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16. 妖精姫はハイスペック男子に守られる

誤字脱字、一部微修正しました。

 セーヴルは、紅茶を淹れ直しアレッドの前にカップを置くと、クラウスとシリウスに向き直って言い切った。


「華やかで賑やかなデビュタントの陰で、私達は王宮内を探しまくっていたろう?いくら隠密に行っていたとは言え、何かが起きてているのに気付いた者はいると思うよ。目敏い人間はどこにでもいるから。まして、グランデルク伯爵家のお嬢様に関係しているのなら尚更だね」


 確かに、あの時はリリが突然いなくなったこともあり、普段は冷静なクラウスも相当に慌てていた。



「リリの醜聞(スキャンダル)が目的なのか・・・?」




 王国で古くからある伯爵家の一つとして国の要職に就き、王太子の側近を務める兄を輩出しているグランデルク伯爵家。かつては、王族の姫も降嫁したこともあった由緒正しい血統だ。その伯爵家で、大切に大切に育てられた娘は国王陛下より ≪妖精姫≫ と比喩される程の美貌の持ち主だ。有力な貴族や望まれれば王家に嫁ぐ事も可能である。


 小さな頃から、リリの容姿は噂になっていたが、伯爵とこの兄が鉄壁の守りを以って世間に出さなかった。なぜなら、リリに美貌は揉め事の一因になりそうなくらいの危なさがあったからだ。

 しかし、いつまでも社交界に出さない訳にもいかないため、正式にデビュタントでお披露目したのだった。互いに牽制しあえば多少は抑制力になると考えたからだ。



「リリ嬢の登場で、思惑の違った人物たちが姑息に動いたのかもしれないね。ほら、もしかしたら王太子殿下の婚約者になるかも?とかね」


「リリの醜聞(スキャンダル)を流すことで、王太子の婚約者選びから外させるということか。全く的外れなことだ。殿下にリリをやるわけなど無かろう」


「おい。クラウス。どういう意味だ!」


「そのままの意味です。(無視)しかし、リリが王宮から誘拐されたとなれば醜聞(スキャンダル)でしかないが、それを言えば王宮の正式な舞踏会で誘拐事件を起こすなど、王国の面子も失墜してしまいます。考えようによっては、反逆罪です」




 本当に醜聞(スキャンダル)が誘拐の目的なのだろうか?

 社交界にリリの存在を広める日に醜聞(スキャンダル)を仕掛けたということか?だとしたら、何のために?あんなに派手に大掛かりに誘拐したのに、上等のドレスと靴を与えあっさりと無傷で返した。


 たかが15歳の少女の醜聞(スキャンダル)で得をする人間などそうそう居ないし限られている。クラウスは少し考えてから3人に言った。


「殿下、シリウス、セーヴル。ここはリリの記憶通りにして下さい」


 リリはデビュタントの途中で体調不良を起こし、屋敷に帰って寝込んでいた。気分が悪くなって化粧室に向かったが、初めて来た王宮で迷ってしまった。遂にはホールに行きつくことが出来ずに柱の陰で倒れたが、そこを探していたクラウス、セーヴル、レチルに発見されて、両親と共に屋敷に大事を取って早々に帰った。

 因みに、アレッド、クラウス、セーヴル、レチルは隣国から伝令を持って帰ってくるはずのシリウスを待つため別室にいた。と。


「あまり、細かくしてもボロが出ますから、私達はリリを見つけた後は別行動していたことにします。パルマン辺境伯の屋敷は国境方面ですから、シリウスの隣国からの返事を受けて動いていたことにしましょう」


「とにかく、本当のことが知れたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()楽観的に考えてはくれないでしょう。それこそ相手の思う壺のような感じですから」


「リリ嬢の名誉のためにもそうしよう。念のため、明日にでもグランデルク伯爵夫人とリリ嬢を母上に会いに来させろ。王妃のお茶会に誘われたことにしておけばいい。そこで何事も無く、体調は回復したことを印象付けろ」


「殿下。お気遣い頂きありがとうございます」


 アレッドは、シリウスにレチルを王妃の警備に当たらせるよう指示を出し、侍従のレブランドを呼ぶと母である王妃にお茶会の依頼をした。察しの良い王妃ならば、リリの醜聞(スキャンダル)を消し飛ばせる会を開催できるだろう。急な茶会であっても王妃の誘いを断るご婦人もご令嬢もいない。

 噂を最小限で収束させるためには迅速に動く必要がある。


「リリ嬢のことは、母上にお任せしよう。しかし不可解な事件だ」


 冷えてしまった紅茶を飲み干して、アレッドが呟いた。




 やはり、リリ嬢の醜聞(スキャンダル)を起こすことがこの誘拐事件の目的だったのか?起こして有力な婚姻を防ぐため?確かに全てが表に出れば、王太子やその他有力者の婚姻は無理になる。しかし、そうなのだろうか?それならば、パルマン辺境伯の屋敷が犯行に使われたのはなぜだ。利用したには、あからさま過ぎるではないか。シリウスは腑に落ちないものを感じてクラウスに聞いた。


「クラウス、そう言えば、リリ嬢を妾に欲しいと持ち掛けた人物について判ったのか?」


 クラウスが伯爵から聞いたのは、リリの噂を聞いて結婚(?)を願い出てきた貴族がいたことだった。しかし、使いに来た男が失礼極まりない男だったそうだ。背が高く細身の男で、濃茶の長い髪が似合う俳優のような優男だった。そして、彼のその人を食ったような話し方にグランデルク伯爵がキレたのだった。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 半年前。




「グランデルク伯爵殿。貴方の娘、麗しいリリ・アンナ・グランデルク嬢を我が主が欲しております。リリ嬢には社交界デビューなどせずに我が主の元に来て頂きたい。と言っておりまして」


「主というのはどういったお方か?それを聞かんことには返事は出来ないではないか」


「そうですよねぇ。でも言えないんですよ。ただ、社交界にデビューして変な虫が着くのを物凄く嫌っておりましてね。だって、すっごく可愛いんでしょう?」


「失礼な言い方だ!名も名乗らぬ相手に娘は嫁になどやれん!」


「別に、()()()()()()()()()んですがね。手に入れる方法は他にもあるから」


「なに!?貴様、リリを妾にでもしようというのか!?この無礼者めが!」


「怒らせるつもりは無かったんですけど。ただ、面と向かって話をしたら伯爵様、()()()()()()()()()


 男はソファにゆったりと座り、まるで伯爵のイラプリの様を楽しんでいるようだった。普段なら絶対部屋には通しはしない。絶対話を聞くはずがない。早々に屋敷から叩き出している輩だった。なぜ、目の前にいるのか自分でも理解しきれないが、この男の人懐っこい表情のせいか?と思う。


「名も名乗れない主に伝えろ!リリはお前にはやらん!さっさと帰るがいい」


「とにかく、俺はアンタに言ったから。社交界なんてモンには染めないで欲しいってさ。それが主の願いだから。そこは忘れないほうが良いよ」


 そういうと彼はスタスタと部屋を出て行こうと歩き始めた。

 結局何だったのか?嫁?妾?どちらにしてもリリをやるつもりは無い。まず名を名乗れというのだ!と口を真一文字に結んで腕を組んで睨んでいると

 部屋の扉が閉まる前に、クルッと彼が振り向いて言った。


「ああそうだ、俺の名前はカーン。じゃあね。伯爵」




「!?、ふ・ざ・け・る・な!!」思わず机の上の本を投げつけた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「「「・・・・・・」」」


「妾うんぬんの話は、今お話しした通りです」


 クラウスが父の伯爵から聞いた通りに伝えた。


「結局、名前も聞いていないということか。使者の名前がカーンというのか。名前か苗字かも判らんな。しかし、それがパルマン辺境伯の使者かどうかは判らないな」


「アレッド殿下、パルマン辺境伯とはどのような御仁なのですか?勇敢で文武両道であるが、()()()()()な方であると伺っております。そして何より社交界を嫌ってご自分の領地からほとんど出て来られないとか」


「まあ、大体はそんなところだな。実は先々代のパルマン辺境伯に王家の姫が降嫁している。だから王家にとっては近しい間柄ではあるが、如何せん社交嫌いは筋金入りで呼び出しにも引き籠って出て来ない。それに頑固というのは・・・シリウス、お前随分気を使ったな?」


「いえ。そんなことは無いですが」


「はっきり言うと、変わり者。変人。確かに、辺境伯の名に恥じることなく一流の武人ではあるがな。ここ最近、3年は全く会っていないな。会えば面倒なことになるのは判っているし」


 アレッドは更に、とにかく辺境伯としてやるべきことは完璧にしているから、陛下も好きにさせているらしいと続けた。どういう変わり者で、どう変人なのだろうか?シリウス達がパルマン辺境伯を見たのは、学園に入学した時に生徒会役員(ポップ)であった彼を見た時が初めてだった。王家の血が入った彼の髪は黒く、自分達から見ると大層大人な感じがした。そう言えば、アレッドに少し雰囲気が似ている感じだったと思い出した。


「でもさ、僕らが現パルマン辺境伯に会ったのは10年近くも前のことだし。少なくともあの時は、変人的要素は感じられなかったけどね。高位貴族の見本のような方だった」


 懐かしそうに目を細めてセーヴルが独り言のように呟いた。


「そのような方が、自分の屋敷を犯罪に使われることに気が付かないなどありましょうか?」


 シリウスがアレッドをジッと見据えて聞く。真っ青の濃いブルーの瞳が射貫くように見ている。アレッドは肩を竦めて息を吐いた。


「気が付かない訳は無いな。屋敷がパルマン辺境伯家の物ということは直ぐに判明する」


「それではやはり、パルマン辺境伯がこの誘拐事件を起こしたと?」


 クラウスが声を落としてアレッドに問う。さすがに相手が相手なだけに慎重にならざるを得ない。


「無関係な訳は無い。しかし、今は奴に構うのは止める。リリ嬢の記憶が無い以上、もっと証拠を集めないと話ができん」


クラウスは頷くと二人に向かって言った。


「それでは、私とセーヴルはパルマン辺境伯の領内の動きを見張ろう。シリウスは飛び地の屋敷と逃げた者達を探してくれ」




「シリウス。お前が見た銀髪の男がカギを握っているかもしれない。よろしく頼む」


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