始まりの日-4-
―ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン―
阪神電車がまた、俺たちの上を通り過ぎる。
ご機嫌に ”プフォッ”と汽笛を鳴らしている。いい気なものだ。
「誰からにするの?」
誰からにするの……?
ああ、与太話の続きか。そういえば何と俺は【10人の女と付き合わなければならない】のだった。
本当に無茶が過ぎる。過ぎるせいで、どうも現実味に欠ける。
そして、無性に腹が立つ。
決めた。目の前の女は、俺の敵だ。
俺がようやく手に入れた安寧な日々を壊そうとしている。
「敵じゃないよ。どちらかというと味方だよ、君の」
こいつ、心が読めるのか!?
"お前、心が読めるのか?"
「少しだけね。これ好きじゃないからあんまり使わないんだけど。。」
"……本当に迷惑な女だな"
「ひどい!そんな言い方しなくてもいいでしょ!」
"どうせ心を読まれるなら、言っても変わらないだろ?"
「うわ、デリカシーの無い男……先が思いやられるわね」
フランソワは、やれやれといった素振りを見せ、わざとらしい溜息をつく。
俺は思ってることを吐き出せたからか、多少、心持ちが軽くなれた。
考えてみれば、こうやって妹以外の誰かと話すのは久々だ。
だからといって、嬉しいとも思いはしないが。
フランソワは俺を指差した。
「渡した手帳、持ってるんでしょ?ちょっと出しなさい」
相変わらずの高圧的な態度で、彼女は言った。
段々と慣れてはきたものの、舌打ちをしたくなる気持ちはこみ上げる。
しかし、向こうは超常的な存在。あまり機嫌を損ねさせることには命のリスクを感じる。
俺は、素直に彼女の言葉に従い、肩に背負った学生鞄に手を付ける。
ジッパーを引っ張るとすぐ、視界に、今日貰った手帳の表紙が映った。
”ふらんそわ”
下手くそな字で書かれたこの平仮名の羅列は、今になれば目前の女の名前であることが分かる。
しかし、これは手帳と呼ぶには少し違和感がある。何故なら、ページは1枚しかない。
分厚い表紙を捲れば、白い紙が一枚くっついているだけ。
3歳児向けの絵本でも、もう少し読み応えがあるのは間違いない。
「さあさあ、誰からにするの?」
いつの間にか、俺の隣にフランソワが居た。
俺は驚きを隠せず、目を見開いた。
気味の悪い女である。
そう思うと、横腹を殴られた
"痛っ"
「ばっちり聞こえてるからね。次そんなことを考えたら、前倒しで死んでもらうから」
"なんだよ。頭の中くらい自由にさせてくれ"
「いいのよ、自由にしてくれて。ただ、私の悪口と”えっち”なことさえ考えなかったら」
"それのどこが自由なんだ"
俺はどうやら、ひどく不自由な人間にされてしまったようだ。




