第四十七話 三冊のノート
♪淡い光が照らす木々
襲う奇怪な白い霧
悲嘆の河が怒るとき
敗れた夢が怒るとき
自由を求める戦いに
愛する誰かを守るため
青い光を輝かせ
ネイビー、ネイビー、ネイビー
戦えネイビージャイアント
「さとみさん、この論文、もう読みました?」
東阪大学生物学研究室。教授室は授業を行う校舎から離れた静かな一角にある。もともと神谷教授が落ち着いた環境を望み、学生の往来が少ない場所に部屋を設けたのだった。廊下の足音も遠く、ここだけ時間が止まっているような静けさが漂っていた。
冬の名残を残しながらも、日差しは少しずつ春の光へと移ろい始めていた。今日は晴れ。教授室の窓からは柔らかく暖かな陽射しが差し込んでいる。その光に包まれながら、教授席に座るさとみは資料に目を落としたまま、静かに思考を巡らせていた。
蒼真は彼女の横顔に一瞬見惚れた。光に照らされた髪が揺れ、彼女の表情には知性と静けさが宿っている。声をかけると、胸の鼓動が早まった。それは初めて彼女と出会ったときと何も変わらない感覚だった。
「遠山教授の論文ね」
蒼真が机に置いた紙の束を見ようともせず、さとみは手元の資料に目を落としたまま答えた。
「知っていたんですか?」
「ええ」
さとみは依然として資料から目を離さない。その淡々とした返答に、蒼真はわずかな違和感を覚える。
「どうして教えてくれなかったんですか?」
「どうしてって?」
資料をそっと置き、さとみは蒼真を見つめた。その瞳にはどこか冷淡な色が浮かんでいる。蒼真は彼女が何かを隠しているような気がした。
「だって、この論文は怒りの研究ですよね。怒りのエネルギーについて書かれている。これって怪獣研究にとって、すごく重要なテーマじゃないですか?」
「そう、そうだったわね」
さとみの声はどこか遠くを見ているようだった。
「それに、論文の引用文献にさとみさんの昔の論文が載っています」
蒼真が論文の最後のページを開き、さとみに分かるように指差した。
「この論文の発表前に、遠山教授からなにか相談されていたんじゃないですか?」
「それは……」
「あったんですね」
さとみの目が泳ぐ。
「実は……」
さとみは申し訳なさそうに口を開いた。
彼女の話によれば、先月の学会で遠山教授から声をかけられたという。遠山教授はさとみが過去に執筆した「怒り」に関する論文を読み、現在世間を騒がせている怪獣騒動と結びつけることを思いつき、この論文を書いたとのこと。
「さとみさんの論文では怒りがなにかのエネルギーと仮定していましたね」
蒼真は遠山教授の論文をパラパラとめくりながら、さとみの論文を思い返していた。
「そう。まだ正体は分からないけど、様々な現象を考えると、人間の怒りは他の動物とは明らかに違う。だから、何らかのエネルギーが関与していると仮定したの」
さとみは教授席を立ち、窓辺に目をやりながら、部屋の中央にあるソファへと歩み寄った。その歩みは静かで、どこか迷いを含んでいるようだった。蒼真も彼女の向かいのソファに座り、間のテーブルに遠山教授の論文を広げる。ページをめくるたびに、紙の擦れる音が部屋の静寂を切り裂いた。
「この論文では、人間の脳波に着目していますね」
「遠山教授の話では、人間の場合、怒りだけでなく“妬み”という感情があって、それが絡み合うと怒りだけの脳波とは異なる、別の周波数の脳波になるらしいの。それは人間だけが持つ周波数なのよ」
蒼真は論文を数ページめくりながら言った。
「通常、脳波は数ヘルツ程度ですが、怒りと妬みが絡み合うと脳波が乱れ、一瞬で数百メガヘルツの周波数が人間から発せられる。それが別の物質に影響を及ぼす、という仮説ですね」
「そう。そして、その影響を最も受けるのがフレロビウム。フレロビウムの最外殻電子が励起され、それがホウ酸やリンなどの物質と結合することで、アミノ酸に似た物質が形成されるの」
さとみが蒼真の前で足を組む。そのか細く長い足に、蒼真の目が釘付けになる。
「フレロビウムは崩壊しやすい物質だから、短時間で結合と崩壊を繰り返す。結果として、進化したアミノ酸に似た物質が生成され、それが炭素を持つ我々と似た生命の誕生へとつながる……」
「なるほど」
蒼真は静かに頷いた。その目には科学的好奇心と、どこか恐れにも似た感情が宿っていた。
「でも、それはまだ遠山教授の仮説にすぎないわ」
さとみは論文の最終ページを開き、蒼真に示した。そこには「机上の空論であり、検証は未完」と記されている。
「確かに、嫉妬や怒りを覚えた人が発した脳波の周波数にはエビデンスがありますが、脳波がフレロビウムに影響を与える可能性については触れているだけで、それ以降の部分には根拠となるデータが示されていませんね」
「そうなの」
さとみがそう言うと、ふと顔を伏せた。その微かな仕草に、蒼真の胸がざわついた。彼女が何かを隠している、そんな直感が静かな教授室の空気を震わせる。窓から差し込む午後の陽射しがさとみの髪に柔らかな光を落とす。その光の中で彼女の表情は見えづらくなっていたが、伏せた瞳の奥にある迷いを蒼真は見逃さなかった。
「さとみさん? 学会でなにかあったんですか?」
「うん…… それが」
珍しく、さとみが言葉を濁した。彼女の声はいつもの理性的な響きとは違って、どこか不安定だった。蒼真はいつもと違うさとみの表情にハッと気づいた。
「もしかして、僕に関係することですか?」
蒼真の問いに、さとみはふうっと息を吐いた。その吐息は教授室の静けさに溶けるように消えていく。
「実はこの間の学会で遠山教授にお会いしたとき、私の論文以外にお願いされたことがあって」
「それは?」
蒼真の声が少し硬くなる。さとみは視線を机の上に落とし、言葉を選ぶように続けた。
「仮説の証明にはデータが足りない。そこで、防衛隊の情報を開示してもらえないかと。そのために、あなたを紹介してほしいと」
「それは……」
今度は蒼真が口をつぐんだ。教授室の空気が急に重くなる。窓の外では風が木々を揺らしていたが、その音さえ遠く感じられた。
「機密性が高いので、難しいとは伝えたんだけど」
「そうですね……」
蒼真は項垂れた。
彼の肩に落ちる光がどこか頼りなく揺れている。
「でも、怪獣対策になるのであれば、防衛隊に掛け合ってみますよ」
「そう……」
さとみの表情は曇っていた。言葉の端々に気乗りしない様子が滲んでいる。彼女の指先が無意識に資料の端をなぞっていた。
「さとみさんは反対なんですか?」
「怖いのよ、これ以上、あなたが真実に近づくのが」
「怖い? どうして?」
「分からない。でも、これ以上足を踏み込めば、あなたがさらに傷つく。そんな気がするの」
「?」
蒼真にはさとみの不安の意味がよく分からなかった。それでも、彼女が自分のことを心配してくれている、その気持ちだけは確かに伝わってきた。それは理屈ではない。彼女の声の震え、伏せた瞳、そして言葉の間に漂う沈黙が、蒼真の胸に静かに染み込んでいく。
「とにかく、遠山教授に会ってきます。話はそれからにしましょう。もし彼の研究がこの事態の収拾に繋がるのであれば、もしそうなら、僕自身がどれだけ傷ついても構いません」
さとみは潤んだ目で蒼真を見つめる。
「蒼真君、本当に大丈夫?」
「ありがとうございます。では、遠山教授に連絡してみます」
さとみの悲しげな表情が蒼真の胸に残った。それでも、迷いを振り切るように、彼は立ち上がる。教授室の扉に手をかけると、外の光が彼の背中を照らした。振り返ることなく、蒼真はその場を後にする。扉が静かに閉まる音だけが、さとみの耳に残った。
× × ×
蒼真が遠山研究室を訪れたのは冬の日の夕刻だった。陽の光はすでに地平線の向こうへ沈み、空は灰色から濃紺へと移ろい、キャンパス全体が静寂に包まれていた。研究棟の窓には灯りがちらほらと点っていたが、遠山教授の部屋だけは沈黙の中にぽつんと佇んでいるようだった。その静けさはどこか蒼真の心にも忍び込んでくる。
さとみの言葉が頭の中で繰り返されていた。
『あなたがさらに傷つく』
この先、一体何が待っているのか。今以上の苦しみがあるというのか。なぜ、さとみはそれを予感していたのか。蒼真の脳裏にはいくつもの疑念が交錯していた。
大学の廊下を歩く。赤く染まった夕陽が窓のガラス越しに長い影を落とし、すべてを静かに照らしていた。大学職員の女性に案内されながら、蒼真は無言でその廊下を進む。足音だけが冷たい床に響いていた。やがて彼女はある部屋の前で立ち止まり、ノックをする。
「先生、阿久津蒼真さんがいらっしゃいました」
しかし室内からは何の反応もない。職員の女性は首を傾げ、もう一度ノックした。
「先生?」
それでも返事はない。不審に思った女性が慎重に扉を開ける。
「先生、どうかされましたか?」
職員の女性が中へ入る。蒼真は彼女に続かず、外で待つことにした。廊下の空気が急に冷たく感じられる。
その瞬間、その冷たい空気を引き裂くような悲鳴が響いた。蒼真は反射的に部屋へ駆け込む。
蒼真の目に、空の書棚が映る。床には並んでいたはずの書物がすべて散乱していた。原稿らしき紙片が宙を舞い、教授専用の木製の机は横倒しになっている。荒れ果てた室内に、夕闇の静寂が異様な空気を際立たせていた。まるで時間が止まったかのような、冷たい沈黙が支配している。
「先生は?」
蒼真の声に、呆然としていた職員の女性がハッと我に返り、周囲を見渡す。彼女の視線に合わせて、蒼真も部屋を見回した。だが、人の姿はどこにもなかった。その中で唯一、無傷のソファに何かが置かれている。
それは小さなフランス人形だった。少女の人形は礼儀正しく、まるでだれかを待っていたかのように、そこに座っている。蒼真はその人形に見覚えがあるような気がした。記憶の奥に微かな違和感が灯る。その記憶がかすめるのと同時に、人形が突然口を開いた。
「お待ちしていました。阿久津蒼真さん」
「キャー!」
女性の悲鳴が室内に響き、彼女はその場に座り込んだ。しかし蒼真は動かない。ただじっと人形を凝視している。
「先生はどこだ?」
「遠山教授は、我々が確保しました」
「なに!」
蒼真の眼差しが鋭くなる。だが、人形は無表情のまま、淡々と語り続けた。
「遠山教授を救いたいのなら、交換条件を呑んでもらうしかありません」
「交換条件?」
蒼真の拳が固く握られる。
「交換条件とはなんだ?」
「あなたが持っているノート、それを私たちに渡してほしい」
「ノート?」
蒼真は混乱した。思いもよらない交換条件を提示され、彼は戸惑った。
「ノートとは僕が持っている父のノートのことか?」
「そう。そのノート」
人形の表情は変わらない。だが、微かに笑ったようにも見えた。
「あのノートをどうするつもりだ?」
「それは言えない。でも、あなたはそのノートを私たちに渡すしかないと思うの」
「それは…… もしノートを渡さなければ、教授に危害を加えるということか?」
「ご明算」
近くにいた職員の女性が蒼真の腕を取った。
「先生を、先生を助けてください」
彼女の目は真剣だった。
「分かりました」
蒼真は彼女の手を優しく握り、落ち着かせるように言葉をかけた。
「ノートは渡す。で、どうすればいい?」
「明日、千葉の遠山教授の別荘に。蒼真さん、あなたひとりで来てください」
「千葉の別荘?」
蒼真が秘書を見る。
「千葉の房総半島の先に、教授の別荘があります」
もしかすると、自分の実家の近くか? そうか、この少女人形。以前、実家の食堂で話しかけてきた少女に似ている。もしそうなら……
「お前は、宇宙人の手先か?」
「そうね。その言い方もできるわ。思い出したようね、蒼真さん。お久しぶり」
少女が笑った、ような気がした。
「では、明日の午後五時。別荘でお待ちしています」
その言葉と同時に、人形の周囲に白い煙が立ち込める。
「部屋を出て!」
職員の女性はその言葉を聞いた瞬間、慌てて外へ逃げた。だが蒼真は残り、煙をじっと見つめていた。やがて煙が晴れる。そこにはもう、少女人形の姿は跡形もなく消えていた。
× × ×
「一人で行くのは危険すぎる!」
アキの声は鋭く、空気を裂くように響いた。その言葉は蒼真の胸に深く突き刺さる。彼は反射的に目を伏せ、腕の中で眠る大介に視線を落とした。さっきまで夢中で遊んでいたせいか、大介はぐっすりと眠っている。小さな手が蒼真のシャツを握りしめ、安心しきった寝息が静かな部屋に溶け込んでいた。
蒼真はアキの部屋を訪れていた。久しぶりに鈴鹿家で夕食をご馳走になり、束の間の安らぎを求めるように大介と遊び、彼が寝入った後は、アキとダイニングテーブルを挟んでコーヒーを飲んでいた。部屋には柔らかな照明が灯り、カップから立ちのぼる湯気が静かに揺れている。蒼真は時折、大介の寝顔を見つめる。その穏やかな表情に、心がふっと軽くなる気がした。
「でも、僕が一人で行かないと、遠山教授の命が危ないんです」
「それは分かる。でも、もう少し考えて」
アキは困ったように眉をひそめ、カップを両手で包み込むように持った。彼女の目には揺れる不安が滲んでいる。
「宇宙人があなたを狙ってるって分かってるでしょう?」
アキの目が少し潤んで見える。
「それに、あなたの持っているノート。宇宙人はなぜそれを欲しがっているの?」
「それが、宇宙人がなぜそれを欲しがっているのかは分からないんです」
「なにが書いてあるの?」
「生物を作り出す実験の内容みたいなんですが…… 中身は、僕にもよく分からない部分が多くて」
「生命を作り出す? だれが書いたものなの?」
蒼真は父の名前を言いかけて、ふと口を閉ざした。あまり詳細を話せば、自分がネイビージャイアントであることが露呈する。そんな予感が喉元で言葉を止めた。
「だれが書いたのかは分からないんですけど、母の遺品の中にあったんです」
蒼真はアキの視線を外した。
「そう…… そのことはだれか知っているの?」
蒼真は視線をアキに戻した。
「神山教授は知っています。そのノートは柏崎博士のものではないかと話していました」
「柏崎博士?」
「神山教授の古い知人で、生命を生み出す研究を発表したんですけど、ペテン師扱いされて学会を追い出されたそうです。今回の怪獣も柏崎博士に関係しているんじゃないかと教授は考えていて、そんなこともあって、防衛隊への参加を勧められたんです」
「そうだったの……」
アキは納得がいかない様子で、しばらく考え込んだ。彼女の指先がカップの縁をなぞる。沈黙が部屋の温もりを少しずつ冷ましていく。
「でも、やっぱりそんな重要なノートを持って、一人で行かせるわけにはいかないわ。私も同行する」
「しかし、一人で来いっていうのが宇宙人の条件なんです」
「そんなの関係ないわ。もし彼らの言う通りにすれば、あなたの命が危険にさらされるだけじゃない」
アキの声は切実だった。その言葉には理屈ではない感情が込められていた。彼女の目が潤み、唇がわずかに震えている。しかし蒼真は冷めたコーヒーを飲み干し、静かに答えた。
「僕が行かなければ、教授の命が危険です。防衛隊隊員として、教授を助けることが僕の使命です」
「それは分かるけど……」
アキの声が涙を含んで震える。彼女は大介の寝顔に目を落とし、言葉を飲み込むように唇を噛んだ。
「あなたは本来、民間人よ。危険にさらすわけにはいかない」
「それでも……」
蒼真が言いかけたそのとき、大介が小さく身体を動かした。まだ眠っているようだったが、蒼真の気配に反応したのか、彼は胸に顔を埋めるように抱きついてきた。
「大ちゃん……」
蒼真はそっと彼の頭を撫で、優しく声をかける。
「大丈夫です。僕は必ず帰って来ます」
「本当に……?」
アキは不安そうに尋ねる。その声はMECの隊員として仲間を思いやる気持ちと、大介の母としての思いと、ひとりの女性としての願いが混ざり合っていた。
「本当です。約束します」
蒼真は微笑み、力強く答えた。
「だから、心配しないでください」
「分かったわ。でも、無理しちゃだめよ」
アキはわずかに震えた声でそう言いながら微笑んだ。その笑顔はどこか儚く、祈るような色を帯びていた。
「もちろんです。ありがとう、鈴鹿さん」
蒼真は感謝の気持ちを込めて彼女に言葉を伝える。そして大介をそっと抱きしめ、彼の寝息に耳を傾けた。彼は何も知らず、ただ幸せそうに眠っている。その無垢な寝顔を見つめながら、蒼真は自らの決意をさらに固めた。
明日、遠山教授を救う。宇宙人の野望を阻止する。そして必ず帰ってくる。それが自分の使命だから。
× × ×
浜辺にはわずかに雪が舞っていた。風は冷たく、灰色の雲が空を覆い、海面はその影を映すように薄暗く沈んでいる。波の音は遠く、まるで世界が息を潜めているかのような雰囲気を醸し出していた。
その中を蒼真はひとり、遠山教授の別荘へと歩を進めていた。足元の砂は凍りつき、靴の底から冷気がじわじわと体に染み込んでくる。弱々しく射す陽の光が、まるで彼の心の不安を映しているかのようだった。
昨日、アキには強気な言葉を口にした。だが、この先、宇宙人が何を企んでいるのか、それはだれにも分からない。不安が蒼真の胸を突く。
それでも、この件が父のノートに関係していることだけは確かだった。遠山教授を巻き込んでしまったのは自分の責任。その思いが彼の足を前へと進ませていた。
「父さん…… あなたはなにがしたかったのですか?」
蒼真は心の中で問いかける。しかし答えはない。波の音だけが冷たい風に乗って耳に届くだけだった。
そう考えを巡らせているときだった。遠くに見える家の影に男の姿が。蒼真はその姿に一瞬、動きを止める。
「叔父さん?」
それは一年前に姿を消した、蒼真の叔父。その輪郭は確かに見覚えがある。明らかにその男は叔父だ。
「叔父さん!」
蒼真は駆け寄ろうとする。しかし男は突然、身を翻して走り去った。蒼真は慌てて後を追う。しかし家々の影に隠れ、その男の姿を見失った。
「あれは確かに叔父さん…… そう、叔父さんだった」
蒼真は家々の中を歩き回る。雪が舞い、視界が揺れる。それでも彼は叔父の姿を探し続けた。だが、どこにも見当たらない。蒼真は焦った。叔父を見つけたい。だが…… 彼は時計を見る。針はすでに五時近くを指していた。
「いけない。急がないと」
蒼真は叔父の姿を追うのを諦めた。心の中に何かざわめくものを感じながら。しかし、それよりもまず遠山教授を救わなければならない。そちらの方が優先なのだ。
蒼真は慌てて歩く方向を変えた。海辺から山手へと歩を進める。
やがて、ロッジ風の木造建築が目に入った。小さな建物だが、どこか温かみを感じさせる。木の壁は風にさらされて軋み、窓には薄く霜が張っていた。それが遠山教授の別荘だった。
蒼真は周囲を見渡す。枯れ木ばかりの景色が冬の寂しさを際立たせていた。その冷たい空気が彼の心細さをさらに増幅させる。そのとき――
「ようこそ。さすがは阿久津蒼真さん。どうやら、一人で来たようですね」
背後から声が響いた。蒼真は息を呑んで振り返る。そこには黒衣の男が静かに立っていた。雪の中に立つその姿はまるで影が実体を持ったかのように不気味だった。
「約束は守った。遠山教授はどこだ?」
「別荘の中で眠っておられますよ」
蒼真は建物へと目を向ける。だが男の声がそれを遮る。
「おっと、その前に、約束のものを」
黒衣の男がゆっくりと近づいてくる。足音は雪に吸われ、音もなく迫ってくるようだった。蒼真は手に持っていた鞄の中から三冊のノートを取り出した。そして、目の前まで来た男の手にそれを差し出す。
「ありがとうございます」
男はそう言いながら、ゆっくりと後ずさりしていく。そして蒼真から三メートルほど離れたところで動きを止め、ノートを開いた。
「確かに、偽物ではなさそうですね」
「あなたの目的は何だ。それは怪獣を生み出す実験ノートのはずだ。すでに怪獣を生み出しているあなたに、それが必要とは思わない」
「怪獣?」
黒衣の男が薄く笑う。その笑みは冷たく、皮肉に満ちていた。
「違いますよ」
「え?」
蒼真がたじろぐ。怪獣ではない? ならば、一体何なのか。
「でたらめを言うな! そこには生物エネルギーのことが書かれているはずだ!」
「おっしゃる通りです」
「ならば、やはり怪獣の……」
黒衣の男が不気味に嗤う。
「これは、ネイビージャイアント。つまり、あなたの秘密が記されたノートなのです」
「なに!」
蒼真の身体が前のめりになる。
「これを解析すれば、あなたの弱点が明らかになる。今まで幾度となく辛酸をなめてきたあなたに、ついに反撃ができる」
蒼真の頭の中が一瞬、真っ白になる。あのノートに書かれていたのは自分の秘密? そんなこと想像すらしていなかった。もしこのノートのことを彼らが解析すれば……
「待て!」
蒼真は黒衣の男に飛び掛かる。しかし男はひらりと身をかわした。
「困りますね。今さら心変わりされても。仕方がありませんね。私が逃げるまで、しばらく彼らと遊んでもらいましょうか」
その言葉と同時に地響きが起こる。蒼真は足元の揺れにバランスを崩し、よろけて思わず手を突いた。すると、別荘の近くの山肌から土煙が巻き上がり、その中から光る目が蒼真を見つめてくる。
「あれはゴルゴス!」
蒼真は黒衣の男を睨みつける。
「そうです。一度死んだ怪獣を蘇らせました。あなたなら簡単に倒せるでしょう?」
その瞬間、蒼真の上空が暗くなった。見上げると、そこには怪鳥の姿が翼を広げていた。
「ビルマンデ…… お前もか!」
さらに海岸沿いから人々の悲鳴が響く。蒼真は慌てて海が見える位置まで走っていった。海面の向こう、そこには巨大な影がゆっくりと陸へ向かって進んでくる。それはあのビバレント。
「では、彼らと存分に遊んでください」
黒衣の男の声が冷たく響いた瞬間、空気が一変した。ゴルゴスが唸り声をあげながら、一歩ずつ別荘へと近づいてくる。その足取りは重く、地面が震えるほどだった。蒼真は拳を握りしめ、左腕の時計に目を落とす。そのとき、時計が青く光を放った。
眩い閃光がゴルゴスの眼前で炸裂した。雪混じりの空気が一瞬で焼かれ、衝撃波が周囲の木々を揺らす。光の中心から、蒼い輪郭が浮かび上がる。光が収束した瞬間、そこにはネイビーが静かに立ちはだかっていた。
ゴルゴスが怒りに満ちた咆哮をあげる。その咆哮は空気を震わせ、地面にひびを走らせるほどだった。
次の瞬間、地を蹴って突進。巨体が雪を巻き上げながら一直線にネイビーへと迫る。ネイビーも即座に応じる。両足を踏みしめ、重心を低く構えた瞬間、彼の体は弾丸のように前方へと跳ねた。両者が激突。衝突の瞬間、空気が爆ぜ、地鳴りのような音が山肌に反響する。枯れ木が震え、雪が舞い上がる。
拳と拳がぶつかり、腕と腕が絡み合う。ネイビーの筋肉が軋み、ゴルゴスの爪が削る。互いの力が均衡し、動きが止まる。一進一退の硬直状態。
ネイビーの呼吸が荒くなり、ゴルゴスの目が血走る。その緊張を裂くように、上空からビルマンデが飛来した。翼を広げ、鋭い爪を振りかざしながら急降下。その爪がネイビーの背中を斜めに切り裂く。
金属音とともに火花が散り、ネイビーは苦悶の声を漏らして片膝をついた。その隙を逃さず、ゴルゴスが覆いかぶさる。巨体がネイビーを地面に押し潰すようにのしかかり、拳を振り上げる。
拳が振り下ろされる寸前、倒れたネイビーの右手が赤く輝いた。その手にはネイビーサーベルが握られている。
刃が振動し、赤い光が脈打つ。ネイビーは倒れたままの姿勢から、腹筋を収縮させて上体をわずかに起こし、サーベルをゴルゴスの腹部へと突き刺した。刃が肉を裂き、内部のエネルギー核に達する。
「ギャオー!」
ゴルゴスの断末魔が空に響き渡る。その巨体が後方へとよろけ、重力に引かれるように倒れ込む。巻き上がる土煙が空を覆い、ゴルゴスの姿はその中に消えた。
ネイビーはゆっくりと立ち上がる。背中の傷から蒸気のような粒子が漏れ、彼の体はわずかに揺れていた。だが、彼の眼差しはまだ鋭く、戦意を失ってはいない。
次の瞬間、彼は空へと跳躍する。雪を吹き飛ばし、ネイビーの体は弧を描いて海へと向かう。眼前には海面を揺らしながら進むビバレント。
ネイビーは一直線に突進。両者は海面で激突し、巨大な水柱が空へと舞い上がる。白波が砕け、二体は再び海上へと姿を現した。だが、上空からビルマンデが急降下。その影が海面に落ちると同時に、ネイビーの頭部に衝撃が走る。
爪が側頭部をかすめ、視界が一瞬揺れる。不意を突かれたネイビーはバランスを崩し、海中へと沈んだ。水が彼の体を包み、冷たさが傷口に染みる。海面を旋回するビルマンデ。獲物を探すように、海上を見回すビバレント。
二体の怪獣が静かに獲物を待つ。ネイビーは海中で彼らの動きをじっと見つめていた。呼吸を整え、敵の動きを解析する。やがて、真上を飛行するビルマンデに隙が生じる。ネイビーは海中から左手を伸ばす。その手から放たれた青い光線が、ビルマンデの胸の赤い石を正確に貫いた。
「ギャオー!」
ビルマンデが悲鳴をあげながら海上へ落下する。バタつく羽が水面を叩き、泡が広がる。そしてそのまま、巨大が静かに消え去っていった。
ネイビーが海上へと再び姿を現す。水滴が彼の体から滑り落ち、夕陽に反射して輝く。その姿は、まるで戦場に舞い降りた神話の戦士のようだった。怒りに満ちたビバレントが咆哮をあげる。
その声は空気を震わせるほどの重圧を持っていた。ネイビーはふと空を見上げる。そこには銀色に輝く宇宙船が浮かんでいた。雲を裂くように、静かに漂っている。警戒するネイビー。
次の瞬間、宇宙船から霧状の物質がビバレントへと降り注ぐ。その霧はまるで意志を持っているかのようにビバレントの身体に吸収され、全身を覆い尽くしていく。そして霧が晴れたとき、黒光りした肌を持つネオビバレントが咆哮をあげた。
ネオビバレントが口から火炎を吐く。ネイビーはかろうじて海中へと逃れる。しかし、火炎が直撃した海上は一瞬で蒸発し、大爆発を引き起こした。
激しく弾ける水柱。その衝撃が海面を波立たせ、空気を震わせる。その中でネイビーは海中から一気に上空へ飛び出した。水滴が尾を引き、空を裂くように舞い上がる。それを見たネオビバレントが、再び火炎を放つ。だが、ネイビーは鋭い動きでそれをかわす。炎が空を焼き、海に落ちて蒸気を巻き上げる。
「このまま接近戦では、勝ち目がない!」
ネイビーが空中から赤い光線を放つ。しかし、いくら攻撃を命中させても、ネオビバレントは微動だにしない。その黒光りした体は、まるで絶対的な防壁のようだった。
「仕方ない!」
ネイビーは蓄えた全エネルギーを、自らの体内へと集中させる。赤く輝くネイビー。その体が炎に包まれた。空が赤く染まり、風が巻き上がる。その異様な光景に、ネオビバレントはさらに怒りをあらわにする。咆哮をあげるネオビバレントへと、ネイビーの赤い炎が一直線に向かっていく。
「ギャオーッ!!」
赤い炎がネオビバレントの巨体を貫いた。次の瞬間、ネオビバレントが大爆発を起こす。閃光が空を裂き、海を照らす。
「やった……」
その閃光の中、ネイビーは力尽きるように、静かに海中へと沈んでいく。波が静かに揺れ、空は再び灰色に戻っていく。戦いの余韻だけが、風に乗って浜辺を包んでいた。
× × ×
びしょ濡れのまま、蒼真は岸壁をよじ登った。冬の海風が容赦なく吹きつけ、濡れた衣服を通して寒さが骨の奥まで沁みる。指先はかじかみ、息は白く、体の芯から力が抜けていくのが分かった。
三体の怪獣を倒した代償はあまりにも大きかった。エネルギーの消耗は激しく、筋肉は鉛のように重く、思うように動かない。そのまま、海岸沿いの岩場に力なく倒れ込む。冷たい石の感触が背中に広がり、空は灰色に沈んでいた。
「はぁ…… もうダメだ…… 体が、動かない……」
蒼真の声は波音にかき消されるほど弱々しかった。視界が滲み、意識が遠のいていく。そのとき、何か温かいものに包まれるような感覚が走った。まるで母に抱かれているような、優しい温もりだった。冷え切った体が、ゆっくりとその温もりに溶けていく。蒼真はそのまま闇の底へ落ちていった。
蒼真が目を開けると、光が彼の眼の奥に飛び込んできた。そこは心地よく温かい部屋だった。蒼真はハッとして身を起こす。目の前には暖炉の炎が静かに揺らめいていた。薪がぱちりと音を立て、部屋の空気は柔らかく、穏やかに満ちている。
どうやら暖炉のあるリビングのソファで寝ていたらしい。毛布が肩に掛けられており、体の震えはすでに収まっていた。周囲を見渡すと、近くのテーブルにコーヒーを啜る中年の男性の姿があった。
年齢的には神山教授くらいか。その顔には見覚えがある。そう、遠山教授だ。
「お目覚めですか?」
蒼真はゆっくり上半身を起こし、その男の顔を見つめる。遠山教授。ならば、ここは……
「ここは、教授の別荘ですか?」
「そうだよ。君が阿久津蒼真君かい?」
「あっ、はい」
蒼真はどこか恐縮したように答える。乾いた喉から言葉を絞り出すように返した。
「どうぞ」
不意に後方から優しい声が響いた。振り向くと、そこには美しい女性が立っていた。彼女は蒼真の前に湯気立つコーヒーをそっと置く。
「あ、ありがとうございます」
蒼真はさらに恐縮しながら、両手でカップを包み込むように持ち、温もりを確かめる。その熱が指先から胸へと広がっていく。ゆっくりと立ち上がったが、足元がおぼつかない。膝が震え、体が揺れる。
「まだ無理をしない方がいい。しばらく横になっていなさい」
遠山教授の落ち着いた声が響く。
「僕は、どうしてここに?」
「この家の前で倒れていたんだよ」
教授はコーヒーを一口飲みながら話を続ける。その仕草は穏やかで、まるで日常の一幕のようだった。
「チャイムが鳴ったので出てみると、君がびしょ濡れで倒れていたんだ。宇宙人と名乗る男の姿もなくてね。急遽、秘書の彼女にも来てもらって介抱したんだ」
先ほどの美しい女性が一礼する。
「この家の前?」
蒼真は眉をひそめた。自分の記憶では海から上がり、海岸沿いの岩場までたどり着いたはず。なのにどうして別荘の前に? だれがここまで運んだ?
遠山教授が立ち上がり、蒼真に近づく。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
蒼真はやや強がった。体はまだ重かったが、気持ちだけはなんとか立ち上がろうとしていた。
「まぁ、無理はしないことだ」
教授は苦笑しながら、向かいのソファへと腰を下ろす。
「でも、教授は宇宙人にさらわれたのでは? 教授こそ、大丈夫なのですか?」
「あゝ」
遠山教授はゆっくりと足を組み、手に持っていたカップからコーヒーを口に運ぶ。
「教授室で急に白い煙に巻かれて、気が付いたらこの別荘のベッドの上で眠っていたよ」
遠山教授は何事もなかったかのように答えた。
「なにか危害を加えられたとかは?」
「ない」
遠山教授がきっぱり答える。その返答が蒼真には不自然に思えるほどだった。というのも、彼を助けるために父の大事なノートを宇宙人に奪われたのである。遠山教授の何事もなかったかの様子に、蒼真は軽く苛立ちを覚えた。
「まぁ、君たちに心配をかけたことは申し訳ない」
遠山教授が軽く頭を下げた。
「教授におけががなくて、何よりです」
蒼真が儀礼的な返事をする。そんな彼に微笑みを浮かべながら、遠山教授が語りかけた。
「それより君が来てくれたことは、私にとって都合がいい。そういう意味で、礼を言うべきは私の方だよ」
そう言って、遠山教授は深々と頭を下げた。その姿は研究者としての誠意を示すものだったが、蒼真の胸には別の感情が湧き上がっていた。
その瞬間、蒼真は思い出す。遠山教授は自分からの情報を求めていた。今この状況、暖炉の温もりに包まれた静かな部屋で、教授の言葉を聞いているこの瞬間も、結局はその情報が欲しくて自分を助けたのではないか。そんな疑念が、心の奥で静かにうねり始めていた。
「教授は僕に会いたがっていたと、さとみさんから聞きました」
蒼真の声は少し硬かった。遠山教授はカップを置き、穏やかな口調で答える。
「あぁ。今研究している内容に、君の情報が必要だと思ったからね」
「それは、怪獣のことですか?」
「そうだ」
教授は短く頷いた。その言葉に蒼真はしばらく沈黙する。暖炉の火がぱちりと音を立て、部屋の空気が揺れる。遠山教授の研究には、以前にも同じようなことをしていた人物がいた。その記憶が蒼真の思考を引き寄せる。
「研究のきっかけは、さとみさんの論文だと聞きましたが、本当でしょうか?」
遠山教授の眉がわずかに動いた。その反応に蒼真は確信を深める。
「そうだ。だが、どうしてそんな質問を?」
「いえ、もしかしたらさとみさんの論文ではなく、別の人の研究がきっかけではないかと……」
蒼真の言葉がやや鈍くなる。
「それは、どういう意味だね?」
遠山教授の表情が曇っていく。蒼真は意を決するように言葉を発した。
「実は以前、神山教授から聞いたんですが。昔、生物を生み出す研究をしていた人がいたそうです」
遠山教授は静かにため息を吐いた。その吐息は、過去の記憶を呼び起こすように重かった。
「柏崎のことか」
蒼真は息を飲む。この男は柏崎博士のことを知っている。
「教授は柏崎博士のことをご存じなのですか?」
「あぁ。神山と共に、この学会から彼を追い出した一人だからな」
遠山教授が吐き捨てるように言う。
「そうなんですね……」
蒼真は目を伏せる。そう言えば、神山教授から柏崎博士のことを詳しく聞いたことはなかった。もしかするとこの人は柏崎博士、つまり自分の父のことをよく知っているのではないか。もしそうだとすると……
「柏崎博士の行方は不明と聞いていますが、教授は彼の所在を知っているのでは?」
「知らない」
遠山教授がコーヒーカップを静かに置き、じっと蒼真を見つめる。
その視線は、何かを見透かすように鋭かった。
「どうして柏崎なんかに興味があるんだい?」
「えっ」
不意を突かれ、蒼真は戸惑った。柏崎博士は自分の父かもしれない。そんな本意を探られないように、慎重に言葉を選びながら話を続けた。
「それは…… 生命を生み出すことと、怪獣発生の理由には因果関係があると思っているからです」
「しかし怪獣は、我々より高度に発達した宇宙人が生み出したものだろう?」
遠山教授は微妙な表情を浮かべながら問いを続ける。その言葉には学者としての冷静な懐疑が滲んでいた。
「それでも柏崎と繋げる理由は何だ?」
「それは……」
蒼真は言葉を詰まらせた。胸の奥にある確信はまだ言葉にできるほど形になっていない。
「まあいい」
遠山教授はコーヒーを飲み干し、軽く息を吐いた。その仕草は話題を切り替える合図のようだった。
「そう言えば、君は柏崎についてどれほど知っている?」
「ほぼ、なにも知りません」
「そうか……」
遠山教授はふと考えるように目を細めた。暖炉の炎がその横顔を照らし、過去を思い出しているような静けさが漂う。
「確かこの別荘に、奴と撮った写真があったはずだ。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、遠山教授は立ち上がり、部屋を出ていった。扉が静かに閉まる。
もし柏崎博士が本当に父だったとしたら、今から目にする写真が初めて見る父の顔になる。期待と不安が交錯する。鼓動が高鳴るのを抑えられない。指先がわずかに震え、コーヒーの湯気がその動揺を映すように揺れていた。
そうこうしているうちに、遠山教授が手に何かを持って部屋へ戻ってきた。その手には古びたアルバム。革張りの表紙には時の重みが刻まれていた。
遠山教授がゆっくりとソファに座る。蒼真も痛む体を起こし、遠山教授の前の席に座った。古いアルバムが目の前のテーブルに置かれる。遠山教授がアルバムのページをめくっていく。そしてその手が止まった。
「あった、あった」
遠山教授がアルバムから一枚の写真を取り出す。そしてテーブルの上にその写真を置いた。蒼真がその写真を覗き込む。
遠山教授が差し出した一枚の写真を見て、蒼真は言葉を失った。部屋の空気が一瞬、凍りついたように感じられる。木漏れ日が差し込む書斎の静けさの中、写真の中の男の顔が、蒼真の記憶を激しく揺さぶった。
「この顔は…… 博士、この人が……」
蒼真は愕然とする。そして彼の顔から血の気が引いていったのであった。
《予告》
遠山教授が見せた柏崎博士の写真で彼の正体を知った蒼真は、一路以前美波と行った山小屋の研究室へ。そこに待っていた柏崎博士から蒼真は自らの出生の秘密を聞かされる。その秘密とは。次回ネイビージャイアント「柏崎博士」お楽しみに。




