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ようやく本題に入り始めました!(汗)
翌日、目を覚ました薫は、いつも通りに朝の身支度を始めた。
いそいそと布団をたたみ、台所へ向かう。
まず顔を洗って歯を磨く。
そして弁当を詰める。
次に居間へ行き、暖かいコタツに足を突っ込む。
しばらく朝のニュースを眺め、朝食に菓子パンを食べた。
食べ終えたら、鞄やらの準備をしたのち、制服に着替える。
再び歯磨きをしながら、可愛いお天気アナウンサーの天気予報をチェック。
そして起床から約30分後、すべての準備が整った。
コートを着て、マフラーを首に巻いた。
外へ出る。
「いってきまーす」
薫は、駅を目指す。
とても平凡な風景であるのは、すでにお分かりであろう。
この物語の主人公、春日薫は、平凡な極普通の女子高生である。
そして彼女は、少しばかり不幸だった。
ま、そのへんはまた後に話すことにして…
重要なことは他にある。
実は彼女、とある理由で死神に憑かれているのだ。
「おっはー、薫チャン。今日も良か朝じゃのう」
「…はぁ、また口調がおかしくなってますよ。死神さん」
薫は、ちょっと笑いながら言った。
背後には、その死神がいる。
死神は、ボロボロにちぎれている黒のコートをなびかせ、宙をフヨフヨと飛んでいる。
顔つきはなかなかの美青年(?)で、長髪の収まりの悪い黒髪は、後ろでひとつ結びにしてある。ぱっと見れば、野武士のような頭だ。
そしてその頭には、可愛くデフォルトされたどくろの面が飾られていた。
「死神さん。学校が終わってから、説明するんじゃなかったですか?」
薫はそんなコスプレ野郎とは違い、極普通の黒髪に、ちょっと外はね。そして普通の制服。
「少し時間があるようなので、ちょっと話せるものは話しておこうと思いまちこ」
「(思いまちこ?)は…はあ」
死神は、地に降りた。
黒いブーツが、小さな音をたてる。
「あ、ワタシの姿は他の人様には見えないので。薫さんはあまり喋らない方がいいと思いまちこ。おかしな人になりますからネ」
「(…思いまちこって何?)おっけいおっけ〜」
薫は、マフラーの中でもごもごと返事をした。
「まず、ワタシのことを真面目にお話したいと思いまちこ」
「…あの、死神さん。その変な語尾のせいで真面目じゃなくなってます!」
「あ…そうですか?ちょっといいかんじにキャラが掴めてたんですが…」
‘わかりました。この語尾はやめましょう’
死神は、そう言った後、長々と話しだした。
「昨日も申しましたとおり、ワタシは死神です。そしてワタシの仕事は、寿命が来た魂を天国へ誘導することであります。…まあ、理解しやすく例え話をしましょうか。Aさんという方が寿命が来たとしましょう。すると、Aさんに目を付けていた死神が‘天国へ行きますよ’と案内するわけです。で、Aさんの魂は、死神にゆだねられて天国へ逝きます。そしてここからが大事なところですよ」
死神は長い人差し指を天に向けた。
「魂には重さがあります」
「重さ?…っていうとキログラムとかの?」
口を挟む薫。
「そうです。そして魂の重さは、未練の量です。…だから、Aさんがものすごく未練を残して魂になったのならば、ものすごく重くなります」
「…へ、へぇ〜。え?てか重さ関係あるんですか?」
薫が死神の方を見て尋ねた。
すると死神は、無感情だった顔を少しだけ困ったように眉を下げて、
「…薫さん、あなたは自分の鞄が重かったら憂鬱ではありませんか?面倒くさいと思いませんか?」
と逆に尋ねてきた。
「う〜ん?そりゃあいやですねぇ…」
「ねぇ?もう重労働なんてホンットめんどくさいですよね?…だからワタシたち死神は、未練を解消して魂を少しでも軽くするんですよ。別にねぇ、未練なんてきかなくてもいいんです。そんな知らねえよってしても良いんです。…ただ…だるいじゃないですか、重いままの魂を持ち歩くのは」
「気のせいじゃないですよね?なんか死神さんってダメな人に感じるんですが…」
薫は苦々しく笑ってみせた。しかし死神は、またもや無表情である。
「それでですね、薫さん。未練が多けりゃ多いほど、魂はヘビー級なわけですよ。もう持ち上げらんないわけですよ、死神が」
「…死神の仕事って、意外に体力要るんですね…」
‘イヤになりますよ、まじで’
死神は、低くつぶやく。
「薫さんの魂も重すぎて重すぎて、どうしても持ち上げられないんですよね」
「はあ…。……………………………ってえええぇ!?」
「うぉッ…、なんですかいきなり…」
薫のリアクションにびっくりして、死神はひゃっと体を縮ました。
「あ、あたしはまだ死なないんじゃなかったんですか!?死神さん昨日そう言ってましたよね!?」
死神は、眉をひそめる。
「そうですけど。残念ながら薫さんの寿命は、まだまだイキイキしてます」
死神は続ける。
「しかしワタシ(死神)があなたのもとに来たということは、あなたの魂はワタシが持っていくってことなんです。…つかなんでワタシはあなたのところ…寿命が来てない人間のところへ来たのか、そもそもの目的がまったくわからなくてですね」
死神はキッパリと言った。
「昨日からそんなことを言ってましたよね…?なんか軽いノリみたいですが、大丈夫なんですか?」
「まあ大丈夫です。ワタシたちにはガミガミ怒る上司は存在しませんから。適当でいいんです。適当で」
ちょいちょい、と手のひらを泳がす死神。
どうやらこの死神、とてもぐーたらな性格らしい。
あきれる薫。
「とにかく、昨日から考えてましたが」
死神は、ふわりと宙へ飛んだ。
「このままあなたの寿命を待ち続けていても、なんだかヒマ…いや手持ち無沙汰なので…」
「ヒマのところを手持ち無沙汰と変えても意味は一緒ですよ!?あなたにはやる気というものはないんですか!?」
死神は、薫のツッコミなどスルーしている。
相変わらずの無表情。
「ワタシはあなたの未練を解消していきますから」
死神を見上げる薫。
「?どういうことですか?」
「つまりです。どうせワタシが連れて行く魂ならば、生きているうちに未練を解消して、魂を軽くしておこうという魂胆なわけですよ」
―というわけになった。
『じゃあまた、帰宅後にお話しましょう。アディオ〜ス』
死神は、微妙な捨て台詞を残し、朝空に消えてった。