのでしょうか?こんな私を必要としてくれるのでしょうか?
「リリ、安心していい。シリウスは自分の意志で求婚することを決めてくれたのだ。だから、安心してくれ」
クラウスお兄様が私の肩を抱いて優しく慰めて下さいました。が、 ≪ピッキ!!っ何かが引っかかりました≫ つまりご自分で決める前に何らかのお勧めがあったのではないですか?あったけれど、ご自分で決められた。というふうに聞こえますけど?
「・・・お兄様。まさかシリウス様に、私の事を何かおっしゃたのですか?何かお願いしたりしてませんわよね?」
一瞬、お兄様は目を見張りましたが、それはすぐに消えました。
「リリは、何を言っているの?別に何も言っていないよ?」
「・・・そうでしょうか・・・?」
お兄様は、嘘を言うときにほんの少し眉根を寄せてから片眉を上げる癖があります。ほんの少しのことですが、家族である私はごまかせません。
お兄様はシリウス様に何か言ったのです。多分この流れからなら(妹と結婚してやってくれ)くらい言っていると思います。
「クラウスお兄様。シリウス様に私と結婚してくれ。なんてお願いしていませんよね!?」
「「・・・・!!」」
お二人が、顔を見合わせて無言になりました。
確定です。まったく、女の勘を侮っていましたよね!?この二人は乙女の気持ちが解っていません。
「とにかく。私は記憶を取り戻したいので、お兄様はご協力をお願いします。それから、シリウス様は次は王妃様のお茶会でお会いしましょう。それでは、今日はありがとうございました。お兄様、シリウス様を玄関までお送りして下さいな」
二人にそう言って、さっさと私は席を立って扉に向かいます。だって、肝心な事を隠している様な二人にイライラしたからです。
「それでは、ご機嫌よう」
そして、何も言わないお二人を部屋の外に追いやると、目いっぱいの笑顔でご挨拶をしました。
誤字脱字は気づいたときに修正します。
まとめて修正するのは大変でした・・・
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