45-2 怒りを呼ぶ男
その夜のことだった。ひとり科学班に残った日野は、赤いガラス玉の資料をじっと眺めていた。
「阿久津蒼真が言っていた“気になること”ってなんだ」
彼がざっくり分析した結果を蒼真に持っていったとき、確かに何かに目を止めていた様子だった。
「何がデータ整理だ。適当な雑用に使いやがって」
日野は資料を読み進めながら怒りを滲ませる。
「俺はもっと優秀なんだ。それがなんで、あんな東野みたいな奴に怒られなきゃいけないんだ」
震える手を見つめながら呟く。
「阿久津リーダーもリーダーだ。俺を軽く見やがって」
日野はパソコン画面を食い入るように見つめ続ける。
「何か怪獣につながるものさえ見つければ、俺は阿久津蒼真を超えられる」
そう思いながらほくそ笑む。そのとき、目の前の赤い球が色濃く変化し始めた。
「?」
石の変化に気づきながらも、日野は強く首を振る。
「気のせいだ、気のせい」
再び資料へと視線を戻した。グラフを確認すると、ケイ素の値がひときわ高い棒で示されている。隣には気づくかどうか程度の小さな棒もあった。
「これは?」
別のツールを使い、その棒の正体を調べる。画面には「FL」と表示されていた。
「FL、フレロビウム。これか、阿久津蒼真が気にしていたものは」
日野は急いでノートにメモを取り始める。その間にも赤い球は光を強めていく。
「フレロビウム、怪獣と関係がある物質。でも、これがどうしたっていうんだ?」
日野は首を傾げる。蒼真からフレロビウムのことを教えられていないからだ。
「クソッ、よくわからない」
その苛立ちと共鳴するかのように、球が赤い光を脈動させる。明らかに異常な現象を目の当たりにし、日野も気のせいとは思えなくなった。
「これは、そうか。この状況を阿久津蒼真に伝えれば、東野を出し抜けるかもしれない」
立ち上がり扉へ向かう日野。しかしその前に黒い影が立ちはだかった。
「何だ!」
たじろぐ日野の前に現れたのは、黒衣に身を包んだ中年の男だった。
「何なんだよ、おっさん。どうやってここに入ってきた?」
「まあ、私のことなど気にしなくていい」
「気にするに決まってるだろ!」
日野は男を避けて外へ出ようとするが、男はそれを阻むように立ちふさがった。
「邪魔するな、どけよ!」
「行かせるわけにはいきません。阿久津蒼真のところへは」
「なんでだよ」
日野は男を押しのけようとするが、黒衣の男は揺らぐことなく言葉を続ける。
「あなたは、見返したくはないのですか?」
「?」
「阿久津蒼真は、今日も鈴鹿隊員とあなたの無能ぶりを語っていましたよ。いずれチームから外したいとも」
「なに!」
日野の握る拳に力が入る。
「この件も、あなたの手柄ではなく、阿久津蒼真の功績として扱われるでしょう」
「そんな・・・・・・」
「だから、この件は内密にして、あなた自身が真相を突き止め、防衛隊長官に進言するのです。そうすれば、阿久津蒼真などあなたの足元にも及びません」
日野は立ち止まり、考え込んだ。そして、再びパソコンの前に戻り、防衛隊の機密文書を検索し始めた。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。




