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「さ、これでワタシのことを信用して下さいましたね?」

半ば強引だ、死神は薫に言う。



一段落ついた二人は、落ち着いてこたつに入っている。


まだ納得がいっていない薫は、疑わしい眼差しを死神に向けていた。



「…ほんとに、あたしのことを救ってくれるんですね?」

「そうなりますねぇ。理屈では」



‘いいですか?’

死神は、無表情。

「ワタシはあなたの未練を解消するんですよ。あなたにはなんの負はありません」

「これからは良いことづくし?」



薫は首を傾げる。



良いこと―



その言葉には、とてつもない哀しみがこもった。



「…ええ。そうなりますね。そうなると思いますよ」


その哀しみを悟ってか、死神は無表情のまま、しかし声色を低くつぶやいた。




二人に、何ともいえぬ沈黙が降り注いだ。



沈黙を破ったのは薫だ。

「あっ!あたし洗濯物取り込まなきゃ!ごめんなさい死神さん、少し待ってて下さい!」

慌てて立ち上がる。

「あぁ、洗濯物。ワタシが取り込んでおきましたよ。あとお皿も洗っときましたし、お米も炊きました」

「ぶーーーっ!!!な、な、な、何してるんですかあなたは?!」

薫は思わず吹き出した。

「いや待ってる間ヒマだったので」

死神はずばりと言ってのける。

呆れて薫は肩を落とした。


「あ、ありがとうございました…」






しばらくして、死神はこんなことを話し始めた。

「人の未練は様々です。‘甘い物がたくさん食べたい’‘新作ゲームがしたい’‘女を抱きだい’…大勢いれば未練は多様。しかし、異例があります。‘死にたくない’という未練…これは異例になります」


「えぇ?そんなの、普通の人は誰でも思うでしょ?ダメなの?」

薫が尋ねる。

「ダメなわけではありませんが。…死神が来た人というのは、既に自らの寿命を理解した人なわけで…。つまり、悟った人…的なかんじでして。…わかります?」


死神は一生懸命説明した。


「まあ…わかるっちゃあわかりますよ?」

「すみませんつたない口で。……話を戻しますがね。まあ薫さんも‘死にたくない’わけじゃないですか」


少しだけ申し訳なさそうにしたあと、死神は再び無表情になった。


「そりゃそうですよ。死にたくないです」

薫は胸を張って答えた。


「だからワタシがあなたのもとへ来たのも異例なんです」

「そういえば…。一番最初に言ってましたね?‘なんであなたのとこに来たのか、自分でもわからない’的なことを」


「はい〜。まったく困りましたよ、ええ」

死神は‘はぁぁあ’と長いため息をついた。

「…いやホントに。なぜワタシはこんなとこにいるんでしょう?」

「いやそんな!あたしに訊かれても知りませんよ?!」




「でもまあ…。死神さんはあたしに憑いたわけで…。もう途中下車は出来ないんでしょう?」

薫は、例によってニヤリと笑った。


「ええ。ワタシはあなたの寿命が尽きるまで憑きます」

死神は、無表情。


「ふふ、なかなか楽しいですね。こういうの」

意地悪な笑みは消え、薫は素直な微笑みを出す。


「……へぇ、ワタシなんかといるのが楽しいですか」

「はい。楽しいですよ?なんだか素敵な物語が始まるみたいで」



薫が笑っていると、今まで無表情だった死神も、なんだか顔をゆるめていた。






「では早速。未練解消作戦の概要を発表します」死神はそう言って、大量の資料を(異空間から)取り出した。

「ぬぁッ?!そんなに?!」

驚きの声を上げる薫。


「あ、これはあなたのありとあらゆる未練をワタシが簡潔にまとめたものです」

「あたしの未練多ッ!!どんだけ欲深いんだ!」「そうなんですよ。あなた意外に欲深いっていうか…夢見過ぎっていうか…。とにかく未練が多いんです」


死神は資料の束を、これ見よがしにばらばらばらばらァッとめくった。



「そ、それを全部解消させるんですか?死神さんが…。なんか申し訳ないですね…。すいません」

「いえいえ、使命ですから。ってかワタシは暇つぶし程度のやる気なんで…。あまりそのようにかしこまられると、ワタシまでなんか申し訳ないです。すみません」



二人は、ぺこりとおじぎをした。



どうやらこの二人、ボケとツッコミが成立するだけでなく、性格も似たところがあるらしい。



話を戻したのは死神だ。



「まあ、ゴールを決めましょう。未練を解消すると言っても、ある程度…いい具合なかんじで、なんで。そんな全部は解消しなくてもいいんで」

「う〜ん、ゴールですか…。はっきり言ってあたしにはよくわからないんですけど…」



薫はうなった。

すると死神が無表情に言った。

「薫さん。あなた若林君と幸せになるのが嬉しいんですよね?」

「うぐッ…!やっぱあたしの独り言、聞いてましたか…。そうですよ?!そりゃ大好きな人とは一緒になりたいですよ!!」


薫は照れながら言った。


「はははは。照れなくて宜しいですよ。愛する人と結婚することは、誰しも願うものです」

死神は、ニコリともせずに優しい言葉を投げた。




「では決まりです。あなたが若林君と結婚するのがゴール………、ワタシがとり憑くのはそこまでにします」

「え?え?つ、つまりですよ?あたしは若林君と結婚したら死ぬってことですか?」



薫は、ちょいッと挙手。


「…詳しい寿命は教えることは出来ません。しかし、薫さんが大半の未練を解消したのち、ワタシが迎えにくるのは決定的です」




「え〜…、春日薫さん。死ぬまでの間、どうぞよろぴくお願いします」


―――――未練を解消する




それはあたしが、幸せになるための手段。



そして、死の印。



「では薫さん。また用がある時に現れます。またお会いしましょう」

死神は、無表情で消えた。




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