49-2 別れ
「本当に信じていいの?」
アキが蒼真に問う。
防衛隊怪獣攻撃チーム作戦室。蒼真をはじめ、三上、田所、三浦、鈴鹿アキ、そして吉野隊長らが揃っている。蒼真が論文を片手に吉野隊長へ説明している最中、彼の意見にアキが口をはさんだ。
「この論文は、明らかに怪獣研究の最先端をいっています」
「でも、神山研究室ですら解明できなかったことを、どうしてこの教授は発見できたの?」
「それは、私にも分かりませんが……」
アキがため息をつく。三上が意味ありげに笑う。
「鈴鹿隊員は、自分の研究の先を越されて妬んでいるだけでは?」
「そんなことはありません」
アキの眉がピクリと動く。
「我々の研究よりも、遠山教授が電磁波の周波数に注目したのは事実です」
「そうかもしれないけど…… でも、フレロビウム型怪獣は最近出現していないし、ネイビエクスニウムとの関係もこの論文では不明よ」
「この研究を進めればネイビエクスニウムとの関係も明らかになると思いますよ」
「でも……」
「もう十分だ」
吉野隊長が一言で議論を切り上げる。
「鈴鹿隊員、何か気になることがあるのか?」
「いえ、そういうわけではありませんが……」
「では、蒼真君の提案を試してみよう」
「はい」
アキがしぶしぶ承知する。蒼真が作戦室の大型モニタに論文の一部を映し出す。
「遠山教授の論文によれば、フレロビウムに反応する周波数が判明しています。ですから、これと逆位相の電磁波を照射すれば相殺されて、フレロビウムの励起が抑制できるはずです」
「逆位相というと、ヘッドホンのノイズキャンセル機能と同じことをするってことか?」
田所が目を丸くして蒼真に尋ねる。
「そうです。基本原理は同じです。同じ周波数で振幅が逆の電磁波を照射すれば、プラスマイナスゼロになって、元の電磁波が消去できるんです」
「なるほど」
田所が再びうなずく。
「でも、今はネイビエクスニウムで覆われた怪獣ばかりよ」
「これは私の推測ですが、ネイビエクスニウムは未知の物質とはいえ、フレロビウムとは密接に関係していると思います。なので、同じ周波数か近い周波数を照射することで効果があるのではないかと」
「仮説に過ぎないわね」
少し蒼真が顔をしかめる。
「ともかく、高周波の電磁波を発生させる装置をスカイタイガーに搭載します」
蒼真の提案に、吉野隊長がうなずいた。
「分かった、蒼真君。急いで装置を開発してくれたまえ」
「はい。それと……」
「分かっている。遠山教授の防衛隊への出入りを許可する。怪獣関連の資料は機密性が高いので、防衛隊内で閲覧してもらう。それが条件だ」
「分かりました。教授にはそう伝えておきます」
蒼真が一礼し、作戦室を出て行く。
「蒼真君、待って」
アキが蒼真を追う。作戦室を出た廊下で、アキは蒼真に追いついた。
「何でしょう。なんか今日の鈴鹿隊員、いつもと違いますね」
「それはこっちのセリフよ」
「?」
蒼真がアキを見つめる。
「蒼真君、前回の事件以来、何か隠していることがあるでしょう」
「それは……」
蒼真は言葉に詰まった。アキには前回のことは何も話していない。自分の育ての親が柏崎博士であること、自分には出生の秘密があること。しかしアキは直感で蒼真に何かがあったことを見抜いていた。でも、言えない。自分が地球人でないことは。
「何もありませんよ。それより、鈴鹿隊員はどうして遠山教授との共同研究をそんなに反対するんですか?」
「心配なのよ。言いようのない何かが」
「鈴鹿さんらしくありませんよ。宇宙物理学者の鈴鹿隊員はもっと論理的で」
「分からないの。でも、何か嫌な予感がするの」
アキの表情が、いつもより不安そうに見えた。アキの直感は当たるのだろうか。いや、それ以上に、彼女が自分のことを心配してくれていることは、どんなに鈍感な彼でも理解できた。
「大丈夫です。今までもそうでした。きっと何とかなりますから」
この言葉は、さとみにも話したことだと蒼真は思い出した。
「蒼真君、何かあったらすぐに連絡してね」
「ありがとうございます」
蒼真は一礼し、その場を去った。不安そうに彼を見送るアキの背後で、吉野隊長が彼女の肩を叩いた。その様子も、吉野が彼女に何かを耳打ちしたことも、蒼真は見ていない。




