第四十八話 柏崎博士
♪淡い光が照らす木々
襲う奇怪な白い霧
悲嘆の河が怒るとき
敗れた夢が怒るとき
自由を求める戦いに
愛する誰かを守るため
青い光を輝かせ
ネイビー、ネイビー、ネイビー
戦えネイビージャイアント
蒼真は遠山教授が差し出した一枚の写真を見て、言葉を失った。部屋の空気が一瞬、凍りついたように感じられる。木漏れ日が差し込む書斎の静けさの中、写真に写る中の男の顔が、蒼真の記憶を激しく揺さぶった。
「この顔は…… 博士、この人が……」
蒼真の顔から血の気が引いていく。
「この男が柏崎博士だよ」
教授の言葉がまるで遠くから聞こえるように響いた。蒼真は写真を凝視する。そこに写っていたのは、紛れもなく彼の叔父、その人だった。
「そんな……」
膝から力が抜けるような感覚が全身を支配する。幼い頃から男手ひとつで育ててくれた叔父、その人物が生命を生み出す研究をしていた柏崎博士だった。もしかすると父かもしれないと思っていた男が、実は叔父だったのか? 蒼真は震える手で胸ポケットから防衛隊の隊員証が入ったケースを取り出し、その中の写真を一枚抜き取る。そこに写っていたのは、幼い蒼真と叔父、つまり柏崎博士だ。
「これを見てください」
「おお、これは……」
遠山教授が目を見開く。
「ここに写っているのは、僕の叔父です」
「君は柏崎の親戚なのか?」
「いえ、親戚ではないです。僕の育ての親です」
「なに、彼は生きていたのか!」
教授の表情にも、驚きと困惑が入り混じる。それはまるで幽霊を見たかのように顔面の血の気が引いていた。
そのとき、MECシーバーがけたたましい音を立てて蒼真を呼び出す。
「はい、蒼真です」
『蒼真君? 今どこにいるの?』
アキの声だった。
「今、遠山教授の別荘にいます」
『千葉沖に怪獣が出現したの。蒼真君の実家のすぐそば。至急現場に向かって』
「了解です」
蒼真はレシーバーをポケットにしまい、遠山教授へと向き直る。
「先生、また詳しいことを聞かせてください」
教授が静かに頷く。その仕草を確認し、蒼真は研究所を飛び出した。外は風が強く、空には不穏な雲が広がっていた。遠く海上に巨大な影が、怪獣の姿が確認できる。彼は波を押し分けながら、ゆっくりと、そして確実に陸へ向かって進んでくる。
不気味に前進する怪獣の背後、スカイタイガーが静かに接近してくる。機体の腹部から搭載されたミサイルが発射され、怪獣の背に命中する。しかし怪獣は微動だにせず、そのまま前進を続けた。
蒼真は海岸線へと駆け出す。切り立った岩場に到着すると、潮風が肌を刺す。
目の前に現れた怪獣は今までのものとは皮膚の色が違っていた。それはまるで光を吸い込むような漆黒、暗闇そのものだった。
「鈴鹿さん、あの怪獣の皮膚を分析してください」
MECシーバーに向かって蒼真が叫ぶ。
『了解』
アキの声が蒼真の耳に届いたとき、蒼真の視界の端に何かが映った。岩場の影、そこに見覚えのある人影が。
「叔父さん!」
蒼真はその影へと駆け寄ろうとする。しかし、MECシーバーが再び鳴る。
『怪獣の皮膚の分析終了。未知の物質で構成されているわ。密度は、えっ、ネイビエクスニュームの数十倍?』
「数十倍?」
蒼真は息を呑む。ありえない。そんな比重の重い物質なら、とっくに自重で潰れているはずだ。思考が混乱し、頭が真っ白になる。ハッとして岩場へ目を向ける。だが、そこにいたはずの男の姿は消えていた。
「しまった!」
蒼真は男がいた辺りへと走る。しかし、足元には何の痕跡も残っていない。
『キャッ!!』
無線から悲鳴が響いた。蒼真が海へと目をやると、炎に包まれ、海へ向かって落下していく鈴鹿機の姿があった。
蒼真の左手が天へと向かう。青い光が走る。海上を疾風のように駆け抜ける青い光が、落下するスカイタイガーを包み込んだ。機体は炎に包まれながらも、青い光に守られ、空中で軌道を変える。そのまま光は陸へと向かい、スカイタイガーをゆっくりと地面へ。着地の瞬間、衝撃波が周囲に広がるが機体は無傷だった。
その救出劇を見ていた怪獣、プラドダスが怒りを露わにする。漆黒の皮膚が波打ち、体内から発せられる怒気が空気を震わせる。
海面が泡立ち、空が低く唸る。ネイビーが海上の怪獣へと向かって飛び出す。波しぶきが舞い、空気が裂ける。両者が海上で激突した瞬間、水柱が天へと噴き上がる。プラドダスの太い腕がネイビーの胴体を何度も叩きつける。その一撃ごとに海面が爆ぜ、衝撃が周囲に波紋を広げる。
ネイビーは反撃しようとするが怪獣の腕が彼の肩を掴み、怪力で空中へと持ち上げる。次の瞬間、ネイビーは遠くへと投げ飛ばされ、空を切り裂きながら海上へ叩きつけられる。水面が砕け、彼の体が深く沈む。
だがネイビーはすぐに頭を振り、意識を取り戻す。水中から跳ね上がるように立ち上がり、空中へ跳躍。そのまま回転しながら、蹴りをプラドダスの顔面へ叩き込んだ。怪獣の頭部がのけぞり、巨体がバランスを崩す。海面が大きくうねり、プラドダスは海中へと沈み込んでいく。
しかしネイビーが背後を警戒する間もなく、海水が突然盛り上がる。巨大な水柱の中から、プラドダスが再び姿を現す。その口元が光り、怪光線が放たれた。光線がネイビーに直撃、彼の体が空中で弾かれ、そして再び海上に叩きつけられる。水面が爆ぜ、彼の体は深く海中へ沈んだ。
「だめだ…… このままだとやられる」
ネイビーは意識が遠のく中で渾身の力を込めた。彼の体が赤く光り始める。その光は怒りと覚悟の炎となって彼の全身を包み込む。やがて炎に包まれたネイビーが海中から突進する。水を切り裂き、空気を焦がしながら、一直線にプラドダスへと向かう。怪獣は体を半身にし、回避を試みる。その動きは重く、鈍い。かろうじてネイビーの直撃を免れたが、怪獣の背中の鰭が炎に焼かれ黒煙をあげる。
「ギャオーッ!!」
プラドダスの咆哮が海を震わせる。その巨体が揺れ、バランスを崩しながら、海底へと沈んでいく。ネイビーは薄れゆく意識の中で、沈んでいく怪獣の姿を見つめていた。その姿が闇に溶けていくのを静かに見届ける。そして彼もまた、力尽きた体を海に委ね、深い海の底へと落ちていった。
× × ×
ネイビーの胸に怪獣の腕が深々と突き刺さる。その瞬間、蒼真の全身に鋭い激痛が走った。胸が焼けるように苦しく、視界が揺らぎ、意識が遠のいていく。
「だめだ…… 死ぬ!」
思考が崩れ落ち、頭が真っ白になる。闇が押し寄せ、感覚が溶けていく。その瞬間、蒼真はハッと目を見開き、蒲団の上で跳ね起きた。息が荒く、胸が上下に波打つ。体中が汗にまみれ、シャツが肌に張りついている。
「夢、か……」
額に手を当て、深く息を吐く。部屋の空気はひんやりとしていて、障子の隙間から朝の光が差し込んでいた。周囲を見渡すと、そこは見覚えのある小さな和室だった。畳の匂い、壁にかけられた古いカレンダー。
そうだ、ここは実家の自分の部屋。どうやら、ここで眠っていたらしい。
「どうして僕はここにいるんだ?」
蒼真は蒲団から身を起こし、ゆっくりと立ち上がった。足裏に畳の感触が広がる。階段を降りて、静まり返った食堂へと向かう。しかし、と言うか、やはりそこにはだれもいなかった。椅子はきちんと揃えられ、食器棚も整然としている。半年ほど前に戻ったときと、風景は何も変わっていない。ただ、空気だけが少し重く、時間が止まっているようだった。
「一体…… だれが、僕をここへ運んだんだ?」
蒼真は近くの椅子に腰を下ろす。座面の冷たさが現実感を引き戻す。目の前の机はうっすらと埃をかぶっていた。指でなぞると白い線が残る。
「確かあのとき……」
蒼真は記憶を辿る。海中で怪獣と死闘になり、負傷した自分は意識を失って海底へ沈んでいった。いや、その前、怪獣と戦う前、岩場に、そう、叔父さんがいた。もしかしたら、戦いのあと気を失った自分をここまで運んできたのは、叔父さんかもしれない。
「叔父さん、無事だったんだ」
一年近く前、行方をくらましていた叔父。母が死んだあと、自分を育ててくれたその人が生きていた。それは喜ばしいことだった。しかし、蒼真の脳裏に遠山研究室で見た写真の男の姿が浮かぶ。
柏崎博士―― その男は紛れもなく叔父だった。だとすると、母の手紙に書かれていた“生命を生み出した父”は柏崎ではないと言うことなのだろうか。それとも叔父が父? そんなはずがない。もしそうなら、とっくに正体を明かしているはずである。
「でも、もしかしたら、あの写真、ただ似ているだけで、叔父さんとは別人かもしれない」
生物工学の第一人者がこんな田舎の食堂の店主をしているはずがない。しかし、もし本当に柏崎博士と叔父が同一人物だったら?
「そうだ、あそこへ行けばなにか分かるはず」
そのとき蒼真のポケットのMECシーバーがけたたましく鳴った。電子音が静かな食堂に響き渡る。
「はい、蒼真です」
『蒼真君、無事だったの?』
アキの声だった。その声には安堵と怒りが混ざっていた。
「はい、無事です」
『もう、何度連絡しても返事がないから、もう、本当に心配したんだから!』
明らかにアキの声は怒りを帯びていた。その言葉の裏にどれほど心配していたかが滲んでいる。
「すみません……」
アキのため息がMECシーバー越しに聞こえる。その音が蒼真の胸に静かに刺さった。
『今、どこにいるの?』
「実家です」
『ケガは?』
「ないです。大丈夫です」
蒼真は疲れを悟られないため、できるだけ声を張って答えた。
「それより怪獣は?」
『ネイビーと戦って海に沈んだままよ。それ以降は姿を見せていないわ』
「そうですか、それはよかった」
蒼真は安堵の息を漏らす。胸の奥にあった緊張が、少しだけほどける。
『すぐ基地に戻って。作戦を立てないと』
力強いアキの言葉に、蒼真が水を差した。
「すみません、少し気になることがあって。それを済ませてから戻ります」
「?」
少し間をおいてアキが問う。
『気になることって? もしかして柏崎博士のこと? なにか分かったの?』
蒼真が一呼吸おいて答える。
「今は言えません。でも、なにか分かったらすぐに連絡します」
アキの言葉が一瞬止まった。それは数秒、いやそれ以下かもしれない。だが、蒼真には彼女の沈黙が永遠に感じるほど長かった。
『分かったわ。でも気をつけてね』
「ありがとうございます。では」
蒼真はレシーバーをオフにする。静寂が戻る。窓の外では、風が庭の木々を揺らしていた。
蒼真は立ち上がり、玄関へ向かう。靴を履き、扉を開けると、近くにある山から吹き下ろす空気が彼の肌を撫でた。あの山奥にある実験室へ。そう、きっとあるはず、その答えを求めて蒼真は歩き出した。
× × ×
実験室は昨年の夏に訪れたときと、何ひとつ変わっていなかった。扉を開けた瞬間、蒼真の鼻をついたのは、かび臭い空気と古い薬品の残り香。薄暗い室内には、埃をかぶった器具たちが静かに並び、棚の上には使われなくなった試薬瓶が沈黙を守っていた。まるで、ここだけ時間が止まっているようだった。
「以前は美波とここに来たなぁ」
蒼真はぽつりと呟き、ふとため息を吐いた。あの夏の日、笑いながら資料をめくっていた美波の姿が脳裏に浮かぶ。できることなら、現実世界も昨年の夏から時間が止まっていてほしかった。
そうすれば、美波は…… 扉の近くに立ったまま蒼真はしばらく動けずにいた。やがてゆっくりと足を踏み出し、軋む床板の音を響かせながら部屋の奥へと進む。そのとき奥の暗がりで何かが動いた。
「?」
蒼真の視線が揺れる影を捉える。薄暗い室内でもその男の顔ははっきりと認識できた。
「叔父さん?」
男はゆっくりと蒼真の前へ進み出る。その歩みは静かで、しかし確かな重みを持っていた。
「蒼真か」
その顔、間違いない。蒼真を育ててくれた叔父、その人だった。
「叔父さん、どうしてここに?」
叔父が、いや、柏崎が俯いた。
「お前がここへ来ると思ったからだよ」
「ここは……」
「そう、私の実験室だ」
蒼真はまじまじと叔父の顔を見つめる。長い沈黙の中で言葉にならない思いが胸に渦巻いていた。
「叔父さんは柏崎博士、やっぱり、そうなんだね」
叔父は深く頷いた。その仕草には、逃げも否定もなかった。
「どうして今まで黙っていたんだよ?」
「過去は捨てたんだ。そのことをお前に話す必要はなかった。今日までは……」
柏崎は真っ直ぐ蒼真を見つめる。その目には覚悟と後悔が混ざり合っていた。
蒼真もその目線を外すことなく、睨むように彼を見つめ返す。
「僕が神山研究室にいること、知っていたでしょ?」
「そうだな。お前が神山のところへ行くと聞いたときは驚いたがな」
柏崎の瞳がわずかに斜め上へと向く。懐かしむような、遠くを見るような目だった。
「お前は昔、磯の小動物をよく観察していた。そう考えれば、神山のもとへ行くことは不思議ではなかった。ただ、できれば、お前には普通に大学を卒業し、普通の企業に就職して、穏やかな暮らしをしてほしかった」
蒼真は思う“普通”とは何なのか。どこにいたって、自分がネイビージャイアントであることは変わらない。戦う運命は決して変わることはない。
蒼真が一歩前へ進む。そこにある柱へ目をやり、柏崎に分かるように指さした。
「叔父さん、これ。どういう意味? 僕は、ここで生まれたの?」
柱には古びた文字で『蒼真、ここに誕生す』と刻まれていた。その文字は時間の経過とともに少しずつ擦れていたが、しかし確かにそこに文字が残っている。
柏崎はその柱へと歩み寄り、じっとその文字を見つめる。指先が刻まれた文字をなぞる。
「お前はな、間違いなくここで生まれた」
「……」
蒼真が息を呑む。胸の奥が冷たい手で掴まれたように震える。
「母さんは…… どうして僕をこんなところで?」
「それはな」
柏崎がゆっくりと項垂れる。その背中には長年の重荷がのしかかっているようだった。
「それは、お前の母さんは、俺の妹である寛子ではないからだ」
「!!」
蒼真の全身が固まった。まるで血が凍るように、彼の思考が止まる。
「今まで黙っていて申し訳なかった。だが、今、地球に、いや、お前に危機が迫っている。だから真実を話す。ここでなにがあったのか。そしてお前がなぜ、ここで生まれたのか……」
柏崎の声は静かで、しかし確かに重かった。その言葉が蒼真の過去と未来を繋ぎ始めていた。
× × ×
「それは、俺が学会を去り、体を壊した親父の代わりに浜辺の食堂を手伝いながら、山奥の研究室で実験を続けていたときだった。俺は夢を捨てきれなかった。人類が到達したことのない領域に俺だけがたどり着く。それだけが望みだった。名声も富もいらない。ただ答えにたどり着きたかった。それだけだった」
柏崎は山中の小屋で孤独な研究を続けていた。木々に囲まれたその場所は文明の喧騒から遠く離れ、風の音と自分の呼吸だけが支配する世界だった。机の上には手書きのノートと古びた顕微鏡、そして幾度も繰り返された実験の痕跡。
彼の脳裏にはある確信が芽生えていた。生命を生み出すことは可能だ、と。
その自信は他者に説明できる藻ではなかった。ただその確信は毎夜夢に現れる声によって強められていた。だれのものとも知れぬその声は彼の耳元で囁き、導くように語りかけてくる。それは論理ではなく、啓示だった。アインシュタインが夢の中で光の絶対速度の啓示を受けたというなら、自分もきっと同じだ、これは神の声。一般の人間には理解できない領域。だからこそ、柏崎は人々から距離を置いていた。それこそが正しい選択だと彼は信じていた。
その夜は嵐だった。風が木々を揺らし、雨が屋根を叩きつける。柏崎にとって、世間のニュースなど関心の外だった。嵐が台風なのか、集中豪雨なのかすらどうでもよかった。ただこの小屋さえ壊れなければそれでよかった。
彼は実験データを眺めていた。ノートに記された数式と、顕微鏡下の細胞の変化。外の音など全く気にもかけない。なのにその音だけが彼の耳に飛び込んできた。扉を叩く音。
まただれかが避難を促しに来たのだろうか。この場所は大雨が降れば山崩れの危険がある。だが、柏崎には関係がなかった。たとえ土砂に埋もれようとも、恐れるに足りない。それほど、この研究に命をかけていた。しかし扉を叩く音は止まらなかった。その音は力強くはない。だが、何か切迫したリズムで執拗に叩かれ続けている。
柏崎は眉をひそめた。だが、何かが気になる。その引っかかりが扉へ彼を向かわせた。扉を開けた瞬間、冷たい風とともに女が部屋の中へ倒れ込んできた。濡れた髪が顔に張りつき、息も絶え絶えな女を柏崎は慌てて彼女を抱きかかえる。
「どうしたんだ!」
柏崎が慌てた声で彼女に話しかける。
「助けて……」
女は気を失いかけていた。その重み、最初は気付かなかったが、柏崎は彼女の腹部を見て息を呑む。
「妊娠しているのか?」
額に手を当てる。彼女の肌は異常なほど熱く、汗が滲んでいた。このままでは危ない。彼女の命だけでなく、お腹の中の赤ちゃんも危険だ。
「人を、人を呼ばないでください」
「なにを言ってるんだ、このままだと、君もお腹の子も危険だ」
「分かっています。でも……」
女はかすれた声で言葉を続ける。
「人目につけば私は殺されます。そのときはこの子も……」
「殺される?」
思いもよらない彼女の言葉に柏崎は息を呑む。
「しかし……」
柏崎は躊躇した。とにかく彼女を寝かせなければ。その重い体を抱きかかえ、ソファーで横たえさせる。
「大丈夫か?」
「えゝ……」
苦しそうな表情の中、それでも彼女は柏崎を安心させようとしていた。その姿に、研究一筋だった柏崎も心を揺さぶられる。
「どうして、君は殺されるんだ?」
「私が宇宙人だから……」
「宇宙人?」
「私は地球から遠く離れた星から来たんです」
柏崎は彼女が高熱による錯乱状態なのかと思った。しかしその目は明らかに真剣だった。
「信じてもらえないかもしれませんが、あなたなら、分かるはず」
「?」
柏崎が首を傾げる。俺に分かるはずがない、のはず。
「あなたに生命科学の技術を教え続けたのは私の夫なのです。あなたへテレパシーで語り続けたのです」
「えっ」
柏崎は耳を疑った。神の啓示だと思っていたものが、異星人からのメッセージ? 自分の研究は己の発想ではなく、だれかの入れ知恵だというのか?
「そんな、馬鹿げた話を……」
「いいえ、真実です。私の夫は地球人の中で、あなたなら研究成果を理解できると選んだのです」
「俺を?」
柏崎の心は複雑な感情に揺れ動く。この研究が自分のオリジナルではない―― それは心からの落胆。しかし、異星人から選ばれたという奇妙な優越感。
女は苦しそうにお腹を抱えた。
「大丈夫か!」
女は小さく頷いた。
「ところで、君の旦那さんは?」
「殺されました」
「殺された!?」
柏崎が息を呑む。
「それは……」
「そうです。新たな生命を生み出す研究は危険視されました。だから彼は殺されました。そして私も命を狙われている」
柏崎は絶句した。もしこの研究を進めれば、次は自分が殺される。容易に想定できる未来だった。
「だから、あなたには生き延びてほしい。彼の研究を引き継いでほしい。そしてこの子を守ってほしい」
「……」
そのとき、女が苦しみだした。彼女の股から水が滴る。
「破水している?」
柏崎は動転した。今、自分が聞かされた話。今、目の前で起こっている現象。どうすればいい? 何をすればいい?
「うう、私の、私の赤ちゃん……」
苦しむ彼女を見て、柏崎は携帯電話を掴んだ。
「寛子か、すぐに研究室へ来てくれ!」
嵐の音が遠くで唸る中、柏崎の声は切迫していた。この瞬間から、彼の人生は大きく動き始めていた。
× × ×
「寛子はすぐに駆けつけてくれた。そして赤ん坊は生まれた」
柏崎は目の前の長椅子をじっと見つめていた。古びた木の表面にはときの流れが刻まれている。その椅子の上にかつて小さな命が誕生したのだ。
「ここでお前は生まれたんだ」
蒼真は息を呑む。視線を長椅子へと移すと、そこに自分の始まりが刻まれているような気がした。
「もしかして、実家にあったへその緒は……」
「そうだ。そのとき、寛子が切ったものだ。その臍の緒を寛子は大事に家へ持ち帰った」
部屋の空気が静かに揺れる。蒼真は幼い頃に見た母の面影を思い出す。しかし、あの母は本当の母ではなかった。本当の母は、実は宇宙人? 衝撃的な事実だが、まったく実感が湧かない。
「それで、その宇宙人の女性はどうなったんですか?」
まだどこかあっけにとられている蒼真が問いただした。
「死んだよ。お前を生んだ直後にな」
「えっ」
死んだ…… 蒼真の心が揺れた。自分は二度母親の死を経験したのだろうか。記憶の底にもない母を失っていた、彼の心が大きく揺れる。
「彼女は最後に言った。お前には特殊な能力がある、と」
「それは、もしかして……」
蒼真の脳裏に母の手紙の内容が思い出される。
「そうだ。お前に送った手紙の内容、あれはお前の母が遺した言葉を寛子が書き写したものだったんだ」
「……」
蒼真は絶句する。言葉が喉に詰まり、思考が追いつかない。
「だとすると、あのノートは?」
「あれは俺が書いたものだ」
「叔父さんが?」
柏崎は目を伏せる。その表情には後悔と覚悟が入り混じっていた。
「もし、お前の母の言葉が正しいとするならば、彼女の夫が俺にテレパシーで送り続けた言葉をノートに書き写したものってことになる」
「夫? つまり、僕の父親?」
蒼真の言葉が詰まる。胸の奥がざわめき、鼓動が速くなる。
「そうだ」
柏崎が目を閉じた。それは遠い記憶を呼び起こすようだった。
「俺は神の啓示と信じて頭に浮かんだことをノートに書き写した。まずはタンパク質に変わる物質の探索、その次はタンパク質とは違う物質の探求。それはどれもうまくいかなかった。それは俺の失敗ではなく、蒼真、お前の父の失敗でもあったんだと思う。お前も見たと思うがノートの一冊目の二冊目がそれにあたる」
柏崎の眉間に皴が寄る。
「おそらくお前の父親は最後の物質にたどり着いた。それを俺の脳みそにテレパシーとして送り込んできた。だが正直、俺はそれを理解できなかった。それがノートの三冊目に当たる」
柏崎が項垂れた。蒼真がノートに書かれていたことを思いだす。
「宇宙人があのノートにはネイビーの秘密が書かれていると言っていました。それは一体なんなんですか?」
「正直俺にも分からいない」
「……」
蒼真は絶句した。確か三冊目のノートには謎の物質Xと謎のエネルギーYが書かれていたはず。
「叔父さんはXとYの正体は分からないままあのノートは終わっているのですか?」
柏崎は項垂れた。
「そうだ、それが俺の限界だった」
蒼真の虚脱感は柏崎の心の中と同じなのか、それ以上なのか、複雑な思いが広がっていく。
「すまん、だからあのノートに書かれた内容からはなにも分からない」
蒼真が肩を落とす。その様子を見た柏崎が彼の肩を軽く叩いた。
「ただ、ひとつだけ言えることがある」
「?」
「最後のメッセージの中には、確かに力強いメッセージが込められていたと俺は感じた。それは、生命を生み出すことを発見した高揚感だと思っていたが」
柏崎が一呼吸おく。
「今思えば、蒼真、お前を生み出した思い、最愛なる息子への思いだったのかもしれない、今、そう思える気がする」
蒼真が絶句する。もし叔父が言うことが正しければ、自分の父は、生命を生み出そうとする狂乱的な人間ではなく、間違いなく、自分を愛してくれた存在なのかもしれない。
「お前の母がが死んでしまった以上、何が真実なのかは分からない。ただひとつ言えることは、確かに俺の耳には研究へ導く声が響いていた。俺はその声を頼りに論文を作成した。だがその学説は学会で非難された。当然だろう。地球人には理解できない、異星人の説なのだから。今思えば、そんな当たり前のことすら理解できていなかった。それは唯々、俺の欲望のためだったんだ。自分よりレベルの低い人間たちに、自分の知識の高さを誇示したかっただけ……」
柏崎は天を仰ぐ。その目には、虚栄と悔恨が滲んでいた。蒼真は、彼の虚栄心などどうでもよかった。ただ、母のことが知りたかった。
「で、母さんは? 死んだ母は、どうなったんです?」
「消えたよ」
「消えた?」
蒼真は一瞬、柏崎が嘘をついているのかと思った。しかし、彼の宙を眺める目には迷いがなかった。
「彼女は必死にお前のことを心配していた。だが急に容体が悪くなった。寛子の話によると、妊娠による栄養失調と体への負担が重なり、命を落としたんだと考えられる。急激に心肺機能が低下し、死に至ったんだ。ただしそれは、地球人と彼らが似た生命体だという前提の話だがな」
柏崎が項垂れた。
「消えたとは? ないが起こったんです?」
「彼女の息が止まり、心臓の鼓動が消えた瞬間、彼女の姿はゆっくりと、この世界から消えていった」
「それは、なぜ?」
蒼真には理解できなかった。人が死んだあとに消える? そんなことが……
「俺にも分からない。彼ら特有の現象なのか、それともお前のことを思い、自らがここへ来た痕跡を消すためになにか細工を施していたのか」
「……」
蒼真は思った。柏崎の仮説が正しいならば、それは後者ではないか。自分の生みの母は命をかけて自分を守ろうとしていた。それは母の手紙からも読み取れる。母は自分のことを守るために、必死だったのではないか。
「で、その後は?」
「寛子が、お前を自分の子供として届け出ると言い出したんだ」
蒼真が息を呑む。
「えっ? それはどうして?」
「寛子が愛した男が、この事件の半年前に亡くなったんだ」
蒼真は初めて聞くその事実に絶句する。そんな蒼真をよそに柏崎が言葉を押し殺しながらその続きを話した。
「寛子はその男との間に生まれるはずだった子供をお前に重ねたらしい。天から、そして死んだ彼からの贈り物だと……」
蒼真の心が再び揺れる。自分は育ての母にとってどんな存在だったのだろう。それは何かの代用? それとも……
「母さんは…… 寛子さんは僕のことをどう思っていたんですか?」
「それは、お前が一番よく知っているはずだ」
蒼真は、優しかった母の姿を思い浮かべた。しかしそれは実の母ではなかった。けれど母、柏崎の妹である寛子は、自分を心から慈しんでくれていた。それは間違いない。そう、だれが母で、だれが母でないかは関係ない。自分の母は寛子。そして、その愛情を受けて、自分は育った。
「その後、宇宙人は現れなかったんですね?」
「あゝ。その後はこの田舎で静かに暮らすことができた。あの津波で寛子が亡くなるまではな」
蒼真は目を閉じる。そこには自分を胸に抱いて優しく微笑む寛子の顔が浮かんでいた。そのことを思いだす蒼真の胸が苦しくなる。
「今回の怪獣出現は実の母と関係があると思いますか?」
「間違いないだろう。新しい生命がフレロビウムで生まれることは、俺には伝えられなかった。推測だが、その真実を知った直後に、お前の父は殺されたのだろう。彼はその秘密を伝えぬまま、命を落とした」
「でもあのノートにはフレロビウムの文字が」
柏崎が再び天を仰ぐ。
「怪獣が九州に現れたニュースを聞いたあと、俺のところに小学生ぐらいの女の子が現われた。その子の言うには、あのノートに書かれているⅩはフレロビウムだと。思わず俺はそれをノートに書き留めた。それまでⅩの正体を俺は知らなかった、あの少女の言葉を聞くまでは……」
蒼真は閉店していた叔父の食堂で会った少女を思い出す。
「その少女は……」
「宇宙人の回し者だろう。お前の父親を殺した者たちは、俺のところにたどり着くのに数十年の時間を費やした。そして今、地球に怪獣が現れた」
「それは父の意志を阻害しようとした人たちの思い」
蒼真はその言葉と同時に自らの拳を固く握らせることになる。
「つまり宇宙人たちは怪獣を送り込み、人類を絶滅させようとしている、そう言いたいんですね?」
「お前の母親の手紙がそれを証明している。まぁ、あくまで推測でしかないがな」
しかし蒼真も、柏崎の推測に賛同せざるを得なかった。 状況証拠はそれを示している。 そして、もしそれが事実ならば、父はそれを阻止するために、自分に何かを施していたのではないか。 手紙の内容は、確かに事実である可能性がある。
そこまで考えが及んだとき、蒼真の腰に装着されたMECシーバーがけたたましく鳴り響いた。
「はい、蒼真です」
『蒼真君か』
吉野隊長の声だった。通信機越しに響くその声はいつも以上に硬く、緊迫していた。
「隊長、どうしました?」
『千葉沖に怪獣が再び現れた。君の今いる近くだ。すぐに現場へ向かってくれ』
蒼真の背筋が伸びる。空気が一瞬、冷たくなったように感じた。
「怪獣? 以前現れたものと同じですか?」
『そうだ。田所と鈴鹿隊員がすでに現場へ向かっている』
「了解。すぐに急行します!」
蒼真が小屋の扉へと向かおうとした、そのとき、
「蒼真!」
鋭い声が背後から飛んできた。振り返ると柏崎が立っていた。その目は何かを伝えようとする強い意志に満ちていた。
「蒼真、分かってほしい。お前は俺にとって大切な存在だ。小さい頃から共に過ごした家族、俺の人生で初めて、だれかの世話をした。それは俺が今までとは違う人間、いや、初めて“人らしい心”を持てたという証だ。俺は本当に、お前に感謝している」
蒼真は言葉を失った。なぜ今、この場でこんなことを言うのか? だが、その言葉の重みは、胸の奥に深く沈んでいく。
「叔父さん、分かってるよ。僕も叔父さんに感謝している」
蒼真は笑顔を浮かべた。それは柏崎がどんな人間であれ自分を慈しみ育ててくれた人だから。
「きっと寛子、いや、お前の母さんも、同じ思いだと思う。だから……」
「だから?」
「だから…… 死ぬなよ」
その言葉は静かに、しかし確かに蒼真の心を貫いた。蒼真は静かに頷いた。
「じゃあ、行ってくる」
柏崎は大きく頷いた。その姿を最後に蒼真は小屋を飛び出した。外は風が強く、空には不穏な雲が広がっていた。すでに腕時計は青く光っている。蒼真は駆け出し、左手を天に突き上げた。
海上から、波を押し分けるようにして漆黒の怪獣、プラドダスがゆっくりと姿を現してくる。その巨体はまるで海そのものを拒絶するかのように、青い水面に不気味な影を落としていた。
岬の先端へと向かって這い上がるその姿は自然の風景にまったく馴染まず、異物として空間を支配していた。不気味な静けさが辺りを包む。その瞬間、ネイビーが空を裂いて飛来し、鋭い飛び蹴りを怪獣の顔面へ叩き込んだ。
衝撃音が海面に響き、プラドダスの巨体が仰向けに倒れ、波間へと沈んでいく。水柱が上がり、しばしの静寂が訪れる。しかしそれは終わりではなかった。再び海面が盛り上がり、プラドダスが姿を現す。
その巨体が波を押し分けながら、陸へと這い上がるようはまるで大地そのものが軋んでいるかのようだった。ネイビーが咆哮とともに突進し、怪獣の胸部へ体当たりを仕掛ける。両者の衝突が地面を震わせ、岩が砕け、風が巻き上がる。
激しく組み合う二体。ネイビーの拳が何度もプラドダスの胴体を打つが怪獣は微動だにしない。その重みはまるで山を相手にしているかのようだった。そしてプラドダスが両腕を振り上げ、ネイビーを地面へと叩きつける。地面が陥没し、砂煙が舞い上がる。
「くっ、重い……」
プラドダスがその巨体をのしかけ、ネイビーの首を両手で締め上げる。圧迫される気管、軋む骨。ネイビーは怪獣の腕を掴み、必死に振り払おうとするが、まるで岩を動かそうとしているかのようにはびくともしない。
「ダメだ、苦しい……」
視界が揺れ、意識が遠のいていく。そのときだった。柏崎の声がネイビーの耳に響いた。
『その怪獣は重い物質で構成されている。だから自重によってやがて崩壊する。この怪獣の重量からすると、あと五分だ。なんとか持ちこたえるんだ! がんばれ蒼真!』
その言葉が届いた瞬間、空を切り裂くように銀色の光が走る。
田所機と鈴鹿機が戦場へ到着。空中から放たれたミサイルが怪獣の頭部へ正確に命中する。爆発音が轟き、火花が散った。
一瞬、プラドダスの腕の力が緩む。ネイビーはその隙を逃がさず、両手を振り払い、渾身の拳を怪獣の胸へ叩き込んだ。衝撃で怪獣の体が仰向けに倒れ、地面が震える。ネイビーは即座に起き上がり、距離を取る。
肩で息をしながら、次の攻撃に備える。そのとき、戦場のすぐそばの丘に、柏崎の姿があった。風に吹かれながら、彼はじっと戦況を見つめている。その姿には確かな意志を感じさせるものがある。
「叔父さんが僕のピンチに駆けつけてくれたんだ」
プラドダスの咆哮が空気を震わせる。怪獣の目が光り、怪光線がネイビーの方向に放たれる。彼は身を翻し、ギリギリで回避する。しかしプラドダスは無差別に光線を放ち始めた。地面が焼け、空気が焦げる。
『怪獣が自分の自重に苦しみ始めている。もう少しだ。絶対に奴を海へ逃がすな。海に逃げれば、浮力で崩壊しなくなる』
その言葉に気付いたのか、プラドダスが海岸縁に目を向ける。そして荒れ狂うように咆哮をあげ、丘へ向けて怪光線を撃ち込んだ。
「叔父さん!」
蒼真の叫びが空を裂いた。だが次の瞬間、丘が爆発した。土煙が舞い、炎が空を染める。衝撃波が辺りを吹き飛ばし、空気が一変する。
「くっ!」
怒りが燃え上がる。ネイビーの体が赤い炎に包まれた。その炎は悲しみと怒りの象徴のように空へと燃え上がる。プラドダスが海へ逃げようとする。しかしそれを背後から強く抱え込むネイビー。
「逃がすか!」
怪獣の動きが完全に止まる。ネイビーの赤い炎が怪獣の体内へと流れ込んでいく。プラドダスの体が軋み、ひび割れ、崩壊していく。
「叔父さんの仇だ!」
ネイビーが怪獣を陸へと投げ飛ばす。その衝撃でプラドダスの体は空中で砕け、地面に叩きつけられてた。その体がバラバラに砕け散る。その場に燃え滾る炎が広がり、戦場を赤く染めた。
ネイビーが炎を目掛け青い光線を放つ。すると炎が静かに縮まり、怪獣の破片が見る見る消えていく。やがて戦場に残されたのは静寂と焦げた大地だった。
それを見届けたネイビーが再び青い光となって丘の上へ向かう。
「叔父さん!」
ネイビーから人間の姿に戻った蒼真が岬を駆けていく。そこには傷だらけの柏崎が倒れていた。風が彼の髪を揺らし、血に染まった衣服が静かに波打っている。
蒼真が全力で柏崎に駆け寄る。その胸に言葉にならない痛みを抱えながら、やがてその痛みが広がっていくのを感じながら。
「叔父さん、しっかりして!」
蒼真が柏崎を抱きかかえる。柏崎の目がうっすらと開く。
「蒼真か……」
その声は風にかき消されそうなほど弱々しかった。丘の上、砕けた岩の間に横たわる柏崎の姿は血に染まり、衣服は裂け、呼吸は浅かった。その体は驚くほど軽く、最期を迎えるかのように冷たくなり始めていた。
「叔父さん! 死んじゃダメだ!」
声が震える。胸の奥から込み上げるものが言葉を押し出していく。柏崎の瞳がわずかに動き、蒼真を見つめる。
「蒼真よ、生きろ。寛子のために、そして俺のために……」
その言葉は最後の力を振り絞るように紡がれた。唇が微かに動き、目が静かに閉じられていく。やがて柏崎の体から力が抜けていった。
「叔父さん!」
蒼真の叫びが空を裂いた。風が吹き抜ける。怪獣の咆哮も、戦闘の余波も、今は遠くに感じられた。しかし柏崎はもう動かなかった。その胸は二度と上下せず、手は蒼真の腕の中で静かに沈黙している。蒼真はその場に膝をつき、柏崎を抱きしめたまま動けずにいた。
涙が止まらない。自分のたった一人の肉親、血がつながっているとか、そんなことは関係ない。自分にとっての大事な人が、今、目の前で自分をおいて去っていった。
蒼真の心に今まで感じたことのない熱を感じる。どこか苦しい。彼の心の奥に深く刻まれた痛みが、静かに燃えていくのであった。
《予告》
自分が地球人ではないことに混乱する蒼真。そんな彼を気遣うさとみとアキ。そんななか怪獣フェルディガーが街を襲う。新兵器を携えて攻撃に向かう蒼真たち、だがその攻撃が裏目に、次回ネイビージャイアント「海の底に眠る」お楽しみに。




