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「お疲れ様です、松下警部」
先に現場に入っている警察官やら鑑識やらの声におうっと雑に答えながら彼らの間を縫って部屋の奥へと進んで行く。
「うわあ……」
金魚のフンのようにいつも後ろをついて歩く後輩の三島は刑事になって三年も経つというのに、いまだに青臭く未熟と書いた紙を顔面に貼り付けたような若造のままだ。今だって死体を目の前にしてこの間抜け声だ。おどけ調子でこういった反応が出来るようになればまだ骨があるのだが、どうにもそろそろこいつにも見切りをつけた方がいいのかもしれない。
――まあ、普通はその反応で正解だがな。
日本は治安が良いだのなんて無知な腑抜け共はこの死体を見ても同じセリフを言えるだろうか。ただでさえ日常的に人が殺されてるってだけでも平和のへの字もない世界なのに、ここにある死体ときたらただの死体ですらない。
「どういうつもりなんですかねえ、これ」
まるでお化け屋敷にビビる女の子みたいだ。情けない事この上ない。だが確かに三島の意見には同意だ。床に寝そべる死体の横に屈みこみ、まじまじと彼の姿を眺めた。
「うーん」
死体を見ながら唸っていると、情報を欲しがっているように見えたのか鑑識の男が自分の傍に来て、ざっくりと死体の事について教えてくれた。
死体の名は一条芳樹という男性で、年齢は42歳。血に染まったスウェット姿で床に倒れ伏している。致命傷は首をアイスピックのような先端が鋭利な刃物で貫かれた事による失血死と見られた。
これならまだ普通の殺人だ。だがこれで終わりではない。
一条の両目はぽっかりとくり抜かれ、穴が開いた空洞状態になっていた。
こちらも同じ凶器で突き刺されたようだ。しかし眼球は今の所現場からは見つかっていない。という事は、犯人が持ち帰ったのか?
そしてもう一つ、どうやら両目は一条が死んだ後にくり抜かれたらしい。
「気持ちわりぃな」
反吐が出る。キモ過ぎる。
――さっさと見つけねえと。
おそらく、これは続く。思っているよりも長く。
そしてどこまで続くかは、俺達の働き次第だ。




