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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
38/71

第三十八話 壊滅、ディストラクションC

♪淡い光が照らす木々

 襲う奇怪な白い霧

 悲嘆の河が怒るとき

 敗れた夢が怒るとき

 自由を求める戦いに

 愛する誰かを守るため

 青い光を輝かせ

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

 「失礼します」

 三浦の声が静かに響き、厚みのある木製の扉が音を立てて開いた。参謀室の中には冷たい静けさが漂っていた。窓には厚いブラインドが下ろされ、外の光はわずかに細い隙間から差し込むのみ。壁には地図と戦略図が整然と並び、机の上には精密な模型と分厚い資料が重ねられていた。

「三浦隊員、入りたまえ」

 安田参謀がやや低めの声で促す。その隣で三谷参謀が黙して立っている。三浦は一歩一歩、ゆっくりと部屋の中央へと進む。軍靴の音が床に響き、空気の重みを感じながら二人の前に出た。


「ご命令により参上しました」

 張り詰めた声で言い、直立の姿勢を取る。

「ご苦労」

 安田参謀は座ったままの姿勢で応じるが、その視線には何かを計るような鋭さがある。三谷参謀は依然として無言で横に立ち、表情を崩さない。三浦が前に立ち尽くす間、安田参謀が手元の資料に一瞥をくれたのち、それを机上に静かに置く。椅子の軋みが鳴り、彼はゆっくりと立ち上がる。そして、三浦の横まで歩み寄る足取りは重く、指揮官としての威厳が空間を包み込む。


「三浦隊員。君はMECの一員、いや、防衛隊の一員として、この地球を守りたいと思っているだろう」

 緊張の中にも揺るぎない意志を乗せて、三浦が答える。

「はい。自分は、この地球防衛に命をかけています」

 安田参謀の口元にわずかな笑みが浮かび、彼は三浦の肩に手を添える。

「そうか。良い心がけだ」

 その手が肩をポンポンと二度叩く。

「恐縮です」

 三浦が深く頭を下げる。そして、空気がまた張り詰める。


「で、だ……」

 安田参謀が三浦の周囲をぐるりと歩きながら、少し語気を強めて言葉を続けた。

「君には特別任務を与えたい。これは吉野隊長以下、MECの隊員たちにも他言は無用だ」

「はぁ……」

 三浦は表情を崩すことなく緊張を保ち続ける。背筋は伸び、汗が背中をゆっくりと這っていくような気がした。


「ちなみに、特別任務とは?」

 その問いに、一拍置いてから安田参謀が机へ戻る。

「それはだなぁ……」

 低く語りながら、机の上の分厚い資料に手を伸ばした。


 ×   ×   × 


 実験室の空気はいつも通り、静かに張り詰めていた。無機質な棚に並ぶ器具たちは、数時間前の混乱が嘘のように沈黙を保っている。窓際には曇った午後の光が差し込み、ガラス越しに騒然とした基地のざわめきが遠くに聞こえる気がした。

「なんか、ここ最近三浦君の元気がない気がする」

 分光計のカバーをいじっている蒼真にアキがぽつりと呟いた。

 蒼真とアキは日課のように実験室で油を売っていた。暇と言うわけでもない。R計画から外されているからでもない。ただ上位のやり方に反対する彼らの静かな抵抗、そんな気もしていた。


「そうですか? 気づきませんでした」

 蒼真は目も合わせずに答えた。

「君も相変わらず鈍感だね」

 アキが頬杖をついたまま、少し笑みを含んだ声でそう言う。蒼真がテーブルの端に積んであった古い論文に目を落とした。紙の色はわずかに黄ばみ、文字のインクが時間の重みを語っていた。

「井上隊員と喧嘩でもしたんじゃないですか?」

 彼がページをめくりながら答えた。


「私もそう思って春菜ちゃんに聞いてみたのよ。彼女の話だと、喧嘩した記憶もないし、なにか愚痴ってた記憶もないらしいの」

「へぇ」

「で、彼女も三浦君の様子がおかしいって気にしてたわ」

 蒼真は「なるほど」と生返事をしながらも、論文から目を離さずにいる。まるで論文に書かれた言葉の背後から問題のヒントが隠されている、それを確信しているかのように。

「確か、安田参謀に呼び出されてからだと思うのよね」


「安田参謀?」

 その名を聞いた瞬間、蒼真が初めて顔を上げた。目の奥に、言いようのない不安がわずかに灯っていた。

「なにか気になることあって?」

「いや、ちょっと……」

 蒼真の声は微かに沈む。R計画、その名に付随するもの。それが彼の胸のどこかで、ずっと引っかかっていた。あの執念とも言える安田の眼差しが頭をよぎる。何かが進行している。

「それより、さっきからなに読んでるの?」

「あ、これですか」

 彼は論文をアキの前にそっと置いた。表紙には力強く記されたタイトルが浮かび上がる。


『生物の怒りの反応について』

「なに、これ?」

 アキが無言でページをめくる。紙面には精緻な神経図と、生体電位の計測結果。だがこの論文の内容は、今蒼真が対峙している問題とは無関係な気がした。

 蒼真はアキから論文を取り戻した。

「さとみさんは、アメリカで生物を作り出す研究をしていて、金属と生物を融合させる実験にも成功しています。なのに、日本に帰ってからは関連の論文がなくて。彼女自身神山研究室で書いた論文はこれだけです」

「なるほどね」

 蒼真が論文のページをパラパラッと捲っていく。


「ただ気になることがあって……」

「気になる?」

 アキが眉をひそめる。

「怒り、です」

「怒り?」

「もしかして、さとみさんはフレロビウムが怒りのエネルギーに反応して異生物になることを知っていたんじゃないかと」

「?」

 アキが首を傾げる。実験室の静けさが一層際立ち、その言葉の意味がじわじわと浸透していく。


「もし、彼女がそれを知っていたとしたら、なぜなにも言わなかったのか。怪獣と怒りとフレロビウム、そのつながりを」

「考えすぎじゃない? それって結びつかないし、偶然なんじゃ……」

 アキの言葉はどこか手探りのようで、それでも何かを探ろうとする反射にも感じられた。

「そうですかね……」

 蒼真はまだ納得できないまま、視線を論文へ戻す。

「そんなに疑うなら、本人に聞いてみたら?」

「それがですね……」

 彼は項垂れた。


「R計画が忙しいからって、関係者に会わせてもらえないんですよ」

「そうなの。完全に私たち、蚊帳の外ね」

「そうなんです」

 蒼真の頬が軽く膨らむ。どこか少年のような苛立ちを含んで。

「でも一歩防衛隊を出ると、世間から『地球は滅びるのか』とか『ミサイルはいつ完成するんだ』とか、まるで僕が答えを持っているかのように聞かれて。うっとうしくて」


「そうね。街は大混乱だもの。今朝のニュースでも、株式市場が大暴落したって」

「地球が滅びるのに、金だ、株だって、なんだか滑稽ですよね」

 蒼真の声に呆れと怒りが混じっていた。この状況下で人はなぜ目先の欲を手放せないのか。虫は嵐が来れば巣に戻る。鳥は風を避けて移動する。だが人間は災害を前に、データを集めて売り、買い、叫ぶ。蒼真はふと論文の結びの言葉が脳裏に浮かんだ。


『人間の怒りは、他の生物と異なり、脳の発達による生存欲求と自制の間で生まれる。自制を失った怒りは、生物的な反応ではなく、大きなエネルギーとなって放散される。実験では微少ながら電気的エネルギーを測定。今後、それが人類にどう作用し、種の滅亡へとつながるかを研究していく』

『滅亡』その一語が胸に引っかかる。この言葉が今まさに街で起きていることとつながっているのではないか。あの混乱、怒り、怯え、それは何かを加速させているのかもしれない。蒼真の指が論文の紙端に触れて止まった。彼の問いはまだ終わらない、それは人類に対する問いなのか、さとみに対する問いなのか。


 ×   ×   × 


 灰色の研究施設の一室。無機質な壁と蛍光灯の冷たい光がそこにいる者たちの心まで凍らせるようだった。

 さとみの前には、一枚の金属の板が静かに立てかけられている。光沢のない銀色の表面は、何の感情も示さず、ただ待っていた。彼女は腕を組み、冷ややかな目でその板を見つめていた。そこへ、軍服姿の男がゆっくりと近づいてくる。

「奥さん…… いや、今や研究者に戻られた北條さとみさんとお呼びした方がよろしいでしょうか」

 低く抑えた声、それは礼儀を装いながらも、どこか棘を含んでいる。

「嫌味ですか?」

 さとみの視線が鋭く安田参謀を射抜く。


「いえ、もうすっかり研究者に戻られているので」

 軽く流すような口調だったが、その言葉の奥には目的を果たす者の冷徹さが滲んでいた。安田はさとみの横に並び、二人並んで金属板を見つめた。沈黙ののち、安田がぽつりと口を開く。

「いよいよです。この板に、彼、を融合させれば、この計画の半分以上は完了したも同然です」

「対象者はMECの隊員と聞きましたが」

 さとみの声に、冷静さの裏側で微かな怒りが混じる。

「ええ、若くて優秀な人材です」

「もっと、先がない年寄りの方がよいのでは?」

 その提案に、安田は首を振る。


「いえ。やはりこの任務を遂行できるのは、強い意志を持つ隊員でなければなりません。それは、普段から怪獣と命懸けで戦っているMECの隊員がふさわしい」

 さとみは大きなため息をついた。室内の空気がほんの少し、重たく沈む。

「人類は、だれかを犠牲にしないと生き残れないのでしょうか」

 安田参謀がじろりとさとみを見下ろす。

「哲学的なことをおっしゃいますな」

 安田が一歩前に出て、金属板に手を添える。その手は滑らかな表面に沿ってゆっくりと動く。まるで“祈る”ように、あるいは“見送る”ように。


「人類の歴史は犠牲者の上に成り立っています。だれかを守るため、人は自らを犠牲にし、そのことで栄えてきました。それはとても崇高なことです」

 さとみは小さく首を傾げ、再び口を開く。

「人はそんなに下等な生き物なのでしょうか?」

「?」

 安田参謀の手が止まる。

「ミツバチは、足長バチに襲われたとき、働きバチが自らの命を捨てて侵略者を攻撃します。ほとんどの働きバチは死にます。同じように、巣を守るために命を捨てる昆虫は他にもいます。一方、高等な生物ほど群れを守ろうとはしても、命までは捨てません。哺乳類のオスは群れを守るために死に物狂いで戦いますが、敗北が分かった段階で逃げることを選びます。争いの傷がもとで亡くなることはあっても、その場で死を選ぶわけではありません。そう考えると、人間は本当に高等な生き物なのでしょうか?」

 しばらくの沈黙。言葉の刃が安田の心に届いたようだった。一瞬、彼の表情が不機嫌そうに歪む。だがすぐに、ぎこちない笑みを浮かべた。


「さすが、生物学を専攻されているだけのことはあります。私のような学のない人間には、理解しかねます。私はただ人類を守りたいだけです」

 安田は振り返り、さとみの肩に静かに手を乗せた。

「とにかく、明日。明日あなたの研究が成功すれば、またこの話の続きをしましょう。すべては、それからです」

 そう言うと、彼は彼女の肩を二度、軽く叩いた。そして何も言わず、何も振り返らず、静かに部屋をあとにした。金属板の前にさとみだけが残された。その表情は、だれにも読めなかった。


 ×   ×   ×


 廊下には凍てつくような冬の空気が流れていた。空調の音すら聞こえないほど静まり返った空間で、三浦の背後から低い声が響いた。

「ちょっと、いいか」

 声の主は三上だった。その顔には張り詰めた意思が宿っていた。制服の襟元には曇った窓から差す白い光が落ちている。

「なんでしょう」

 三浦は背筋を伸ばし、声の緊張を隠せずに返した。


「お前に話がある。ちょっと来い」

「はぁ」

 言われるままに三浦が三上についていく。ふたりはそのまま人気のない会議室に入っていく。

 長机と椅子が整然と並び、その空間には人の気配がほとんどない。冬の淡い日差しがブラインド越しに差し込む、明かりはそれしかなかった。扉が閉まる音が空間に響く。その瞬間、二人の間に重い沈黙が落ちる。

「三上隊員、なんの用事ですか?」

 三浦が口火を切るが、声はどこか震えている。

「お前、なにか隠してるだろう」

 三上の鋭い視線が三浦を射抜く。


「なにも…… なにも隠していませんが」

 三浦はその目をそらし、壁の時計をちらと見た。針の音が妙に大きく聞こえる。

「俺はR計画のことをよく知っている。あとはだれが犠牲者になるかが分かれば、参謀たちの考えも見えてくる」

「犠牲……」

 その言葉に、三浦の胸がざわついた。彼はゆっくりと視線を三上へと向け直した。

「そこまでご存じなら、なぜ俺に話しかけるんですか?」

「お前に死んでほしくないからだ」

 静かな言葉に、三浦の呼吸が止まった。数秒後、ようやく声が出る。


「でも、地球の平和のために死ぬのは、防衛隊の隊員として本望なことでは? それは、歴代この国の平和を守ってきた三上家の一員であるあなたが、いちばんよく知っているはずです」

 その言葉に、三上は眉をひそめ、口をつぐんだ。

「それは……」

 小さく絞り出すような声だった。

「それは間違っている。確かに俺の家は歴代国防に関わってきた。だが、中将だった曾祖父は太平洋戦争でたくさんの部下を死なせた。これは祖父から聞いた話だが曾祖父はそのことを一生悔いていたそうだ」

「しかし……」

 三浦の顔に苦悩の陰が差す。


「それなら、だれがこの作戦を遂行するのですか?」

「俺も、ついこの間まで忘れていた。曾祖父の言葉を。仲間を失うことを想像できていなかった俺の未熟さだった。だれかを犠牲にして守る平和は、なにかが間違っている。そのことを教えてくれたやつがいる」

 三浦が睨むように三上を見つめる。

「芦名雄介隊員ですか?」

 その名が口にされた瞬間、三上が視線をそらした。

「自分がMECに参加する前のことは聞いています。しかし、彼も誰かを守るために命をかけた。それだけでは?」


「違う、やつは守るべきものを失ったから捨て身になった。だが、そのことでたくさんの人が悲しんだ。それを正しいとは、俺には言えない」

 三上が天を仰いだ。

「でも、俺は芦名隊員と同じで、怪獣と戦っているときはいつでも死ぬ覚悟はできています。三上先輩が言っていることは、矛盾してます」

 三浦が両手に拳を作り、前のめりで三上に噛みつく。三上は低い声で答える。

「今回の件はいつもとは違う。明らかに残酷で、非人間的だ」

 三浦の拳が肩と同時に下りる。


「それでも俺は守りたい。春菜や仲間たちを守れるのであれば……」

 三浦は落ちた拳を強く握りしめた。その震えが、三上にも痛いほど伝わった。

「だがな、守るべき人がいるなら、その人のために生きなければならない。でなければ悲しむ人を多く生むことになる」

 三浦は芦名が死んだときの蒼真や美波、MECの隊員たちが悲しみに暮れている場面が目に浮かんだ。それ以上に自らの心が痛んだことも、そのときの痛みが再び彼を襲う。

「確かに、お前の決意は尊敬に値する。だが、それでも俺は反対する。もう、これ以上仲間を失いたくないからだ」

 三上は一歩近づき、三浦の両肩をつかんだ。目と目が真正面からぶつかる。そこには一切の揺らぎがなかった。


「心配するな。俺には考えがある。今回の件、俺に一任してくれ」

「でも、それでは三上先輩の立場が……」

「立場なんか関係ない。俺は、俺の判断で行動する。上の命令では動かない」

 三上の表情は硬く、確固たる覚悟に満ちていた。三浦はその重みの前に、自分の覚悟よりもさらに強靭な意志を感じ取っていた。


 ×   ×   × 


 三浦がR計画のラボに足を踏み入れるのはこれが初めてだった。高い天井の下、無数の蛍光灯が機械群の影を落とし、部屋の中央には巨大なロケットが静かに鎮座していた。壁際には用途不明の機材が並び、どれも冷たく光を反射している。静かすぎる。機械の息遣いすら感じる空間だった。

「いつもなら、もっと人がいるんだが、今日はみんな出払っていてな」

 三谷参謀が柔らかな表情で言い、ゆっくりと奥へと歩いていく。三浦は無言でその後に続く。初めて見るラボの内装、金属の床の冷たさ。緊張はじわじわと背中を伝い、体の奥を締めつけていく。ふたりがたどり着いた先には、人ひとりが入れるほどの柱状の装置がそびえていた。その傍では腕を組む安田参謀と、黙々と端末に向かうさとみの姿があった。


「三浦君、よく来てくれた。今回の任務は地球の命運がかかっている。頼むよ」

 安田参謀の声は重く、威圧感すら漂わせていた。

「はっ」

 三浦が敬礼をするが、その顔には不安が隠しきれない。

 ラボの扉が開く音が響いた。資料を抱えた三上が姿を現す。三浦を一瞥することもなく、真っ直ぐに安田参謀のもとへ向かう。その背中を三浦の視線が追う。

「参謀、ディストラクションCの操縦装置、準備完了しました。あとは例のものをはめ込むだけです」

「そうか。了解。では早速」

 安田参謀がさとみに目配せする。


「準備はよろしいですか?」

 さとみが一度三浦を見てから、三上に視線を送り、そして微かに頷いた。彼女のその手が装置の電源を入れる。ラボの空気が微かに震え、機械の起動音が空間を満たす。

「いつでも」

 さとみが安田参謀にか細い声で答える。

 三谷参謀が三浦の腕を取る。

「ここに入りたまえ」

 三浦が装置の中を覗き込む。そこには、銀色の金属板が静かに置かれていた。

 それが何を意味するのか、三浦には知らされていない。


「えっ」

 三浦が小さく息を呑む。

 三谷参謀が三浦の背中を勢いよく押す。彼を装置の中へ押し込めそして扉を閉めた。

「いよいよだな」

 三谷参謀が言う横には、静かに立つ三上の姿がある。

「扉の鍵はこれです」

 三上が長細い金属棒を三谷参謀に差し出す。

「渡しなさい。これは私の方で掛ける」

 その瞬間だった。ラボの扉が勢いよく開かれる。


「何事だ?」

 三谷参謀が振り向く。そこには蒼真、吉野、田所、鈴鹿がラボの内部へ駆け込んできた。空気が一瞬で騒然となる。その隙に装置の扉が再び開いた。

「三浦、急げ!」

 三上の声が響く。三浦が瞬時に装置から脱出した。驚いた三谷参謀が振り向いたところに、三上が彼を装置の中へ勢いよく押し込んだ。

「おい、三上、なにをする!」

 三谷参謀の叫びも虚しく、扉が音を立てて閉まる。三上が手に持っていた鍵を閉めた。

「なにをする。どうしようと言うんだ!」

 三谷参謀は扉を拳で何度も叩く。しかし鍵のかかった扉はビクともしない。

 三上がさとみに目で合図を送った。さとみが大きく頷く。そしてスイッチが押された。


「やめろ! やめるんだ!」

 三谷参謀の声が機械音に呑まれていく。直後、ラボに響き渡る悲鳴。

「ギャーッ!!」

 金属の振動。甲高い悲鳴のこだま。ラボの空気が凍り付く。

 そんな中脱出した三浦が、MECの仲間たちのもとへと走り寄る。アキが駆け寄ってきた。

「三浦君、よかった! 無事で、本当に良かった」

 彼女の腕が三浦を抱きしめる。

「鈴鹿隊員、やめてくださいよ……」

 三浦が照れくさそうに言う、が、笑ってはいない。どこか泣きべそをかいた子供のように顔がくしゃくしゃになっている。


「本当によかった。三上が知らせてくれたんで間に合った」

 吉野隊長の声にも安堵が滲む。三上もその輪に加わった。

「これはMEC全員の勝利だ」

「ありがとう、三上隊員」

 三浦が深々と頭を下げる。そこへ、ゆっくりと安田参謀が歩み寄る。

「一体、どう言うつもりだ」

 その表情は険しく、眉間に皺を寄せMECのメンバーを睨みつけていた。三上が振り返りざま答える。

「見ての通りです。我々は仲間を犠牲にしません」

 三上の瞳が鋭く光る。


「貴様ら…… これは軍法会議ものだ。処分を覚悟しておけ」

 しかし、その言葉に怯む者はいない。全員の視線が、確信と怒りを秘めて安田参謀を捉える。

「どう処分されようと、かまいません。我々には怖いものなどありません」

 吉野隊長が静かに言い切った。三上が再び安田参謀を睨みつける。

「そんなことで怯えていたら、怪獣とは戦えませんから」

 その言葉がラボの空気に深く沁み込む。だれも口を開かなかったが、その沈黙こそが、戦う者たちの誇りだった。

「キャー!」

 その悲鳴は鋼鉄の壁に反響してラボ全体に広がった。機材が震え、蛍光灯の光が細かく揺れる。安田参謀が振り返ると、その背後で金属板に手足が生えた化け物が、さとみを羽交い締めにしていた。突如現れた異形の存在は鈍く光る金属の表皮をまとい、目の代わりに赤く光るセンサーがぎらりと揺れていた。


「さとみさん!」

 蒼真が機材を蹴散らす勢いで近づこうとする。

「やめろ! さとみさんを放せ!」

 彼の声に焦りが滲む。さとみの首が金属の化け物によって絞められていく。

「ダメだ、さぁ、早く俺をもとの体に戻せしてくれ! 急がないと、この金属の腕で頭を叩き割るぞ!」

 化け物の声は金属板の奥から漏れ出るような、濁った嗄れ声だった。その腕がぎぎっと軋み、振り上げられた。ラボ内の空気が一気に張り詰める。


「無理です。一度金属と融合したものは、分離できません!」

「なに!」

 さとみの叫びに、化け物は短く呻く。

「嘘をつけ、そんなわけがない。嘘だ、嘘だと言ってくれ!」

 化け物の声が悲しく響く。

 そのとき、安田参謀が金属の化け物に駆け寄った。

「やめろ、三谷。あきらめろ!」

 かつての部下を呼ぶ声に、化け物は一瞬動きを止める。

「仕方ない…… 三谷、お前がディストラクションCを操縦しろ」

「え、私がですか?」

 その声は震えていた。


「仕方ない。今となってはお前しかできないんだ。お願いだ、人類の未来がかかっている、頼む」

 力が抜けたように化け物の腕が下がる。その隙にさとみが素早く身をひるがえした。一歩、二歩、彼女はよろめきながらも距離を取った。

「俺が、俺がロケットに組み込まれる。そんな……」

 化け物は膝をつき、金属が床を擦る鈍い音が響いた。

「俺はいやだ! ロケットに組み込まれて、相手に突っ込んで死ぬなんて。俺は、俺はいやだ! 絶対にいやだ!」

 その叫びとともに、ラボの壁の隙間から白い霧が滲み始めた。異様な冷たさを帯びた霧が床を這い、次第に濃く膨らんでいく。蒼真のポーチが突如警告音を鳴らす。赤色の光が連続で点滅する。


「いけない、フレロビウムだ! みんな離れて!」

 蒼真の叫び声より早く隊員たちは本能的に散開した。蒼真がさとみの手をつかみ、霧を裂くようにその場から離れる。霧はまるで吸い込まれるように化け物へと集まり、その金属の中心に赤い閃光が走る。

 激しい振動。ラボの天井が不気味な音を立てながらひび割れ、ついに崩れ落ちた。

 そしてその瓦礫の向こうに、そびえ立つ影。巨大な金属怪獣・レモスター。その体は不規則に脈動し、怒りが熱として周囲に広がっていた。


「全員、建物から出るんだ!」

 吉野隊長の号令が飛ぶ。隊員たちは警報も聞こえぬほどの轟音の中、出口へと走った。

「いかん! ディストラクションCが……」

 安田参謀の声と同時にレモスターがディストラクションCへと手を突っ込む。鋼鉄を溶かすほどの力で中枢部を引き裂き、そこから赤い石を取り出す。異常な光を放つその石を自らの胸に叩き込んだ。

「さらに凶暴化するぞ!」

 田所が叫ぶ。レモスターの体表が赤く輝き、周囲に金属波が拡散した。壁が爆ぜ、装置が弾け、ラボは凄まじい振動に包まれた。蒼真はさとみを三浦へと託す。


「蒼真君、どこへ行くの!」

 さとみの絶叫が蒼真の心に響く。

「科学班から兵器を持ってきます! だからさとみさんは早く逃げてください」

 蒼真は彼女を放したくない気持ちを押さえつけてそう叫ぶ。

「気をつけてね……」

 さとみの微笑みはわずかながら、蒼真の心に希望の火を灯した。

「行ってきます!」

 蒼真が走り出す。


 その体が土煙の中で青い光に包まれ、空へと吸い込まれるように昇っていった。粒子が螺旋を描きながら上昇し、空気が一瞬静止する。光が消えた次の瞬間、雷鳴のような轟音が大地を揺らす。

 ネイビージャイアントが、空から急降下し、破壊されたラボの中央に着地した。コンクリートの床が波打ち、蜘蛛の巣状の亀裂が四方へ走る。蒼い粒子が肩から舞い落ち、余熱のように空気を歪ませる。その姿は、まるで絶望の中に差し込まれた一筋の意志だった。


 レモスターが咆哮をあげる。金属の咆哮が空間を震わせ、地面が跳ねるように揺れる。頭上の配管が爆ぜ、火花と蒸気が降り注ぐ。

 レモスターの怒りは頂点に達する。そして彼はネイビーにも目もくれず一目散にディストラクションCへ。そしてディストラクションCを容赦なく踏みつける。ロケットが粉々に砕け散った。爆発の余波が壁を焦がし、視界が一瞬ホワイトアウトするほどだった。

 ネイビーが突進した。足元の瓦礫を蹴り飛ばしながら加速する。床が砕け、破片が弾丸のように飛び散る。


 レモスターが両腕を広げて受け止める。両者が火花を散らして激突。衝突音は建物全体に響き渡り、遠くにいた隊員すら耳を塞いだ。爆風が辺りのパネルを吹き飛ばし、制御盤が火を噴く。

 組み合う両者の衝突音が空気を引き裂くように連続する。ネイビーの腕がレモスターの胸部を押し返すが、レモスターはびくともしない。その巨体はまるで重力そのものを支配しているかのようだった。

 次の瞬間レモスターの右腕が振るわれる。ネイビーの頭部に直撃。破砕音とともに衝撃波が走り、床に深い窪みが刻まれる。


 ネイビーは脳震盪を起こしたかのように膝から崩れ落ち、背中から倒れ込む。レモスターが容赦なくその体を踏みつける。その憎しみを込めた攻撃に隊員たちは思わず息を止めた。金属が悲鳴をあげるような音を立て、ネイビーの動きが止まる。

「怪獣が重すぎるんだ! みんな、ネイビーを援護!」

 吉野の怒号が響く。

 隊員たちは一斉にレーザー銃を構え、光弾を連射した。赤と青の光がレモスターの背中を焼くが、巨体は微動だにしない。表面に焦げ跡が残るだけで、動きは止まらない。ネイビーはなおも押さえつけられていた。


 そのときだった。さとみが白衣のポケットから小型の装置を取り出す。無機質なボディに青緑のランプが点滅していた。彼女が静かにボタンを押す。

 ぴたり。レモスターの動きが止まる。

 重さにあえいでいたネイビーの耳に声が聞こえる。どこかで聞き覚えのある声。

「ネイビー、今よ。立ち上がって。そして化け物を廃棄して。あなたのその熱戦で」

 レモスターの巨大な腕が空中で凍り付いたように静止し、空気が一瞬、真空のように沈黙している。

 ネイビーがゆっくりと立ち上がった。


 ネイビーが渾身の力でレモスターの胸胸部に輝く赤い石に向かって、左手を突き出す。その手の中心から青い光線が収束され、激しい閃光とともに石を貫いた。

 赤い石が爆ぜ、無数の欠片となって空間に散った。レモスターの体が一瞬震え、そして、静かに崩れ落ちていく。関節部から崩壊が始まり、全身の構造が次々と解けていく。それはまるで溶鉱炉で熱せられて溶けていくように。

 金属の巨体がゆっくりと霧に紛れるように消えていく。そして残されたのは砕けた床と静寂だけだった。


 ×   ×   × 


 破壊されたラボの前にはMECの面々とさとみ、そして安田参謀が並んで立ち尽くしていた。寒風が吹き抜ける空間に瓦礫の山が広がっている。瓦礫は鋭く角ばり、微かな煙が上がり続けていた。金属の焼け焦げる匂い、割れた機材から漏れ続ける電気音、そのすべてが終末の余韻を漂わせていた。

 かつて巨大な希望と危機を抱いて立ち上がったラボは、今や無残に崩れた骨格だけを残していた。ディストラクションCの残骸も、土砂の中に埋もれ、形すら認識できない。


 あまりの光景に、だれもが言葉を持たなかった。

「どうするんだよ。これで、人類も終わりか」

 田所がぽつりと呟くように言う。彼の声は風にかき消されそうなほど弱く、だれかに答えを求めるというよりも、自分の心に問いかけているようだった。いつもなら一言で士気を立て直す吉野隊長ですら、今回は言葉を失っていた。眉間に深く皺を刻み、腕を組んだまま、崩れたラボの奥を見つめている。

 あまりに唐突な終焉に、だれもが、終わってしまった、という感覚をまだ受け入れられずにいた。


「おーい」

 足音が微かに響く。蒼真が膝を軽くかばいながら皆のもとに駆け寄ってくる。制服の裾は土で汚れ、片腕には擦り傷が浮いていた。

「どうしたの、蒼真君。大丈夫?」

 さとみが駆け寄り、よろけた彼の肩に手を添える。目には焦りよりも、心配が滲んでいた。

「ありがとうございます」

 蒼真は少しぎこちない笑顔を浮かべた。

「けがしたの?」

「少し転んだだけです」

 本当は、レモスターの一撃にやられた。けれど、言うわけにはいかなかった。


 ただ蒼真はさとみにもっと聞きたいことがあった。あのときネイビーに話しかけたのはさとみさん、あなたですよね。化け物を破棄してと。それも熱戦で。それはアメリカでの実験と同じ。咲奈さんのお兄さんを破棄したのと同じ。三谷参謀にはあまり良い気はしていなかったが、結果、咲奈さんのお兄さんと同じ結果になった。それをさとみがネイビーに指示した。同じことの繰り返し、それでいいのですか? 蒼真はさとみに問いかけたかった。だが自分がネイビーであることを明かすわけにはいかない。心の中でモヤモヤした気持ちが蒼真の中で広がった。

「そう言えば、さとみさん。さっき装置を操作したように見えたんですけど、あれ、なにか仕掛けがあったんですか?」

 さとみがポケットから装置を取り出した。


「金属生命体が暴走したときに、動きを止める磁力装置を仕込んでおいたの」

「だから、化け物は動きが止まったんですね」

 蒼真が納得の表情を浮かべる。

 その横で安田参謀がゆっくりとさとみに歩み寄った。彼の歩き方はゆっくりだったが、確かな意思が宿っている。

「できればディストラクションCが破壊される前に、その装置を作動させていただきたかった」

 声音は淡々としていたが、その背後に苛立ちの色がうっすらと見えた。さとみが申し訳なさそうに下を向いた。

「あれだけ巨大化していたので、装置が作動するかどうか不安だったんです」

 その言葉に、蒼真が一歩前に出る。


「奥さんにそんな責任を押し付けないでください。この結果を招いたのは参謀本部の作戦ミスだと思います」

 一瞬、沈黙が走る。

「蒼真君、言いすぎだ」

 吉野隊長が静かに声を落とす。安田参謀は蒼真をじろりと睨みつけた。

「まぁ、いい。今さらなにを言っても、この状態はもう戻らない」

 安田参謀はラボを一瞥し、腕を組んで立ち止まった。瓦礫の上に投げ出された金属パーツが風に転がる。


「さて、これから、だな」

 その言葉には、敗北の裏にある冷たい決断の気配があった。安田参謀は方向を変えて、本部の方へ歩き出す。その背中は答えを隠しているようで、だれにも語りかけてはいなかった。そして数メートル進んだのち彼はふと立ち止まり、振り返った。


「阿久津隊員。あとで参謀室に来るように」

 蒼真が首を傾げる。風が彼の髪を揺らしながら、焼け焦げた空気の中を抜けていく。この状況でまさかお説教か? それとも…… 

 しかし、安田参謀は何も言わず、そのまま静かに背を向けて歩き去った。後ろ姿には、ただ沈黙だけがまとわりついていた。


 ×   ×   × 


「入ります」

 低く扉が軋みをあげて開いた。蒼真が一歩、足を踏み入れる。扉が閉まると同時に空間は完全な静寂に包まれた。

 ここは参謀室、そこには、冷たい空気と、硬質な重みが漂っていた。薄灰色の壁、無機質なスチール棚、整然と並ぶファイル。中央には黒光りする大型のデスクが鎮座し、その向こうに安田参謀が静かに座っていた。


 窓は分厚いブラインドで覆われていて外光の気配すらない。蒼真は無言で部屋を見渡す。調度品は一切なく、装飾性はゼロ。まるで感情や生活の痕跡を排除したような空間だった。

 神山教授室の書籍や暖かい木製の椅子とは、まさに雲泥の差。だが、これが任務だけを背負う者の部屋なのかもしれない。

「よく来たな」

 安田参謀が口を開く。その声音は静かな湖面のようだった。蒼真は何か言いようのない緊張感に襲われた。それは偉い人の部屋に入ったからではない。安田参謀から発せられる言いようのない気のようなもの、それを感じていたからだ。


「なんの御用でしょうか」

 蒼真は一礼し、声を整えて答える。

「阿久津蒼真君、いや、ネイビージャイアント」

「えっ……」

 その一言に蒼真の顔が硬直する。一瞬、空気が止まり、室内の時計の秒針だけが音を刻んでいた。

「参謀、ご冗談を……」

 声にわずかな怯えが混じる。それを見てか安田参謀が不敵に笑う。


「この前、オドングリフとの戦闘で、君が変身するところを見たんだよ」

 蒼真の脳裏に、あの戦場の映像がよみがえる。安田を救出した後、反射的に変身したあの瞬間。まさか、見ていたとは。

「見られていたんですね……」

「あゝ」

 安田の目は揺れない。まるで、すべてを既に見透かしていたかのようだ。

「で、そのことで呼ばれたんですか?」

「まぁ、そうだな。君には、地球を救ってもらわないといけないからな」

 言葉の温度が急速に冷たくなった。地球なら、これまでも守ってきた。

 そう言いかけた。けれど喉が動かない。蒼真は安田の言葉の先を予感として受け取り始めていた。


「でも僕じゃ、宇宙から来るミサイルを破壊するのは無理です」

 その言葉にも安田参謀は動じず、変わらぬ笑みを浮かべていた。

「そうだな。迎え撃つにはネイビエクスニュームの破壊力が必要だ。だが、このまま指をくわえて死を待つわけにはいかん。そこでだ」

 安田が静かに立ち上がる。椅子の脚が床を擦る音が重たく響く。彼はデスクを回り込み、蒼真の前に立つ。制服の影が蒼真の胸元まで落ちていた。

「極秘だが、大型の宇宙船がこの基地内にある。それを使って地球にある限りの破壊兵器を積み、それで敵ミサイルに突っ込む」


「えっ、それは……」

 ミサイルに突っ込む。それは特攻を意味する。この人はまだだれかの犠牲を必要としているのか?

「心配するな。君に突っ込めとは言っていない」

 蒼真は思わず肩を落とす。一瞬の安堵、しかしそれは次の瞬間、かき消される。

「それは俺がやる」

「参謀……」

 心が揺れた。どこか彼が無理をしているように見えた。しかし安田の目は真っ直ぐだった。

「俺は、この国を…… いや、地球を守らなければならない。その使命を俺は全うするだけだ」

 その言葉の重さに蒼真は黙り込む。指先が、わずかに震えていた。


「参謀、命を粗末にしてはいけません。それは人の命も、自分の命も同じです」

「分かっている。だが、それしか手がない」

 安田が静かに蒼真の肩に手を置いた。その手から伝わる体温に、決意と孤独の両方が宿っていた。

「ただ、ここから火星付近まではそのロケットでは時間がかかりすぎる。そこでだ、君の飛行速度の分析結果からすれば、頑張れば三日で火星まで行けそうだ。すまんが君にロケットを運んでもらいたい」

「それは……」

 蒼真は目を伏せる。


 火星まで三日、往復六日。その間、飲まず食わず、酸素の維持、孤独、未確認の敵。想像すればするほど、蒼真の心に不安が膨らむ。だが安田参謀の「君しかいないんだ」という言葉が静かに胸に刺さる。

 蒼真は目を閉じた。防衛隊の仲間、研究班のメンバー、さとみの静かな眼差し、そして美波の笑顔。守りたい人たち。それはずっと変わらない。今までも怪獣に勝てる保証などなかった。でも、それでも戦ってきたじゃないか。恐れるな。阿久津蒼真よ、恐れるな。

「分かりました。その作戦に乗りましょう」

「ありがとう」


 安田参謀がほんの一瞬だけ微笑みそして深々と頭を下げた。蒼真も今までの緊張していた表情から少し笑みが漏れる。

「そうとなれば、あとはネイビエクスニュームだけか」

 蒼真が天井を仰ぐ。部屋のライトが彼の額に白い輪郭を落とした。そのとき、何かが胸の奥で閃いた。

「そうだ、あそこだ!」

 蒼真は一気に動いた。椅子をかすめ、扉を開き、風のように参謀室を飛び出していった。

 残された空間には、ひとつの決意だけが静かに揺れていた。


《予告》

地球滅亡まで残り一週間。宇宙から迫る破壊兵器に対し人類は絶望の淵にいた。そんな中、蒼真たちは最後の希望である宇宙船とともに地球を救うための壮絶な戦いに挑む。次回ネイビージャイアント「絶望を乗り越えた星の瞬き」お楽しみに。


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