13. 妖精姫はゆっくりと眠れない
誤字脱字、一部微修正しました。
お家に帰って来たのに、まだ油断はできません。
シリウス様は、馬車からずっと私を姫抱きしながら、長いコンパスでお部屋まで運んで下さいました。さすが、日々鍛えている方は違いますね。多分クラウスお兄様では、ここまで来るのに3回は休んでいそうです。
「ありがとうございます。こちらで結構ですわ」
シリウス様を見上げてお気に入りのチェアーに降ろして頂けるようお願いしました。
うん?シリウス様とバッチリ目が合いました。そして、彼の耳がポッと赤くなったのを見つけてしまいました。おや~ん。もしや角度良し!距離良し!でしたでしょうか?
「リリ嬢。貴方は、クラウスと本当によく似ていますね。目元などそっくりだ」
シリウス様はちょっと視線を外して、私を静かにチェアーに降ろしてくれました。確かによく似ていると言われている兄妹ですが、なぜ、赤くなって目を逸らすのですか?
「はい。髪色や瞳は色違いですが、顔立ちはよく似てると言われています。小さな頃は瓜二つだったと」
「そうですね。私はクラウスと8歳頃からの付き合いですが、あの頃の彼も貴方のようでした」
そう言って、シリウス様は思い出す様に遠い目をされました。何だか、切ない?表情ですが・・・
と、そこに両親とお兄様がお部屋に入ってきました。
「シリウス様、本当にありがとうございました。無事に娘が戻って参りましたこと、感謝いたします」
お父様がシリウス様に握手を求めながら言いました。そしてお兄様も。
「シリウス、世話になった」
「伯爵、クラウス。今夜は警備の者を配置したほうがいい。万が一のことがあるかもしれない。」
「おお。そうですな。リリの部屋の前に配備しましょう。24時間体制で守るようにします」
「父上、屋敷の周囲は第二騎士団に警備依頼をも出しましょう。とにかく万全の対策をしてリリを守りましょう」
「クラウス、リリ嬢への聞き取りは明日午後に行う。私がこちらに伺うようにしよう。王宮ではリリ嬢も動揺するかもしれないから」
「そうしてくれ。ここなら安心できるし、リリも落ち着けると思う」
「それでは皆様、失礼致します。リリ嬢、また明日お会いしましょう」
「はい。よろしくお願いします」
お見送りは頑なにご辞退されたので、シリウス様と私はここでサヨナラです。お兄様が玄関までお送りするとのことなのでお任せします。
あら、お兄様、モノクルを外しましたのね。さすがに目が疲れたようです。
「クラウス。お前の目はリリ嬢にそっくりだな」
「違う。リリの目が私に似ているんだ。逆だ」
「そうか」
「そうだ」
そんなことを言い合いながら仲良さそうに、お二人は部屋から出ていかれました。
つ・か・れ・ま・し・た・・・・
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は自室の浴室でゆったりと疲れを癒し、軽く軽食を取りました。
それから、昨日からの一連の出来事を忘れ無いように、紙に書いておくことにしました。お兄様は心配して早く寝ろと言いますが、記憶は薄れてしまうものです。今できることは、今やっておきましょう。できる限り思い出して、細かく書き込んでいきます。
「書けた!」
少し時間は掛かりましたが、細かく書けたと思います。特にルイ様、カーン様、侍女さん達のこと。顔立ちや立ち振る舞いに感じたことなど。
「そうしたら、これは念のためしまっておきましょう」
私は、紙を畳むと熊の縫いぐるみ ≪マートン≫ の背中に押し込みました。この ≪マートン≫ の背中の隙間は特別に大切な物を入れておく場所なのです。そして、ベッド傍にあるサイドテーブルにそっと置きました。
(さすがに、眠くなってきました・・・)
もぞもぞとベッドに潜り込むと、たちまち眠気が襲ってきました。帰り道であんなに寝たのに、薬の影響がまだあったのでしょうか?そんなことをうつらうつら考えながら、やがて眠りに落ちていきました。
クラウスが伯爵の執務室の扉を開けてそっと入ってきた。
「父上、やっとリリは寝たようです」
「そうか。怖い思いをしたはずだ。眠れるだろうか?心配であるが・・・」
「母上が一緒に寝るという申し出を断っていましたから大丈夫でしょう。それよりも父上、聞きたいことがあります」
「今回のことに関係するかもしれないことだからな。あの貴族のことだな?」
「ええ。リリを妾に欲しいと言ってきた高位貴族とやらのことです」
リリの部屋の前には伯爵邸の従者が2名、見張りのために立っていた。
もう夜も深くなっているため、伯爵邸は静けさに包まれている。明かりが灯っているのは、リリの部屋がある2階の廊下と、伯爵の執務室、召使いが控えている部屋だけだ。
明るい廊下の向こうからメイドが1人歩いてきた。
「冷たい水でございます」
メイドが水滴の付いた水差しを持て部屋の前に来た。
「お嬢様が?もう寝てると思うが?」
「ええ。今夜はいつでも冷たい水が飲めるようにと。ベッドサイドに置いて欲しいとおっしゃいましたので、交換に参りました」
「そうか。それでは入ってくれ。扉は開けたままで、交換したらすぐに出てくれ」
「はい。あっ。きゃあっ!」
従者が扉を開けようとした瞬間、メイドの手から水差しを載せたトレーが滑り落ち、ガラスの割れる音と水が跳ねる音がした。従者とメイドは慌てて顔を見合し、(シーッ!!)とお互いを牽制した。
(申し訳ありません!掃除道具を持って参ります!ガラスの破片は触らないようにして下さいね!)
(わかった。直ぐに片づけてくれ)
メイドは、慌ててエプロンを翻し掃除用具を取りに走って行った。従者はため息を吐いて、飛び散るガラスの破片と水浸しになった廊下を見た。
2人の従者は顔お見合わせ、呆れたように呟いた。
「まったく。伯爵家のメイドにしては随分そそっかしいな。新入りか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リリの部屋の扉の外で、ガラスの割れる音と水が飛び散る音がした時、ベランダからそっと部屋に入り込む人影があった。熟睡したリリは目を覚ますことなく、ぐっすりと眠っているようだ。
「リリ嬢」
「・・・・・・」
「眠っているの・・・・?」
その人影は、静かにリリの枕元に佇むと小さな声で優しくゆっくり話しかける。
そして、頬を柔らかく撫でるとさも愛おしいと言わんばかりに声を掛けた。
「リリ。リリ。リリ。ねえ、夢の中で目を覚まして。私の声が聞こえる?」
「・・・うぅぅ・・・ん・・・」
「リリ。君は昨日のことをすべて忘れて」
「君はデビュタントの途中で気分が悪くなって途中で帰ったんだ。それからずっとこの部屋で寝ていたんだ。攫われて過ごした屋敷のことも、助けられたことも、全部忘れていいんだよ」
「いいかい。君はずっとこの屋敷にいたんだ。わかったね」
「・・・ええ・・・」
「さあ。リリ。全部忘れて、明日の朝気分よく目覚めておくれ」
「じゃあね。リリ、また会いましょう」
そう言うと、人影はリリの額に口づけを落とした。
「2つ目の役得だね」
「あの騎士のようにベランダから参上したよ。彼らは明日気付くかな?」
リリの眠るベッドに視線を向け楽しそうに微笑むと、ベランダへの扉は開けたまま来た時と同じようにそっと去って行った。
リリは、寝返りを打つと布団の中に潜り込んだ。
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新しく「異世界エステティシャンは、王室御用達!」も始めました。
こちらはゆっくり進めますので、是非ご覧いただければと思います。




