18. 妖精姫の情報は操作される
誤字脱字、一部微修正を致しました。
王宮の回廊を抜けた東側のにある ≪王妃の庭≫ は、ステーシア王妃様のお好きだという薔薇園になっていました。眼の眩むような鮮やかな庭園には、蔓薔薇で囲まれた瀟洒な東屋がありました。私とお母様はレチル様に導かれて美しい薔薇の通路を進みます。色んな種類の薔薇が赤のグラデーションを作っていて何て美しいのでしょう。それに良い香りが辺り一面に満ちいて、まるで楽園のようです。
「王妃様、グランデルク伯爵家の奥様とお嬢様をお連れ致しました」
レチル様が、王妃様に礼を取って私達をご紹介して下さいました。
沢山の白いレースのクッションを置いたソファに、王妃様はゆったりと腰かけていらっしゃいました。
ペールグリーンのドレスがとてもよくお似合いで、高貴な薔薇のような佇まいです。
「グランデルク伯爵夫人、リリ嬢、急なお誘いにも関わらずよくいらしてくれました」
王妃様が優しいお声で話しかけて下さいました。
「王妃様には、ご機嫌麗しく何よりでございます。本日はお招き頂きまして誠にありがとうございます。娘の為にお心遣いを頂きましたこと、家族一同感謝申し上げます」
お母様がカーテシーをしてお礼を申し上げる横で、私も同じように腰を折ります。
「ふふふ。良いのですよ。もう二人とも顔を上げてちょうだいな。マデリンも堅苦しいのはもう止めましょう」
王妃様は、お母様の名前を呼ぶと砕けた感じで話始めました。
「ほほほ。それでは遠慮なく。ステーシア、ごきげんよう。本当に久しぶりだわ」
お母様も王妃様の口調に合わせます。お二人は同い年なので、昔からとても仲が良かったらしいのです。
「今日は特別よ。だってようやくリリちゃんが元気になったんですもの。お身体の調子はいかが?もう、何ともない?」
緊張している私に、優しくお声を掛けて下さいました。私はデビュタントを途中退場してしまったことをお詫びしました。王妃様が、体調不良になってしまった私をとても心配して下さったことを知りました。そして、ゆっくり話もできず、一度しかないデビュタントを楽しむことも叶わなかったことを残念に思って下さり、今日このお茶会にご招待頂いたことを教えて頂きました。
「王妃様のお心遣いを大変感謝いたします。体調はもうすっかり良くなりました」
私は、クルリと一回転して体調の回復をアピールしました。
「まあ、本当に元気になったのね。良かったこと。さあ、立ち話も何ですからお掛けになって頂戴。リリちゃんは私のお隣よ」
「ずっと寝ていたのですって?体は痛くない?食欲は戻ったのかしら?どこか辛いところはない?」
そう言うと、王妃様は私の手を引いて隣に座らせました。お母様もニッコリ頷いていらっしゃいますから、恐れ多いことですがここは王妃様に従いましょう。
「もうすかっり大丈夫です。2日間も寝ていたので体調はすっかり元通りですわ。食欲もありますし、辛いところもどこもありません」
「そう。それは良かったわ。陛下も ≪妖精姫≫ の心配されていましたから安心するでしょう」
王妃様は、私の頬に手を添えるとじっと私の目を見つめて微笑まれました。
美しい薔薇園の東屋で、王妃主催のお茶会はゆったりとした雰囲気で始まりました。私達親子の他に、王妃の娘で今はハープ公爵家に嫁がれたアルテシア様、ミラノ侯爵夫人と娘のカレン様がお茶会メンバーです。王妃様は、私達とは時間差で他の皆様をご招待したようです。
ハープ公爵家のアルテシア様は、王妃様の娘でアレッド王太子様のお姉様です。ご結婚の前からその美貌は王宮の至宝とか、社交界の薔薇とかずーっと言われている方です。我が国の社交界では王妃様に次ぐ影響力を持ってる方です。
そして、ミラノ侯爵夫人は社交界の情報通であり、娘のカレン様は、つい先日留学からお帰りになったばかりの才媛のお嬢様です。皆様すぐに打ち解けたようですが、私にはどなたも始めて会う方ばかりでしたので、王妃様のお計らいで自己紹介をさせて頂きます。
「初めまして、皆様。リリ・アンナ・グランデルクと申します。先日社交界にデビュー致しました。今日は母と一緒に参加させて頂きました。これからどうぞよろしくお願い致します」
皆様は笑顔でこちらこそ。とおっしゃると早速お喋りタイムに突入しました。
「本当に可愛いわね。≪妖精姫≫ と陛下が例えたと聞きましたけど、久しぶりのグッジョブ!て感じですわね?ねっ、お母様?」
「貴方、お父様に何て言い方・・・でも、そうなのよリリちゃんにピッタリでしょう?」
「残念だったわねぇ。デビュタントを体調不良で早引きしてしまったのでしょう?あら、そうするとアレッドとも踊れていないのね?アイツにはちょっとざまあ。ていう感じね。あはは」
アルテシア様は、可笑しそうに笑いました。随分と思っていたのと印象が違う感じがしますが?
「でも、王族への挨拶が出来ているのだから気にすることは無くてよ。ダンスなんてこれから嫌というほど出来るし、デビュタントでのダンスは顔を売ることと印象付けが目的だから。その点、リリちゃんは参加しただけでクリアしているもの」
「そうですわよ」 と、ミラノ侯爵夫人がアルテシア様の後を引き継ぎました。
元々、随分前からグランデルク伯爵家の娘の事は噂にはなっていましたが、初めて公に姿を現すということでかなり期待されていたそうです。(恥ずかしい!)
そして、ホールに入ってきたのが王太子側近の兄にエスコートされた娘で、陛下に ≪妖精姫≫ と称された少女でした。よく似た兄妹は誰もが見とれる美しさ(キャーッ)で、ダンスの申し込みも一番人気でした。しかし、兄と兄の同僚の青年貴族に阻まれて申し込みが出来ない膠着状態になっていたと。
「でも、すぐにリリ様はホールから退席されてしまわれたので、何かあったのではと思っていましたの」
ミラノ侯爵夫人は、一気にそこまで話すと紅茶をクイっと飲みました。
「緊張してデビュタントに参加したお嬢様の中には、慣れないコルセットと雰囲気に気分を悪くすることがままありますわ。そう言う私も今から遡ることン十年前に倒れた一人でございますわ」
「その時に、抱き留めて下さったのが、ミラノ侯爵様でしたわねー!!!」
「「「「きゃあっ~!」」」」
王妃様、アルテシア様、お母様、ミラノ侯爵夫人が乙女のように悶えました。母達の女子トークに若干引きそうになりましたわ。
「コッホン。失礼しましたわ。それでリリ様はすぐにお帰りになったのね? グランデルク伯爵家の皆様が血相を変えていらしたので心配しておりましたの。余程具合が悪かったのね」
「その時の状況なら、レチルが存じているのではなくて?」
王妃様が、後ろに控えていたレチル様に尋ねました。
レチル様は、セーヴル様の婚約者でいらしたのですね!?初めて知りました。
「ええ。リリ様は控室に行こうとしたところ迷われたようでして、そのため探すのに手間取ってしまい、見つけた時には柱の陰で気を失っていました。それで、すぐにグランデルク伯爵家の皆様にお知らせして大事をとってお帰りになったのです」
「まあ。そうでしたの。でも大事無くて良かったわ」
「娘がご心配をおかけして、申し訳ございませんでしたわ。でもすっかり良くなってホッとしていますの」
お母様が、改めて皆様にお礼を言いました。
そして情報通のミラノ侯爵夫人から、妖精姫がいなくなったと残念がる殿方が多かったことや、クラウスお兄様目当てのお嬢様が落胆していたこと、アレッド王太子様も途中退場してしまったことから、なにやら勘繰る貴族もいたこと等を教えて貰いました。
たかが、体調不良で舞踏会を早引きしただけなのに、色々なことが起きますのね。王太子様にまで影響することになろうとは申し訳ないです。・・・・社交界怖っ!
「そういえば、あの夜は王宮周りと城下が騒がしかったですね。馬車や騎馬が走り回っていましたから」
それまで、ニコニコして話を聞いていたカレン様がレチル様の方を見て言いました。
「カレン様は、ご覧になったのですか?」
「ええ。私、留学先から帰って来たばかりで屋敷の離れで荷物整理をしておりましたの。随分と騒がしい夜でしたわ」
「そうでしたか。あの日は大事な書状が届くことになっておりましたので・・・ああ、これ以上はお許しください。秘密事項ですので」
レチル様は済まなそうに眉を下げました。
「ああ、それでアレッドとクラウス、セーヴルも執務室に籠ってしまったのね。ご苦労様でしたわね」
王妃様は静かにカップを置いて満面の笑みを浮かべて言いました。
「とにかく、リリちゃんが元気になって良かったわ。リリちゃん、これからはこちらの皆様に仲良くして頂きなさいな。皆様、私からもお願いしますわ」
社交界のトップリーダーと社交界一の情報通、そして留学帰りで今シーズンの社交にフル出場になる令嬢に、誰もが興味を持って知りたがっていたリリの情報を与えた。 王族に、特に王妃に気に入られたリリの情報は、明日にも広がるだろう。
(誘拐についてはごまかせても、別の事でこれから色々と大変かもしれないわ。頑張ってね!)
王妃は一瞬真剣な目でリリを見つめたのでした。
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