表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9


冬休みに入る前に必ずある、終業式。




教師の話はマンネリ化してるし、表彰の時間は終業式より長いし、で。




薫はこの時間が嫌いであった。



無論、他の生徒もそうだろう。



なかには、うつむいて居眠りしている者もいる。




しかし薫は、今回の終業式は死ぬほど最悪なものとなった。




青ざめた表情の薫。




そのワケとは……。




『え〜、皆さん。最近は色々と物騒な世の中になりましたねぇ』



薫の学校の校長が、マイクの前に立って、話を始めた。


『ついこの間も、隣町で、銀行強盗事件が起きましたねぇ。…と、そこでです。なんとウチの生徒が巻き込まれてしまったそうです』




ざわつく生徒たち。




『しかしその生徒にはなんのケガも無く、そのほかに人質になった方々も、無事に保護されたそうです。いやはや、良かったですねぇ。そして、その生徒ですが…』




薫は、一週間前の銀行強盗事件から、全く姿を見せない死神に、ふつふつと憎しみを抱いていた。



(…これが、最初からの目的だったわけね…)






『実は、その生徒に、警察の方から表情状がきています。なんとその生徒は、人質になった皆さんを強盗らから守ったそうなのです』




‘えぇ〜〜〜!’



生徒たちの歓声。



『これは、人質になっていた方々が証言されていたことでしてね?…いやぁ〜関心ですねぇ。しかし、危険と言えば、とても危なかったと思います。ですが、今は、彼女の正義感による勇敢な行動を、誇ろうとします』



‘では、春日薫さん。前へ出てきて下さい’




大きくなるざわめき。




薫の友人、マドカが、びっくりした顔で

「か、薫ちゃん!本当?!」



薫はそれに仕方なくうなずき、立ち上がる。






微妙な拍手と、歓声の中で、薫は賞状を受け取った。









その後がまあ大変で大変で。薫は、疲れきってしまった。




教室に帰っても、担任に同じことを言われ、皆の前に立たされた。


そして拍手。




二学期最後のホームルームが終われば、他の学年の先輩や、全く関わりの無い教室に他クラスの女子に囲まれた。




駅に行くと、他校まで噂は飛んだのか、指を指されて色々言われた。






「すごいねえ薫ちゃん!銀行強盗を倒したんでしょ?」


電車の中で、吊革につかまりながらマドカが言った。



薫は、つかまっている吊革にだらんとぶら下がる。



「や、まぁね…。うん」


うなだれながら、ぼそりとつぶやく。




「しッかし、あの薫がよく銀行強盗なんかに立ち向かったねぇ。びっくりだよ。…なに?そんな自信あったんだ」



一人だけ座席に座っているナツミ。



「自信ってか…。な、なんだろうね…」




あはははは…。

薫は力無く笑う。




友人らには、なにも本当のことを話せぬまま、薫は電車を降りた。






寒い夕暮れ。


吐く息は白い。






帰路は独り。




「…ちょっとォ、死神さん」



薫は、マフラーの中で言う。



「何ですか、最初の未練って。…もしかして、‘目立ちたい’とかじゃありませんよね?」



「そうじゃなかったら‘英雄になりたい’とか‘みんなに囲まれてキャアキャアされたい’なんじゃないですか?」




マフラーの中で、もごもごとつぶやくと、だんだんそこだけが湿ってきた。




「そろそろ出てきて、説明してくれてもいいじゃないんですか?」




キッと、前方をにらんでみた。




「死神さん!早く出て来て下さい!」


薫は、怒りを込めた。




ひゅるるッ…


一陣の風。



薫はとっさに目を閉じる。



「いって!目が乾いたッ」瞬時、目をこする薫。



――これは…来たな?!



薫は、目を再び開けた時の風景を妄想した。




―いつもの無表情で立っている死神。‘すみませんでした薫さん’今までほったらかしていたことを詫び始める死神。




薫は目を開けた。




そこには…







ただ、いつもの日常が、いつもの帰り道が続くだけだった。



「いやこのタイミングで来ないのかよッ!!」




薫は、お笑い芸人顔負けのずっこけをした。










そして、冬休みが始まった。







――――12月31日。



薫は、年を越す準備をしていた。

コタツに入ってチャンネルを回す。


お笑い番組か、グダグダな生放送ぐらいしかない。

「…教育テレビのアニメでも見とこ」


コタツの上のミカンに手を延ばす。

オレンジ色の丸いフォルムが手に収まった。


「…ん?なんだコレ?」


ミカンに視線を移すと、なんだか黒い線を見つけた。


家族の中の誰かが、ミカンに顔を書いたのだろうか…。



ミカンの顔は、こちらをじっと見ていた。


「なんか…見覚えがあるなぁ、この顔」

「忘れたとは言わせませんよ薫さん。どれだけの付き合いになると思ってるんですか」

「どれくらい?…ってそんなに長い付き合いでは……死神さん!!?」

「そうです。何を隠そう死神DEATH」



死神はニコリともせず言った。いつの間にか、薫の隣に座っている。


毎度唐突な登場に慣れた薫は、本題に入った。




「死神さん、ほったらかしはひどいですよ?何かあったんですか?」



「…ええ、実はワタシ大変多忙でして。まず忘年会に追われまして…。そしてこの前の銀行強盗の後片付けやら仕事納めやらなんやら…」




死神は、‘はぁああぁ…’と深いため息をついた。無表情なその顔にも、疲労の影がちらつく。



ミカンの皮をむきむきと、指を働かせながら続けた。



「あぁそうだ。薫さん、あなたになんの説明もしてませんでしたね………?あれ?してませんよね?」



死神は、一瞬上空をにらみ、考えた。



薫の助け舟。


「説明ですか?…あの、そもそもですね?死神さんとは銀行強盗事件以来、会ってませんよ?」




「………あぁ、そうですか。そうか…まだ年を越してなかったんですね」


死神は独りごちた。




――?



薫は首を傾げた。


しかし尋ねる前に、死神が話し始めてしまった。



「この前は、きちんとあなたの未練を解消させていただきました。それと同時に悪魔の悪戯も片していただきました。…薫さんには、本当に感謝しています」



「ところで、薫さんが独り言で言ってましたがね。解消した未練は、‘目立ちたい’‘ヒーローになりたい’‘みんなにちやほやされたい’…などなどです」




―――うわ…。あたしが思ってたマンマだよハズッ!!!




薫は赤面。死神は淡々と告げる。



「しかし薫さんには悪いことをしました。詳しい説明もせず、危険な目に合わせてしまって」



死神は、深々と頭を下げた。



慌てて薫は死神の体を起こす。


「やめてくださいよ!あたしは別に…」






「――薫さん、これからは、同じようなことが起きます。勿論、毎度あなたの命が危ないめに会うということでは、ありませんが。…しかし辛いことになるのは変わりませんよ。それは、あなた自身の問題だからです。間違えないで下さい」




――――好きなものと嫌いなものは同じ場所にいます。






死神の声は、薫の脳髄に染み込んでいった。




愛と憎悪は表裏一体。




そんな言葉が、ふたりの空間に流れている。




こうして、薫の冬休み…新しい年が始まった。




―――めめんともり




『ワタシの名前は死神DEATH。どうぞよろぴくおねげえしまっす。』第一話終了

〈死神の話を書くにあたって〉




この物語を書いていて、自分の暮らしを振り返ることになりました。


終業式とか、洗濯物とか米炊きとか…。


薫は、私の要素がもろもろと注ぎ込まれてました。しかしそうすることで、つっかかることも無く、すらすらと続けられました。




〈死神の登場〉


死神の登場は、私の願望であると思います。こんな気さくな死神が現れて、自分の未練(欲望)を片付けてくれるなんて…。薫が羨ましいです。…まぁ、羨ましい分酷いめにあわせちゃうんですがね!



〈二話について〉



二話では、一話の7の続きになります。リアルな続き。


薫が冬休みを満喫中です。寝正月です。


話は変わりますが、皆様。…長休みの課題って終わらせますか?いや確かに終わらせないといけませんが…。


私は終わりません。



だから薫も、冬休みの課題が終わらないでいます。



…そんな話になります、多分。




〈最後に〉



私を支えてくれた、相方様。


いつも有難う御座います。



では、次は二話で会いましょう。




華奢なヒーロー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ