12. 妖精姫は宮廷近衛騎士とお家に帰る
誤字脱字、一部微修正致しました。
本筋には影響ありません。
クラウスお兄様とシリウス様の絵姿の様なキラキラしいお姿に我を失っていました。いけませんでした。つい私としたことが。
ソファに座ったままお二人を見ながらドギマギしていた私に、シリウス様はいきなり跪きました。
「リリ嬢。とにかく、ご無事で良かった」
そう言って、私の手を取って涼やかに微笑まれました。
「シリウス様。本当にありがとうございました。お陰様で無事に家族と再会できました」
あらためて近い距離で見るシリウス様は、緩やかに波打つ長い金髪に、見る者を見透かす様な深いブルーの瞳です。お美しい!。さすが、宮廷近衛騎士ですわ。ふっとそんなことを思いいながら彼の眼を見るとジッと見られていることに気が付きました。
(見られていました!!)
焦った私は、多分真っ赤になったと思います。変な汗がぶわっと吹き出しました、
「リリ嬢は、やはりお疲れのようです。私が馬車までお連れしましょう」
「しかし、その前に・・・、これを」
そう言うと、素足の私の前にデビュタント用のあの白絹の靴を差し出してくれました。
「持ってきて下さったのですね。ありがとうございます」
「貴方の機転によって、誘拐されたことが分かりました。よく考えました」
「あの時は、必死だったのですわ。誰かに気づいて貰いたくて。でも、見つけて頂いて良かったです」
シリウス様は頷くと、私の足元に靴を差し出しました。
「リリ嬢。失礼でなければ、お履きになるのを手伝いましょう」
「えっ」
靴を履かせて下さるというのですか? アワアワしていると一部始終をにんまりした笑顔で見ていたお母様が言いました。
「リリ、シリウス様がそうおっしゃって下さるのですから、お願いなさいませ」
「それなら、私が」
「クラウス!!貴方は邪魔しないで!!」
お母様の一喝でお兄様が手を引っ込めました。お兄様を睨むお母様の目が怖いです。ここは大人しくお母様に従いましょう。
「シリウス様、お手数をお掛けいたします。お願いしますわ」
シリウス様のような極上騎士様に靴を履かせて貰った私は、何だか急に大人になった気持ちがしました。
靴を履かせて貰うと彼はすくっと立ち上がり、ついでに私を軽々と抱き上げました。
「えっ!あのっ! な、何を、!」
「ご遠慮なさらず。さあ、馬車に向かいましょう。これ以上の長居は無用です」
有無を言わさず、私を姫抱きにすると、そのままスタスタと廊下を歩いて行きます。後から、両親とお兄様、そしてアレッド王太子様がセーヴル様やレチル様、その他騎士様達に囲まれて続きます。
「あの、ここはどなたのお屋敷ですか?」
シリウス様の息遣いが聞こえる位の至近距離です。私は声を潜めて問いました。
「貴方には知る権利がありますね。ここはパルマン辺境伯の屋敷です。飛び地にある領地なので、王宮からはそんなには離れていません」
「そうですか・・・。私を攫ったのはパルマン辺境伯なのですね?」
「それはまだ。関係はあるでしょうが。そうだという確証も、住人も人っ子一人見つけられていません」
「ええ? 侍女さんたちは?それにルイとカーンと呼ばれていた方もいました。≪あの方≫ と呼ばれた首謀者もいたはずですけど」
「貴方の悲鳴が上がったと当時に私たちは屋敷の中に踏み込みました。しかし誰にも会うことはなく、誰も見つけられなかった。貴方以外は」
「そんな・・・」
信じられません。銀髪イケメンのルイ様、仮面のカーン様、侍女リーダーさんに侍女さんs。少なくとも私は7人の人達に会っています。結局首謀者と思われる ≪あの方≫とやらには会っていませんが。この人数が短い時間にあっという間に消えてしまうなんて、どういうことなんでしょうか。
「裏を守っていた警備団の兵士たちが倒れていました。薬か何かで眠らせて脱出したようです」
「薬ですか・・・」
「お心当たりが?」
「はい。私が王宮で攫われた時に嗅がされた眠り薬が強烈でした。瞬殺いえ、瞬眠でしたもの。それに飲み薬も使っていましたけど、それは嗅ぎ薬とは別の物でした。そんなに幾つも薬を持っているなんて、薬に詳しい人がいるのかもしれませんね」
「そうですか。詳しいことはまた伺うことになりますが、今はゆっくりお休みください」
シリウス様は王宮の馬車にそっと乗せて下さると、両親と共に乗り込んだクラウスお兄様に向かってにっこり笑って言いました。
「クラウス。妹君は思った以上に良く見ていらっしゃる」
「勿論だ。誰の妹だと思っている。私の妹だぞ」
「そうだったな。それではリリ嬢、グランデルク伯爵ご夫妻、失礼いたします」
シリウス様はそう言って、パタンと馬車の扉を閉めました。
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救出隊は帰還する。
王宮に向かう馬車の1台にはアレッド王太子、馬から乗り換えたシリウス、セーヴル、レチルが乗り込んでいる。もう1台にはグランデルク伯爵の家族、そして残りの1台には、気絶したように眠っている警備団の兵士達が押し込められている。
アレッド王太子は天井を見ながらじっと考えている。隣に座っているレチルは目を閉じて微動だにしない。しかしその手の先にはドレスに隠されたレイピアがある。さすが、近衛騎士の中で数少ない女性騎士だ。ちなみにセーヴルは不眠がたったのか馬車に合わせて船を漕いでいる。幸せな男だ。
アレッド王太子の向かいに座るシリウスは、先ほどリリに聞いた情報を伝えることにした。
「殿下、リリ嬢は7人の住人に接触しています。侍女4人と侍女リーダー、ルイとカーンと呼ばれていた青年2人です。そして会ってはいませんが、8人目の ≪あの方≫ と呼ばれていた首謀者と思われる者がいたと」
「手練れの者がいるね。動きが素早いし、これといった証拠は残っていない。奴らが残したものは・・・」
「リリ嬢の着ているドレスとこの靴だけです」
「しかし、王宮から誘拐するなんて派手な事しといて、随分あっさりリリ嬢を手放したな」
「そうですね。まるで連れ去ることがこそが目的のような感じです」
「とにかく、リリ嬢からは詳しい話を聞こう。シリウス頼んだぞ」
「御意」
「しかしこれ趣味悪いよねえ。物は良さそうだけど、この彫金 ≪百合に蛇≫ だよ。≪妖精姫≫ に誂える意匠ではないよね。レチルどう思う?」
さっきまで居眠りをしていたセーヴルが薄桃色の靴をレチルに見せて言った。じっと話を聞いていたレチルは目を開けると靴を見て眉根を寄せた。
「キモイです」
毅然とした声で言い放った。
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グランデルク伯爵邸。
ようやく我が家に帰った時には、すでに日もとっぷりと暮れていました。思った以上に体は疲れていたようで、馬車の中で私はお母様に凭れて眠っていました。お兄様に肩を揺すられ目を覚ましました。
「リリ、着いたよ」
(たった一日の事なのに、随分長い間のことのように感じます)
パタンと馬車の扉が開きました。
「リリ嬢。どうぞ、お部屋までお連れします」
また、シリウス様です。恐れ多いです。自分で歩けますから。
「そうですわね。リリ。そうして頂きなさい。シリウス様、娘をよろしくお願い致します」
お母様の満面の笑顔が見えます。逆らうなんて私には無理ですわ。どうしたんでしょう?クラウスお兄様が涙目で手を摩っています。手の甲が真っ赤になっています。・・・お母様・・・・何をされたのでしょう・・・
「何度も申し訳ございません。シリウス様もお疲れでしょうに」
「いいえ、貴方の様な妖精を運ぶのに力は不要ですから。お気になさらず」
隣に止まっているアレッド王太子様の馬車にご挨拶に伺います。窓から顔を出したアレッド様に感謝のご挨拶をします。
「本当にありがとうございました」
「無事で良かったよ。今日はゆっくり休んで、詳しいことは明日にしよう」
「はい。ありがとうございます。お休みなさいませ」
最後のご挨拶をして馬車を見送ります。
「それでは、お部屋に行きましょう」
シリウス様に姫抱きされた私は、お母様のニヤニヤ顔の前を通ってお部屋に向かいました。
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