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序章ーふらんそわー



「とんでもないチャンスが貴方の元にやってきましたよ」



俺は高校1年生の秋、昼休みをいつも通り机に突っ伏して過ごしていたところ、誰かに声をかけられた。

俺が顔を上げると、目の前に天使がいた。

天使……コスプレ?

純白のワンピース、背中にこれまた純白の羽根を付けていた。

頭に3㎝上くらいに、黄色く光る輪っかが浮かんでいた。



―誰だよ、お前



俺はそう言ったところで異変に気付いた。

さっきまで煩かった教室は、物音一つしていない。

そして、誰一人その場を動いていなかった。



……時間が……止まっている……?



「この手帳を差し上げます」



天使コスプレの女が渡してきた手帳の表紙には”ふらんそわ”と大きく書かれている。

中のページはたったの一ページしかない。

そこにはこの学校の女生徒の名前が10人分書き連ねてあった。



「貴方には一か月で、10人の女生徒を口説き落として彼女をつくってもらいます」


―なぜ?


「何でも、です。出来なければ貴方には死んでもらいます」



そう言うと、天使コスプレの女は近くに居た女生徒の肩をポンポンと叩いた。

すると、驚いたことに肩を叩かれた女生徒はスゥと立ち消えてしまった。


確か、このクラスの生徒でたちばな 美月(みつき)と言う名前の女生徒だ。

容姿が美しく、このクラスではマドンナ的な存在の女の子だったと思う。



「では、こうなりたくなかったら頑張ってくださいね」



天使コスプレの女の声が徐々に遠くに感じる。

いつの間にか、教室には普段通りの喧噪が戻ってきていた。



(何だったんだ……今のは)



俺は周りを見渡して、さっき消えてしまったはずの橘を探した。

しかし、橘は教室には見当たらない。



(まさか、本当に消えてしまったのか?)



俺は背筋が凍りつく思いだった。

そうして、立ち竦んでいると、後ろから肩を叩かれた。



”うわぁ”



思わず大きな声を上げると、教室中の視線が俺に集まるのを感じた。

失態だ。目立つことだけは避けようと今まで生きてきたのに。

俺は後ろを振り返って、更なる大声を出しそうになるのを必死で抑えた。



――後ろにいたのは天使コスプレの女だったのだ。




”な、なんだよ。居たのかよ、脅かしやがって”




俺がそう言うと、教室は変な空気に包まれた。




(そりゃ、そうだろ。いきなりこんなコスプレ女が教室にいたら、皆驚く)



当然だ、部外者な上に、天使のコスプレだ。不審者以外の何物でもない。

その変な空気の中で、一番に言葉を発したのは、田代たしろ美奈子みなこという女生徒だ。



「ちょっと滝沢たきざわ!何その言い方。美月は肩を優しく叩いただけでしょ!」



田代は怒った顔で俺を怒鳴りつける。



「いいのよ、美奈子……私が急に肩を叩いたのが悪いんだし」



天使コスプレの女は、そう言うと、申し訳なさそうに田代の肩に手を置いた。




(なんだ、田代と知り合いなのか?)




俺がそう思っていると、田代は天使コスプレの女にとんでもないことを言った。




「まあ、美月がそう言うならいいけどさ……」




美月……?橘 美月?

いや、偶然、天使コスプレの女も美月という名前だったんだろう。



そう思っていると、周りの外野からのひそひそ話が耳に入る



”おいおい、あいつ橘さんに急に大声でキレて、どういうつもりなんだ?”

”あんな奴、このクラスにそもそも居たっけ?”

”橘さん、陰キャに絡まれて可哀想”



俺への悪評は慣れたものだから聞き流せるが、コスプレ女を橘さんって呼ぶことには納得できそうにない。



だって、目の前のこいつは橘 美月なんかじゃない。



俺の記憶が正しければ、橘 美月 は ついさっき、こいつの手で消されてしまったんだから。




俺がただ立ち竦んでいる内に、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

それがこの一件の終止符となり、午後からの授業に備えて皆が散り散りに自らの席へと戻っていく。



天使コスプレの女はさも当然のように、橘 美月の席に着くと、俺の方へ笑いかけた後、声には出さず、唇だけを動かして、俺にメッセージを送った。




”あ と で ね”




俺は、得体の知れないものに遭遇した恐怖をまじまじと感じていた。

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