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OFF  作者: 水縞こるり
第二章 扉は、ひらく
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扉を開けよう

 

 美加の口から再び嗚咽がもれた時、左手に持った携帯が幽かな光を放ち始めた。

 チェシャ猫が『虫カゴ』と呼んだ方の携帯だ。

 閉じ込められた瑛太に何かあったのでは……と、美加は怖々としながらも携帯の待受け画面を覗き込んだ。

 

瑛太:

美加ちゃん、聞こえるか? 聞こえていたら返事をしてくれ。


 美加は思わず膝立ちになって画面を食い入るように見つめた。

 画面の中では、さっきと同じようにまっ白い壁を背景にした瑛太の姿が映っている。その画面の下の方に黒い帯のような部分が現れ、文字が打ち出されているのだ。

 入力画面が現れないので、どうやってこちらの返事を伝えていいのかわからず、美加はやみくもにキーを押しまくってみた。

 

瑛太:

美加ちゃん、こっちの声が聞こえていたら頷いてみて。


 瑛太からの新しいメッセージに、美加はコクリと頷いてみせた。


瑛太:

良かった。聞こえてはいるんだね。


「で、でもっ……。瑛太くんの声は聞こえてないの。携帯の画面の中に瑛太くんがしゃべった言葉が文字になってる」


 こちらの声が瑛太に伝わるかどうかわからなかったが、美加は携帯の中の瑛太に話しかけてみた。


瑛太:

そうか……。こっちには美加ちゃんの姿も見えるし、声も聞こえている。だから、さっきのチェシャ猫が言っていたのも全部伝わってるよ。



「……ごめんね、瑛太くん。私のせいでこんなことになっちゃって」



瑛太:

美加ちゃんのせいじゃないよ。気にしなくていい。――それよりも、今はここから出ることを考えよう。チェシャ猫はクエストを進めるように言ってたよね?


「うん」


 再び溢れそうになった涙を手の甲でグッと拭って美加は頷いた。

 大変な状態に陥りながらも冷静に現状に対処しようとしている瑛太に、美加は泣いてばかりいても仕方がないと腹を決めたのだ。



瑛太:

進行が決まっているなら、和也から連絡が来た方の携帯に何か指示が来ているんじゃないかな?確認してみて。



 瑛太に言われ、美加は古い方の携帯を開いてみる。

 画面には古い洋館にあるような、木で出来た重厚そうな扉の写真が映し出されていた。

 そしてその写真の下に、


[ゲームマスター]から通信が届いています

[チェシャ猫]から通信が届いています


 というリンクが貼られている。

 瑛太からはこちらの姿が見えるらしいので、美加は携帯の画面を瑛太の方に向けてみた。



瑛太:

扉を開けて進めってことかな……? 届いている通信にヒントがあるかもしれない。読んでみて。


 美加がリンクを押してみると、『メールボックス』と記された画面に切り替わった。

 受信箱は4つのフォルダに別れているようで、上から順に


住人

パートナー

チーム

管理


 となっていた。 

 届いたメールは、どちらも管理からのメールで管理という文字の横に(2)と言ったようにメールの数が示されている。


 受信箱の他には、『アイテム保管庫』というフォルダがあるだけだった。

 管理のメールフォルダを開くと、通知されていた通り2通のメールが届いていた。美加は、まずゲームマスターからのメールを読みあげてみる。


「アタラクシアへようこそ。このゲームの最終目的は、世界の王である私の元へ辿りつくことにある。世界の各所に散りばめたヒントを元に、見事謁見の間まで来ることが出来たならば、元の世界へ戻る鍵が与えられよう。――恐怖と絶望に震え、私を楽しませてくれることを切に願う」


 メールの本文を読み進めていくうちに、美加の声が次第に小さくなっていった。

 恐怖と絶望の文字が、やっとの思いで前に進もうと決意した美加の気持ちを萎縮させてしまっていた。


「今のがゲームマスターからのメール。次はチェシャ猫からのやつ。――やぁ、ミカ。ぼくからの最初のプレゼントを贈るよ。アイテム保管庫を覗いてみてね」

 

 メールの最後にアイテム保管庫へのリンクが貼られてあったので、美加は迷いもせずにそれを押してみた。


『最初の鍵』がチェシャ猫より送られました。

受取ますか?

YES / NO


「チェシャ猫が鍵を送ってきた。この扉の鍵かな?」


瑛太:

――だと思う。とにかく、まずここから出てみよう。和也から連絡が来るかもしれないし。


 うん、と小さく頷いて、美加はYESのリンクを押してみる。

 

 ぽぅっ……、と美加と携帯の間の空間にテニスボール大のオレンジ色の光が現れ、それは真鍮で出来た古めかしい鍵に姿を変えた。

 空中に浮かぶ鍵を恐る恐る掴んだ途端、美加の前方の闇の中にアタラクシアのサイトに表示されているのと同じ木の扉が現れた。


瑛太:

よし、扉を開けてみよう。



 瑛太の言葉に美加はよろけるようにして立ち上がり、古い方の携帯を閉じポケットの中にねじ込むとゆっくりと扉の方へ向って歩き出した。


「――開けるね」


 左手に持った携帯の中にいる瑛太に目くばせした後、美加は鍵穴に鍵を差し込んだ。

 ゆっくりと扉が開く音と共に、闇の中に光が入り込んでくる。


 それは暗闇に慣れてしまった目には眩しく、美加は目を細め右手を顔の前に掲げて光の束から逃れるように顔をそむけた。

  


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