魔獣の壺 - 番外編 - 精神体講義
この話は、パイン達がカイン王国で傭兵学校で指導を受けていた
頃の話である。
連合暦20年4月7日、
パイン達は、魔法の基礎である精神体の講義を受ける為、
講義室へと向かった。
部屋前へ来ると、中は少し騒めいていた。
受講者のほとんどが後ろ側に座り、講師の目の前のみが
空いているという状況だった。
しかし、これだけ多くの人々が魔獣王討伐に向けて、
魔導士を目指している事が救いだった。
パイン:((なんで、講師の前だけが空いてるんだろう?))
アリス:((んー、なんでだろう?
私は、魔導士の先生に直接教えてもらってたから。))
パイン:((・・・。))
サール:((私の時も同じ状況でしたよ。
目の前は、質問されたりとか、
当てられる事が多いからじゃないですかね?
私は、いつも講師の目の前に座っていましたよ。))
パイン:((ふーん、そんなもんなのかな、、、。
後ろの方だと、「勉強するぞ」という意気込みが
講師に伝わらない気がするけど。))
サール:((とにかく、席に座りましょう。))
パイン:((そうだな。取り合えず、座るか。))
パイン達が席に座ると、丁度講師が部屋に入ってきた。
教壇の前に立つと、騒めきは一瞬で収まった。
講師:「本日は、精神体についての講義を行います。
さて、精神体とは何でしょうか?
一番前の席の君、どう考えていますか?」
そう言って、講師はパインの方を指さす。
パイン:「えっ、えっ、、、。」
パインは、キョロキョロと左右を見た後で、自分を指さす。
この時、実際は隣に座っていたサールを指さしていたようだが、
パイン自らが墓穴を掘ってしまった。
講師:「えっ、そうです、そうです。君ですよ。」
講師も白々しく答え、矛先をパインに変える。
パインは、戸惑った顔をしながら、回答した。
パイン:「えーとっ、魔法の源ですか?」
講師:「そうですね、それもありますが、現在は精神体は
生命の源と考えるのが正しいと考えられています。
これから説明する内容は、
現在最も有力とされている説です。
新たな説が浮上するかもしれませんので、
その点を理解した上で、勉強してください。」
講師は、少しの間をおいて話を続けた。
講師:「さて、精神体を考える上で、四大元素を知らなければ
なりません。
ここに石があります。
その石を2つに割ります。
その割った片方の石をさらに2つに割ります。
これを繰り返し続けます。
石は、どんどん小さくなりますが、大きさを無視して、
半分に割ることが可能だと考えてください。
そして、ついに、割ることができないところまで
繰り返したときに、最後に残るものが元素です。
四大元素は、土、火、水、風と考えられています。
全ての物は、この4つの元素で構成されているという
考え方です。
人間も分量は異なりますが、
四大元素で構成されています。
これらは、それぞれ異なった性質を持ち、それらの性質を
属性と呼んでいます。
基本的には、四大属性が中心にあり、
このほかに、光属性、闇属性などを含め、
派生属性が多数存在しています。
皆さんも知っていると思いますが、精霊や幻獣などは
いずれかの属性を持っています。
魔法も同様にいずれかの属性を持っています。
魔法を使う時、精霊語を利用し、その属性を解放
することで発動するわけです。
人間は、土属性を柱にしていますが、
他の属性も含んでいます。
他の属性を多く含んでいるほど、その属性魔法を
容易に使うことが出来るのです。
もちろんですが、修得のしやすさも属性に関係します。
人間は、土属性を多く持っているための為、
土に関係する魔法が修得し易いという事になります。
しかし、土属性の魔法は、防御の魔法であり、魔獣との
戦いには不向きです。
そのため、攻撃魔法として修得しやすい、
火属性が選ばれるのです。
修得しやすいということは、その研究も進みます。
今日では、ほぼ全ての魔導士が火属性を選んでいると
言っても過言ではありません。
ちなみに、魔獣は、闇属性と火属性を多く含んでいると
考えられています。」
講師:「さて、この中で魔法を実際に使ったことがある者は、
いますか?」
数人の受講者が手をあげた。
彼らは手をあげていない者から、驚きの声と羨望の眼差しを
受けた。
講師:「そうですか、判りました。
魔法を使える者は少ないようですが、
実際に魔法を使うとわかります。
魔法を発動したとき、精神的な疲労が体を襲います。
それを無視して繰り返し発動すると意識を
失ってしまいます。
これらの事から、魔法は何かを消費して発動していると
考えたのです。
魔法は、級分類がなされていますが、
この分類には2つの意味があります。
1つは、発音の難しさです。
これは、無音発声の量に依存しています。
もう1つは、発動時の疲労度の量です。
同じ人物が魔法を唱えた場合でも、初級と上級では、
意識を失うまでに使用できる回数に違いが生じます。
上位の魔法であるほど回数が少なくなります。
つまり、上位の魔法ほど何かの消費量が多いのです。
その何かは、現在でも明確答えを得られていません。
過去にはその答えを得る為に、様々な実験を行いました。
その1つが、限界まで、その何かを消費した場合、
どうなるかという実験でした。
魔晶石が発見されていない時代では、
連続で魔法を使用するためには、精霊の力を利用する
方法がとられていましたが、精霊を呼び出すことのできる
魔導士は限られていた為、この実験は非常に重要な
意味を持っていました。
長きに渡る実験でしたが、実際に限界と考えられる
ところで魔法を発動できたのは、3回だけでした。
不幸なことに、その3回全てで、
魔法を発動させた者は絶命したのです。
これにより、魔法を発動するときに、消費されるものが、
生命を維持する何かであると考えられたのです。
次に精霊が人間よりも容易に魔法を使う事が出来る理由を
考えました。
魔法を使うための何かを、精霊は多量に持っていると
考えたのです。
精霊と、その何かに対して様々な研究が行われ、
そして、1つの結論に達しました。
精霊は、その何かで構成されているのではないかと
考えたのです。
その何かの事を『精神体』と命名しました。
つまり、魔法の源は精神体であり、人間の生命や精神を
維持する事も担っているということです。」
パイン:「なるほど、それで生命の源か、、、。」
パインは、思わず考えを口にしてしまった。
講師:「そうですね。先ほど私が生命の源と言った意味が
分かりましたね。」
受講者の間から、クスクスと笑う声が聞こえた。
講師:「さて、ここで1つの疑問が上がります。
魔獣は、精神体であるにも関わらず、
実体を持っている事です。
精霊についても同様ですが、精霊は永続的に実体化する
ことは見られません。
この違いについては、現在も明確な答えを導き出すことは
出来ていませんが、実体化については、精神体の物質化
という考え方があります。
子供が成長し、大人になる事を考えてみましょう。
精神体を消費して成長していると考えることが、
その基本になります。
そして、我々の食事という行為ですが、これ自体が
他の生命から精神体を取得するという行為になる訳です。
精神体である魔獣は、人間よりも遥かに容易にそして、
素早く実体化できると考えられています。
実体化すること自体に特別な意味があるかどうかは、
残念ながら判りません。
さて、魔導士が魔法を発動して、疲労を感じた時、
睡眠や休息により回復することは分かっています。
さらに、人間の精神体は、これらによってわずかながら
回復している事が確認されています。
これは、人間自体でも精神体の製造が可能であることに
繋がります。
しかしながら、その量はそれほど多くなく、食事からの
摂取が大半となります。
つまり、魔導士にとって食事がとても重要であるという
事になります。
このことを忘れないでください。
さて、ここで講義は終了となりますが、何か質問は
ありませんか?」
アリス:「はーいっ」
そう言ってアリスが手をあげる。
他に手をあげている人はおらず、必然的にアリスの質問が
選ばれた。
講師:「どのような質問でしょうか?」
アリス:「魔獣ですが、皆同じ容姿をしているのですが、
何か意味はあるのでしょうか?」
講師:「ほう、なかなか面白い着眼点ですね。
私の知る限り、魔獣の容姿についての研究は
存在していません。
これから話すことは、あくまでも私見です。
魔獣が個別の精神体であるならば、異なる容姿で
現れる事も可能だと思います。
しかし、もっと大きな精神体の一部であるとしたら、
同じになる可能性が高いでしょう。
んーっ、この点については研究してみる価値が
ありそうですね。
とても良い質問でした。」
講師:「ほかに何かありますか?」
手をあげる者は、誰もいなかった。
講師:「それでは、最後に注意点ですが、
自分の精神体の容量を全て使う魔法は、
生命に危険が及びます。
まず、自分の容量を把握すること。
これが、魔導士として、最低限必要なこととなります。
以上で講義を終わります。」
講師が部屋を後にした後、
パイン:((アリス、幻獣呼び出しって、
精神体を大量に消費するんだろ、大丈夫か?))
アリス:((んーとね。
シロちゃん曰く、
『にゃんとやってるから、だいじょぶにゃ』
だって。))