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「何だお前。急に雰囲気変えやがって」

「仕事とプライベートで同じ顔が持てる程図太い神経がなくてな。あんた、仕事してないのか?」

「してるよ」

「どんな?」

「なんでもいいだろ」

「答えを濁すあたり知れてるな。まあ今はそんな事はどうでもいい」


 俺は机に置かれた写真を再び手に取る。だがもう俺が見る必要はない。十分分かった。俺は遠藤に見せびらかすように、ぴらぴらと写真を振って見せた。


「この写真の真実を教えてやろうか」

「見えたのか? あんたには」

「ふん。どうしてそんな聞き方をする。それがまた気に食わない。でも安っぽいお前のミスリードが効いたんだろうな。今までは」

「……はあ?」


 少し間が空いた。

 

 ――おもしろくねえ。


 遊んでやると言っても、答えが、結果が見えている遊びというのはひどくつまらないものだ。思った通りの反応をされるのはとても白ける。


「結論を言ってやる。この写真には何も写っていない。お前が望んでいるような心霊の類は一切いない」

「……」


 遠藤が押し黙る。その結果が物語るのは、いかにこの世界に似非者が多いかという事実だ。頭が痛くなる。


「らしい事を言われたか? 自殺者達の恨みや怒りがこの写真には溢れているだとか」

「……」

「だから殺した?」

「……え?」

「見当違いなクソみたいな鑑定結果を出したから、三人も殺したのか?」


 遠藤の目がかっと見開いた。


「なめるなよ。本物を」


 怒りに震えた。それと同時に、偽物達が堂々と蔓延る現実に呆れ果てた。

 空虚な力で暴利を貪るゴミ共。こいつの横暴で理解不能な行動には一切賛同出来ないが、結果ゴミ掃除の一旦を担ってくれた事へは少しばかり感謝の念を抱いた。


「この写真はお前を含めた家族写真だ。どうやらお前の家族内での地位はクズ同然だったようだな。威勢のいい態度も彼らの前では出せなかった。恐怖政治にでもさらされていたのか? クズでしかも犬畜生並に鎖に繋がれ従順になる事で餌をもらい生きながらえるのに精一杯な毎日に嫌気が差したか?」


 遠藤の身体が小刻みに震える。怒りか、はたまた全てを引っぺがされた恥ずかしさからか。

 だがやめない。お前が俺と遊ぼうと誘ったのだ。遊びはまだ始まったばかりだ。


「この写真には確かに霊は写っていない。その代わりお前の憎悪が写真そのものを覆いつくしている。家族なのに一緒の枠内にも入れてもらえず、お前だけ枠外で迫害されてファインダーを覗きながら憎しみながら嫌々シャッターを切ったお前のな。見えたのか? そう聞いたな。お前が求めた答えは、『俺の気持ちがわかるか?』だろ。クソだせえな、お前」

「……黙れよ」

「なんだよ。答えてやったら逆ギレか。まだまだ俺は喋り足りねえんだ。お前こそ黙って聞いてろ」

「……」

「はい、良く出来ました。で、お前はこの三人を殺した訳だ。その後お前がとった行動は自分の保身だ。三人をお前なりに事故に見せかけてうまく殺したんだろう。だが、いくら物的証拠をかき消しても、お前は不安を拭えなかった。殺した三人にずっと見られている。誰より何よりお前自身が霊の存在を信じていたんだ。ご家族が信心深かった影響もあったんだろうな。お前はそれを否定したかった。だから霊能者達を渡り歩いた。本当に彼らはいないと。幽霊なんていないんだと」


 最初の威勢はもうどこにもなかった。何と矮小で、脆く価値のない存在だ。


「わざわざ何でもない岬を自殺の名所だなんて偽ったのも俺達を試す為だろう。だが残念ながら、俺の前任の方々は霊を指摘した。だから不合格だった。身勝手にも程があるな。霊を肯定された事が怖くて怖くて、霊能者達をも殺した。霊がいるのなら、あの三人もまだいるかもしれない。どうせそんなふうに思ったんだろ。ひょっとしたら家族の霊の事を直接指摘したやつもいたのかな。ビビりすぎて最終的には殺すだけじゃなく、霊が見えるだなんて目をご丁寧に潰して」


 遠藤の顔には大量の汗がぷつぷつと浮き上がり零れ落ちた。事務所を汚されるのが嫌で俺は机に置いてあるおしぼりを投げつけた。


「どうだ。俺も殺すか? だが俺は本物だ。今までの奴らとは違う」

「……そうらしいな」


 蚊が鳴くような小さな声だった。


「改めてちゃんと言ってやるよ。本物の俺がお前に言ってやる。この写真に、お前の家族の念など、これっぽっちも写ってない」

「……本当か?」

「本当だ。安心しろ」


 遠藤は長い沈黙の後、ふうーっと大きく息を吐いた。


「警察には言うのか?」

「言ってやってもいいが、霊視の結果お前が犯人だなんて言っても日本の警察は信じない」

「だろうな」

「だがお前は殺しすぎだ。バレるのも時間の問題だろうな」

「それも霊視か?」

「いいや、常識的観点から見てだ」

「参考にする」

「参考にした所で結果は変わらんだろうが、達者でな」


 遠藤は何も言わず立ち上がりポケットの中に入れていた財布から一万円を机にぽいっと放り捨てた。そしてそのまま事務所のドアから出ていった。


「……足りねえよ。俺の時給なめるなよ」


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