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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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48-4 柏崎博士

「で、その後は?」

「寛子が、お前を自分の子供として届け出ると言い出したんだ」


「えっ?  それはどうして?」

「寛子が愛した男がこの事件の半年前に亡くなったんだ。寛子はその男との間に生まれるはずだった子供をお前に重ねたらしい。天から、そして死んだ彼からの贈り物だと……」


「母さんは…… 寛子さんは僕のことをどう思っていたんですか?」

「それは、お前が一番よく知っているはずだ」

 蒼真は優しかった母の姿を思い浮かべた。しかしそれは実の母ではなかった。


 けれど母、柏崎の妹である寛子は自分を心から慈しんでくれていた。それは間違いない。そう、だれが母で、だれが母でないかは関係ない。自分の母は寛子。そして、その愛情を受けて自分は育った。


「その後、宇宙人は現れなかったんですね?」

「あゝ。その後はこの田舎で静かに暮らすことができた。あの津波で寛子が亡くなるまではな」

 蒼真は目を閉じる。そこには自分を抱いて優しく微笑む寛子の顔が浮かぶ。


「今回の怪獣出現は実の母と、関係があると思いますか?」

「間違いないだろう。新しい生命がフレロビウムで生まれることは俺には伝えられなかった。推測だがその真実を知った直後に、お前の父は殺されたのだろう。彼はその秘密を伝えぬまま命を落とした」

「でもあのノートにはフレロビウムの文字が」


「怪獣が九州に現れたニュースを聞いたあと、俺のところに小学生ぐらいの女の子が現われた。その子の言うにはあのノートに書かれているⅩはフレロビウムだと、それをノートに書き留めた。それまでⅩ」の正体を俺は知らなかった」

 蒼真は閉店していた叔父の食堂で会った少女を思い出した。


「その少女は……」

「宇宙人の回し者だろう。お前の父親を殺した者たちは俺のところにたどり着くのに数十年の時間を費やした。そして今、地球に怪獣が現れた」


「つまり宇宙人たちは怪獣を送り込み、人類を絶滅させようとしている、そう言いたいんですね?」

「お前の母親の手紙がそれを証明している。まぁ、あくまで俺の妄想だが」


 しかし蒼真も柏崎の推測に賛同する。状況証拠はそれを示している。そして、もしそれが事実ならば、父はそれを阻止するために、自分に何かを施したのではないか。手紙の内容は確かに事実の可能性がある。


 そのとき、蒼真の腰のレシーバーがけたたましく鳴り響いた。


「はい、蒼真です」

『蒼真君か』

 吉野隊長の声だった。


「隊長、どうしました?」

『千葉沖に怪獣が再び現れた。君の今いる近くだ。すぐに現場へ向かってくれ』


「怪獣? 以前現れたものと同じですか?」

『そうだ。田所と鈴鹿隊員がすでに現場へ向かっている』


「了解。すぐに急行します!」

 蒼真が小屋を出ようとする。そのとき、


「蒼真!」

 柏崎が、鋭い声で呼び止めた。蒼真が振り返る。


「蒼真、分かってほしい。お前は俺にとって大切な存在だ。小さい頃から共に過ごした家族、俺の人生で初めてだれかの世話をした。それは俺が今までとは違う人間、いや、初めて人らしい心を持てたという証だ。俺は本当にお前に感謝している」

 蒼真は戸惑う。なぜ今、この場でこんなことを?


「叔父さん、分かってるよ。僕も叔父さんに感謝している」

「きっと寛子、いや、お前の母さんも、同じ思いだと思う。だから……」


「だから?」

「だから…… 死ぬなよ」

 蒼真は静かに頷く。


「じゃあ、行ってくる」


 柏崎は大きく頷く。それを見届けると蒼真は小屋を飛び出した。すでに腕時計は青く光っている。蒼真は駆け出し、左手を天に突き上げた。海上から岬の先端へプラドダスが上陸しようとしている。その瞬間、ネイビーの飛び蹴りが炸裂する。


 怪獣は仰向けに倒れ海へ沈む。だがプラドダスが再び海上に現れた。その漆黒の姿は青い海に似つかわしくない。プラドダスが陸へと上がる。ネイビーが突進し激しく組み合う。しかしその重みでプラドタスはびくともしない。そして。怪獣の圧倒的な力により、ネイビーは押し倒された。


「くっ、重い……」

 プラドダスがその重い体をのしかけたままネイビーの首を絞める。動きを封じられたネイビーは、怪獣の両手を掴み、何とか振り払おうとする。しかしその腕をネイビーの力では動かすことすらできない。


「ダメだ、苦しい……」

 意識が遠のいていく。その瞬間、柏崎の声が響く。


『その怪獣は重い物質で構成されている。だから自重によってやがて崩壊する。この怪獣の重量からするとあと五分だ。なんとか持ちこたえるんだ!』


 その言葉が届いた瞬間、銀色の光が空を切り裂く。田所機と鈴鹿機が戦場へ到着。怪獣の頭へミサイルを撃ち込む。一瞬、首を絞める力が弱まる。ネイビーはその隙を逃がさず、両手を振り払い渾身のパンチを胸へ叩き込んだ。


 不意を突かれたプラドダスが仰向けに倒れる。ネイビーは即座に起き上がり、怪獣との距離を取る。そのとき。戦場のすぐそばの丘に柏崎の姿が。


「叔父さんが僕のピンチに駆けつけてくれたんだ。でもそこにいたら、危ない!」

 プラドダスの咆哮が響く。怪獣の目が光り、怪光線が放たれる。ネイビーは素早く回避する。しかしプラドダスが無差別に光線を放ち始める。


『怪獣は、自分の自重に苦しんでいる。もう少しだ。絶対に奴を海へ逃がすな。海に逃げれば浮力で崩壊しなくなる』

 その言葉を聞いたかのように、プラドダスは丘へ怪光線を撃ち込む。


「叔父さん!」

 蒼真の叫びが空を裂く。だが次の瞬間、丘が爆発した。


「くっ!」

 怒りが燃え上がる。ネイビーの体が赤い炎に包まれる。プラドダスが海へ逃げようとする。しかしそれを背後から強く抱え込むネイビー。


「逃がすか!」

 怪獣の動きが完全に止まる。ネイビーの赤い炎が怪獣へと流れ込んでいく。プラドダスの体が崩壊していく。


「叔父さんの仇だ!」

 ネイビーが怪獣を陸へと投げ飛ばす。その衝撃でプラドダスの体はバラバラに砕ける。その場に燃え滾る炎。ネイビーは青い光線を放つ。すると、炎が静かに縮まり、やがてその姿が消えていった。


 それ見届けたネイビーが青い光となり丘の上へ。


「叔父さん!」

 そこには傷だらけの柏崎が倒れていた。


「蒼真か……」

 蒼真は必死に彼を抱きかかえる。


「叔父さん! 死んじゃダメだ!」

「蒼真よ、生きろ。寛子のために、そして俺のために……」

 柏崎の体から力が抜けた。


「叔父さん!」

 蒼真は叫ぶしかし柏崎はもう動かなかった。


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