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カマドウマ

作者: いない

バイキンAはバイキンであることがイヤだった。

だから、バイキンAは不潔で、嫌われ者のバイキンであることをやめた。

今日からヒトして生きると決めた。


バイキンAはヒトとして振る舞い始めた。


これが上手く行かない。

ヒトはぎこちない彼を嫌った。


バイキンAは思った。


最初からヒトの真似など上手くはいかない、そのうち慣れてくるだろう。

バイキンAは自分を励ました。


ヒトは彼をおもちゃにした。

ぎこちない彼を嘲笑し、彼で憂さを晴らし、わざと優しくして彼が心を開くとすぐさま裏切った。


バイキンAは自分を励ました。


皆が楽しめるような言葉を使おう。

皆といて恥ずかしくない装いになろう。

皆のように自信満々に振舞おう。

ぼくもヒトなのだから。


バイキンAは皆の仲間になれるようがんばった。


しかしヒトは彼を避けた。


奴の話はおもしろくない。

奴のみためは不細工だ。

奴は鼻につく。


ヒトは薄情だ。

仲間があるものを嫌いになったら、周りも合わせて嫌いになるのがヒトだ。


バイキンAは結局、前と同じひとりになった。




いつもと同じく、バイキンAはヒトにあいさつした。

自然にあいさつができるように、何度も練習した。


しかし、ヒトはバイキンAを無視した。




すると、事件が起きた。


バイキンAは、猛烈に腹が痛くなった。

背骨に沿って、身がよじれるような鋭い痛みが襲った。

たまらず床に倒れた。


無視したヒトも、あまりの出来事に声をかけてきたがバイキンAは答えることができない。


口から泡を飛ばしてのたうち回る、目から涙が溢れる、声にならない声が漏れる。

体の内部がグズグズに掻き混ぜられているのか?

痛みで呼吸が早くなり、時折止まる。


たまらず自らを抱きかかえ、胎児ようなポーズをとる。

全身に力が入って弱めることが出来ず、震え、何も考えることができない。


自分の尋常でない苦しみ様に、どうやらヒトが集まってきたようだが、

あまりの苦しみでそれ以上はなにも分からない。


極限の痛みがやってきた。

バイキンAは体が爆発したと思った。

実際は、背中がぱっくりと裂けた。





背中の裂け目から、薄桃色と水色の縞模様をした、巨大なカマドウマが、惑星のような目をキョロキョロさせて現れた。


巨大なカマドウマは、触覚をひゅんひゅんさせながら、おぞましいマットの上に佇んだ。


ヒトは絶叫し、阿鼻叫喚のなか、散り散りに去った。


その間カマドウマは、狂乱を傍観しているのか、それとも何も見ていないのか、伺い知れない様子で、不気味に鎮座していた。しばらくして、キチキチと節々を鳴らすと、ゆっくりどすどすと前へ一跳ね二跳ねし、続いて壁に貼りつこうとしたが、重みで床にドスンと落ちた。


しばらくして、カマドウマは窓の外をみて触角をひゅんひゅんさせると、彫像のような脚を折りたたみ、あっという間にパステルカラーの砲弾となって窓から消えた。

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