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20. 妖精姫のお兄様は懇願する

誤字脱字、一部微修正をしました。

 誘拐事件から2年が経とうとしているが、一向に実行犯とされる ≪銀髪の青年≫ と ≪若いメイド姿の女≫ の情報は掴めなかった。

 関係あると思われていたパルマン辺境伯は、来ると言っていた舞踏会も結局すっぽかして領内に居たらしい。変り者の辺境伯は、相変わらず王家の行事や社交も無視しており、何をしているか分からないという。

 ただし、領地からの税金も生産物や名産品も滞ることはなく、領地はしっかりと治めらているので陛下も強く言い切れないらしい。

 陛下にとって辺境伯の評価は、≪だって、オーキッドって、面倒臭いじゃない?≫ ということで、変り者の相手をするつもりは無いらしい。そのため、もしもの時はアレッド王太子が対応することになる。


「だから、オーキッド・フォン・パルマン辺境伯が、領地から出て来ないほうが平和なんだ。私の為だけじゃない。皆の為にもだ」


 アレッドが鼻息荒く言い切った。暗に、彼が来たらお前達にも影響が出るぞ。と言っているのだ。顔を見合わせたクラウス、セーヴルは ≪この王にしてこの王子あり≫ と心の中で思った。






 そこに、侍従のレブランドに案内されシリウスが入ってきた。手には第三騎士団の印が押された書状を持っている。彼は表情を変えずに読むと、3人に向かって言った。


「殿下。ずっとパルマン領に籠っていたパルマン辺境伯が領地を出て、王都に向かっているようです」


「ええっ!?今になって!?」


 アレッドがゴッフと咳き込んだ。


「シリウス、詳しく教えろ!」


「領地に潜入させていた特務からの伝令です。パルマン辺境伯が乗ったと思われる馬車と、数騎の馬が領地を出て王都に向かう街道を進んでいるとのことです」


「来るなど聞いていないぞ!?何しに来るんだ?」


「殿下。落ち着いてください。シリウス、王都に向かっているのは確かなんだな?いつ頃着くか分かるか?」


「クラウス、地図を見せてくれ。辺境伯の一行は2日前に領地を出ています。伝令が着いたのが先程でしたから、何事も無ければ3日後の深夜には王都に到着します。今頃はこの辺りかと」


 シリウスは地図のある地点を指差して答えた。


「セーヴル。王都で彼が参加するような催し物や社交はあったか調べてくれ」


「了解しました~。1時間ほど頂ければ王都の社交界の情報をすべて持ってきますよ」


 そう言うと足取り軽く部屋を出て行った。彼はきっとミラノ侯爵夫人の所にいくはずだ。




「殿下、教えて下さい。オーキッド・フォン・パルマン辺境伯はどのような方なのですか?陛下も王妃様も貴方も≪変わり者≫、≪変人≫とおっしゃいますが、()()()()とはどういうことなのですか?」


 クラウスが王太子に詰め寄った。シリウスもじっと王太子を見つめている。2人の目は早く話せ!と圧が凄い。観念したようにアレッドが口を開いた。


「オーキッド・フォン・パルマン辺境伯は・・・・」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 王都に向かう街道を馬車はゆっくりと進む。




「二年ぶり。以前は風景を見ることも無かったけど、この辺りは本当に美しい・・・」


「ええ。樹々の緑が眩しいですね」




 馬車はゆっくりと進み、御者の濃い茶色の髪が揺れていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「とにかく、好みにうるさい。細かい。自分のことが大好きで、自分が好きな人間以外には興味が無い。更に気分屋で、頭も剣の腕も一流のくせに気が向かなければ、目を開けることもしない。そのくせ、屁理屈を言わせれば敵う者はいない!5年前に会ったときは!」


「・・・・殿下、随分やられたのですね・・・?」


「うるさいぞクラウス。そういう方だから会いたくないんだ。周りが振り回されて疲労困憊する」


「そうだったのですか、確かに会いたくないですね」


「会いたくないなんてもんじゃない。あの方は、相手の年齢に関わらず平等に仕掛けるんだ。だから質が悪い。子供なら軽くトラウマになるぞ」




 アレッドの昔話を聞き流していたクラウスとシリウスは、パルマン辺境伯が突然行動を起こした理由を考えていた。2年前の疑いが晴れたわけでは無い。限りなく黒に近いグレーと思っている。

 変人の辺境伯が、 ≪妖精姫≫ と言われる伯爵令嬢を欲しがっても無理はない。むしろ、辺境伯からの正式な結婚の申し入れならグランデルク伯爵家では断ることは無理だ。


 それなのに、ふざけた使者を送って伯爵を怒らせてみたり、誘拐まがいの、いや確かに誘拐したのだが、疑われるのを承知で飛び地の領地の屋敷を使ったりしている。それなのに実行犯達は姿を見せることもなく、挙句にリリの記憶すらも書き換えてしまった。




「また、リリに何かするつもりなのか?、まさか正式に結婚の申し込みか?」




 クラウスは、モノクルを外して目頭を押さえる。殿下の言葉が正しければ、相当にややこしい御仁のようだ。そんな奴がリリの夫になるということか?辺境伯の領地は遠い。偏愛されて、虐められるようでは叶わない!第一、そんな変人に大事な大事な妹をくれてやるわけにはいかない!




「ただいま~。情報収集してきましたよ!」


 セーヴルが踊るように部屋に入ってきた。部屋にいた3人は、≪この男の軽さが、今はイラっとする≫ と同時に思ったが、成果を確信している彼の顔に突っ込むのを止めた。


「幾つか引っかかったことがあったけど、多分これだと思うことが見つかったよ」


 アレッドが身を乗り出して聞いた。


「それはね・・・」




 セーヴルから聞いたクラウスの顔色が真っ青に変わった。

 そして、真剣な顔でシリウスに向かい合うと、頭を下げて言った。





「リリと結婚してくれ。シリウス・スタンフォード」




「「「はあぁ!?」」」3人が目を見張った。



 一瞬、言葉に詰まったが、シリウスがすぐに立ち直った。


「クラウス。お前は何を言っているんだ」


「セーヴルが言った4日後にある王妃様のお茶会に、リリもご招待頂いている。リリの誕生日なので誕生祝のお茶会をして頂くことになっている。社交界に出ないリリにとっては唯一の王宮行事なのだ。17歳になるのだ。17歳になれば婚約期間無しにすぐに結婚できる」

 

クラウスは続ける。


「王妃様のお茶会は、女性貴族しか呼ばれていない。それは王宮に出入りしている貴族ならば皆知っている。でも、パルマン辺境伯がそのことを知っていても、数年ぶりに王妃に会いたいと言えば通さない訳にはいかないだろう。もしそこで、リリに求婚されれば断ることは出来ない。高位の辺境伯からの求婚であれば伯爵家は断れない。父上も私もいない間に、()()()()()()()()()()が出来てしまう!」




「だ・か・らシリウス、その前にお前が求婚してやってくれ」


 クラウスは真剣な目でシリウスの肩をガシッと掴んでいる。




「そうか。辺境伯の求婚を断る理由なら、公爵家のシリウスが一番適任だ」


「殿下!他人事だと思って、随分なことをおっしゃる」


 さすがに突飛な提案に、驚きながらも冷静にシリウスは抗議する。


「でもさぁ、もし、パルマン辺境伯がリリ嬢目当てなら、その機会は逃さないよね。どこでそれを知ったかは分からないけど。それに、事情を知っていてパルマン辺境伯に太刀打ちできるのは、殿下かシリウスしかいないでしょう?さすがに殿下が求婚する訳にはいかなよね?後処理が大変そうだし。その点シリウスならば家柄も年齢も合うし、兄のクラウスとも親しい。そして何より、婚約者もいない朴念仁!。バッチリだ」


 セーヴルが言い終わると同時にシリウスをビシッと指差した。


「シリウス。頼む。どうかリリを悪魔の毒牙から救ってくれ!お前ならば、殿()()()()()()()()()()()()!」


「おい!どういう意味だ!(殿)」




 シリウスは、暫く考え込んでいた。当たり前だ。いくら自分に婚約者がいなくても、一時しのぎで求婚できるわけがない。リリの事は2年前に会っているし、少しばかりではあるが話したこともあり、利発な印象を持ったことは確かだ。好ましいとも思った。



 それに、跪いて女性に靴を履かせたのも彼女が初めてだった。普段ならそんなことは絶対しない。しかし、あの時は自然にそれが出来た。なぜだ?


 それにさすが、≪妖精姫≫ と称されるだけの事はあり本物の妖精のように大変可愛らしかった。17歳を目前にした今は、どんなに美しくなっているだろう。リリが引き籠ってしまったために会う機会が本当に無かったのだが、気にならなかったと言えば嘘になる。いや。会いたかったが、我慢していたのかもしれない。



 しかし、仮初の求婚では、余りにも不誠実だと思う。ほとぼりが冷めて解消するにしてもリリの心に傷を付けてしまうのではないか?17歳のリリの泣き顔を想像して、そう考えると胸がチリっと痛くなった。




「・・・・・」



「「「シリウス?」」」



「・・・・・」




 考え込んでいたシリウスが、決心したようにクラウスを見つめた。


「私は、リリ嬢に求婚する。但し、仮初の求婚ではなく自分の意志で()()()()()を申し込む」


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