一
『都内で相次いで起きている殺人事件はこれで三件目となり、警察はこの異常な事件について――』
「これなんだけど」
テレビがまたあの事件の報道を流している最中、目の前の男はそんな事を気にするそぶりもなく早速差し出したのは、電話口であらかじめ聞かされていた件の写真だった。
「どう?」
男が私に問う。写真もそうだが、男の眼に挑戦的な色が見えた事にひどく違和感を覚えた。
男は遠藤と名乗った。名前も年齢も知らない。見た目は二十代中頃ぐらいのどこにでもいそうな特徴のない男だった。こういったやり取りの際、事前にちゃんと個人情報を確認する事務所がほとんどだろうが、私の場合ある程度の確認が済み、客と判断した時点で諸々の確認をするようにしている。現時点でこの男を客と見ていいかどうかの判断がつかなかった。
『心霊写真とか、見てもらえるんだよね?』
電話に出ると、遠藤は名乗る前に開口一番そう尋ねてきた。
聞けば、知り合いの頼みである心霊写真について調べているので見てもらいたいとの事だった。
私は所謂「霊能者」という者に分類される存在だった。生まれながらにして、というわけではなかったが、高校生の頃に事故で両親を亡くした事をきっかけに何故かそういった力が目覚めた。
日常的に霊が見えたり声が聞こえたりする体質に初めは戸惑いと恐怖を覚えたが、これは両親からの何かのメッセージではないのかと考え出すようになってからは、この力をあ何か役立てる事は出来ないかと思い行動するようになった。
友人を助け、そこから口伝で友人の友人を助け、そうしていく中で思いのほか日常で霊的なものに関する事で悩みを抱えている人が多い事を知った。それと同時に霊感商法というエセ霊能者というろくでもない存在が多い事も知った。事実、そういった者達に騙され憔悴しきった人間がうちに訪れる事も少なくはない。
自分の力は本物だ。それは自分自身、そして今までの実績から自信を持って言える事だった。
「これですか」
遠藤の写真に目を落とす。
写真はどこかの岬のようだ。晴れた空の下、足場の悪いごつごつとした岩の上で三人の人間がカメラの方を見て笑っている。左から順に初老の男性、高校生ぐらいの女の子、四十代前半ぐらいだろうか、女性の姿が映っている。家族の旅行写真といった所だろうか。
「どう?」
遠藤が再度問う。読み解けと言われているようで少しイラっとしたが顔には出さないように努めた。
――なんだこれ?
見た瞬間に写真が発する強烈な違和感が、遠藤が初めに見せた挑戦的な表情とが自分の中で繋がった。
「失礼ですが、この写真がどうかしたのですか?」
そう言うと、遠藤はあからさまにがっかりしたような顔を見せた。
「何も分からないの?」
この男はどういうつもりなのだろうか。客には値しないという思いが強まったが、この写真から放たれる違和感をほっておけない自分がいるのも確かだった。
「思う所はあります。ただ、あなたが何を知りたいのか、そこをお伺いさせてもらわない事には、あなたが求める答えをお伝えする事が出来ません」
男はふんっと不満げな様子で鼻を鳴らした。
何様なんだ。
いい加減こちらも対応を考えた方がいいかもしれない。そんな風に思っていると遠藤が口を開いた。
「ここに写っている三人は、もうこの世にいない」




