表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
9/71

第九話 寂しさの代償

♪小さな生命いのちの声を聞く

 せまる不思議の黒い影

 涙の海が怒るとき

 枯れた大地が怒るとき

 終わる果てなき戦いに

 誰かの平和を守るため

 青い光を輝かせ 

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

 真っ暗な部屋の中で佳須美の瞳に映るのはローテーブルの上に散らばるものたちだった。ナイフで三分の一が切り取られたケーキ、高級ワインのボトル、二枚の皿、そして長く赤いろうそくが一本。そのろうそくの炎がテーブルに並べられた二つのグラスに揺らめいている。

 彼女はソファーに身をもたれ壁に掛かった人形で飾られた時計を見つめた。時刻は十一時三十分、間もなく彼女の二十九歳の誕生日が静かに幕を閉じようとしていた。


「おやすみ。今日は楽しかったよ」

 そう言って彼は部屋をあとにした。その言葉は君と永遠にここに留まることはできないという意味だった。彼は自分の家へ帰らなければならない。佳須美もそのことを理解していた。自分は彼のことが好きで愛している。それだけで良い。それが自分の幸せなのだ。


 佳須美はソファーから手を伸ばしワイングラスを手に取る。中に残っていたワインを一気に飲み干した。分かっている、分かっているはずだ。彼は永遠に自分のものにはならない。彼はいつか自分のもとを去っていく。そして自分はまたひとりぼっちになるのだ。

 空になったワイングラスがテーブルに音を立てて置かれた。隣にあるクマのぬいぐるみがケーキのそばで佳須美を見上げている。その円らな瞳が、彼女の心を鋭くえぐる。


「どうしてそんなに我慢しているの?」

 クマのぬいぐるみは変わらず彼女を見上げている。その無垢な瞳が彼女の心に問いかける。

「どうしてそんなに苦しんでいるの。どうして、どうして」

 佳須美はくるりとクマのぬいぐるみを反対に向けた。まるでこれ以上質問するなと言わんばかりに。そのクマのぬいぐるみの横にきらりと光るものがあった。彼のネクタイピンだった。


「忘れ物?」

 佳須美はそのピンを手に取った。どこにでもありそうなピンだが見覚えがある。そう、昨年彼の誕生日に佳須美が贈ったネクタイピン。


 彼は佳須美を喜ばせようとそのピンを身に付けて今日来たのだ。しかしこの部屋に忘れていった。それはまるで自分が彼から忘れ物のようにどこかに置き去りにされたような気分だった。自分もこのネクタイピンのように……

 ろうそくの炎がワイングラスに映り、その横でクマのぬいぐるみが微笑みを浮かべながらその炎をじっと見つめていた。


 ×   ×   ×


「美波、大丈夫か!」

 蒼真が秘書室に勢いよく飛び込んできた。彼女は一言も発さずに神山教授の原稿をパソコンに入力している。


「宇宙人に襲われたんだって」

 蒼真が机を飛び越えんばかりの勢いで彼女のもとへと迫ってきた。

「襲われた?」

 美波のタイプが止まった。

「そう、殺されるかと思った」

 蒼真に一瞥もくれずに美波は淡々と答えた。


「え、何、どういうこと。何されたの、けがは?」

 美波が再びキーボードを叩く。

「どうなの? 仕事してて大丈夫なの」

 蒼真が美波の顔を覗き込む。

「嘘よ」

 キーボードを叩く手を止めずに美波は答えた。


「なんだ、びっくりするじゃないか」

 蒼真が机から離れ、ほっと肩をなでで下ろした。

「一応、心配してくれるんだ」

 そんな蒼真とは対照的に美波は微動だにしない。

「当たり前だろう、仲間なんだから」

 美波の手が止まった。

「そうね」

 三たび美波がパソコンに向かう。


「何怒ってるんだよ」

「別に怒ってないよ」

「そうかなぁ」

「そうよ」

「それにしては態度が冷たいような」

 蒼真が不安そうに眉をひそめる。


「きっと蒼真君が来てくれなかったからじゃない」

「?」

 美波は手元の資料をめくった。

「仕事の邪魔だから出ていって」


 抑揚のない言葉に蒼真はますます困惑した。美波を怒らせているのは一体何なのか。美波を見つめるが彼女は変わらずキーボード、資料、パソコン画面へと目を行き来させている。

「分かった、出ていくよ。でもまた宇宙人が現われたら連絡して」

 美波は何も言わず頷いた。蒼真は渋々部屋をあとにした。


 ×   ×   ×


 森川佳須美が提出する書類を三國は笑顔で受け取った。対照的に佳須美は無表情のまま彼に語りかけた。

「課長、来週の打ち合わせの予定ですが」

「そうだな、木曜日でどうだろう」

「分かりました」

 佳須美はそれ以上何も言わずに席に戻った。


 都内の小さな商社では数十人の社員たちが一つのフロアで仕事をしていた。六月に入り梅雨入りはまだだがどんよりとした雲が空を覆い、窓から薄暗い光が差し込む。事務所も最近の不景気の影響で経費節減が呼びかけられ、いくつかの蛍光灯が消されている。

 佳須美はその薄暗い部屋の中で明るく光るパソコン画面に向かった。その光は彼女の神経を刺激し目を閉じざるを得なかった。脳裏に浮かぶのは三國の笑顔。昨日の誕生日、自分の暗い部屋で見つめ合ったあの瞬間が佳須美の顔に笑みを浮かべさせる。


 彼は言った。「妻とは別れる」と。本当だろうか。信じて良いのだろうか。佳須美は目を開け窓際の三國の席を見た。彼は他の部下と話をしている。その横に置かれた小さな写真立てには三國の娘の写真が入っていた。確か小学三年生だったはずだ。以前見た携帯の待ち受け画面にも彼の娘の笑顔が輝いていた。

 佳須美の心がうずく。三國への思いと娘への罪悪感が交錯する。高揚した感覚は次第に冷めていく。自分は一体何をしているのだろう。どんな幸せを望んでいるのだろう。佳須美は首を強く左右に振り再びパソコン画面に向き合った。再び強い光が彼女の目に飛び込んで来た。


「佳須美さん、明日の会議資料、ここに置いておきますね」

 後輩の林茉奈が佳須美の机に資料を置いた。ハッとした佳須美は茉奈に目を向ける。上の空だったことを悟られないように平静を装おうとする。

「あ、ありがとう」

「いえどういたしまして。ところで資料、紙で用意したんですけど、電子データの方が良かったですか?」


「うんうん、紙の方がありがたいよ」

「そうですか」

 茉奈はお下げ髪を揺らすことなく無表情で淡々と答えた。

「私、少し古いのかな。紙でないといろんなことが頭に入らなくって」

「そうですか」

 佳須美は、茉奈が少し苦手だった。彼女は真面目で仕事も優秀だがどこかとっつきにくいところがある。いわゆる愛想がないのだ。今も表情が少しも変わらない。少しは笑えば良いのに。


「佳須美さん、明日は三國課長と出張でしたっけ?」

「え?」

 いつも余計なことを言わない茉奈の言葉に佳須美は疑問を抱いた。

「違うよ、明日は一人だよ」

「そうですか」


「何かあった?」

「いえ、先ほどお二人で話されていたので」

「あゝ」

 佳須美は「木曜日のことね」と言いかけて口をつぐんだ。そこには混じりけのある嘘が含まれている。決してバレてはいけない嘘が。


「それは別件よ」

 佳須美はできるだけ表情を変えずに茉奈に答えた。

「そうですか」

 茉奈の表情は依然として変わることはなかった。

「では」

 茉奈が一礼をして佳須美から離れていく。佳須美は少しほっとした。何か分からないが心の中を探られている気がしたからだ。


 茉奈が去ったのを見届け、再びパソコンの画面に目を向ける。が、どこかで三國のことが気になって仕方がない。そもそもなぜ三國を好きになったのだろう。かっこいいから? 仕事ができるから? 何かが違う気がする。もともとは上司と部下の関係だったが、誰かの歓迎会の帰りに関係を持ってしまった。それも自分から寄りかかった記憶がある。当時、何かに満たされない心がそうさせたのかもしれない。一体何に満たされていなかったのだろう。その答えは……


 佳須美は大きく息を吐いた。それはこの想いが叶わない、そんな予感がするからだ。本当は三國を愛してもこの気持ちは満たされない、そんな気もする。佳須美は再び首を大きく横に振りパソコンに向かって仕事を再開した。モニタの明るい光が彼女の目に飛び込んでくる。その光は彼女の神経を苛立たせるものだった。


 ×   ×   ×


「なんで怒られたんでしょうね」

 MEC科学班の実験室では数名の白衣を着た隊員たちが新兵器の開発を続けている。その中で蒼真だけが離れたところに座り、机に頬杖をついてふて腐れたように吐き捨てるのだった。

「もっと心配してほしいのよ」

 蒼真の横で触媒の瓶を並べていた彩が蒼真にそう言った。


「心配して慌てて帰ったのに、ですか?」

「女は貪欲なものよ」

「難しいな」

 蒼真は彩が並べた瓶の中から一つを手に取りじっと眺めた。

「フレロビウムも女心も分からないことだらけだ」

 彩は苦笑いを浮かべた。


「蒼真君にはまだまだ勉強が足りなさそうね」

「どっかに教科書ないですか?」

「ないわね」

「そうですか」

 蒼真が深いため息を吐くと彩が笑いながら蒼真の横の席に腰を下ろした。


「でもね、美波ちゃんが会った宇宙人って、私が会った男と特徴が似ている気がするの」

「それって、芦名さんも会ったことがある男のことですか?」

「えゝ、そう」

 蒼真が首を傾げる。


「でも、そうだとしたら彼の狙いは何なんでしょうね?」

「美波ちゃんはその男から何を言われたの?」

「詳しくは美波から聞けてないんですよね」

「例えば何かもらったとか」

「うーん、そこも聞けてないんですよね」

 蒼真は腕を組み軽く首を横に振った。


「そういう意味では彩さんは何を言われたんですか? 例の地球を守るために、以外に」

「それは……」

 彩が言葉を濁すと蒼真はやや不信に思いながらもそれ以上追及しなかった。きっと自分には話したくないことを黒衣の男に言われたのだろう。聞くべきかどうか悩んだ末にやめた。

 彩はポケットからルビー色の石を取り出した。


「何ですかそれ、すごく綺麗ですけど」

「あゝ、ちょっとしたお守りみたいなもので」

 彩がルビー色の石を見ると、その表情が徐々に優しくなっていった。なぜ急にこの石を取り出したのか、なぜ表情が優しくなったのか、蒼真には分からなかったが、そのときは深く気に留めることはなかった。


 ×   ×   ×


「お父さん、お父さん、どこ行くの。お父さん、待って、置いていかないで」

 男の背中が次第に遠ざかっていく。少女はその姿を追いかけ続けた。

「待って、待ってお父さん」

 佳須美はハッとして目を覚ました。それは嫌な夢だった。子供の頃の記憶が甦ってきたのだ。


 佳須美は時計を見る。午前三時。ベッドを離れ、暗いキッチンへと向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。寝汗と同じように汗をかいたペットボトルの結露を拭き取ることなく、彼女は一気にその水を飲み干した。

「どうして? 何故なの?」

 そう佳須美が呟いた。


「苦しい……」

 佳須美はペットボトルを冷蔵庫に戻しベッドに腰を下ろした。深いため息をつき目を閉じると、一人の男の姿が脳裏に浮かぶ。それは自分を捨てた父だった。

 父が他の女を作り自分たちから離れていったのは佳須美が小学校二年生のときのことだった。それまで優しかった父がなぜ自分を置いて出ていったのか、幼い佳須美には理解できるはずもなかった。


 後日、母から父の行動の理由を聞かされた。父は会社の部下であった女性と関係を持ち、その結果として母との仲が拗れてしまったのだ。そしてその関係が明るみに出ると、父は会社を辞めざるを得なくなったという。出ていった父がその女性と結ばれたのか、それとも別れたのかは知らなかったし、知りたいとも思わなかった。ただ、父に置いていかれた自分が哀れで可哀そうな存在であることだけが心に深く刻まれていた。


「なんでそんな自分が、なんで不倫なんか……」

 佳須美は心の中で呟いた。

「それは寂しいからだよ」

 甲高い子供のような声が聞こえた。佳須美は辺りを見回したが誰もいない。

「誰!」

「佳須美は寂しがり屋だからね」


 佳須美は声のした方向に目をやる。薄暗いリビングの中央にあるソファーの上にちんまりと座っているクマのぬいぐるみが目に入った。明かりも付けずに佳須美はそのぬいぐるみに近づき抱き上げる。クマの黒い目が彼女をまっすぐに見つめその瞳はまるで彼女の心に語りかけているかのようだった。

「佳須美は誰かと一緒にいたいんだよ。それも年上の男の人と」

「そんな、私はただ仕事ができる上司に恋をしているだけ」

 佳須美は心の中でクマに反論する。


「そうかな。僕には分かるよ。佳須美は彼を愛していない。ただそばにいてほしいだけ。自分に触れていてほしいだけ」

「違う、私は彼を心から愛している。だから……」

「じゃぁ、なぜ彼の幸せを考えない?」

「……」

 佳須美は言葉が喉に詰まる。彼の幸せ、それは。

「佳須美も気付いているはず、彼は娘を愛している」

 佳須美は、ふと三國の携帯の待ち受け画面を思い出した。そう、彼は……


「彼の幸せは佳須美、君にあるんじゃない、娘にある」

 佳須美はくまの言葉に息を呑んだ。

「彼を愛しているなら、彼の幸せを願うはず。彼の幸せは娘の幸せ。そのことは佳須美にも分かっているはずだよ」

「そんなことは分かっているわ。でもね、でも……」


 佳須美の目から一粒の涙が零れ落ちた。彼女はその涙を拭うことなくただじっとその場に立ち尽くしていた。その瞬間、三國の携帯の待ち受け画面が頭に浮かんだ。その画面には、三國の娘の笑顔が映っていたのだ。佳須美の心には、さまざまな感情が渦巻いていた。どうして自分はこんなにも悩まなければならないのか、そんな問いが再び彼女の胸に去来する。


「でも離れたくないの。置いていかれたくないの。ひとりぼっちは嫌なの」

「佳須美の心の傷、治らないからね」

「誰かにそばにいてほしい……」

「佳須美は寂しがり屋さんだからね」

 佳須美はクマのぬいぐるみをそっと抱きしめた。その柔らかさと温もりが、わずかに彼女の心を和らげた。


「でも、彼も佳須美のそばにいつまでいられるか分からないよ」

「え、」

 佳須美はクマのぬいぐるみを顔の前まで抱き上げその黒い瞳をじっと凝視した。

「だって、彼にも都合があるからね」

「それはそうだけど……」

「だからまた佳須美が傷つきそうで、僕はこわい」

「……」

 佳須美の胸に痛みが走った。彼がいつも自分のそばにいてくれるとは限らない。また父のように自分を置いていくかもしれないという不安が頭をよぎる。


「もし彼が離れていったとき、そのときどうしようもなく苦しくなったら、僕の横に置いてある麻袋を開いてみて」

 佳須美はクマの横に置かれた古びた麻袋に気付いた。誰が置いたのだろう。さっきまでここにはなかったはずだ。しかしそんなこと今は重要ではない。クマの言葉に頷いた彼女は、この苦しさが晴れるのならば、いつでもこの麻袋を開けようと思った。その思いが心を少し軽くした。


「ありがとう」

 無表情であるはずのクマのぬいぐるみが微笑んだように見えた。佳須美はゆっくりとクマのぬいぐるみを抱き寄せ、安心してソファーに横たわると、そのまま眠りに落ちていった。


 ×   ×   ×


 子供たちが坂の上から駆け下りてくる。周囲の新しい家々がこの街の若さを映し出している。ついこの前まで田んぼが広がっていた場所が一変して街になった、と道を尋ねた老婆が言っていた。佳須美はそんな情報を捨て去りまっすぐに目指す家に向かう。


 日曜の昼下がり。季節は春から初夏へと向かい、太陽の光が徐々に強くなっている。ここ最近続いていたどんよりとした天気とは打って変わり、久々に眩しい光が降り注いでいた。

 まぶしい光の中、佳須美は大きなつばの帽子とサングラスを着けていた。それは決して日差しが強いからだけではなかった。彼女は人を避けるようにして続く白壁の家々を抜けていく。彼女の頭上でカラスたちが騒がしく飛び去っていった。


 佳須美の目に「三國」と書かれた表札が見えた。周囲と同じ白壁の二階建ての建物。小さな庭には芝生が青々と茂り庭先には植木鉢が一つ。「ホウセンカ」と書かれた札が刺さっておりその文字から子供が書いたものだと想像できた。理科の教材なのだろう。佳須美の脳裏に三國の携帯の待ち受け画面に映る笑顔が浮かんだ。


「お父さん、早く!」

 突然、女の子の声が響く。その声に慌てて佳須美は電信柱の陰に隠れた。家の中から小学生くらいの女の子が出てきてその手が誰かの手を引いている。やがて家の中から、その手を引かれた三國が姿を現した。

「ほら、見て、芽が出たよ」

 女の子は先ほど佳須美が眺めていた植木鉢を指さした。三國もその場に跪き植木鉢を見つめる。


「へぇ、よかったね。向日葵が毎日水をやっていたから、そのおかげだね」

 向日葵、佳須美は娘の名前を知らない。三國は佳須美に決して自らの家族の話をしなかった。

「私、偉い?」

「うん、偉い、偉い」


 その言葉に三國が嬉しそうに目を細める。その様子は離れたここからでもはっきりと確認できる。微笑ましい光景を見る佳須美の心が臍を噛むように痛む。自分が味わえなかった父との触れ合いをこの子は感じているのだ。自分には叶えられなかった幸せが、そこに広がっている。


「ねぇ、ねぇ、お母さんも来て」

 女の子が再び家に入っていった。しばらくして彼女は一人の女性を連れて出てきた。三國の奥さんなのだろう。一児の母とは思えないほど美しい女性だった。

「まぁ、ほんと。芽が出たのね」

 その女性の声は優しさに溢れていた。これが幸せな家族、その母親の声なのか。佳須美はいつも母から怒鳴られていたことを思い出す。


「しっかりしなさい」

「自分一人で頑張りなさい」

 母の言葉に何度も傷つき、自分が一人であることを何度感じたことか。しかし目の前の家族にはそんな苦しみはない。三國が妻に笑いかけた。妻も笑う。娘も……

「嘘つき」

 佳須美は期待していなかった。


「妻とは別れる、心配するな」

 彼のその言葉が耳に残っている。どこかで信じたかったし、いつかはと思いたかった。しかしそれが叶わないことはこの情景から一目瞭然だった。確かにどこかで諦めていた、嘘だと気付いていた。それでもここまであからさまに見せつけられると佳須美の心に怒りが湧いてくるのだった。

「私一人が除け者? 結局ひとりぼっち」

 目の前の光景を見れば見るほど胸が痛い。苦しい……

 佳須美はスカートのポケットに手を入れるとあの麻袋が手に触れた。ゆっくりと取り出しじっと見つめる。


「どうしようもなく苦しくなったら、これを開いて」

 クマの声が聞こえる。少し麻袋を開いたそのとき、目の前を三人の男の子たちが走ってきた。佳須美はハッとして手を止めた。

「やーい。お前のかぁちゃんん出べそ!」

「何を、お前のかぁちゃんも出べそ!」


 男の子たちが走り抜けたあと、袋から煙のようなものが立ち上がった。佳須美は慌てて袋を閉じるがその煙は袋から出て天高く昇っていく。カラスの鳴き声が佳須美の耳に届いた。

「またカラスが増えてきたな」

「ほんと嫌ね」

 三國とその妻の会話が聞こえる。

「さぁ、家に入りましょう」

 三國の妻の声に

「はぁい」

 女の子が元気な声で答える。


 三人がゆっくりと玄関に回って家に入っていく。佳須美はその光景を茫然と見送る。何か恐ろしいことをしようとしたような気がして彼女は身震いをした。それが何なのか分からない。でも……

 言いようのない恐怖が急速に彼女を包み込んでいった。


 ×   ×   ×


「怪鳥が飛来したのはこの辺りですか?」

 田所が小洒落た服を着たおばさんに問いかけた。おばさんは怯えた表情で少し震えながら空を指さした。

「あ、あの辺り、あそこに大きくて凶暴なカラスが」

 おばさんの耳に飾られた高価そうな真珠のイヤリングが小刻みに揺れている。田所は振り返り空を見上げた。そこには晴れ渡る空に白い雲が浮かんでいる。


 その空の下、白壁の家が並ぶ住宅街で蒼真が検知器をかざしながら調査を進めていた。いつも通り、電信柱や家の壁、側溝、そして道端に落ちているゴミにまでひたすら検知器をかざしている。

 三上がMECピンシャーに乗り込み本部と連絡を取っている。

「怪鳥が現われたのは住宅街のど真ん中のようです。目撃者の話では体長二メートル程度のカラス。襲われたのは近所に住む三國俊郎さん、かなりの傷で病院に搬送されましたが意識不明のようです。駆けつけた警官が発砲しましたがカラスに傷一つ付けられずに空に飛び立ったようです」


『他に被害者は?』

 無線から吉野隊長の声が響いた。

「いません。三國さん一人です」

『何か、被害者に特徴は?』

「特にこれと言って」

 三上が手元のモバイルに三國の写真を映し出した。


「三國さんは、都内の商社に勤めていて、家族は妻と娘、襲われたのは自宅の目の前です」

『心当たりは?』

「奥さんの話では思い当たることはないようです」

『と言うことは通り魔的な犯行と言うことか』

「そうなります」


 三上がそこまで報告を終えたとき、蒼真は三國宅の向かいにある電信柱の前に立っていた。彼は道路を挟んで三國宅をじっと見つめていた。

「やっぱり、ここが一番反応強い」

 電信柱の位置から三國宅の庭がよく見えた。

「通り魔と言うより狙われた。そんな気がするけどな」

 蒼真が辺りを見回すと閑静な住宅街には事件が起こった雰囲気など感じられない。建物に損傷は見られず人通りも少ない。しかも怪鳥が現われた時間は子供たちも外で遊んでいたと言う。


「カラスが餌を狙っていたんだったら間違いなく子供を狙う。破壊目的ならこんなに住宅地が無傷ではいられない。おそらく怪鳥は三國さんのみを狙ったんだ」

 蒼真が再び辺りを見回したとき、ハッとして装置を落としそうになった。彼の目の前にお下げ髪の女性が立っていた。

「MECの方ですか?」

「はぁ」

 女性は無表情のまま蒼真に近づいてくる。


「実は、事件があったとき、この辺では見かけない女性を現場で目撃したので」

 女性は淡々と蒼真に語り掛けた。

「それはどんな人物でしたか?」

「つばの広い帽子にサングラス、今あなたの立っている電信柱のそばで向かいのお宅を伺っていました」

「それは……」


 蒼真が推理する状況にその怪しい女はぴったりと当てはまる。しかしなぜ目の前の女性はそのことを知っているのだろう。たまたま通りがかったにしては目撃情報があまりにも的確すぎる。

「あなたは?」

「私は通りすがりの人間です」

「それにしては……」

 蒼真がその言葉を言い終わる前に彼女は一礼をし、その場を立ち去ろうとした。

「あ、すみません。お名前は?」

 女性は振り返ることなくまっすぐに歩いていき、やがて角を曲がった。


「あのー」

 蒼真は慌ててあとを追った。しかし、角を曲がったときには、あの女性の姿はもうなかった。蒼真は辺りを見回すと、白壁の住宅が並んでいるだけだった。

「怪しい」

 彼がさらに彼女を探そうとしたその瞬間、

「蒼真君!」

 後ろから三上の声が聞こえた。蒼真が振り返ると、

「隊長がフレロビウムの反応結果を知りたいそうだ」

「はぁ」


 蒼真は女性の行方に後ろ髪を引かれながらもピンシャーへ向かった。助手席に座り通信機を手に取った。

「蒼真です」

『吉野だ、蒼真君、フレロビウムの反応はどうだった』

「反応は確認できました。ただしいつもより微量です」

『とすると怪獣は今までと同じタイプか、反応が微量なことと、襲った怪鳥が小ぶりだと言うことで相関が取れると言うことか』

「恐らく、あと、反応が一番出るのが襲われた三國さん宅の向かいの電信柱です」

『狙われたと言うことか?』


「正直分かりませんが、その可能性は高いと思います」

『蒼真君の割には憶測に近い話のような気がするが、それ以外に何かあったのか?』

「事件と関係あるかどうか分かりませんが、若い女性が、この界隈で見たことのないサングラスをかけて、つばの大きな帽子をかぶる女性を見たそうです」

『ほう、それでサングラスの女が三國さんを狙ったと?』

「そこまで聞けていないのですが、その情報をくれた女性も姿を消しました」

『姿を?』

「はい、あとを追ったのですが、角を曲がった直後姿を消しました」


『うーん』

 吉野隊長もこの蒼真の情報をどう処理するか悩んでいるようだった。

『確かに不自然だが、我々MECの任務は怪獣殲滅だ。蒼真君はこの事件の捜査に当たっている警視庁の捜査官にその情報を伝えてくれ。彼らに捜査してもらおう』


 蒼真としては明らかに自分に対するメッセージである女性の言葉が気になり、吉野隊長の指示に不満が残るところだった。しかし、「自らの職務権限とは違う」という言葉も理解できる。蒼真は息を整え答えた。

「分かりました。警察に連絡をしておきます」

 ここまで話が進んだとき、無線から別の声が聞こえた。


『こちらスカイカイト、芦名です。上空でも微量ですがフレロビウムの反応があります。これから巡回して反応の強く出る方向を追尾します』

『吉野だ、了解した。続けて捜査してくれ』

『了解』

 芦名の力強い声が返ってきた。


「芦名さん、小さいとは言え怪獣です。気を付けて」

『ありがとう、蒼真君。気を付けるよ』

 芦名の無線はそこまでだった。吉野隊長からの追加の質問はなさそうだ。

 蒼真はピンシャーを降りて辺りを見回す。しかしあのお下げの女性の姿はもうなかった。だが彼の中で確信できるものがある。たとえそれが憶測と言われようと、何かがあると感じたのだった。


 ×   ×   ×


「森川佳須美さんですね」

 背の高い男は佳須美の目の前に警察手帳を示した。

 金曜日の夕刻、仕事を終えた社員たちが近くの駅へ向かう時間帯。佳須美が勤める商社のビルのエントランスを出たところで二人の中年の男に呼び止められた。


「はぁ」

 佳須美はなぜ呼び止められたのかと驚く一方で、あのことかもという思いが心の中で交差した。

「日曜日のことをお伺いしたいのですが」

「はぁ」

 佳須美は確信した。それは三國が日曜日に何者かに襲われ重体となった件に違いないと。

「今週の日曜日、昼ごろどこにいらっしゃいましたか?」

「覚えていません」

 佳須美はしらを切った。


「あなたを見たと言う方がいらっしゃいまして」

「どこで、ですか?」

「あなたの上司である三國さんの家の近所で」

「そう言えば」

 佳須美は刑事の目を鋭く睨みつけた。


「あの日、少し時間があったんで街をぶらぶらしていてんです。そう言えばこの辺りが課長のご自宅がる辺りかと思って、ちょっと寄り道して住宅街を歩いた記憶があります」

「ほう」

 片方の年配の刑事が頷いた。その後、もう一人の刑事がメモを見る。


「あなた、三國課長と関係がありますね」

「?」

 佳須美は動揺を見せないように平静を保つことに努めた。彼女はその刑事の顔を睨みつける。

「まぁまぁ」

 もう片側の年配刑事が割って入った。


「いえいえ、噂で聞いたんですよ、あなたのまわりの人から」

「でも、あなたの隅マンションで何度も三國課長らしき人が目撃されています」

 背の高い刑事がだめを押す。

「それは何かの間違いかと。私は三國さんを上司として尊敬していますが、それ以上の感情はありません」


 佳須美はできるだけ抑揚なく答えた。感情を込めれば、彼との関係が露呈してしまう。それだけは何としてでも回避したい。

 年配の刑事が頭を掻きながら、

「そうですか。あなたが三國課長をどう思っていたかはともかくとして、彼が重傷を負い、その近くにあなたがいたことだけは確かなようですね」

「でも、三國課長を襲ったのは大きなカラスと聞いています。私はそんなカラス知らないし、手なずけもできません」

「確かに」

 年配の刑事が頷く。


「まぁ、その辺はMECに任すとして、彼が怪鳥に襲われる動悸を我々は知りたいのですが」

「たまたまじゃ、ないんですか。怪獣が彼を狙った証拠でも」

 もう一人の背の高い刑事が手帳を見ながら話し始めた。

「あの日、三國宅の道を挟んだ電信柱から、怪獣の痕跡が一番顕著に検出されたそうです」

 佳須美の目が宙を見る。


「まぁ、今はこれぐらいの情報しかありません、またお話を聞かせてください」

 男たちはそう言うと佳須美から離れていった。彼女は少し肩の力を抜いた。

 今週の月曜日、佳須美は三國が出社していないことに気付いていた。何かあったのか、あの霧のようなものが何かしたのか、不安が彼女の心に渦巻いた。その不安は的中した。三國は何者かに襲われ、重傷を負った。


 それが佳須美のせいなのかは分からない。ただ彼は会社に来なくなった。聞くところによればかなり重体で命の危険もあると言う。しかし佳須美はその話を聞いても心に引っかかるものがなかった。彼を愛しているはずなのに、彼がいなくなることは佳須美にとっても嬉しくないことなのに。


 不思議と彼女の心には何も響かなかった。彼が自分を裏切っていたからという簡単な話ではない。それが事実ならもっとスッキリした感情が芽生えるはずだ。しかしそんな感情も湧いてこない。普通なのだ。彼が死のうが生きようが、佳須美の心に何かが生まれるわけではない。なぜだろうか? 自分でも不思議だった。それを逆算して考えると、つまり佳須美は三國を愛していなかった。それ以外に答えが見つからない。さっきの刑事の質問に冷静に答えられたのもそのためだ。本当に愛しているならば、もっと動揺し彼らの質問にしどろもどろに回答し不信感を招いたと思う。


 彼女はビルを出た。外は夕刻、夕日が今にも沈もうとしている。佳須美は昼と夜の境界線に立っていた。

「そうよね、私は彼を愛していなかったんだわ」

 彼女がぽつりと囁いたとき、

「そうね、佳須美さんは三國課長を愛していなかった」

 ハッとして振り向くと、そこには茉奈が真っすぐ彼女を見据えていた。

「佳須美さんは自分の寂しさを埋めるために三國課長を誘った」

「それは……」

 反論しようとする佳須美の心を見透かすかのように茉奈が鋭く睨みつけた。


「私は違う。私は心から三國課長を愛していた」

「?」

 佳須美の耳には想像もしなかった言葉が飛び込んできた。無表情で真面目一徹の茉奈が一体何を言っているのか?

「私は三國課長を好きだった。だから彼の誘いにも乗った。でも彼には愛する娘がいる。そのことは私にとって心が痛んだ」

 佳須美の心は混乱した。三國は茉奈をも誘っていた。自分以外にも女を作っていたなんて。茉奈はそんな動揺した佳須美を無視するように話を進める。


「私は小さいときに父親と離れた。離婚した父親に置いていかれた。だから三國課長のような年上に惹かれた。でも彼には娘がいる、自分と同じ思いをさせたくない。だから身を引いたのに、でも佳須美さんは違った。自分の欲望に正直だった。だから三國課長は……」

 佳須美は視線を茉奈に移した。そうだったのか、茉奈も自分と同じ思いを抱えていたのだ。知らなかった。しかも彼女の方が自分よりも苦しんでいた。


「茉奈、ごめん、知らなかった。あなたが私と同じような思いをしていたなんて」

 茉奈の目が変わらず鋭く佳須美を睨みつける。

「謝って済むことじゃないです。残された娘さんは、あなたや私と同じ思いをするのです。負の連鎖、これは私たちの罪です。だから私たちは罪を償わなければなりません」

 茉奈の姿に赤い炎が重なる。その光景に佳須美は恐怖であとずさりした。


「さぁ、行きましょう。私と地獄へ」

 そのときどこからともなく巨大なカラスが現われた。そして茉奈を包み込むように纏わりつく。

「いや!」

 佳須美は恐怖で体が硬直した。カラスと一体になった茉奈が佳須美に近づいてくる。

「やめて、私はまだ生きたいの!」

 佳須美はとっさにポケットにあった麻袋を茉奈に投げつけた。袋が開く。その中から霧状のものが噴き出し、茉奈とカラスを包み込んでいった。


 ×   ×   ×


「逃げろ!」

「怪獣だ!」

 夕刻のビル街に叫び声が響き渡った。仕事帰りのサラリーマンたちが上空を見上げると、巨大化したカラス、クロウザがビル群の上空を旋回していた。やがてその黒い影は超高層ビルの屋上へと飛来した。


「隊長、攻撃させてください」

 芦名の声が無線を通して響いた。彼の搭乗するスカイタイガがクロウザの目の前を通過した。

「ダメだ。ビルの中にいる人間の避難が先だ。必要以上に刺激するな」

 無線から聞こえる吉野の指示に、

「仕方がない」

 芦名はできるだけ遠くを旋回した。しかしそんなスカイタイガが目障りだったのか、クロウザが飛び立った。


「ガァー」

 明らかにクロウザはスカイタイガに攻撃を仕掛けようとしている。

「しめた」

 芦名はクロウザを引きつけ東京湾の方向へ向かった。クロウザは芦名機を追撃する。海にたどり着いたとき芦名は反転してクロウザに攻撃を加えた。

 クロウザは怒り口から怪光線を吐き出す。それが芦名機に命中。


「くそ!」

 芦名機はそのまま海上に不時着した。クロウザは勝ち誇ったかのように鳴き声を上げた。彼女が元の方向へ戻ろうとしたとき、飛んできた青い影がクロウザを抱きかかえ、そのまま二つの影が落下して海中に沈んだ。


 先に海上に現われたのはクロウザだった。だが羽が海水で濡れ飛び上がることができない。そこにもう一つの影、ネイビージャイアントが海から空へ飛び立った。海上で暴れるクロウザを上空から見つめるネイビー。クロウザも怪光線でネイビーを狙う。不意を突かれたネイビーに光線が命中、再び海上に落下した。


 クロウザが飛び上がり海上のネイビーを狙い撃つ。ネイビーが海中に沈む。そして海中からクロウザを見上げた。夕刻に染まった海水がゆらゆらと揺れている。その先、光線を吐くクロウザの嘴の奥に赤い光が見える。ネイビーが海中から左手を差し出し、その手から青い光線が波を切り裂いてクロウザの嘴を捕えた。


「ガァー」

 クロウザは海に墜落し波間で羽をばたつかせながら天に向かって怪光線を吐く。しかしその光は次第に弱まりやがてクロウザの体も消えていった。


 ×   ×   ×


 佳須美は真っ暗な部屋にろうそくを立てた。ローテーブルにはワインボトルとグラスが二つ。彼女はソファーにもたれかかる。ろうそくの火がグラスに映り、部屋を柔らかく照らしている。

 三國はあのまま意識が戻らなかった。茉奈もあの怪獣騒ぎで行方不明になった。あの二人を死に追いやったのは私なのだろうか。


 茉奈が三國と関係があったなんて知らなかった。彼女も私と同じだったのだろうか。彼女も父親に置き去りにされたと言っていた。ふと自分の父親を思い出す。あの優しかった笑顔、それが……

「寂しい」

 佳須美はソファーの上、そこにいたクマのぬいぐるみを見つめた。クマは何も語らない。

 茉奈が言っていた。


「三國の娘に同じ思いをさせたくない」

 確かに三國の娘は置き去りにされることはなかった。だが父親がいなくなったことは自分と変わらない。彼女もひとりぼっち。これから自分と同じ寂しい思いを抱え生きていく。もしかすると自分と同じ過ちを犯すかもしれない。三國の娘、茉奈、そして自分、同じ思いの女性たち、みんな三國に置いていかれた。


 しかしそれぞれの運命は違った。それはわずかな差。本当なら自分も茉奈と同じ運命をたどっていたとしても不思議ではない。しかし一つ言えることは今この部屋に自分一人。そう、またひとりぼっち。

「寂しい」

 再び同じ言葉が佳須美の口から漏れた。


「佳須美は寂しがり屋だからね。誰かと一緒にいたいんだよ。それも年上の男の人と」

 クマの声が聞こえた気がして慌ててソファーの方を見る。しかしぬいぐるみのクマはいつも通り円らな瞳で遠くを見つめているだけだ。

「気のせいか……」

 佳須美はグラスにワインを注ぎ一気に飲み干した。

 そのときチャイムが鳴り佳須美は慌てて玄関に向かう。扉を開けると、


「こんばんは」

 そこには中年の紳士が花束を持って立っていた。佳須美の表情が柔らかくなる。

「今日はお招きいただき感激です」

 男は佳須美に微笑みかける。佳須美も笑みを浮かべながら、


「どうぞ、真壁課長。お待ちしてました」

 佳須美は三國の後任の真壁課長を部屋に上げた。二人の様子をソファーから、ぬいぐるみのクマの目がじっと見つめていた。

《予告》

美波と蒼真が新婚の同窓生、理沙に出会う。幸せなはずの彼女に違和感を覚える蒼真。そんな彼女は夫を信じ、自らの選択が正しいと心に思う。そんな彼女に災いが。次回ネイビージャイアント「選択の結果」お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ