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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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50-2 “悲しみ”対“憎しみ”

 作戦室の会議机には、怪獣攻撃チームの四名のメンバーが席に着いている。吉野隊長に急遽招集された彼らはそれぞれこの後何が起こるのか、口々に会話を交わしていた。そんなメンバーの中で、鈴鹿アキだけは黙って目を閉じていた。この場に蒼真がいない、それが彼女の心を占めていたのだ。


 作戦室の扉が開いた。吉野隊長が入室する。そのあとに、普段は防衛隊では見かけない女性が静かに後に続いた。


「さとみさん?」

 アキが思わず立ち上がる。


「みんな、静かに。今日は怪獣攻撃について新しい攻撃方法を説明する」

 吉野隊長が全員を制するように声をかける。


「でも、どうしてさとみさんが……」

 アキがまだ立ったまま、疑問を口にする。さとみの表情にいつもの柔らかな笑顔はなかった。真顔のまま、アキをまっすぐ見据えている。


「阿久津蒼真君は今、心身ともに疲弊していて休養が必要です。ですから今回の作戦は、私から説明させていただきます」

「休養?」

 アキは力なく椅子に腰を下ろす。周囲を一瞥した吉野が話を続ける。


「では、神山さとみ教授。今回の作戦についてお願いします」

 吉野も席に着いた。さとみは手元のリモコンを操作し、大型モニターに怪獣フェルディガーの映像を映し出した。


「では、説明させていただきます」

 資料を確認しながら、さとみが口を開く。


「先回の戦いでは、周波数攻撃を行いましたが効果がありませんでした。その分析の結果、怪獣の皮膚、つまり表面のネイビエクスニウムのエネルギーが極めて安定しており、容易には崩壊しないことが分かりました」


「それって、お手上げってことですか?」

 田所が軽く首を傾けながら尋ねる。


「いえ、必ずしもそうではありません」

 さとみは別の画像をモニターに映す。それは以前電子銃で皮膚表面の崩壊を促し、撃退された怪獣、マクラウリの映像だった。


「この怪獣は、電子銃によってネイビエクスニウムの崩壊が促され、撃退に成功しました。つまり、電子銃で皮膚表面を破壊し、そこに逆位相の周波数を照射すれば、ネイビエクスニウムを破壊できる可能性が高いのです」


「でも、この怪獣以降、電子銃はバリアで完全に防がれている。その防御をどうやってかいくぐるつもりなんだ?」

 三上が怪訝そうに尋ねる。


「防御バリアについては、電子銃のプラスの電荷をマイナスの電荷で中和していることが分かっています。今の攻撃方法では突破は困難です」

「じゃあ、どうするんだ」


「ミサイルを使います」

「ミサイル……?」

 三上がさらに怪訝な顔に変わる。


「バリアは皮膚の上面、約2メートルの高さに現れます。ですので、その内側から照射すれば電子銃の威力は確実に届きます」

「なるほど。それで、ミサイルとは?」


「ミサイルならばバリアを通過可能です。怪獣に到達した時点で爆発と同時に、電子銃と同じ光線を四方に照射する。これにより怪獣は防御できず、ネイビエクスニウムの崩壊が起こります」

「なるほど」

 三上が納得した表情を浮かべる。


「さらに、その瞬間に逆位相の電磁波も照射できれば、皮膚の破壊は確実です」

 一同がうなずく中、三浦が手を挙げた。


「でも、その後はどうするんですか? 結局、ネイビージャイアントの登場を待つんですか?」

「違います」

 さとみが画面を切り替える。映し出されたのは巨大怪獣レミックスだった。


「以前、防衛隊科学班の島本朋美さんによる研究で、怒りのエネルギーとフレロビウムが結合することで生物が怪獣化するという論文が発表されました。この怪獣には、神経興奮抑制剤を使用しました」

「けれど、結果は無効だった」

 吉野隊長が静かに言う。


「確かに効果はありませんでした。ですが私は、その後数ヶ月この件について研究を進めました」

 さとみは映像を怪獣から神経線維の画像に切り替える。


「あのとき使用した抑制剤は、神経回路を構成するシナプス間の伝達ホルモン量を減少させるものでした。しかしそれだけでは不十分だった可能性があります。これは、阿久津蒼真君が“怪獣化した人間を元に戻したい”という優しさで行ったことだと、彼自身から聞いて知りました」


「で、今回は?」

 吉野隊長が静かに尋ねる。


「今回は、神経回路を完全に分断します」

「それは元の生物にとってどんな影響が?」


「死に至ります」

 さとみは表情ひとつ動かさない。その冷徹とも取れる言葉に、誰もが違和感を覚えていた。


「今回は、神経破壊剤を使用してフレロビウムを分離し、さらに励起状態から基底状態へ戻す周波数の電磁波を照射する。それにより、怪獣は消失する可能性があります」


「すごいじゃないか。これでネイビージャイアントの力を借りなくても怪獣退治ができるんだ」

 田所が明るい声をあげた。


「まだ仮説段階ですので、うまくいくとは限りません。ただ、成功の確率は高いと考えています」


 さとみは自信に満ちた表情を見せた。本来なら喜ばしい知らせである。だが、アキの胸には何かが引っかかっていた。さとみはいつの間にこれほどの作戦を考えていたのか。蒼真はこのことをどこまで知っているのか。いや、それよりも蒼真は今、どうしているのか。そのあとのさとみの説明が、アキの耳には入ってこないまま。作戦会議は静かに終了した。


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