溢れる想い
翔子を密かに思う大地の気持ち、そうとは知らずに大地に接する翔子。
さて、この3角関係は今後いかに、、、。
図書館を出て翔と大地はひとまず荷物を置くためにそれぞれの家に戻り焼肉の匂いがついてもいい服装に着替えて待ち合わせのお店へ直接向かった。明光大学以外にこれといって大きな名所や施設もない私鉄の生明駅の周辺は、ほぼ学生の為だけに作られた様なお店が数軒建ち並ぶ、その中の一つが今回集合場所となっている焼肉屋だった。一番先に到着した大地はすでに今日配られていた割引券を使おうとごった返している入り口で名前と人数を書き込み順番を待っていた。1組だけ子連れの家族の姿が見られたが、他はおそらく明光大学の学生と思われるグループが3組、個人経営の焼肉店にしては店内は広いが、チェーン店のお店ほどではない広さの店内はすでに先客の賑わう声と肉を焼く煙が充満していた。ふと大地は腕時計に視線を移し17時50分を回ろうとしているのを確認した。まだ18時前だというのに、まるで20時を回ろうとしているような雰囲気の店内にちょっとした違和感を感じながら、この様子だと1時間ぐらい待つかなぁと心の中でつぶやいていた。
大地がお店に入ってから5分もしないうちに翔子が入ってきた。多くの人でごった返している入り口付近で大地を見つけられていないのかキョロキョロと辺りを見回していたので、大地は手を上げて翔子に合図をおくると翔子はすぐにそれを見つけて満遍な笑顔で『大地くん、待った?』と手を振りながら大地の横に肩を並べる。翔子のそんな笑顔が大地の胸のなかでギューっとなにかに掴まれる様な感覚を覚えさせる。大地はそんなことを悟られない様に自然と振る舞い
『全然、おれも丁度今来たところなんだよ、やっぱり混んでるよね。1時間ぐらい待つかなぁ?』と翔子に答える。すると翔子も店内の様子を見回し
『ほんと、やっぱりあの2割引のチケットの効果かなぁ、普段そこそこ混んでるけど、ここまで人が並んでることないもんね、しかもまだ木曜日だし。』と店内の何かに視線が釘付けになった様に店内を覗きながら言った。
『そういえば、翔はまだ?』と翔子が大地に言うと。
『いや、おれはてっきり翔子ちゃんと一緒に来るもんだと思ってたけど、、。あいつまさか、お店が混んでるのを見越して俺たちに待たせておいて遅れてくるのかなぁ? そういうところ意外とチャッカリしてるからなぁ』と大地は苦笑いをしながら言うと。
『えぇ〜そうなの?私と二人で居るときはわからないけど、翔ってそんなところあるんだ?』と翔子がちょっと思案している表情になったかと思うと突然なにかを思い出した様な表情になって、
『そうだ、そういえば大地くんこの焼肉私が来るんだったら行くよって言ってくれたんだって?』と大地にはちょっと悪戯っぽい笑顔にみえたのか口を少し尖らせて。
『え、翔そんな余計なこと言ったの? あれは、ほら物の弾みというか、、、売りことばに買いことばと言うか、、、、。』とちょっと気不味そうに言葉を濁すと翔子は続けざまに
『えっ、じゃあ本気じゃなかったんだ、なんだすごく嬉しかったのに、、、。』と残念そうに言う翔子に合わせる様に
『あ、いや、全くの嘘ってわけどもないけど、ほら、男二人よりもやっぱり翔子ちゃんが居た方が華やかになるしさ、、、、。翔子ちゃんと話してると楽しいし。』と取り繕う様に大地が続ける。
『ホントに? ならよかった。じゃぁ今日いっぱい話そうね。』というとニコッと今まで以上の笑顔を大地に投げかけるとそれを見た大地はさらに胸の奥に痛む物を感じながら自分でも精一杯の笑顔で答えた。
『大地くんてそういえば、今彼女とかいないの?』と唐突に質問してくる翔子に戸惑いながらちょっと誤魔化す様に
『そうだなぁ、今はちょっといないかなぁ、、、。』となんとなく答えると翔子はすかさず。
『今はってことは、その前はいたの? いついつ?』とこんな下世話な話が大好きな翔子らしく少しずつ話を掘り下げていく。
『実は、大学に入って1年ぐらいまでは高校の時から付き合ってた彼女が居たんだけど、お互い別々の大学に進んでからはだんだんとすれ違いが多くなったって言うか、、、、連絡を取らなくなって自然消滅的な感じだよね。』大地は少し表情を暗くして話しづらそうに言った。そんな大地の様子を察知したのか翔子は。
『ごめん、なんか聞いちゃいけないこと聞いちゃったみたいで、、、。』と申し訳なさそうに謝る翔子に大地は
『ううん、大丈夫、この際だから聞いてもらおうかな、なんかその方かスッキリする様な気がするし。』とちょっと顔を明るくして翔子にお願いすると、
『ホントに? 無理しないで大丈夫だからね、うん。でも、しゃべっちゃったらスッキリするって言うのも分かるからいいよその時にはちゃんと聞いてあげる。』と翔子はまじまじと大地の顔を覗き込み訴える。
『彼女は経済学科を志望してて俺はもともと理系資質で燃料電池自動車とかに興味があったからお互い別々の進路になったんだ、まぁそこまでは良かったんだけどその彼女が志望する学科に俺の親友も志願することになって二人ともめでたく合格して今同じ学科に通ってるのね。』と大地が途中まで話すと翔子がその結末を悟ったのか
『もしかしてその彼女と大地くんの親友が今付き合ってるの?』と言った後にすぐさま口を押さえる様に
『あ、ごめんちょっと軽率だったね。』慎ましくなる翔子をみて大地は
『大丈夫、実は結論から言うとその通りなんだ。自然消滅って言ったのも実は嘘で、、、、。彼女の話にはよく俺の親友の名前が出てくる様になり、その親友からも実は俺の彼女のことを好きになったって打ち明けられて、、、、。そうしたら俺、彼女にワザと嫌われる様なこと言ったりして身を引いちゃったんだよね。今思うとなんであんなことしたんだろうとと後悔しているけど、、、、。それで俺の親友にも彼女にも連絡がとり難いままになってそれっきりて感じだね。』とちょっと神妙な雰囲気になってしまったのを感じたのか大地はあからさまに声を明るくして
『ごめんね。でも、話してスゴクスッキリした気がする。本当ありがとう。』大地はさっきと同じ笑顔を見せたが目にはわずかに涙が潤んでいるようにも見えた。
『そんなことがあったんだぁ。あ、でも、もしね、私たちの3人の中でなにかあってもワザと嫌わる様にするって言うのは私絶対嫌だからね。そんなことしないでよ。』とちょっと口調を強くいう翔子をなだめる様に
『大丈夫だって、今は翔子ちゃんと翔が付き合っているわけだし、、、。でも、翔子ちゃんにそう言ってもらえるとなんかちょっと、心が救われた気持ちになるね。』大地は言った直後でちょっと翔子への思いが悟られるのではないかと心配したが、翔子はその言葉は元カノへの態度に対する救いだったととらえた様だった。
そんな話をしている間に翔が走ってお店に入ってきて2人を見つけてその間に割り込んで言った。
『ごめんごめん、シャワー浴びてたら急にお湯が出なくなっちゃって、なんでだろうと調べてたら時間かかっちゃった。』すると大地が心配する様に
『大丈夫だったのかよ、原因わかったの』
『おう、なんてことなかった、俺はてっきりガスが来てないのかと思ってガスの方を見てたら、乾燥機とクーラーを同時に付けてたからブレーカーが落ちただけだったよ。』と翔はちょっとおどけた様に話をするとお店の方から
『メグミノ 様 3名様ですね、お待たせいたしました。』と丁度良いタイミングで声がかかった。翔はやはり待ち時間を見繕って遅れてきたのかもしれないが、思ったよりも早くお店へ入れた3人はそれを気にする由もなかった。