カレー談義
流星観測のまえに済ませる腹ごしらえでおこったカレー談義。よく食べる料理でさえ家庭によって違うものとなっていることにちょっと驚く。そんななかで、翔子に時々おこる不思議な現象。果たして流星観測は無事に終わるのでしょうか?
今日の授業がすべて終わり17時を周ろうしている。5月半ばのこの時間、やや赤みがかった少し傾いた日差しが、優しく街並みを包み、建物の影を少しずつ長くしていく。翔と翔子は楽しく弾む様に離れたりくっついたりしている2たつの長さの違う影を落としながら一足先に翔のアパートへと向かう。大学の最寄駅より二つ海に近づいた駅から歩いて5分軽い上り坂を登ったほぼ頂上にあるアパートで、翔の借りている2階の部屋からは遠くに相模湾が見渡せる。翔子はこの部屋からの景色が好きで時々翔の部屋へ遊びにくるのだった。
『大地くん遅いねぇ、料理の先生がこないとなにから手をつけていいかよくわかないんだけど、、。』
『1度家に帰って車を取ってくるって言っていたからなぁ、ちょうど帰宅ラッシュの時間だから渋滞につかまっているのかもな?』大地の家は道が空いていれば翔のアパートからは30分の東側にある実家暮らし、車は父親のクラウンを借りてくる約束であった。
『一先ず、カレーの具の野菜を準備しておくか?俺も手伝うけど、、、、。あれジャガイモって買ってないんだっけ?』
『えっ? カレーにジャガイモ入れる? 私のお母さんが作ってくれるカレーにはジャガイモ入ってないよ?』
『何言っているんだよ、カレーにジャガイモは必須アイテムだろ?あの若干噛み応えが残りつつも噛んだ時にサクッと崩れる硬さが俺の好みなんだけど、メークイーンじゃないとダメなんだよねあれは。』翔はちょっと得意げに。
『うそぉ〜、じゃぁルーはどんな感じ? 我が家のカレーはスープみたいにサラサラでお肉は豚と牛の合挽き肉が入るんだよねぇ。あと入るのは人参が細かく四角く切ったのぐらいかなぁ、すごくシンプルなの。』
『ルーは若干とろみがあるやつだろ、玉ねぎも入らないって? 本当にシンプルなんだなぁ?』とちょっと心配そうに翔子の顔を覗き込みながら言った。
そんなころで、玄関のチャイムの音がなった。大地がようやく到着したようだ。翔がドアを開けて迎えると。大地は入ってくるや否や
『なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。途中まで太陽が出てたけど、南西から雲が迫ってきている。直ぐに過ぎ去ってくれればいいけど。』そんな話を聞いた翔はドアから少し体を乗り出して空の様子を確認した。先ほどは穏やかだった空模様が少し風が出てきたのか雲が少し早く赤みがかった空を流れる。
『ちょっと微妙だなぁ。まぁ考えてもしょうがないからとりあえずカツカレー作ろうぜ。こっちは先生がこなくて何をしていいか分からなかったんだよ。』玄関で靴を脱ごうとしている大地を押し込む様に背中をおして、キッチンへと連れていく。
『先生!遅いよ〜。ねぇねえ、大地くんの家のカレーってどんなの?ジャガイモと玉ねぎって入っている?』翔子は興味津々で大地を凝視する。
『なんだよ突然。うちのカレーかぁ、、。ジャガイモもタマネギも入っているよ。それがどうしたの?』
『いや、翔子の家のカレーがジャガイモも玉ねぎも入らないって言うからカレー論議をしてたんだよ。』と味方が出来た翔はちょっと得意げになって話をすすめた。
『あぁ、ジャガイモは煮込んだ時に溶けて若干味が落ちることもあるから入れないカレーも少ないくないんだよな。玉ねぎも本場のインドカレーはほとんど入ってないんじゃなかぁ?』大地は実家ぐらしてあるものの、父子家庭のために家では料理担当で高校生の妹と、中学生の弟そして父親のためにいつも食事を作っていた。そのうえ凝り性の大地の性格も手伝って料理に関しての薀蓄は飲食店でも直ぐに開けそうなぐらいのレベルになっていた。
『ほらねぇ、別に変な話へじゃないでしょ?今日はうちの特性カレーでカツカレー作るからね。』と翔子も大地を味方にして少し心強くなったのか、ちょっと覗かせていた不安な表情が消えていた。
そんなこんなで、大地が加わったカレー作りは順調にすすむ。すると翔子が突然
『あっ。この光景なんかどこかで見たことある。デジャヴかも?』と脈絡もなく叫ぶ様に言うと大地が、
『デジャヴのほとんどが過去の似たような記憶と状況が重なった時に起こる現象なんだってよ。だから前にこんな状況があったんじゃないか?』と大地が真面目に答えると。
『えぇ。私料理なんてほとんどしたことないし、多分過去にはこんな記憶ないかも?絶対デジャヴだよ。私時々あるんだ、こんなこと。』とちょっとムキになって大地に説明する。
『そうそう、かんな感じで私包丁で野菜切ってたもん。で、翔や大地くんもいたような気がするんだけど、、、。あぁ、でもこの断片的な映像しかないなぁ。なんかちょっと変な感覚。』
『なんだ、気がする、かぁ。そんなことより、早くカツカレー作って食べようぜ。俺スゲー腹減ってきた。』翔が急かす様に二人に言った。
『そんなことってなによぉ。もうあとカツ揚げればいいだけだからもう少し待っててよ。はい、じゃぁコップとスプーンとフォーク、ナイフも要るかなぁ? あ、あとサラダもあるから箸とドレッシングも準備してよね。』
『おぉ、その言い方俺のかあちゃんソックリ。』と翔が驚いた様に言うと。
『嫁になるまえ、”かあちゃん”かぁ なんか尻に惹かれてそうだよねって、既に惹かれてるか。』と大地が茶化すと翔子は無言で勢いよく大地の背中を叩いた。『バシッ』を通り越して『バキッ』という大きな音がして大地が痛みにもがきのたうちまわると翔子は思いの外強く入った平手打ちに自分でも驚いて、慌てて大地に謝る。そんな翔子の仕草が可愛かったのか翔はニタァ〜と気持ち悪い笑みを浮かべながら翔子を見ていた。
そんなこんなで楽しいお食事会は終了して片付けも適当に済ませて流星観測に向かおうとドアを開けてると。
『あ、雨降ってる。』と大地がボソッと言うと。翔子が申し訳なさそうに。
『あぁ、やっぱり私料理しない方が良かったぁ。』
それでも雨の中集合場所へ向かう3人であった。
翔子に起こる現象が、これから徐々にこの物語の主要な要素となっていく。
徐々に深まる謎に時の中に紛れ込んでいる不思議な現象が今後どの様に入り組んでいくかお楽しみに。