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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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49-3 別れ

 防衛隊科学班の実験室につながるところに、個別の部屋がある。そこはアキや蒼真が自分の考えを整理し、まとめるために用意された空間である。なんの変哲もない机とパソコン、数冊の書籍が置かれた地味な部屋だ。


 通常なら蒼真が座る席に、今日は遠山教授が座っている。紙の資料とパソコンに映るデータを食い入るように見つめていた。


「ありがとう、蒼真君。これだけの資料があれば次につながる」

「それはよかったです」

 蒼真は机の前に立ったまま、遠山教授の様子を見ていた。


「ところで、君が開発したフレロビウム検知器を貸してほしいんだが」

「検知器を?」


「あぁ、非常に興味深い」

 蒼真がやや訝しげな表情を浮かべて部屋を出て行き、やがて一台の小型装置を手に持って戻ってくる。


「これです。初期型ですが」

「なるほど」

 遠山教授はしげしげとその装置を眺めた。


「これで放射線を検出したらしいが、ある意味では怪獣の周波数を検出していたと言っても過言ではないと思う。この装置、少し借りてもいいかな?」

「こんな旧型装置を、ですか?」


「あぁ、もしかするとこれを使えばネイビエクスニウムの周波数が分かるかもしれない」

「これを使ってですか?」

 蒼真がさらに怪訝な顔になる。


「あぁ。研究にとって旧型、新型は関係ない。いかに使い勝手が良いかが重要だよ」

「はぁ……」


 蒼真はいまいちピンとこなかったが、とりあえず遠山教授に装置を渡した。

 そのとき、けたたましい警告音が鳴り響く。


「緊急指令、緊急指令。青森県太平洋側に怪獣を発見。怪獣攻撃チームは直ちに出撃せよ」

 蒼真は遠山教授の方に振り向いた。


「教授、僕は現場に行かなければなりませんので、今日はここまででよろしいですか?」

「承知した」

 蒼真はその言葉を聞き、すぐに部屋を出て行った。


 ×   ×   ×


 雪が海岸沿いに降り積もっている。古い漁船が並ぶ、さびれた漁港。怪獣フェルディガーがまさに上陸しようとしている。頭に大きなパラボラアンテナ状の突起物を持つ二本足のフェルディガーが、小さな漁船を踏みつぶして進んでいく。


「攻撃開始」

 本部から、上空を飛行する田所機および三上機に吉野隊長が指示を送る。


「了解」

 両機がミサイルを撃ち込む。しかしいつも通り黒光りする怪獣の皮膚はそれをものともせず、ミサイルは効果を示さなかった。海岸に到着した蒼真が怪獣の状態を確認する。


「隊長、怪獣はいつも通りネイビエクスニウムを身にまとっているようです」

「そうか。どうする、蒼真君」


「例の装置を試してみたいのですが」

「分かった。三上機、聞こえるか」


「はい」

 無線越しに三上の声が届く。


「逆位相周波数装置、作動」

「了解」

 三上機がフェルディガーの上空を旋回しながら、アンテナ状の装置を展開する。


「照射!」

 三上の声が蒼真の耳に届く。フェルディガーが三上機を見上げる。しかしそれ以上の反応はなかった。


「蒼真君、まったく効かないぞ」

「三上さん、周波数がやっぱり違うんです。いくつかの周波数を試してもらえませんか」


「えっ、そんなことをしている間に町が破壊されるぞ」

「田所さん、怪獣の足止めをお願いします」


「了解」

 田所機が怪獣の足元にミサイルを撃ち込む。フェルディガーの動きが一時的に止まり、三上機が電磁波を照射し続ける。


「ダメか……」

 落胆する蒼真の隣に男が立った。


「やはり、周波数を正確に見極めないと」

 蒼真がその声に反応し、目をやるとそこにいたのは遠山教授だった。


「どうして教授がここに?」

「いや、やっぱり現場でないと分からないことはあるからね」

 遠山教授の手には検知器が握られていた。彼が地面にその装置を置き、ダイヤルを合わせると、装置が反応を示す。


「先生、何か分かりましたか?」

「いや、怪獣からではない、別のフレロビウム反応がある」


「えっ?」

 蒼真は耳を疑った。その瞬間、左腕の腕時計が光った。


「教授、とにかくここは危険です。町へ避難してください」

「そうか。君たちの足手まといになっては申し訳ない。退散するよ」

 そう言って遠山教授はその場を去っていく。蒼真は教授の姿が見えなくなったのを確認し、左手を高く掲げる。


 フェルディガーの前に青い光の柱が立ち昇り、それが消えた瞬間、ネイビーが現れる。フェルディガーは他の怪獣と違い、ネイビーに怒りを見せることはなかった。ゆっくりとネイビーの姿を見つめ続ける。まるで何かを分析しているかのように。ネイビーもまたしばらく動きを止め、フェルディガーの挙動を見守る。


 そのとき、フェルディガーが頭部のアンテナをネイビーに向ける。そこから電磁波が発せられた。

 ネイビーの動きが止まる。ネイビーの赤いボディラインが消えていく。


「本部、隊長! ネイビーが怪獣の攻撃を受けて動きを停止しました」

 田所の声が無線を通じて本部へ届く。


「三上、田所両機はネイビーを援護しろ」

「了解!」


 スカイタイガーが再びミサイル攻撃を開始する。フェルディガーは怯むことなくネイビーに近づき、大きく拳を振りかぶる。その拳がネイビーの顔面へ、ネイビーは倒れ、地面に打ちつけられる。倒れたネイビーに変化が現れる。青い体がみるみる灰色に変化していく。


「本部、ネイビーが石化していきます」

「なに!」


 スカイタイガーは引き続きミサイルを撃ち込む。フェルディガーは気にも留めずネイビーの上に圧し掛かり、拳を振り下ろす。土煙の中、完全に石化したネイビー。フェルディガーはネイビーの体を持ち上げ、そのまま海へ投げ込む。


 石像化したネイビーは静かに海の底へ沈んでいった。


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