ミニマムシュリンク
タイムマシーンて本当に作れるのだろうか?小さい頃からのそんな疑問がもととなり、いろいろとと思いを巡らせていたコトを書こうと思った小説です。確かめることが難しい自然科学での事象について、いろいろな空想を思い巡らせる異次元な感覚。そんな感覚を楽しんでいただければと思います。
『あのさぁ、よくSF映画でいうタイムマシーンって本当に作れると思うか?』と翔が呟いた。
『なんだよ突然。』大地は部室のパイプ椅子に座りながら読む雑誌から目を外すことなく応えた。
二人は明光大学の天文学研究部の部員の2年生、授業の空いている時間に部室で暇をつぶしているところだった。
『俺思ったんだけど、時間を飛び越える以前に、位置の概念を確立しないと無理じゃないかとおもって。』翔もなんとなく眺めていた天文学関連の雑誌をパラパラとめくりながら言った。
『位置の概念?』と突然の何を言い出すのかという感じで視線を翔へ向けて少し驚いたように言った?
『そう、位置の概念。宇宙ってビックバンが発生して以来膨張し続けているんだろう?ってことは、地球だって太陽だって同じ場所に留まっているとは限らない?いやむしろ、動いていると考える方が自然だよね?』
『あっ、あぁ。確かにそう言われるとそうだよな。』大地は胸のポケットからフリスクを取り出し、2粒を口の中に放り込みながら続けた。
『でも、動いていたとしても一定の速度で動いているんじゃないか?だとしたら予測はつくだろう?』
『そう、もし一定速度だとしたらってことだけど、、、その一定速度をどうやって測定するかってことだよ。』
大地は翔の言おうとしていることがよく分からないのか、少し身を乗り出すように会話に集中を始める。
『絶対位置とでも言ったら良いのかな?今の技術では他の天体を観測しての相対速度しか測定できないだろ?地球も太陽の周りを回っているっていうことは分かっているけど、太陽系自体が動いていたら、もっと言えば銀河系の中での太陽系の動きが分かったとしても銀河系が動いていたら、、、、。』大地は翔が言おうとしてることが理解できたのか数回頷きながら見ていた雑誌に視線を戻した。
『つまり、その絶対位置が分からなければ、タイムトリップしたところで行きたい場所にたどり着けないってことか?そう考えると絶対無理な様な気がしてきた。』今度は翔が大地のほうへ視線を向けて言った。
『なんだよ、タイムトリップだけだったら可能かもって思っていたのか?』大地はちょっと意地悪そうな顔つきになった翔の顔を見てちょっとムキになって。
『い、いや。別にそういうつもりじゃないけど、、、。』翔はそんな大地の顔をみてちょっと笑いながら
『俺はそう思ってたけど、、。』と言いながら自分の両足を空いているパイプ椅子の上に組む様に置きながら、少し得意げな顔になりながら言った。さらに翔は続けて
『時間は1方向にしか動いていないと人間には感じないかもしれないけど、実は過去と未来を行ったり来たり振動する様に進んでいるのはと考えてるんだよね。』大地は再び、今度は何を言い出すんだというように再び翔へ視線を移す。
『この自然科学の中で振動はなくてはならないものだろ、音だって空気の振動だし、光や電波も電気と磁気の振動だろ、宇宙のビックバンだって、今は膨張をしているかもしれなけど徐々に膨張は止まり収縮に向かうかもしれないだろう?そして最終的にはビックバンの反対、つまりミニマムシュリンクが起こるかもしれない。』この発言にたいして大地が笑いながら。
『ミニマムシュリンクってなんだよ?なんか話が飛躍しすぎててついていけない行けないぞ』と少し呆れ顔になっていった。
『ミニマムシュリンクって今思いついて言ってみた。要はビッグバンの逆で宇宙の全ての物質が1点に凝縮することだよ、ビッグクランチって本当は言うのかもしれないけど、なんかこっちの方がしっくりくる』と翔も笑いながら続ける。
『ミニマムシュリンク、なんか自分で言っておいてちょっと気に入ったんだけど、、、。流行語大賞にならないかな?』大地は呆れを通り越して、完全にスルーを決め込んで無表情のまま話の続きを待った。翔はそんな大地を気にも留めず続けた。
『つまり、実は時間も過去から未来、未来から過去と振動していて、だけど物理現象自体も振動しているから記憶もなにも残らない。そんな振動の中で時々量子レベルで、もしかしたらもっと大きなレベルでその時間の振動から飛び出すものがあってその現象がデジャブだったり予知だったりそういったものとして現れているんじゃないかなぁって思っているんだけど、、、。どう思う。』大地は虚をつかれたようなポカンとした表情をしながら
『サイファイ(サイエンスフィクション)としては面白い題材かもな?でも現実的にはちょっと考えにくいよ。』
『そうかなぁ、、、。結構良い線いっていると思ったんだけど。』ちょっと残念そうに窓の外を見つめながら言った。
『まぁ、もしそうだとして、じゃぁどうやって立証するか?それが問題だ!』大地はいつも受けている自然科学の授業を担当する大学教授の真似をしてちょっとコミカルにアレンジして言った。
『あっ。真下先生!! 超似てる! やべぇ笑いのツボにはまった!!』と笑いすぎて痛くなった腹を抱えている翔を見て、そんなにウケるとは思っていなかった大地はどんな立ち位置に立ったら良いのか戸惑い強張った表情になり、その表情がさらに翔の笑いを誘ったのだった。
大学生の頃、お金はないけど時間はあったときに、お金がなかったなりにいろいろと楽しんでいた懐かしさも感じていただければと思いました。考えること自体はお金が掛からないので実現できるかどうかは別にしていろいろと語っていた物語、きっとあなたにもあったはずです。