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死神が、薫の前から姿を消して2日がたった。




「…あれから死神さん、まったく音沙汰無しだけど…。ちゃんと生きてるのかしら」

薫は学校の帰り道につぶやいた。

「そもそも何を食べるのかしら?…食べないのかな?」


「リンゴとか食べたりして…」

クスリ、と薫は笑った。




「それじゃあまるでデ●ノートじゃないですか薫さん」

「お、現れましたね死神さん」

薫は待ってましたと笑みを浮かべる。

「…その言い草だと…。ワタシに用でもあったんですか?」


ふわふわと軽く宙に浮きながら、死神はズボンのポケットに両手を突っ込んだ。


「用ってわけじゃありませんが…。ほら、もうすぐクリスマスでしょう?だから死神さんにプレゼントってわけで」

薫は微笑みながらコンビニのビニール袋を見せた。

少し興味を持ったように、‘ふむふむ’と地に降り立つ死神。

黒い上等のブーツが、コツンと鳴った。


「お菓子の詰め合わせです、どうぞ」

「…成る程。お菓子の詰め合わせならその人の好みを知っていなくても都合がいいですね。頂きましょう」

死神は、プレゼントを受け取った。

「しかしまあ、仏教徒の日本人がよくこんな無駄遣いをしますね。関係ないじゃないですか、あなた方日本人は」

「それ言っちゃったらお終いですよ…。イベントごとは誰でも楽しみたいものなんです!……あ、そうだ。死神さん」

「なんですか?」


薫は、あることが思いついて死神に問いかけた。



「死神さんって、外国育ちなんですか?」




薫の問いに、死神は‘…なんだこの子…そもそも神様なんだから育ちもクソもねえよ’といったような顔をした。


「……………メイドインジャパンです、一応…」

心の優しい死神は、それ相応の答えをあたえた。






「では薫さん。ワタシからもひとつ、クリスマスプレゼントといきましょう」

死神はそう言って、黒いコートから何か取り出した。


取り出したのはノート。

表紙も全て真っ黒である。

「なんですかそのノート…。あ!わかった!死神が持つあの有名なデスノー…」「そうですデステニーノートです」


薫が答えてしまわぬうちに、死神はノートの名を言った。

「で、デステニーノート?」

「はい。運命帳と書いて‘デステニーノート’です」

「…デステニー…ですか?ホントに」

「デステニーですね。どうしても」


二人は、沈黙したまま見つめあう。


「…略したりしないでくださいよ?ワタシ裁判とか嫌いなんで」

「…わかりました。ちゃんとデステニーノートとよびます。ところで一体何なんですか?そのノート」


死神はノートを薫に渡す。

「名前を書けば死ぬノートではありませんよ。それは、春日薫さんあなたの運命が書かれているノートです」

「ま、まじっすかァァァァァァァァァァ?!ちょ、じゃあこれから起こることがわかるんですね…って」


薫は興奮気味にノートをめくった。

しかしノートには、意味のわからない文字が並ぶだけであった。

「死神さんにしか読めないってわけですか…」

「その通り。残念でしたね」

死神は無表情で言った。ノートを薫から返してもらう。

「で、クリスマスプレゼントって何ですか?」

「まあそうあせらず。…記念すべき第一回目の未練解消ですよ、ワタシからのプレゼントです」

「それがクリスマスプレゼントですか?…へ、へえ〜」


薫は、少しがっかりしたように言う。

「何を落ち込んでいらっしゃいますか。素晴らしいことですよ?」


死神は無表情で、しかしすねたように言った。

「楽しみにして置いてください。明日はあなたにとって、ものすごく素敵な一日になりますから」

ふわりと宙に浮く死神。


「明日?その未練解消は明日なんですか?」


薫は上を見上げた。

死神は、くるくるとビニール袋を回しながら答える。

「明日です。明日は休日でしょう?一緒に銀行へ行きましょう」



銀行?


「何でですか?!銀行なんて行きませ…!」



あ…そうだった。

明日はお金を下ろしに行かなきゃいけないんだった…。

(死神さんは何故それを?)


再び見上げた死神は、‘デステニーノート’運命帳をひらひらさせてニヤリと笑っていた。




薫が初めて見る、死神の無表情以外の顔だった。




「ちなみに薫さん、ワタシが好きな食べ物はポッキーです」


死神はそう付け加えて、消えていった。










翌日。



薫は朝の身支度を終え、死神が現れるのを待っていた。




「そうだ薫さん。例の若林君には話さなくていいんですか?」

死神は突然コタツの中から頭だけを出した。

「うわあっ!!そっそんなとこから出てこないで下さいよ!びっくりしたなあもう!」

もぞもぞと這い出す死神。

「すみません、あったかかったものでつい…」

「こ、今度からは違うところから出てきてください…。で、何でした?若林君がなにか?」

薫は問い返した。

‘よっこらせ’と座りなおす死神は、薫の方を見、言った。

「だからですね…。ワタシのことは若林君に話したんですか?」

「……………え。言わないといけませんでした?」



沈黙。



「だ、だってですよ死神さん?こういうのって普通周りの人には秘密にしておくでしょう?!」

薫は沈黙を破った。

「それに、話しても誰も信じませんよ?」

「………ははぁ、話してなかったんですか…。まいったな」


死神は、ものすごく小さな声でつぶやいた。

「ん?!今‘まいったな’って言いましたよね?!何ですか?!なんかまずいことでも…」

「いえいえ、こっちの話ですので。…たしかにワタシのことは他の人に話さないほうが良いとは思います。が、しかし」

「がしかし?!」

「…が、しかしです。…若林君にはお話していただいても問題ありませんので、正直にばらしちゃって下さい」

「え…えぇぇえええ…」



薫は苦笑い。

「む、無理です無理。信じるわけ無いじゃないですか〜、あの若林君が」

ナイナイ、といった風に手を振る。

「そうですか?…まあ薫さんが嫌というなら無理強いはしませんが」

死神は無表情で言った。

「…ワタシがイロイロ便利なんだけどなあ…」




「本題に入りましょう。今日は銀行に行きます」

死神はスクリと立ち上がった。

慌てて薫も立ち上がる。

「ま、待ってください死神さん!なぜ銀行へ行って未練解消なんですか?」


二人は外へ出る。

「詳しいことは話せませんね。これはデステニーノートに書かれていることも含まれているので」

死神は、薫の目の前に立った。

ずずい、と人差し指を突きつける。

「あなたはこれからいつもどおり、日常的に行動すれば良いのです。後の指示等はワタシが直接出します」

「え?死神さんも一緒に行くんですか?」

「もちろんです。しかしこの死神の姿のままではいけないので変身していきます」


それだけ言ってしまうと、死神は例の呪文を唱え始めた。


『まはりーくやはーりややんばるやんやんやん、てくまくまやこんてくまくまやこん、ぴーりかぴ』



薫は、呪文の最後の部分が少しだけ変わっているのに気がついた。

(どうでもいいけど!!)


たちまち死神は、白い煙に包まれた。



「…今回はあなたの付き添いということで、女子高生に変身しました」

煙が晴れ、人の姿が浮かび上がる。

「薫さんとは同級生という設定で、名前を‘神子(かみこ)‘といいます」


死神もとい、神子はやんわりと微笑んだ。

「ちなみにバストはCカップです」

「嫌がらせですかね?!死神さんが女の人になるとバストが大きいのは嫌がらせですかね?!」

薫は怒りを握りこぶしに込める。

そんなことどうでもいいというように、神子は黒髪をきらめかせた。

「色々都合が良いでしょう?美人だと」

神子は綺麗に笑った。

確かに美人である。腰の長さまである黒髪は、まさにヤマトナデシコ(?)。おかしなところはなかった。ただ、ひとつ薫が気になったのは、デフォルメされた髑髏の髪飾りだ。死神の頭についていたお面と同じである。

「あぁそうだ。ワタシはあなたの親友という設定で通りますから。仲良くしてくださいね?」

キュルン、と瞳をうるわせ神子はウィンク。



これがあの無表情の死神だと思うと、なんだかものすごく脱力感を覚える薫であった。






「さあいざゆかん銀行へ〜」


神子は、薫の腕に自分の腕をからませると、スキップしながら歩き出した。


「あっ、ちょ待って下さい!」




よろめきながら、薫はついていった。




―――6、銀行へ

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