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始まりの日-2-

 


 てっきり向こうからアクションを仕掛けてくると思ったが、そうではなかった。



 放課後を迎えてから、カップヌードルが美味しく食べられる時間はとうに過ぎている。



 俺は、帰り支度を済ませ、自分の席で男子高校生のオブジェと化して、黙って待っていたのは5分ほどだ。



 その間に、一つ事件があった。



 ガシャン



 不快で耳障りな音、とまでは言い過ぎなくらいに不快な音が俺の近くで鳴った。



 俺の机を誰かが蹴った。




「あんま調子に乗んなよ。根暗くん」




 クラスメイトの田島たじまが、そう真顔で言い残して、俺からスタスタと離れていった。



 俺は少しムッとしたが、それだけだ。



 高校に入ってから、こういうことに大分耐性が付いてきた。



 田島が去っていくと、周囲の人間はこちらを注目するのを、スイッチを入れ直した様に、辞めてくれた。



 俺は天使コスプレの女がいるはずの後方へ、余り、あからさまにならないように目線をやった。



 天使コスプレの女は、田代や深田と談笑している。



 田代が下品な笑い方で”マジウケるでしょ、それでね”と騒がしい話し役者で、天使コスプレと深田は相槌を打つ聞き手に徹していた。



 意識したことがなかったが、この風景は教室で何度も見た記憶がある。



 天使コスプレの女は、橘 美月の役を演じているのが、見てとれる。



 天使コスプレの女は、話に集中しているのか、俺に気を向ける様子はない。



 俺は目線を外すと、椅子の背もたれに寄りかかり足を行儀悪く広げ、伸ばした。




(帰りてぇけど、流石に帰るのはまずいよなぁ)




 異常事態が発生している。



 これで、俺が全く関与してなかったり、少しの関わりなら放っておいていい。



 が、今回はどうもそういう訳にはいかなそうだ。




(そうか、逆だな)




(俺が教室に残ってると、あの女はアクションを起こせないんだ。多分)




(教室では橘 美月の振りを続けなきゃいけねぇもんな。だから、人に見られそうにない場所に俺が移動すればいいって話だな)




(また、さっきみたいに時止めりゃいいのに……)




 俺は、勢いをつけて立ち上がり、そのまま教室の入口に足を進めた。



 さて、どこへ行こうかな。



 とりあえず、家路を目指すとするか。



 どうせ家には帰らなきゃいけないんだから、その方が、効率がいいだろう。




 ************************




「ぜえぜえ……君、すごいね。家に帰ろうとするなんて、正気?」




 もうすぐ家に着こうかという、家の近所のトンネル内で、天使コスプレの女から声をかけられた。




 ”おっ、ようやく来たか。遅かったな”




「遅かったな……じゃ、ないわよ。一体どういう神経してるのかしら?親の顔が見たいわね」




 ”残念ながら、両親はいねえから、もう会えないよ。遺影くらいなら、家で見せてやってもいいぞ”




「遠慮しとくわ……そういえば、そうだったわね。私も無神経だったわ。ごめんなさい」




 天使コスプレの女は意外にも、しおらしい態度を見せた。




 ”まあ、そんなことより、色々説明してくれよ。お前が誰で、なんで橘とすり替わって、そしてなんで俺に変な手帳を渡して、死刑宣告をしてきたのかをよ”




「質問が多いわね……それに死刑宣告なんてしてないわよ」




 ”それと全く同じ意味のことをお前は言ったんだよ”




 トンネルの上を阪神電車が通って、煩い音と、振動がトンネル内に溢れた。



 電車が通り過ぎて、天使コスプレの女は言った。




「じゃあ、仕方ないからもう少しだけ説明してあげるわね」




 高飛車な態度で、一体どれだけ甘やかされて育ってきたんだ、と俺は思った。






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