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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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46-1 悪こそ真の強さ

「岩川参謀、防衛隊から事務方に異動になったらしい」

 田所が意味深にそう告げる。作戦室には吉野隊長の姿はなく、田所、鈴鹿アキ、三浦が顔を合わせていた。たまたまアキに前回の怪獣との戦闘データを渡しに来た蒼真も、その場に居合わせている。


「先輩、それって左遷ってことですか?」

 三浦が嬉しそうに田所に尋ねた。


「まあ、そうだな」

「三浦隊員は、岩川参謀にはめられたから、溜飲が下がるんじゃないですか?」

 アキにデータを渡した蒼真が、三浦の表情を見ながらそう言った。


「いや、別に……そういう意味じゃないけど」

 そう言いながらも、三浦の顔から笑みは消えない。


「まあ、岩川参謀がいなくなるのは歓迎だけど、どうして急に異動が決まったのかしら」

 アキが訝しげに首を傾げる。その問いに、田所が得意げに答えた。


「なんでも、新スカイタイガー計画に反対したかららしいよ?」

「新スカイタイガー計画って?」

 蒼真が問い返す。田所は急に口調を固くした。


「文字通り、スカイタイガーを新しくする計画だよ」

「ああ、私も聞いたことがある。スカイタイガーを強化するんだけど、予算がかなりかかるとか」

「予算の問題で反対しただけなら、それだけで左遷される理由にはならない気がするんですが……」

 蒼真の言葉に、アキも答えを出せずにいる。


「確かに、今回の人事は不自然ね。何か分からない力が働いているような……」

「力って?」


「うーん……分からない。でも、いつもと違う気がするのよ」

 アキの違和感を共有するように、隊員たちもまた、蒼真の疑問に答えられずにいた。この時点で、蒼真はこの出来事が後に一大事へとつながるなどとは、まだ考えてもいなかった。


 ×   ×   ×


 スカイタイガーの格納庫。整然と並ぶ四機のスカイタイガーが整備を待っていた。高い天井の下に並ぶその光景は、何度見ても壮観だと蒼真は思う。


「で、新スカイタイガーって何なんです?」

 格納庫の一角には、整備士たちが休憩するスペースがある。パーテーションで区切られたその空間には、小さなテーブルと湯沸かしポット。その横にはインスタントコーヒーとパックの紅茶、そして紙コップが整然と並んでいた。吉村整備班長が紙コップに紅茶のパックを入れ、お湯を注ぐ。


「俺も詳しいことは聞いていないけど……なんでも、森川参謀長の肝いりらしい」

「へぇ、森川参謀長の計画なんですね。でもどうして岩川さんは反対したんだろう?」


「さあ、俺の耳には、岩川参謀が反対したなんて話は入ってこなかったからな」

 吉村班長はティーバッグをゆっくりと上下させながら、蒼真の目の前のパイプ椅子へと腰を下ろす。芦名がいなくなってから、しばらくの間、蒼真はスカイタイガーの格納庫へ足を運ぶことがなくなっていた。


 特に用があったわけではないし、何より、芦名を思い出すのがつらかった。しかし、怪獣との交戦を重ねるうちに、スカイタイガーにも何か攻撃のヒントがあるのではと思い、再び格納庫を訪れるようになった。それを後押ししてくれたのは、まさに目の前にいる吉村班長だった。


 怪獣の吐く火炎によってスカイタイガーが損傷した際、その温度や炎を受けた部分の変色したサンプルを提供してくれたのが彼だった。彼の目的はただひとつ、怪獣を早く駆除し防衛隊の犠牲者を一人でも減らすこと。飾り気のない人柄と、隊員たちの命を守ろうとする考え方が、蒼真は好きだった。いや、尊敬さえしていた。


 熟練の技術者との会話は、どこを切り取っても蒼真にとって新鮮だった。


「で、新スカイタイガーの機能って、何が追加されるんですか?」

「それも詳しくは聞いていないけど・・・・・・」

 吉村班長は紅茶を一口含み、ゆっくりと続ける。


「できるだけパイロットの身を守るために、外壁をさらに強化したチタン合金へ変更するのが目玉らしい」

「ほう・・・・・・ それはいい計画じゃないですか!」

 蒼真は前のめりになる。


「そうだな。怪獣の火炎攻撃でも機体の損傷を抑えられれば、飛び続けることができるし、万が一ダメージを受けても不時着しやすくなる」

 吉村班長が胸を張る。その拍子にパイプ椅子がわずかに軋んだ。


「なるほど…… だから予算がかかるんですね」

「まあ、そうだろうな。それを嫌がる上層部もいるだろうが」

「でも、どうして藤森参謀長がこの計画を進めているんですか?」

「さあ……」

 吉村班長は前かがみになり、紅茶を再び口に運ぶ。


「詳しいことは分からないが、たぶん、隊員ファーストを意識しているんだろう」

「隊員ファースト?」

 蒼真には聞き慣れない言葉だった。


「要は、隊員を大事にしている——と言いたいんだよ」

「そんなの、当然じゃないですか」


「正しくは、隊員を大事にしている“雰囲気”を作りたいんだ」

「雰囲気?」

 蒼真は首を傾げる。雰囲気とは?


「隊員たちから支持を得られれば、次期総監を狙う藤森にとっては有利になる」

「ほう・・・・・・」

「それに、今回の計画には、政治家が一押ししている企業が絡んでいるらしい。大臣や政治家の支持を得られれば、藤森の出世は盤石というわけだ」


「ふむ・・・・・・」

 蒼真は腕を組んだ。


「そんなに、出世ってしたいものなんですかね。僕にはあまり興味がないので、分からないんですけど」

「そんなもん、俺に聞くな。俺も出世してない」

 吉村班長が笑う。


「えー、でも吉村さんって昔は“エース”って呼ばれてたって、鈴鹿隊員から聞きましたよ。本当はもっと出世する人だったんじゃないですか?」

「買い被りだよ」

 吉村班長が首を横に振る。


「それに俺は現場が好きなんだ。出世して机の前でうんうん唸る。そんなの、性に合わないからな」

「確かに」

 蒼真の言葉に、吉村班長は再び豪快に笑った。


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