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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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45-4 怒りを呼ぶ男

「日野、どういうことなんだ!」

 東野の怒声が作戦室に響き渡った。


「まぁ、落ち着け」

 吉野隊長が東野をなだめる。隊長の隣にはアキと蒼真が腕を組み、日野を鋭く睨みつけている。東野のそばには奈緒が寄り添い、不安そうな表情を浮かべている。


「監視カメラに映ってたんだよ! 金曜の夜、実験室でお前が黒衣の男と話している姿が。俺を襲ったのも、その黒衣の男の指図か?」


「何のことだ?」

 東野の詰問に、日野は無表情で答える。


「とぼけるな!」

「俺は金曜の夜、データ整理をしていた。それだけだ。それに突然黒衣の男が現れたから、出て行けと言っただけだ」

 苛立つ東野を、蒼真が軽く肩を叩いて落ち着かせようとする。


「日野君、正直に話してくれないか? 黒衣の男は何のために実験室に来たんだ?」

「知りません。ただ黙ってそこに立っていて、出て行けと言ったら消えたんです」

「ふむ・・・・・・」

 蒼真が軽く首を横に振る。


「まぁ、音声は監視カメラには残っていないと思っているかもしれないけど、黒衣の男の口が動いている映像があるんだ。黙っていたとは思えないけど?」

「正直に言え!」

 東野が蒼真の手を振り払うようにして、日野に詰め寄る。


「そうでしたっけ? 覚えてません」

 蒼真はフッと息を吐いた。


「覚えていないなら仕方ないね。ただ一つだけ。東野君が気を失う直前、君が赤い球には秘密があると言ったらしいね。どんな秘密だい?」

「えっ、そんなこと言いましたっけ?」


「どこまで白を切るんだ!」

 東野が日野に掴みかかろうとする。それを蒼真が制し、息を荒げる東野の背中を奈緒が優しく撫でる。


「東野君、あまり怒ると、あの赤い球にエネルギーを吸い取られるよ」

「えっ?」

 驚いた声を上げたのは東野ではなく日野だった。


「あの赤い球には微量のフレロビウムが含まれているんだ。おそらく以前、人の怒りのエネルギーを使って怪獣が現れた仕組みと同じで、このフレロビウムが怒りのエネルギーを吸着していると思う。君が日野君に怒って気を失いそうになったのも、そのエネルギーを吸われた結果だろう」


「なるほど、そうだったのか・・・・・・」

 東野は納得したように頷く。


「よかったわね、東野君。危うくエネルギーを吸い尽くされるところだったわ」

 奈緒が心配そうに東野の顔を覗き込む。


「日野、お前、そのことを知ってて俺を・・・・・・」

 東野は怒りを堪えた声で言う。


「俺は知らないよ。何にも」

 日野は悪びれる様子もなく答えた。蒼真は二人の顔を見比べながら口を開いた。


「まぁ、両方の意見は聞かせてもらった。この件についてはこれから隊長と相談して決める。隊長、それでよろしいですか?」


 吉野隊長は大きく頷いた。それを見た東野と日野、どちらも納得いかない表情を浮かべたまま、会議は解散となった。


 ×   ×   ×


「なんだよ。もう、赤い球の秘密、分かってるんじゃないか!」


 日野は実験室の机の脚を蹴りつけた。周囲には誰もいない。蒼真の指示で実験室の出入りが禁止されているからだ。黒衣の男が実験室に何か仕掛けをした可能性があるとして、その調査が終わるまで規制線が張られていた。しかし、日野はその規制線を潜り抜けて侵入していた。赤い球は相変わらず実験室に置かれている。


「この球、他に何かないのか?」

 日野は赤い球を睨みつけながら苛立ちを募らせる。蒼真が自分より先に答えを知っていたことが悔しくて仕方がない。知っていながら自分にデータ整理をさせた。その屈辱感が彼を覆っていく。


「怒りがエネルギーだって?なら俺の怒りを吸収してみろよ!」

 日野は赤い球の乗った机を蹴り飛ばした。球は揺れながら赤い光を強めていく。


「そうだ、もっと怒れ!」

 振り返ると、黒衣の男が立っていた。


「あんた、あんたもあんただ!」

 日野は黒衣の男に詰め寄る。


「あんたと話しているところを見られたせいで、俺の立場が悪くなったんだ!」

 日野の語気の強さに呼応するように、赤い球がさらに光を増していく。


「そこまでだ!」

 別の扉から吉野隊長が銃を構えて飛び込んできた。その後ろにはアキと蒼真が続く。日野は驚き、腰を抜かす。黒衣の男は薄笑いを浮かべている。


「さぁ、お前のたくらみを話してもらおうか」

 蒼真も銃を構えた。


「たくらみ?そんなものはないさ。人が怒りを持つ限り、怪獣はどこにでも現れる。この怒りの力で怪獣はさらに強くなるんだ」

 黒衣の男はそう言いながら赤い球を手に取った。すかさず蒼真が体当たりし、男の手から赤い球が零れ落ちる。それをアキが素早く拾い上げた。


「その赤い光は人々を滅ぼす原動力だ。それを手にした者もやがて滅びる。阿久津蒼真、今の言葉を覚えておけ」

 黒衣の男はそう言い残し蹲る。蒼真が駆け寄ったときには男の姿は消えていた。


「くそ、どこへ行ったんだ!」

 蒼真が地団駄を踏むと同時に、地響きが実験室に響き渡る。


「緊急指令、緊急指令。基地周辺に怪獣が現れました。怪獣攻撃隊は直ちに迎撃せよ。繰り返す。直ちに迎撃せよ」

 吉野隊長とアキは頷き合い、実験室を飛び出していく。日野は恐怖で気絶していた。蒼真はゆっくりと左手を挙げた。


 防衛基地の外、大きな耳と目を持つ二本足の怪獣メガゲートが防衛隊基地の建物に迫っている。その前に青い光の柱が立ち上がり、メガゲートの行く手をネイビージャイアントが阻んだ。怒り狂うメガゲートはネイビーに突進する。


 ネイビーは建物を守るようにメガゲートを受け止め、なんとか押し返して足をすくい、地面に叩きつけた。馬乗りになり拳を振り下ろすネイビー。しかし、メガゲートの強固な皮膚に阻まれ、ネイビーの拳の方が痛みを感じる。


「こいつ、さっきの赤い球のエネルギーでさらに強固になっているな」

 メガゲートはネイビーの拳を掴み、その腕を力ずくで投げ飛ばした。地面に叩きつけられるネイビー。さらにメガゲートはネイビーを足蹴りにし、痛めつける。ネイビーは持ち上げられ、再び投げ飛ばされる。全身を打ち付けられ、動けなくなるネイビー。


「くそ!このままではやられる」

 ネイビーはふらふらと立ち上がるが、力はほとんど残っていない。メガゲートが拳を振り下ろしてくる。ネイビーはなんとか避けるが、限界が近い。

 そのとき、ネイビーの胸元から赤い光が輝き始めた。


「なんだ、これ、気持ち悪い・・・・・・」 

 赤い光はネイビーを包み込み、そのエネルギーで彼の体が炎に包まれる。


「これは。怒りだ。赤い球の怒りがネイビーを包んでいる。うう、気持ち悪い」

 ネイビーの体が炎に包まれ、その勢いでメガゲートに突進、メガゲートの体を突き破る。メガゲートの動きが止まった。そして静かに消えていく。


 ネイビーの炎が消えた。肩で息するネイビー、その姿も青い光の中へ消えて行った。


 ×   ×   ×


「で、結局日野君はどこに行ったの?」

 科学班の実験室でアキは東野や奈緒がデータを整理している様子を眺めながら、


「あの件でけん責処分を受けて、武器倉庫係に異動になりました」

「そう。東野君にはいい人事ね。でも、よくけん責で済んだわね」


「まぁ、直接的な被害を出していないし、黒衣の男にいいように扱われただけですからね。でも普通、ああいう場合は自ら辞めるものなんですけど、彼の場合は・・・・・・」

 蒼真は軽く首を振った。


「多分、人の感情を受け取る機関が人より劣っているんでしょうね」

「ふーん。そんな機関があるの?」


「さとみさんの説です」

 蒼真の言葉に、アキの眉間に皺が寄る。


「で、その結果、武器倉庫係でもひと悶着あったみたいで。みんな怒ってるって聞きましたよ」

「怒りを呼ぶ男ね」


「そうですね」

 蒼真は少し考え込んだ。彼が怒りを呼ぶ男だったからこそ、今回メガゲートを倒せたのだ。何が正解だったのだろうか、と。


「まぁ、キャラクターは変えられないっていう蒼真君の説も正しそうだけど」

 アキが軽く肩をすくめる。蒼真は科学班のメンバーたちを眺めた。誰も誰かを責めることなく、粛々と仕事をこなしている。


「とにかく、リーダーとしてこのチームの平和は守れました」


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