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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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47-4 三冊のノート

 びしょ濡れのまま、蒼真は岸壁へとよじ登った。冬の寒さが骨の奥まで沁みる。

 三体の怪獣を倒した代償。エネルギーの消耗は激しく、体が思うように動かない。

 そのまま、海岸沿いの岩場に力なく倒れ込んだ。


「はぁ・・・・・・もうダメだ・・・・・・体が、動かない・・・・・・」

 そのとき、何か、温かいものに抱かれるような感覚が走る。まるで母に抱かれているような優しい温もりだった。意識が遠のいていく。そして目を覚ますと、そこは心地よく温かい部屋だった。蒼真はハッとして身を起こす。


 目の前には暖炉の炎が静かに揺らめいている。どうやら、今自分は暖炉のあるリビングのソファで寝ていたらしい。周囲を見渡す。近くのテーブルにコーヒーを啜る中年の男性の姿がある。年齢的には神山教授ぐらいか、どこかで見たことがある顔だ。


「お目覚めですか?」

 蒼真はゆっくり上半身を起こし、その男の顔を見つめる。遠山教授? ならば、ここは?


「ここは、教授の別荘ですか?」

「そうだよ。君が阿久津蒼真君かい?」

「あっ、はい」

 蒼真はどこか恐縮する。


「どうぞ」

 不意に後方から優しい声が響く。振り向くと、そこには以前会ったことのある遠山教授の秘書がいた。彼女は蒼真の前に湯気立つコーヒーをそっと置く。


「ありがとうございます」

 蒼真はゆっくりと立ち上がった。しかし足元がおぼつかない。


「まだ無理をしない方がいい。しばらく横になっていなさい」

 遠山教授の落ち着いた声が響く。


「僕は、どうしてここに?」

「この家の前で倒れていたんだよ」

 教授はコーヒーを一口飲みながら続けた。


「チャイムが鳴ったので出てみると、君がびしょ濡れで倒れていた。どうやら、宇宙人と名乗る男の姿もなくてね。急遽、彼女にも来てもらって、介抱したんだ」


「この家の前?」

 蒼真は眉をひそめた。自分の記憶では海から上がり、海岸縁の岩場までたどり着いたはず。なのに、どうして別荘の前に? だれが、ここまで運んだ? 遠山教授が立ち上がり、蒼真に近づく。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 蒼真はやや強がった。


「まぁ、無理はしないことだ」

 教授は苦笑しながら、向かいのソファへと腰を下ろす。


「君が来てくれたことは、私にとって都合がいい。礼を言うべきは、私の方だよ」

 そう言って、遠山教授は深々と頭を下げる。その姿を見た瞬間、蒼真は思い出した。遠山教授は自分からの情報を求めていた。今、この状況は、その情報が欲しくて、自分を助けたということなのか?


「教授は・・・・・・ 僕に会いたがっていたと、さとみさんから聞きました」

「あぁ。今研究している内容に、君の情報が必要だと思ったからね」


「それは、怪獣のことですか?」

「そうだ」

 遠山教授が頷く。蒼真は少し考える。遠山教授の研究には、以前にも同じようなことをしていた人物がいる。


「研究のきっかけは、さとみさんの論文だと聞きましたが、本当でしょうか?」

 遠山教授の眉がわずかに動く。


「それは、どういう意味だね?」

「実は以前、神山教授から聞いたんですが。昔、生物を生み出す研究をしていた人がいたそうです」

 遠山教授は静かにため息をついた。


「柏崎のことか」

 蒼真は息を飲む。この男は柏崎博士のことを知っている。


「教授は、柏崎博士のことをご存じなのですか?」

「あぁ。神山と共に、この学会から彼を追い出した一人だからな」


「そうなんですね・・・・・・」

 そういえば神山教授から柏崎博士のことを詳しく聞いたことはなかった。もしかするとこの人は、柏崎博士。つまり自分の父のことを知っているのでは?


「柏崎博士の行方は不明と聞いていますが、教授は彼の所在を知っているのでは?」

「知らない」

 遠山教授がコーヒーカップを静かに置き、じっと蒼真を見つめる。


「どうして柏崎なんかに興味がある?」

「えっ・・・・・・」

 不意を突かれ、蒼真は戸惑った。本意を探られないように、慎重に言葉を選ぶ。


「それは・・・・・・ 生命を生み出すことと、怪獣発生の理由には因果関係があると思っているからです」

「しかし怪獣は我々より高度に発達した宇宙人が生み出したものだろう?」

 遠山教授は微妙な表情を浮かべながら問いを続ける。


「それでも柏崎と繋げる理由は何だ?」

「それは・・・・・・」

 蒼真は言葉を詰まらせた。


「まあいい」

 遠山教授はコーヒーを飲み干し、軽く息をつく。


「そういえば、君は柏崎についてどれほど知っている?」

「ほぼ、何も知りません」


「そうか・・・・・・」

 遠山教授は、ふと考えるように目を細める。


「確かこの別荘に、奴と撮った写真があったはずだ。ちょっと待っていてくれ」

 そう言うと、遠山教授は立ち上がり、部屋を出ていく。もし柏崎博士が本当に父だったとしたら。今から目にする写真が初めて見る父の顔になる。期待と不安が交錯する。鼓動が高鳴るのを抑えられない。


 そうこうしているうちに遠山教授が、手に何かを持って部屋へ戻ってきた。


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