21. 宮廷近衛騎士は段取りを踏む
誤字脱字、一部微修正を致しました。
シリウスは、やるとなったらやる子なんです。
口をあんぐりと開けたまま、アレッド、クラウス、セーヴルが固まった。
普段一切冗談など言わないシリウスが、リリに結婚を申し込むと言ったのだ。それも、仮初ではなく真面目に。
「シリウス?お前に求婚してくれと頼んだのは確かに私だ。まさか了承を貰えるとは思わなかった。本気か?本当に良いのか?」
クラウスの方が、落ち着きなくシリウスに詰め寄る。こんなに簡単にスタンフォード公爵の嫡男が結婚を決められるのか?と額に変な汗が噴き出してきた。
「本気だ。良い機会を貰ったと思う。直ぐにグランデルク伯爵家に行ってリリ嬢に会わなければならない。いや、その前に伯爵夫妻にか?」
シリウスは、3人の前を独り言を言いながら行ったり来たりしている。珍しいその様子をじっと見ていたアレッドがはっと気づいて叫んだ。
「まずは、自分の親に言ってこい!!」
スタンフォード公爵家は王国の筆頭貴族である。現公爵は、国王陛下の側近として宰相の立場にいる。本来であればシリウスが後継として王政に関わるはずであるが、彼は騎士の道を選んだ。さすがに公爵家の嫡男であるため配属先は考慮されたが、本人の希望通りに宮廷近衛騎士となった。王国、王室への忠誠心は厚く、容姿も爵位も申し分無かった。そして、頭脳も剣技も優れていたことから早くに副団長に昇進した。
とりあえず、踏むべき手順は踏んでおかない訳にはいかない。とシリウスは考えていた。但し、期限付きで4日後までにリリと結婚しておかなければ何が起こるか分からない。
彼は王宮内の執務室にいる父を訪ねた。多忙を極める父をプライベートなことで尋ねることなど今までなかった。さすがに、普段と違う息子の申し出に必ず晩餐までに帰るとの約束を取り付けた。まずは、今夜スタンフォード公爵夫妻である両親に結婚の許しを貰わなければ。
そして、王家の許可取りには、アレッドをフルに使ってやろうと考えていた。日頃の憂さ晴らしもあるが、王妃のお気に入りのリリがシリウスと結婚することになれば、多少なりともアレッドが結婚を意識するきっかけにもなるはず。
どうしてか、シリウス達4人の内で既婚者はセーヴルだけだった。セーヴルとレチアは長い婚約期間を経て昨年の春に結婚した。
シリウスもクラウスも優良物件として貴族のご令嬢からのお誘いも多いし、毎日のように釣り書きが届けられる。正直、うんざりしていた二人は仕事が忙しいのを口実に結婚について逃げていた。アレッドは、王国の行く末を担っているので簡単には婚約も出来なかった。
つまり、いい年した独身の、家柄良し、容姿良し、地位も金もある3人がつるんでいた訳だ。
「とにかく、今夜中に両親を説得し、明日にはリリ嬢の元に行かねばならん。クラウス、明日伯爵にお伺いする旨をお伝えしてくれ」
「・・・・ああ・・・」
クラウスの顔色が今一つ冴えないような気もするが放っておく。
「アレッド殿下。陛下にも結婚のお許しを頂かなくてはならないので、明日の朝に父と拝謁させて頂きたいとお伝えして下さい」
「随分忙しいな。もっとも陛下がダメだという訳が無かろう。2人とも陛下と王妃のお気に入り同士だ」
「そう言って頂けると心強いです。いかんせん、まだリリ嬢に話もしていませんから」
その場にいた3人は、一番肝心なことがまだでないか!?と突っ込んだ。
その夜、スタンフォード公爵家での晩餐は大荒れだった。ただし、良い方向に。
誰もが見惚れるような容姿に、資質も優れた騎士のはずなのにどういう訳か、シリウスには浮いた噂の一つもなかった。スタンフォード公爵夫妻は、熱烈な大恋愛で結ばれた稀有な夫婦であったため、最愛の息子にもそうあって欲しいと許嫁などを決めなかった。
それが影響したのか剣術を磨き、騎士になると言って男ばかりの職に就き、気が付けば騎士団で筋金入りの堅物になってしまった。
20歳になろうという頃には、さすがに焦って公爵夫妻はあれこれと社交の場に引っ張て来たが、本人にそのつもりが無いため、無駄に社交界を騒がしているだけだった。幼馴染のセーヴルは以前から決められていた女性騎士と昨年結婚したというのに。
この朴念仁と母はこっそり思っていた。
「これもそれも、独身トリオの気安さに慣れてしまっているからよ!」
スタンフォード公爵夫人は、自分とよく似た顔立ちの息子に何度蹴りを入れようと思ったことか!?我が息子ながら常に冷静沈着な様が憎たらしかった。
「父上、母上、私はリリ・アンナ・グランデルク伯爵令嬢に結婚を申し込みます」
父は驚きワインを吹き出し、母は鴨肉を喉に詰まらせた。
「クラウス・グランデルクの妹君です。噂だけはお二人とも聞いたことがあるかと思いますが・・・」
「「妖精姫!?」」
「はい。その通りです。リリ嬢は4日後に17歳になります」
両親が反対する訳は無いと思っていた。クラウス・グランデルクのことは父もよく知っていたし、次代の国王の側近として堅実に努めている。そして次代の宰相になるのは彼しかいないと父は言っていた、縁続きになるのに何の不満もないはずだ。
そして、母。王妃主催のお茶会で何度かリリと会っていた。会う度に美しくなるリリの姿と愛らしく儚げな様子が彼女の庇護欲を誘い、(あんな娘が欲しかった~!!!!)と何度聞いたことか。陛下と王妃、王太子の覚えも良い。 ≪妖精姫≫ は夫妻の喜びを最高に盛り上げた。
「ということで、明日グランデルク伯爵家に結婚の申し込みに行って参ります。お許しいただけますね?」
スタンフォード公爵夫妻は堅物の朴念仁息子の結婚話に涙ぐんで頷いた。
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王宮内、王家専用のサロン。
晩餐の後に寛いでいる国王と王妃。そこに、王太子であるアレッドが凝った切子細工の酒瓶を携えて入ってきた。
「両陛下、お寛ぎのところ失礼します。実は珍しい果実酒が手に入ったのでご一緒に如何ですか?」
「おお。アレッド。頂こうではないか。ここに座るがよい」
侍従のレブランドが、グラスと幾つかの酒肴が乗ったワゴンを押してきた。
久しぶりの家族団らんの風景である。美しい琥珀色の液体の中、細かな泡がシュワシュワと立ち上る。その様子を見ていた王妃が口を開いた。
「素敵な香りね。今度のお茶会にもこの果実酒はお出しできるかしら?チーズタルトと相性が良さそうだわ。そうよ、リリちゃんのお誕生日を祝うのだから乾杯も良いわね」
「父上、母上。実はそのリリ嬢の事でお話があるのですが」
「あら?何かしら?結婚の申し込みでもするのかしら?」
「はい。シリウスが」
「「貴方じゃないの!?」」
この後、二人からはシリウスに先を越されたとか、スタンフォード公爵家に ≪妖精姫≫ を奪われたとか抗議を受けたが、最終的にはシリウスの申し込みを承認した。なぜなら・・・
「パルマン辺境伯が王都を目指して領地を出ました。多分4日後にはこちらに着きます。そして、もしかしたらリリ嬢に接触する可能性があります」
「両陛下。リリ嬢を守るためにも、シリウスの純愛(?)をお認め下さい」
嘘は言っていない。とアレッドは思った。
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新作「異世界エステティシャンは、王室御用達!」も連載中です。
こちらは、ゆっくり更新します。




