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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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第八話 スクープ、謎の飛行物体

♪小さな生命いのちの声を聞く

 せまる不思議の黒い影

 涙の海が怒るとき

 枯れた大地が怒るとき

 終わる果てなき戦いに

 誰かの平和を守るため

 青い光を輝かせ 

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

「もう、俺なんか放っておいて別の男を探した方が良いんじゃないか」

 トロンボーンの低い音が店内に響き渡る。薄暗いバーのカウンターには三人の客が座っている。一人は中年の男で、流れるジャズに耳を傾けながら心地よくウイスキーのロックを味わっている。その男の隣にはカップルが寄り添い合って座っていた。


「あなたは私のこと嫌いになったの?」

 女性が叫び声をあげた。その声に心地よい雰囲気が乱され焦げ茶色のグラスを持った男は別の場所へと移動した。カウンターに残されたカップルは周囲を気にせず話を続けている。女性は春めいた薄手のブラウスを着ているのに対し男性は春にもかかわらず厚めのジャンパーを羽織っていた。男性はその右腕に一眼レフのカメラをしっかりと抱え片時も手放さなかった。


「嫌いとかそう言うのじゃなくて」

 亮介は面倒くさそうに頭を掻きながら渚に答える。その表情は無精髭のせいではなく、明らかに精気が薄れていた。

「じゃぁ、どういう意味よ」

「俺より、もっと良い男、世の中にはいっぱいいるってこと」

 亮介はウイスキーのソーダ割を一気に飲み干した。そしてグラスをテーブルに置くと氷がぶつかる音とグラスがテーブルに当たる音が同時に店内に響き渡った。


「この前も成田がお前のこと、口説いてただろう」

「え、あゝ、あれはいつものこと。成田さん、誰でも彼でも声をかけてるのよ」

 渚が笑みを浮かべるが、亮介の表情は依然として冴えないままだった。


「あいつ、去年の水里勝雪賞を取ったから、今年本格的に小説家に転身するらしい。東京へ行って華々しい活躍するんだって息巻いてるぞ」


「それも聞いたよ、有名になるんだって、ちょっと夢見すぎじゃぁない?」

「でも、東京で有名になって、印税もごっそり入れば、ここで貧乏な暮らしをするよりいいじゃないか」

「なにやっかんでるの。成田さんは成田さん。亮ちゃんは亮ちゃんでしょう」


「しがない三流雑誌のカメラマンとここで暮らすより、将来楽に暮らせるかも知れないんだぜ」

「どうしたの、いつもピューリッアァー賞、取るんだって意気込んでたじゃない」

「そんなの取れるわけないだろう」


 亮介は怒りに震えながらテーブルを叩いた。その音に驚いた客たちが一斉に彼の方を見る。渚は恥ずかしそうに周囲に謝罪の言葉を投げかけたが、誰も彼女に返事をしなかった。客たちはすぐに自分たちの飲み物に興味を戻し、静かに口をつける。亮介と渚の間には重苦しい空気が漂っていた。


「どうしたの? いつもの亮ちゃんらしくないよ」

「こんな三流雑誌で、デマ情報を流してなにがピューリッツァー賞だ。もう終わってんだよ」

 亮介が残っていたソーダ割を一機に飲み干す。


「マスター、お代わり」

 亮介の投げやりな態度に眉をひそめていた渚が彼の顔を下からのぞき込んだ。

「もしかして、例の写真のこと?」


「俺が取ったUFOの写真、偽物扱いされたんだ。編集長をはじめ全員に、だ。よくできた合成写真だと。あれは本物なんだ。俺は真実を撮ったのに」

 マスターはマドラーを新しいものに取り替え、その上にウイスキーのソーダ割を静かに置いた。


「私、亮ちゃんが嘘つくなんて思ってないよ」

 その言葉に亮介が反応し渚を鋭く睨みつけた。

「お前はあの写真、本物だと信じるって言うのか」


「うん」

 渚の笑顔に亮介は顔をそむけた。

「成田がお前を口説いているとき、あの写真の話になって、あれ偽物だよな、って話しかけられて、そのときお前、笑ってたらしいな」


「だれがそんなことを」

 渚の目が見開いた。亮介はまだ渚の方を向いていない。

「誰でもいいだろう、本当に俺を信じてたら普通反論するだろう。あの写真お前だって信じちゃいないんだ」

 渚は強く首を横に振り、その毛先が亮介の顔をかすめた。


「違うの、あれは写真を笑ったんじゃなくて、しつこく言い寄ってくる成田さんにあきれただけなの」

 渚が上目使いで亮介を覗き込むが亮介は依然としてそっぽを向いたままだった。

「信じられるか、そんな話」

 亮介はカメラを強く握りしめ立ち上がる。


「お前は俺なんかより成田と結婚して幸せになればいい。俺なんかと付き合う方が不幸になる」

「そんなことないよ」

 亮介は渚の声を無視し出口へと歩みを進めた。

「俺のことは放っておいてくれ」

 渚は何も言わず亮介が出ていくのを静かに見送った。店内には変わらずトロンボーンの低い音色が響き渡っていた。


 ×   ×   ×


「もう、蒼真なんかほっといて俺と付き合った方が良いんじゃないか?」

 秘書室で書類を整理している美波に八尾が声をかけた。

「しつこい、私は八尾君と付き合う気はないし、そもそも蒼真君と付き合ってない」

 美波は書類を小脇に抱え机の上の資料を整理しながら無表情で答える。いつも通り机に腰掛けニヤつきながら八尾が美波を覗き込んだ。


「怪獣ばっかり追いかけてる男のどこがいいんだ。それより今日、合コンがあるんだ、行こうよ。結構いい男が揃ってるぜ」

「行きません!」

 美波は分厚い書類を机に置いた。バンと大きな音が秘書室に響き渡った。


「そもそも怪獣は生物学にとって貴重な存在、私たちとしても研究対象にすべきだと神山先生は考えていらっしゃって、蒼真君はその一環で防衛隊へ行っているの。だいたい八尾君は研究者としてそのあたり……」

「分かった、分かった」

 八尾は眉を下げたまま立ち上がる。


「待つ女は辛いぞ」

 八尾が薄笑いを浮かべると美波は鋭い目つきで睨み返した。

「そんな演歌なことはしません」

「ならいいけど」

 八尾は立ち去ろうとしたが、ふと立ち止まり、振り返った。


「あんまりプリプリ怒ってると、美波が怪獣になるぞ」

「放っておいて!」

 八尾が軽く首を振りながらその場を立ち去った。


 ×   ×   ×


 芦名と蒼真は応接室とは名ばかりの部屋にいた。ソファーとテーブルは古びていたが、それ以上に問題だったのは床の半分以上を占める段ボールやファイルの山だった。それらは窓から差し込む光を遮り部屋全体を薄暗くしている。


 暗い部屋では彼らの前にいる男の顔すら認識できなかった。男は野暮ったいスーツにしわくちゃのネクタイを緩め、シャツは汚れているのかそれともただ暗い色なのか、はっきりと分からなかった。

 そんな彼が、芦名と蒼真の前に名刺を差し出した。名刺には「××出版編集部編集長 中村何某」と書かれている。


「あの写真は手前どものスクープで、内容についてはどこまでお話しできるか」

 中村編集長はその野暮ったい顔に薄気味悪い笑いを浮かべた。そんな嘘くさい笑顔をまじめな顔をした芦名が答える。


「機密は守ります。それにこれは国家として、いえ、地球に住む人類全体の問題なので」

「逆らうと捕まりそうですな」

「いえ、そんなつもりは」

 芦名がまじめに答えると中村編集長がさらに嫌みな笑いを浮かべながら、


「まぁ、私も市民としての義務は果たしますよ。でもね、我々も食べて行かないといけないので、まぁ、そこは相談ですな」

「是非ご協力お願いします」


 芦名が深々と頭を下げる。蒼真は心の中で「こんな奴に」と思い、頭を下げることを拒んだ。そんな蒼真の心の内を見透かしたかのように中村編集長は三たび、意味ありげな笑みを浮かべる。蒼真はその笑みにゾクッとし、思わず首をすくめた。


 そのとき、話の流れを断ち切るように扉をノックする音が響いた。

「どうぞ」

 中村編集長の声が響くと同時に扉がゆっくりと開かれた。そこには、精気を失ったような無精髭が目立つ男が立っていた。


「入りたまえ」

 男は中村編集長の横まで歩み寄る。その足取りは見た目と同様に覇気がなく重々しいものであった。

「こちら防衛隊MECの隊員さん達だ」

 二人がソファーから立ち上がる。


「始めまして、MECの芦名です」

「同じく阿久津です」

 男は軽く頭を下げた。

「友利亮介です」

 亮介はそう言いながら中村編集長の隣に静かに腰を下ろした。芦名は無言でテーブルの上に一枚の写真をそっと置いた。


「この写真を撮られたのはあなただとお聞きしたのですが」

 テーブルの上にそっと置かれた写真には謎めいた飛行物体が写し出されていた。

「これは」

 精気を失っていた亮介の顔が徐々に赤みを帯びていく。


「この写真を撮ったときのお話を聞かせて頂きたく」

「え、この写真を信じて頂けるのですか?」

 亮介の表情はまるで別人のように明るさを取り戻していった。


「我々はこれと同じ物と遭遇しました」

 芦名の言葉が響くと亮介の目に力が宿った。

「そうですよね、ほら、やっぱり偽物じゃないでしょ」


 亮介は中村編集長に向かって苦情をぶつけたが中村は相変わらず野暮ったい笑みを浮かべている。そんな編集長を無視して芦名は話を続けた。

「この写真を撮ったときのことを詳しく教えて頂けませんか?」

「これはですね、半年ほど前、取材で阿蘇に行ったときでした」

 亮介が居住まいを正す。


「阿蘇山のふもとでなにか変なものが浮かんでる、山影から徐々にその姿を現したんです。なんだろうと思って望遠レンズを使ってシャッターを押したんです。望遠レンズだったんでそれが金属の大きな物体、しかも飛行機だとか飛行船じゃない、そう確信しました」

 本人は冷静に話しているつもりだろうが、言葉に力がこもりすぎ唾が飛び散ってくる。


「それ以外、なにか変わったことは?」

「二日後、北九州で最初の怪獣が現れた話を聞いたとき、俺、この飛行物体と怪獣とになにか関係あるんじゃないかって気がするんです」


「それはどうしてですか?」

 芦名の問いかけに亮介の言葉は途切れた。

「どうしてって、それは飛行物体を見たあとに怪獣が現れたから……」

 蒼真が鼻で笑う。亮介がそんな彼を睨んだ。


「他には、なにか気付いたことはないですか?」

「他ですか……」

 亮介の視線が右上へと向かう。

「他は、特にないですね」

 芦名がフっーと息を吐く。


「ちなみに阿蘇山で飛行物体はなにをしていましたか?」

「なにもしていなかったです」

「なにも?」

「はい、ただ浮いていただけでした」

 彼の目の動きが落ち着きを失う。


「その後、宇宙船はどこに行きましたか?」

「実は、気付いたら消えていたんです。岩場で足を取られて一瞬目を放したんです。そのあともう一度カメラを向けたんですが、もうそこにはいませんでした」

「それはどれぐらいの時間、目を放されたんですか?」


「ほんの一瞬です」

「その間にどこかへ行った、ってことですか?」

「はい」

 亮介は前のめりになり芦名にぐっと近づいた。


「信じてください。本当に、本当に消えたんです」

 芦名は亮介の圧力に少し体を後ろに倒しながら、

「状況はよく分かりました。ありがとうございます」

 その言葉に安堵したのか、亮介はソファーに座り直した。


「今日はありがとうございました。またなにか思い出したことがあればご連絡ください」

 芦名は目の前の写真を回収した。それを見つめていた亮介は中村編集長をチラリと見た。編集長は何も言わずコリをほぐすように首を回している。


「あのー」

 亮介が芦名に声をかける。

「はい、なんでしょう」

「この話、記事にして良いですよね」

 写真を整え終えた芦名はまっすぐに亮介を見据えた。


「すみません。しばらくこの件、公表は控えて頂けませんか?」

「え、どうしてです。俺のスクープですよ」

 亮介は再び芦名に迫り、詰め寄るようにして芦名の眼前まで顔を近づけた。


「飛行物体の正体が分からないまま公表すると市民に不安を与えることになります。この物体の正体が分かるまでは公表は控えてください」

「お願いします。記事にさせてください」

 亮介が我慢できなくなり立ち上がった。


「すみません、機密と言うことでお願いします」

 芦名の言葉を受けた亮介は中村編集長に助けを求めるように振り向いた。しかし中村編集長は相変わらず首を左右に振っているだけだった。


「まぁ、防衛隊の方がそうおっしゃるのであればしょうがない。我々も市民としての義務もありますし」

「……」

 芦名が立ち上がると蒼真も遅れて立ち上がった。

「ありがとうございました」

 芦名は一礼し静かに応接室をあとにした。中村編集長も立ち上がり蒼真と並んで部屋を出て行った。


「おーい、お客様がお帰りだ。誰か玄関までお見送りを」

「はーい」

 事務所から渚が現れる。

「我々はここで」

「いえ、大事なお客様ですので。渚君、頼むよ」


「はい」

 渚が部屋をチラリと覗き込むとそこには怒りで拳を固く握る亮介の姿があった。中村編集長は相変わらず野暮ったい笑みを浮かべている。蒼真は亮介の怒りと中村編集長の笑みが心に引っかかった。


 ×   ×   ×


「もう、亮介なんかほっといて俺と付き合った方が良いんじゃないか」

 地方雑誌の編集部は閑散としており取材に出たスタッフの不在が静寂を漂わせていた。MECからの来客を玄関まで見送った渚がその静けさに包まれた事務所に戻ってくると、目ざとく彼女を見つけて声をかけたのは同僚の成田だった。


「成田さんは取材にいかないんですか?」

「俺はこんな雑誌の記事なんて書かないよ。こんな雑誌社なんかおサラバさ」

「こんな雑誌社で悪かったですね」

 渚は成田の存在を感じないふりをして自分の席に戻った。しかし成田は彼女のあとをぴったりと離れずに追いかけてくる。


「ねぇ、ねぇ、俺と付き合えばこんな胡散臭い雑誌社なんかやめて東京へ行けるんだぞ。俺は来月新しい小説を発表する。東京の一流雑誌社から連載を依頼されたんだ。だから俺と来いよ。良い思いさせるからさ」

「結構です」

 渚は成田に目を向けることなく、無言で目の前のパソコンに集中した。


「なんでだよ。俺は水里勝雪賞受賞した一流作家だぞ。こんな俺に見初められて光栄だとは思わないの?」

「思いません」

 成田は首を横に振りながら、しかめっ面で渚を鋭く睨んだ。


「後悔するぞ。こんなところで一生仕事するなんて……」

 成田がそこまで言いかけたとき、会議室から中村編集長と亮介が戻って来た。

「編集長、本当ですか、本当にいいんですね」

「当たり前だ、こんないい話、記事にしないでどうする」


「そうですよね」

 亮介が飛び跳ねるように中村編集長の前に躍り出る。

「ありがとうございます、編集長!」

「なにが防衛隊だ、なにがMECだ。そんなこと言ってちゃ、ジャーナリズムの名が廃るってもんだ」

 野暮ったい雰囲気を纏った中村編集長の声が段々と熱を帯びていった。


「なにがあったの」

 渚は成田を押しのけながら二人に向かって歩み寄る。その瞬間、亮介が彼女をしっかりと抱きしめた。

「キャー、なに?」


「スクープだよ、スクープ。あの謎の飛行物体、あれは本物だったんだよ」

「え、」

 亮介は嬉しそうに渚を抱きしめたままその場でぐるぐると回り始めた。渚もその瞬間を楽しんで、満面の笑みを浮かべていた。


「そうなんだ。やっぱり亮ちゃんの言うことは本当だったんだ」

「そうだよ、今MECの隊員が言ってた。あいつらもあの飛行物体を見たんだって」


「すごい、すごいよ、亮ちゃん」

「きっとあの飛行物体、怪獣出現と関係あるんだ。だからあいつらが来たんだ。これはすごいスクープだぞ」

「すごい、すごいよ、亮ちゃん。やっぱり亮ちゃんは凄腕のカメラマンだったんだ」


「当たり前さ。この写真が認められれば俺は有名になる。そのときは」

 亮介が深い眼差しで渚を見つめると、渚も涙に潤んだ目で彼を見つめ返した。


「おいおい、ここは職場だぞ。いちゃつくのは夜になってからにしてくれ」

 中村編集長の言葉に少し照れながら亮介と渚はそっと離れた。三人の笑顔を遠くから黙って見つめる成田はその拳を机に叩きつける。しかしその音に三人は気付かず笑顔のままでいた。


 ×   ×   ×


「待つ女か」

 美波は深い息を吐き出した。神山研究所の一歩外へ出ると富士山がその雄姿を現す。風光明媚なその庭で一人佇む美波は春霞の中に浮かぶ富士の影を静かに見つめていた。


「八尾君、なんでそんなこと言うかな」

 美波の心に奇妙な不安が広がり暗い霧が彼女の心を覆い始めた。それでも見上げる富士のお山は何も言わずに堂々とそびえ立っている。揺らぐ美波の気持ちとは対照的に富士山は不変の姿でそこに存在していた。


「はぁー」

 また、ため息が出る。

「待つなんて、そんなことやめた方がいい」

 聞き覚えのない声が美波の耳に届く。彼女は驚きのあまり振り返った。そこには見慣れない黒衣の男が静かに立っていた。


「おやめなさい、阿久津蒼真を待つなんて」

 美波は驚愕の表情で目を大きく見開いた。なぜこの男が蒼真の名を知っているのだろうか。

「あなたは誰ですか?」

 美波は恐る恐る尋ねた。

「私ですか、私のことなどはどうでもいいではないですか」

 男は不気味な笑みを浮かべながら、美波にじりじりと近づいてきた。


「私のことよりあなたのお悩みを解決すべきです」

「私は、別に悩んでません」

 その男の笑みは微動だにしなかった。その目は闇のごとく深く無限の淵を湛えている。美波はその淵に引き込まれていくかのような恐怖を覚えた。


「あなたは阿久津蒼真にもっと恨みを持つべきだ。怒りを心に押しとどめていてはどんどん悪い方向へ向かっていく」

 男の言葉が美波の胸に沁み込んでいく。


「でも私は蒼真君のこと、好きとか嫌いとかじゃなくてただの同僚……」

 美波の意識は男の言葉に抗おうと必死に抵抗を試みた。

「お嬢さん、正直になりなさい」

 抵抗は一蹴される。

「でも……」


「思い返してみてください。あなたの優しさに彼は答えたことがありましたか? どれだけあなたが心配してもねぎらいの言葉、あなたにかけましたか?」


 美波の意識は次第に朦朧としその中で蒼真の不愛想な顔が浮かんできた。放射線検出装置のことで落ち込んでいる彼に声をかけたとき、疲れた彼にフラワーアレンジメントの花を見せたとき、二人でキドラのつがいをモニタで見ていたとき、いつも蒼真の態度はそっけない。美波は目を閉じ、俯いた。彼のそっけない態度、それは自分に対する無関心の現れに違いない。そう思うと、美波の心の中に怒りが静かに、しかし確実に沸き上がってきた。


「あなたは彼にもっと怒りを持つべきだ。恨みなさい、阿久津蒼真を」

 そのとき男の言葉は途切れた。美波はゆっくりと目を開ける。すると男の姿は消え、その代わりに、まばゆいほど美しい女性が立っていた。それはさとみであった。


「美波さん、大丈夫? あの男は?」

 心配そうなさとみの声にハッとした美波が恐る恐る周囲を見渡す。しかし、黒衣の男はすでに姿を消していた。あの男は一体誰だったのか? どこから現れ、そしてどこへ消えたのか? それ以上になぜ蒼真と自分のことを知っていたのか? 美波の心は混乱と疑念で満たされていった。


「大丈夫?」

 さとみが美波に近づいてくる。その瞬間、美波は現実に引き戻され、その心の中に恐怖がじわじわと広がっていった。

「怖い」

 崩れるようにさとみに抱き着く美波。


「奥さん、怖い……」

 美波の目から涙が溢れ出し、そのとめどない涙がさとみの胸を濡らした。


「大丈夫よ、しっかりして」

「怖い、本当に怖い。本当に彼を、蒼真君を恨んでしまいそうで、私、私……」

「大丈夫、私もいるし、蒼真君だっているじゃない。彼はあなたを守ってくれるわよ、心配ないわ」


 美波は思い出した。植物怪獣に襲われたとき、誰よりも自分を守り、崩れかけた建物から連れ出してくれたのは蒼真だった。彼が私を守ってくれたこと、それが何よりも嬉しかった。そんな彼を恨むなんて、あり得ない。なのに……


 美波はさとみの腕の中で泣きじゃくった。さとみの手が優しく美波の背中をさする。そして睨みつける、研究所の屋根から二人を見ている黒衣の男のことを。


 ×   ×   ×


「亮ちゃん!」

 薄暗い廊下を小走りに進む亮介。その背後から渚の声が響き渡り亮介の足が止まった。

「亮ちゃん、どこ行くの」

「ごめん、まだテレビの取材が続いてるんだ」


 午後八時を過ぎた編集社の建物は経費節減のために半分の明かりが消されている。人々は依然として働いているが照明は少ない。渚はこの時間まで亮介を待っていた。やっと彼が編集室に戻ってきたかと思えばすぐに部屋を出ていってしまう。渚は頬を膨らませながら、彼を追いかけてきた。


「今日は一緒にごはん食べに行くって約束したじゃない」

 亮介は髪の毛を掻きむしりながら、

「ごめん、東京から来たテレビ局の人たちと食事に行くことにしたんだ。だから今日は行けない」

 飛行物体の写真が雑誌に掲載されて以来、亮介の元には取材の申し込みがひっきりなしに寄せられるようになった。怪獣との関係性が市民の関心を引き、他の雑誌やテレビでも亮介の名は常に話題になっていた。


「この前もすっぽかしたじゃない。ここ最近話も全然できてないし」

「しょうがないじゃないか。このチャンス、確実につかまないと。我慢してくれよ」

「分かるけど……」

 渚の膨らんだ頬がさらにぷっくりとなる。


「これで有名になれば仕事がバンバン来て、最終的には東京に出て、さらに名前が売れて、高級マンションに住んで、良い服着て、良いもの食べて……」

「夢、広げるのもいいけど、やっぱり地道に働かないと」

 亮介は再び髪の毛を掻きむしりながら、


「分かった、分かった。まぁその話はまた別の日に」

 そう言いながら、亮介は渚の肩をポンポンと叩いて玄関の方へ向かっていった。渚は大きなため息をつきとぼとぼと自席に戻る。するといつも通りの場所で成田が近づいて来るのが見えた。

「ほらみろ、あんな男やめとけって言っただろう」

 さっきよりさらに大きなため息を渚が吐く。


「あら、成田さん、まだ会社にいらっしゃったんですか?」

 冷めた声が成田に届く。

「いい加減、目を覚ませよ」

 成田の目が厳しくなる。

「あの男はたまたま撮った写真だけで有名になっただけだ。そのうち飽きられる。それとは違って俺は実力がある。だからあいつなんかより……」


「そんな話、一体何人の女の子にしたの?」

「え、」

「聞いてますよ、佐紀ちゃんにも由紀ちゃんにも似たようなこと言ったらしいですね」

 成田の目が泳ぎだした。


「あれは、その、まぁ冗談みたいなもんで、本気じゃないんだよ。本気なのは君だけ、本当、嘘じゃない」

 慌てふためく成田に渚が追い打ちをかける。


「成田さんは私のことが好きなんじゃない。自分のことが好きなの。だから周りの女性を自分の言いなりにしたいだけ」

「なにを言うんだ。俺はこれから東京に行って君を幸せに……」


「言うこと聞かない女を馴らしたいだけ。自分の自己満足のためでしょ」

 成田が黙った。

「成田さんは自分に酔っているだけ。私はそんな人が大嫌い」

 渚は立ち上がり成田を一瞥もせずに彼の横をすり抜けた。成田はその姿を目で追いかける。彼が後ろで机を蹴とばしていることに気付かず渚は部屋をあとにした。


 ×   ×   ×


「約束違反ですよ!」

 MECの格納庫では数機のスカイタイガーとスカイカイトが整備士たちの手によって修理点検されていた。芦名は調整内容について整備士と話し合うためこの場所に足を運んでいた。

「どうするんですか」

 蒼真の抗議の声が大声で響き渡り、格納庫全体に反響する。


「想定内だよ」

 芦名は整備書に目を落としながら冷静な声で答えた。

「どう言う意味ですか?」

「我々がコメントしない限りこの件はあと数週間もすれば収まる」


「でも、飛行物体と怪獣との因果関係は事実で」

「それとこれとは別問題だよ」

「?」

 芦名は整備書のあるページを指し示しながら近くにいた整備員に何か指示を与えた。


「芦名さん、どういう意味ですか?」

「つまり彼らの言っていることは根も葉もないうわさだと思わせればいい」

「?」

「公式機関である我々がなにも言わなければ、誰も彼らの言うことを信用しない」

「?」

 蒼真は相変わらず芦名の真意を理解することができなかった。


「彼らは三流雑誌の編集社だ。彼らの言うことと我々の言うこと、どちらが信用されていると思う。我々が僅かな情報でも入手したかったので編集社を訪ねたが得られるものがなかった、と言えば彼らの記事の根拠は失われる。つまり、信用度が彼らにはないんだ。だからやがて彼らの言うことが世間から疑われる」


「でも、彼らは嘘を付いてはいないですよ」

「さっきも言った通り、それとこれとは意味が違う。我々が行わなければならないのは民衆の動揺を防ぐこと。真実とか事実解明とは次元が違う」

 蒼真は一瞬言葉を失った。


「なんか、大人の都合って気がしますけど」

「そんなもんさ。君も大人なんだからその辺の事情はもう分かってもいいんじゃないか」

「すみませんね、研究室に閉じ籠っていたんで子どものままなんですよ」

 蒼真がふてくされるように頬を膨らませた、その瞬間だった。


『緊急警報、緊急警報。北九州上空に謎の飛行物体出現。総員は第一級警戒態勢へ。MECはスカイタイガーの発進準備』

「芦名さん、僕も行きます」

 蒼真が一歩前に踏み出し、芦名の前に立ちはだかった。


「君は科学班だ。戦闘は僕たちにまかしておいてくれ」

「でも、飛行物体の正体を確認しないと」

 蒼真は芦名に食い下がる。


「しかたない。隊長の許可を貰おう」

「ありがとうございます」

 蒼真は軽くお辞儀しスカイタイガーに意気揚々と乗り込んだ。


 ×   ×   ×


「どうして、どうして我々が疑われるんですか? そもそもMECが本当のことを言わないから俺たちが非難されるんだ」


 編集室の片隅で亮介が叫び声をあげた。その瞬間、部屋中の仕事をしていた人々が一斉に顔を向けた。彼の目の前には野暮ったい笑みを浮かべる中村編集長が立っている。

 防衛隊が正式なコメントを発しないことで雑誌の記事が虚偽ではないかといううわさが広まった。その結果、亮介への取材も激減、さらには、彼が偽装写真家だというレッテルがネット上に流れ始めた。


「まぁ、まぁ、そう怒るな。そもそも約束を破ったのはこっちなんだから」

「でも!」

 亮介が近くの机に両手を叩きつけた。ドンッという大きな音が編集室全体に響き渡った。

「ジャーナリズムは市民に真実を伝えるのが仕事で……」


「ジャーナリズムか、まぁうちの編集社には似使わない言葉だな」

「それは……」

「そもそもうちの編集社の報道には信憑性がないってことだよ」

 中村編集長の笑みは変わらない。亮介の腕から力が抜けていった。


「でもこれは真実で、この飛行物体は本当にいたんですよ」

「真実とかは関係ないよ。それより今回の特集で、いつもより雑誌の売り上げが三倍になったことの方が大事だからね」


 中村編集長の顔の笑みが大口を開けて笑い出した。

「よし、今度のボーナスは弾むぞ!」

 中村編集長が辺りに声をかけると、部屋中から拍手や奇声が響き渡る。そんな仲間たちの様子を見た亮介の肩ががっくりと落ちた。


「亮ちゃん……」

 亮介の後ろから渚が声をかけた。

「元気出して」

 亮介は振り向くことはなかった。


「放っておいてくれ」

「でもあの写真は真実なんでしょ」

「……」


「そうならきっとみんな分かってくれるわよ」

「お前になにが分かる!」

 亮介の肩が震えている。


「いいんだ、これで俺の一生も終わりだ。嘘つき呼ばわりされて、誰からも相手にされず、このまま終わっていくんだ」

 渚がそっと亮介の肩に手を置く。

「亮ちゃんには私がいるじゃない」

 亮介は変わらず振り返らない。肩の揺れも収まらない。


「そう、この三流雑誌社で一生終わるんだ。東京行って、いろんな賞取って、金稼いで、いいとこ住んで、いいもん食って、いい思いして、でも全部ダメになった。もうなにも残ってない」

「なにもないって……」

 渚の表情が歪む。


 その瞬間、外の様子が異変を告げている。編集者の一人が不安げに窓から外を見やった。

「あ、あれはなんだ!」

 その声を聞いて、部屋の中の全員が窓に集まり始めた。亮介と渚も急いで窓際へと駆け寄る。

「あれは、UFO?」

 渚が指差す。


「あれは、あれは俺が見た飛行物体だ!」

 亮介の叫び声が編集室に響き渡った。全員が窓の外を見ると、上空には金属製の巨大な物体が静かに浮かんでいる。

「見ろ、あれが、あれが、俺が撮った飛行物体だ。これで真実が証明される。やった、これで俺の夢が、俺の夢が叶う。よし!」


 歓喜の声をあげた亮介は、素早くカメラを手に取り、勢いよく編集室を飛び出していった。

「あ、亮ちゃん」

 渚の言葉は亮介には届かず、彼は無我夢中で駆け出していった。渚はあきれたように空を見上げる。そこには、例の巨大な物体が浮かんでいた。


「ほら見ろ、あいつはお前のことなんか眼中にないんだ」

 成田が渚の後ろから声をかけた。渚はその声に反応して振り返り、鋭い目つきで彼を睨みつけた。

「そうね、亮ちゃんもあなたも夢を追うだけの人、自分が可愛いだけ。自慢したいだけ。人より良く見られたいだけ」


「それは……」

 成田の目が見開く。

「あなたも亮ちゃんも同じ。私のこと好きじゃないのよ。そんな人、私は嫌い!」

 成田の顔が歪む。


「俺とあいつが同じだと。あんなインチキカメラマンと文学賞取った俺とが同じ? バカにするのもいい加減にしろよ、俺を誰だと思ってるんだ!」

「あなたは自分に酔っている、つまらない男」

 無表情な渚とは対照的に成田の顔は徐々に赤く染まっていった。


「なに! ふざけるな! くそっ、覚えとけ!」

 その言葉を残して成田も憮然としたまま部屋を出ていった。


 ×   ×   ×


「あれが飛行物体ですね」

 蒼真はコックピットの中で芦名に問いかけた。

「前に見たのと同じだな」


 北九州上空にたどり着いたスカイタイガーが謎の飛行物体に徐々に近づいていく。空中で完全に静止しているその飛行物体に蒼真はスカイタイガーに装備された計測器を駆使して分析を試みる。目の前のモニタには“放射線0”の文字が映し出された。


「飛行物体からはフレロビウム反応はないですね」

「もう少し近づいてみるか」

 スカイタイガーは謎の飛行物体の周囲を慎重に旋回しながらその詳細を探ろうとしていた。


「あの金属は我々が知らない未知の金属のようです。どうやって飛んでいるんだろう、動力源が見当たらない」

 蒼真が計器から出力されるデータを素早く解析する。そのとき、


「あれは!」

 蒼真が地上を指差しその声に反応して芦名も地上に目を向けた。非常事態が発令されているため街には人影がない。しかし一人の男がカメラを片手に持ち、飛行物体に近づいてくるのが見えた。それは蒼真が知っているあの雑誌社の男だった。


「あのバカ、この状態で撮影するつもりか」

 芦名の眉間に皴が寄る。

「彼もあの飛行物体を確認しに来たんでしょうね」

「危険だな」

「確かに」

 スカイタイガーが飛行物体から一旦離れ、方向転換した瞬間、再び蒼真の声が響き渡った。


「あそこにも人が」

 亮介を追うように一人の男が近づいてくる。蒼真の知らない男だった。

「命知らずがこんなにいるとは」

 芦名の言葉が終わらないうちに、金属製の飛行物体が動き出した。

「まずい、あの男に向かっている」

 飛行隊は亮介の後方、成田の頭上で静止した。成田が空を見上げると、そこに霧のようなものが降り注ぐ。


「あれは、フレロビウム!」

 蒼真の叫び声が機内に響き渡る。その間にも霧が成田に降り注ぎ白い柱が立ち上がった。その霧の中に金属製の飛行物体が消え去っていく。やがて霧が晴れたあと飛行物体の姿はもうそこにはなかった。代わりに長い鼻と二本の角を頭にいただく怪獣がその姿を現す。そして、亮介の方へと向かって行く。


「攻撃開始」

 芦名の指示でスカイタイガーからミサイルが発射された。ミサイルが命中したものの怪獣は全く動じることなく進み続ける。怪獣の鼻がビルを叩きつけ壊れたビルの破片が亮介に襲いかかる。

「いけない!」

 スカイタイガーが怪獣ノースラスの注意を逸らすためにその顔の前を横切った。怒り狂ったノースラスが鼻を振り回し、その一撃がスカイタイガーに激突した。


「わー」

 スカイタイガーはそのままビルに激突する。ノースラスが勝利の雄叫びをあげた。崩れたビルから炎が立ち上がり、黒煙の中に青い光が天に向かって昇っていく。その光の柱が消えると、そこにはネイビージャイアントの姿が現れた。


 ノースラスが猛然と突進してくる。それを巧みにかわすネイビーだが振り返ったノースラスの長い鼻が鞭のように襲いかかる。横殴りされたネイビー、その場に蹲る。ノースラスがさらに近づいて足蹴りでネイビーの腹を打ち据える。ネイビーはさらに蹲り力尽きたかのように動けなくなる。ノースラスはネイビーに覆いかぶさり、再び長い鼻を鞭のように振り下ろしてネイビーの顔を打ち付ける。その攻撃にネイビーは完全に動けなくなった。


 勝ち誇ったように立ち上がるノースラスが怒り狂ったように鼻を振り回しながら亮介の勤める編集社が入るビルに向かって進んでいく。その様子を見たネイビー、ふらふらする体を奮い立たせるように大きく首を横に振り立ち上がった。ノースラスは建物を破壊しながらまっすぐ編集社のビルに近づいていく。だがまだネイビーが起き上がったことに気付いていない。


 ネイビーは飛び上がりノースラスの背後から飛び蹴りを喰らわせる。前のめりに倒れるノースラス。そのとき、鼻が大きく振り上がり、その先に赤い光が見えた。

 ネイビーはそれを見逃さず、すかさず左手を前に突き出し、放った光線は確実にノースラスの鼻先を捕えた。


「ギャォー」

 ノースラスはその場でのたうちまわる。鼻先の赤い光が弱々しくなり、やがて消えていく。それと同時にノースラスの胴体も消えていった。


 ×   ×   ×


「渚! 喜んでくれ。俺が撮った怪獣対ネイビージャイアントの写真がコンクールに通ったんだ」

 トロンボーンの低い音が響く小さなバーに亮介は勢いよく飛び込んできた。店内にはただ一人、渚がカウンターに腰掛けている。亮介は渚の横に座り込むが、渚は前を向いたまま彼を見ようとはしなかった。


「渚、聞いてるのかよ」

「聞こえてるわよ」

 渚がそっけなく答える。


「なに拗ねてるんだよ」

「拗ねてないよ」

「まぁいいや、偽写真疑惑も晴れたし、賞も取れた。これで有名になれる。俺の夢が叶うんだ。お前も喜べよ」

 亮介が笑顔で渚の顔を覗き込む。渚は変わらず目の前のカクテルを眺めている。


「東京に来いって誘いも来たんだ。これで有名になれば仕事もバンバン依頼が来て、さらに名前が売れて、高級マンションに住んで、良い服着て、良いもの食べて」

「私行かない」

「え?」

 亮介が素っ頓狂な声をあげた。


「もう、俺なんかほっといて別の男、探した方が良いんじゃないか、って言ってくれないの」

 その言葉に亮介の目が点になる。

「亮ちゃんも成田さんも同じ。私のことなんか考えてない」

 渚は冷め切った無感情な声で棒読みのように答えた。


「そんなことないよ。俺はお前を幸せにしようと思って……」

「嘘、怪獣が現れたときも、私のそばにきてくれなかった。自分だけ怪獣の写真撮って、私の方へ怪獣が迫ってきても全然心配していない。私を助けてくれたのはネイビージャイアントだけ」


「いや、それは」

 亮介が言いかけたその瞬間、渚が両手でカウンターを勢いよく叩き立ち上がった。

「もういいの。亮ちゃんは独りで東京行けばいい!」

 渚が一瞬亮介を見る。その目は覚めている。


「さようなら」

 そのまま渚はバーを出ていく。呆然とした亮介を残して。

《予告》

自分を捨てた父親の面影を追って禁断の恋に溺れる佳須美。クマのぬいぐるみが語り掛ける、男の愛は手に入らないと。それでも忘れられない佳須美が男の家庭で見たものは。次回ネイビージャイアント「寂しさの代償」お楽しみに

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