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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
3/71

第三話 MECへ、そしてありがとう

♪小さな生命いのちの声を聞く

 せまる不思議の黒い影

 涙の海が怒るとき

 枯れた大地が怒るとき

 終わる果てなき戦いに

 誰かの平和を守るため

 青い光を輝かせ 

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

 防衛隊怪獣攻撃班第四会議室。それは山梨県の富士山の麓に位置していた。コの字に配置された会議机、その中心には加賀美総監が座っている。左には尾張参謀長、右には安田参謀と三谷参謀が並んでいた。向かい合った席には、壁側に吉野隊長以下四名のMECメンバーが、窓側には神山教授以下研究員たちが陣取っていた。


「で、前回の怪獣にもフレロビウムが検出されたと」

 資料を手にした加賀見総監が、誰にともなく問いかける。蒼真はチラリと神山教授を見た。彼もまた、資料に視線を落としていた。

「ミサイルが命中したときに剥がれ落ちた怪獣の皮膚から今回もフレロビウムが検出されました」

 野太い声が会議室に響き渡った。蒼真の向かい側、隊員たちが座る列の中で、一番参謀席に近い位置に座る吉野隊長が答えた。


「そうか」

 加賀美総監が短く答える。

「やはり怪獣は、生物ではないのでは?」

 尾張参謀長が隣の加賀美総監に問いかける。総監はため息ともつかぬ息を吐きながら、

「神山教授はどうお考えですか?」


 神山教授は資料を机に置きゆっくりと立ち上がった。そして、周囲を見渡しながら、神妙な面持ちで答える。

「私としてもなんとも言えません。もし怪獣がフレロビウムの化合物でできていたとすれば生物学上生き物とは言えません」


 三谷参謀は不満げに眉をひそめた。

「人工的なものだと?」

「断定できません。ただ並大抵の科学力ではこのような芸当はできない……」

 神谷教授が口ごもった、そう蒼真には見えた。

「人が作れないとしたら誰が作ったって言うんだ」

 三谷参謀の眉間には依然として深いしわが刻まれていた。

「情報が不足しています。これ以上は推論でしかありません」

 神山教授は気分を害したのか、不満げな表情を浮かべながら席に着いた。


「具体的な怪獣攻撃の策は?」

 加賀美総監が周囲を見渡すと、誰もが黙り込んでいた。蒼真はその沈黙を当然のことと受け止めた。なぜなら、怪獣は人間の力で倒せるものではないからだ。


「すみません」

 吉野の並びの席、蒼真がよく知る人物が手を上げた。

「僭越ながら意見を述べさせてください」

 芦名雄介が立ち上がると周囲の視線が一斉に彼に集中した。その凛々しい姿は現場で泥だらけになって戦っているいつもの彼とはまるで別人のようだった。


「なんだね、君は」

 三谷参謀は変わらぬ眉間の皺を寄せ、差し出がましいと言わんばかりに声を荒げた。

「三谷参謀、いいじゃないか。なにも意見が出ないよりは」

 加賀美総監が三谷参謀を諫めると、三谷参謀は仕方なく下を向いた。その様子をよそに芦名は話を続ける。


「先日の事案も、その前の事案も状況として同じところがあります」

「なんだね、それは」

「怪獣が倒されたあと、その巨体が消えています」

「それがどうしたんだね、怪獣は我々が知る生物とは違うんだろう。死んで消えていっても不思議ではないのでは」


 三谷参謀は眉間に皺を寄せたまま問いかけたが、芦名は彼に目を向けることなく、淡々と話を続けた。

「それだけではありません。その場所から人間の死体が発見されています」

 今まで資料に目を落としていた神山教授が顔を上げた。

「さらに、その死体には傷一つありません。死因も心肺停止以外原因が分かっていません」

 芦名が手元の資料を開き、そのページを周りに見えるように突き出した。

「資料の十一ページをご覧ください。前回も、前々回も、死体には傷一つないことがここに書かれています」


 会議室に紙の擦れる音が響く。加賀美総監をはじめ、参謀たちがそのページに視線を注いでいた。

「さらに不可解なことに、この二つの事案とも、その死体にフレロビウムが発する放射能が検出されたと言うことです」

「どういうことだね」

 今まで芦名を直視していなかった加賀美総監が、前のめりになって彼に問いかけた。


「これは仮説ですが、怪獣は人に寄生するのではないでしょうか」

 芦名の主張により、会議室の中は言葉にならない声でざわめき始めた。その中で蒼真は芦名を鋭く睨みつける。この人はなぜこんな場所で仮説をぶち上げるのか?


「例えばですけど、フレロビウムをまとった気体のようなものが人間に寄生し、巨大化する」

 三谷参謀が立ち上がる。

「なにをバカなことを」

 三谷参謀は人差し指を芦名に向け、その眉間には皺だけでなく真っ赤なおでこが浮かび上がる。そんなやり取りに蒼真は耳を塞いだ。やめてくれ、自分の仮説をこんな場所で。まだ誰にも語っていない、神山教授にすら話していない。こんな証拠もない話を誰が信じる。一体芦名は何を考えているんだ。


「落ち着きたまえ、三谷参謀」

 加賀美総監が静かな口調で三谷参謀を制すると、三谷参謀は渋々と矛を収めた。加賀美総監はフッと息を吐き、芦名へと向き直った。

「芦名君、ならばどうすればいいと言うんだね」

 芦名はざわつく会議室の中でも凛とした姿勢を崩さず、その質問に答えた。


「まず、怪獣になる前にフレロビウムの場所を特定する必要があります。フレロビウムからは特別な放射線が発せられることは分かっております」

 芦名が蒼真に目をやる。蒼真に嫌な予感が。

「その放射線を広域で検知できる装置が必要だと考えます」

 三谷参謀の指が机を数回叩き、その音が会議室に響き渡った。


「で、その装置、誰が作れるんだ」

「現在でも小型の検出装置はあります。そこの阿久津蒼真氏が制作したものです。それを大規模化すれば」

 加賀美総監が神山教授の方に目をやる。

「つまり神山研究室の協力が必要だと」

 加賀見総監の言葉に芦名が畳みかける。

「えゝ、先ほど言いました通り、特に助手の阿久津さんには是非MECの科学班に参加して頂きたいと考えています」


 加賀美総監が左右の参謀たちに意見を求める。会話は聞き取れないが、おおよそ意見はまとまったようだ。参謀たちも加賀美総監の方へ倒していた体を正面に向けた。そして、ゆっくりと加賀美総監が口を開いた。


「神山教授、いかがでしょう。現在の我々の情報だけでは結論に結び付きません。是非協力して頂きたいのですが」

 神山教授は両手を組み、少し目を閉じた。蒼真は神山教授が断ることを切に願った。しかし、

「分かりました。芦名隊員の申し入れを受けましょう。私の助手の阿久津蒼真をMECへ参加させます」


 蒼真の期待は裏切られた。加賀美総監が頷くと蒼真は芦名を鋭く睨みつけた。芦名はゆっくりと一礼し、静かに席に戻った。


 ×   ×   ×


 神山研究室の片隅、小さな机の上に放射能検出装置が置かれている。夜になり部屋には誰もいない。暗い研究室の中で机の上のスタンドだけが光を放っている。その明るい場所で椅子を逆さにし、背もたれに顎を乗せた蒼真が放射能検出装置と睨めっこしている。


 蒼真はふと左手の古い腕時計に目をやる。そこには青い光は見えなかった。

「なんでそうなるかなぁ」


 蒼真はため息を吐いた。自分はヒーローではない。そもそもそんなに正義感があるわけでもない。誰かのために汗水を垂らすつもりもない。なぜかと問われれば、それは子供のころ、自分を父親のいない人間として冷ややかな目で見る大人たちやクラスメイトがいたからだ。自分を助けようとする人はどこにもいなかった。もしそんな人がいたら母はあんな死に方をしなかっただろう。


 母が死んだあとも周りの人たちは親のいない自分に冷ややかだった。そんな薄情な人間たちのために、なぜ命を懸けなければならないのか。自分は自分でいたい。誰からも干渉されず、そっと研究をしていたい。それが本当の自分。紺色のヒーローは自分ではない。蒼真は子供のころ、学生時代、そして研究員になってからの各々の時代の自分を思い出しながら、モヤモヤとした心持ちでじっと検出器を睨んでいた。


「こんなもの、作らなきゃよかった」

 そう考えていたとき、研究室の扉がいきなり開いた。

「蒼真君、こんなところにいたの」


 扉の向こう、廊下は明るく輝いていた。その光に包まれ笑顔が一層輝きを増す。蒼真の息が一瞬止まる。さとみは優しい笑顔を浮かべながら蒼真に近づいてきた。

「主人があなたのことを探していたわ」

 笑顔が目の前まで近づく、その美しさはいつもながらに際立っていた。蒼真の頭の中からさっきまでのモヤモヤが一掃され、それ以上に胸がドキドキと高鳴った。


「すみません。お騒がせしました」

 蒼真は立ち上がった。さとみの眼差しが間近に迫る。

「今すぐ、教授のところにお伺いします」

 そう言ったあと、蒼真はしばらく動けなくなる。さとみのそばを離れたくないという気持ちが、彼の体の動きを止めていた。


「どうしたの、元気なさそうね」

 さとみが心配そうに蒼真の顔を覗き込む。その大きな瞳に見つめられると、さらに体が硬直する。自分の心が悟られないように蒼真は目を反らした。

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

「そう」

 さとみに笑顔が戻る。


「主人から聞いたわ。MECへ参加するんですって」

 さとみが気遣うようにそっと肩に手を置いた。蒼真の動悸はさらに早まる。

「はぁ、でも……」

 そう言いかけた蒼真は言葉を飲み込んだ。本当は乗り気ではない、行きたくない。しかしそのことを彼女には言えなかった。さとみは蒼真の言葉をどう受け止めるだろうか。意気地のない、身勝手な人間だと思われはしないだろうか。


「蒼真君がやりたかった研究ができなくなるのは残念ね」

 さとみは蒼真の気持ちを察することなく、変わらず憂いを帯びた表情で彼を見つめていた。心配してくれていることは分かったが、本心を明かしても良いのかと迷った。しかし、やはり言葉にできない。心が躊躇していた。


「でも、蒼真君しかできないことならそれをやり通すことも大事だと思うの」

 彼女の言葉は蒼真の心に二つの感情をもたらした。一つは本心をさとみに伝えないでよかったという安堵の気持ち。なぜならば彼女は自分がMECへ行くことを望んでいるのではないか、そうであれば行きたくないなどと言うべきではない。


 もう一つはがっかりする思い。さっき見たさとみの憂いの表情がMEC行きを止めてくれるのではないか、その淡い期待は叶えられそうにない。

「僕にしかできないことって……」

 蒼真はさとみの表情を伺いながら言葉を途中で止めた。


「蒼真君しか検知器を扱えないんでしょ?」

「えゝ、まぁ、そうですが」

 自分しかできないこと、それは検知器を操作することでも、MECで働くことでもない。本当は……

「ただ、僕がMECへ行っても怪獣を殲滅できるか分かりません。正直自信がないんです」

 自分にしかできないこと、それはネイビージャイアントとなり怪獣と戦うこと。しかし、怪獣と戦い続け、勝ち続ける保証はどこにもない。


「そうね、きっと誰もが自信はないと思うわ。だって怪獣なんて戦ったことある人、今までいないんだから」

 さとみが蒼真から目を外す。

「でも私は蒼真君ならできると思うの。理由はないけど、そんな予感がするの」

 “予感” ?


 いつも論理的なさとみにしては珍しく非論理的な発言に、蒼真は違和感を覚えた。それはきっと論理的に説明できないからだろう。

 つまり、自分が怪獣を倒し続け、そして殲滅する可能性が高いとは言えない、いや、低いと言っているのかもしれない。それなのに“できる”と言うのは、自分に対する励ましなのか、それとも怪獣殲滅への淡い期待なのか。


「私たちのためにがんばって。応援しているから」

 さとみが蒼真を正面から満面の笑みで見つめる。蒼真の動悸が早まり、顔が熱くなる。頭の中で何か不安を消す要素が放出され、胸に熱いものがこみ上げてきた。そうか、さとみを守るために戦えばいいんだ。この人を守るために戦う。それが理由になるはずだ。


「分かりました。取りあえずがんばってみます」

 蒼真の高揚した気分をさとみの笑顔がさらに後押しした。

「がんばって」

 さとみが蒼真の手を取った。彼女のか細い指が蒼真の指に絡みつく。

「がんばります」


 そう言ったものの、心の奥底にはまだ灰色の雲が漂っている。本当に自分は勝てるのだろうか。いや、さとみの期待に応えるべきだ。しかし。

「教授のところに行ってきます」

 気持ちの整理がつかないまま、蒼真は神山教授室へ向かった。


 ×   ×   ×


 今日も遅くなった。彩が自宅近くまで戻ってきていた。いつもの通り道、住宅街は静かで誰も歩いていない。家々の窓から漏れる明かり以外、街灯の光でさえ道に覆う闇を払うことはできていない。ちかごろ痴漢も出没するらしく、町の人たちは行政に街灯の光を強くすることを望んだが、実際は実現されなかった。


「急がないと」

 彩の足が早まる。こんなところで痴漢と鉢合わせなんてごめんだ。靴音の間隔が短くなる。そのとき、

「あなたは芦名雄介さんのことを恨んでいますね」

 彩がハッとして振り向く。そこには誰もいない、いや、いる、誰かいる。

「心の中を話してみてください」

 暗闇に溶け込んでいた男の顔がぬっーと現れた。

「あっ」

 彩が目を丸くして男の顔を睨む。男は笑顔とも無表情とも分からぬ顔で彩に近づいて来る。


「しつこいです。警察に連絡しますよ」

 彩が鞄から携帯を取り出す。

「心配しないでください。私はあなたに危害を加えるつもりはありません。ただあなたの苦しみを解放してあげたいのです」

「苦しみ?」

 彩は大きな目を見開いたまま首を右に傾げた。


「なにが言いたいのか分からないです」

 男は変わらぬ表情のまま、

「実は私に協力してほしいのです」

「協力?」

 彩の頭はさらに混乱した。この人はおかしいのではないか、苦しみや協力など、何を言いたいのか全く分からない。言いようのない恐怖が彩の背中に冷たいものを走らせた。やはりここは早く立ち去るべきだ。


「実は私は地球人ではありません。宇宙からやって来ました」

 彩はやっぱり、と思った。この人、頭がおかしい。

「信じてもらえないかもしれませんが、私はこの地球を救いたいのです。今この地球の環境は人間によって激変しています。このままでは人間はおろか、全ての生物が死に絶えることすら起こりかねません。怪獣なるものが現れて街を破壊するのも、自然の摂理としか思えません」

 黒衣の男が彩の周りを歩きまわりながら話を続けた。


「このままでは地球は生命が住めない星になってしまう、そうは思いませんか?」

 何かの宗教? それともカルト? 彩は身構えたまま、黒衣の男が目を離す隙を伺っていた。この気のふれた人から早く逃げなければ。

「そんな壮大な話をして、私にどうしろ、って言うんですか?」

「あなたにもできることがあるんですよ」

 男が指を差す。彩が二、三歩後ずさりしていく。


「私は、今回の怪獣事件が地球を救うことにつながると思います。ならば、その怪獣を攻撃し、駆逐しようとするMECはいかがなものかと。そして、その中心人物である芦名雄介、私は彼がもっとも危険な人物だと考えています。なので彼を恨んでいるあなたに協力してほしいのです」

「私、芦名隊員のことは恨んでいません、と言うより、なんの思いもありません」

「嘘です!」

 黒衣の男がにじり寄ってくる。彩はこのままでは何かされると感じ、その恐怖で体が硬直した。


「本当のことを言った方がいいです。そうしないとあなたの苦しみは解けない」

 彩はこのまま芦名のことを否定し続ける方が危険だと感じた。

「確かに、たった一人の弟を死に追いやった芦名さんは憎いと思ったこともあります。でも、彼は職務上しかたなくやったこと。私が逆恨みしているだけです」

 彩の心が少しだけ軽くなった。黒衣の男の言葉が、あながち間違いではないのかもしれない。


「とはいえ、あなたのおっしゃっている意味が分かりません。協力しろとおっしゃっても何をすればいいのかも分かりません。なのであなたのお申し入れは、お断りさせて頂きます」

「そうですか、まぁ俄かには信じられないでしょう。私が宇宙人であることなど。でもまた気が変わったら教えてください。私はいつでもあなたの近くにいます」

 そう言うと、彼は彩にルビー色をした手のひらサイズの石を差し出した。


「これはお守りのようなものです。あなたが芦名さんのことで苦しむことがあったらこれを見てください。少し心が落ち着くと思います」

 やはり新興宗教か、彩は受け取らなかった。だが不思議なことにその赤い石を見ているとどこか心が落ち着く。なんだろう、この気持ち。怒りや恐怖が和らいでいく。心が吸い取られていく感じがする。


「さぁ、受け取ってください」

 彩は意思に反してその赤い石を手に取った。

「またお会いしましょう」

 黒衣の男が彩の横をすり抜けていく。彼女の背中をさらに冷たいものが走る。彩が振り返る、しかしそこには漆黒の闇しか存在しなかった。


 ×   ×   ×


「先生、なにか御用ですか」

 部屋の扉を開けると、蒼真は中にいた神山教授に声をかけた。

 教授室には落ち着いた色調のテーブルや本棚がいつも通り配置されている。広さは約二十平方メートルだろうか。広い部屋には教授一人でいることが多く、今日も美波から聞いた通り一人だった。扉の正面、大きな机の前に神山教授は座っていた。手には束になった資料を持ち、蒼真を見ることなくそれに目を通している。


「蒼真君か、まぁ座りたまえ」

 教授室の中央には落ち着いた色合いのテーブルが同系色のソファーと共に配置されている。このコーディネートはさとみの趣味であり蒼真はそのセンスの良さにいつも感心している。もっとも彼自身は家具には全く興味がない。蒼真がそのソファーに腰を下ろすと神山教授も資料を手に向かいの席にやって来た。


「MECの芦名隊員に、怪獣寄生説を吹き込んだのは君だね」

 その落ち着いた声に蒼真はたじろぐ。

「すみません。まだ仮説にもならない説をあの場で芦名さんが言うとは思わなかったので。一応、彼にはまだ絵空事だと言ってあったのですが」

「うむ」

 神山教授が腕を組むと、蒼真はドキドキしながら教授の一挙手一投足を見守った。いつ怒られるかと心臓が高鳴る。


「君の絵空事を聞かせてもらえないか」

「え、」

 蒼真が驚く。てっきり咎められると思っていたから。

「事実だけ並べました。怪獣の死骸がないこと、その場所に人が死んでいてほぼ無傷なこと、その死体にフレロビウムの放射線が大きく反応したこと」


「それだけかね?」

 神山教授が鋭い視線を蒼真に向けた。蒼真はこれだけの証拠で怪獣寄生説を考えたわけではない。本当は母の手紙があった。しかしそのことを教授に言うわけにはいかない。自分がネイビージャイアントであることを誰にも知られたくないからだ。言えば自分が異質な存在として見られ、みんなが離れていく気がした。


「それだけです」

 蒼真は叱責される覚悟でそう言った。学者として、相当の根拠がなければそんな仮説を他人に話すべきではないことは分かっている。だからこそ、逆鱗に触れるかもしれない。しかし、本当の理由を、仮説の根拠を言うわけにはいかない。


「うむ」

 神山教授が組んでいた腕をほどくと食いしばっていた蒼真の力がふっと抜けた。

「その程度の根拠では君の仮説に賛同できない。なぜならば生物学上、フレロビウムを化合物として生命が発生するとは考え難いからだ。だがしかし」

 そう言いながら神山教授が手に持っていた資料を蒼真に手渡した。

「これは私の直感だが、君の言っていることは正しい。なぜなら、今までの生物学の考えでは及ばない怪獣が実際に現れているからだ」

 神山教授が下唇を噛む。そして蒼真が持つ資料を指差した。


「読んでみたまえ」

 蒼真は資料に目を落とした。それは三十年前に書かれた論文でタイトルには『超生物学的生命誕生理論』とあり筆者は柏崎和弘と記されている。

 中身を読み進めると、炭素以外の化合物で構成される生命の細胞について述べられていた。炭素以外?


「先生、これは?」

「その論文を書いた柏崎博士だが、その後、新しい生命を作り出したと言い出した」

「新しい生命を作った!」

 蒼真の脳裏に母の手紙が浮かんでくる。

『お父さんは恐ろしい発明をしてしまうのです。それは異生物を作るということ』


「で、柏崎博士は?」

「当然、新しい生命の事実はなかった。だから彼は学会から嘘つき呼ばわりされ、異端児として追放された。その後の消息は不明だ」

 蒼真の心がざわつく。この人、もしかして父?


「この論文だと、いろいろな物質での実験結果が載っていますが、フレロビウムと言う言葉はなさそうですね」

「だが、もし彼がフレロビウムを使って新しい生命を生み出していたら」

「……」

 蒼真はもう一度論文に目を落とす。しかしそこには父の痕跡はどこにも見当たらなかった。


「教授はこの柏崎博士のこと、どこまでご存じなんですか」

「優秀な男だった。私など足元にも及ばない。しかしあまりの天才ぶりに周囲の人からも反感を買っていた。彼はいつでも孤独だった。だからさらに人付き合いもなく、どんどん研究にのめり込んでいった。その結果がこの論文だ。しかしそのことがより周りとの軋轢を生み、この世界から姿を消した」


「奥さんやお子さんは?」

「いなかったと思う。彼は人と話をせず、常に顕微鏡で微生物を観察していた。彼にとっては学問が唯一の恋人のようなものだった、そう周りからは思われていた。ただし、消息を絶ったあとのことは誰にも分からない。結婚して子供がいるのか、そうでないのか、誰も知らない」

 蒼真が肩を落とす。柏崎博士、彼と自分をつなぐ何かがほしい。


「で、先生はこの柏崎博士が、一連の事件に関与していると思っていらっしゃるのですね」

「君の絵空事と同じだよ。なんの根拠もない」

 神山教授はゆっくり目を閉じた。

「私も彼を学界から追い出した張本人の一人だ。だから今回の事件に柏崎がかかわっているならば私が止めなければ。だが今の私では無力だ」

 神山教授の目が見開かれ、前のめりになって蒼真を見つめた。


「だから蒼真君、君が私の代わりにMECへ行ってくれないか」

 蒼真は答えに窮した。神山教授の意志も期待も理解できる。しかし……

「少し考えさせてください。と、言うより、頭の中を整理させてください」

 神山教授がゆっくりとソファーの背もたれに体をあずけた。


「そうだな。ゆっくり考えたまえ」

 蒼真はすっと立ち上がった。神山教授の期待、さとみの期待、両者の思いが彼の心に重くのしかかる。心に生じる違和感と重圧を振り払うかのように、彼は神山教授に一礼しその場を離れた。


 ×   ×   ×


「蒼真なんて放ってけよ」

 教授室の隣にある四畳半ほどの小さな部屋。そこは高城美波のために用意された秘書室であり、小さな机と資料で埋め尽くされた本棚があるだけの空間だ。秘書室と教授室をつなぐ扉が、その存在感を際立たせている。


 美波は神山教授が翌日講演する原稿を清書していた。教授の手書きの字は決して上手とは言えないが、それを見ながら手慣れた様子でノートパソコンに文章を打ち込んでいる。ふと彼女の目が斜め上を向く、そこには研究員の八尾が机に半分乗りかかって話しかけている姿があった。


「あいつ、今日、防衛隊の会議でMECに参加するよう依頼されたらしいじゃないか。蒼真のやつ上手くやりやがって。準公務員ってやつか。給料も防衛隊なら高いんじゃないか」

 八尾はその骨ばった顎をしゃくりながら話を続ける。美波の視線は再びパソコンの画面に戻り、教授の原稿を打ち込む作業に集中していた。


「だいたいどこがいいんだ、あんなやつ。自分のことしか興味のない、いや、研究にしか興味のない、頭でっかちなやつに」

 美波は八尾の言葉やしぐさに一切反応せず、まるで彼が存在しないかのように、ひたすら原稿を打ち続けていた。


「挙げ句の果てに、恩師の奥さんに想いを寄せるなんて」

 美波の手が止まる。

「八尾君、なにが言いたいの?」

「だから、あいつなんか放っておいて」

「私、蒼真君に興味ないですけど」

 ムッとした表情で美波が八尾を睨みつける。


「本当か?」

「本当よ」

 美波が再びキーボードを叩き始めた。

「それにしては、やたらと蒼真の近くにいるよな」

 八尾は表情を歪め、皮肉な笑みを浮かべながら美波を鋭く睨みつけた。


「気のせいよ」

 美波はノートパソコンの画面と手書きの原稿を交互に見つめながら、変わらずキーボードを打ち続けていた。彼女の指は、まるで機械のように正確に動き、教授の原稿を一字一句逃さずに入力していく。

「なら、俺と付き合えよ」

 八尾が美波の顔を覗き込む。美波の眉間に皴が寄る。


「お断りします」

 抑揚のない返事に八尾は首をすくめた。

「はい、はい。俺には興味ないってことね」

「八尾君だけじゃなくって、蒼真君もよ」

「じゃぁ、蒼真がここからいなくなっても寂しくないってこと?」

 美波のキーボードを打つ手が止まった。


「蒼真君はきっと行かない」

「なんで」

「彼は世のため、人のために働く人じゃないから」

「なんだそれ」

 八尾は首を傾げた。


「それに、彼の研究はまだ途中だし、行かないんじゃないかなぁ……」

 美波の声が弱々しい。

「やっぱり残っててほしいんじゃないのか?」

「そんなこと…… ただ仲間がいなくなることが寂しいだけよ」

 美波は怒りを抑えきれず、頬をぷくりと膨らませた。


「そんなに寂しければ、美波も防衛隊に雇ってもらったらいいんじゃないか」

 その言葉に美波が勢いよく顔を上げた。

「そうね、それもいいわね。雇ってくれるかしら」

 少し笑顔が戻った美波を見て八尾が、

「冗談で言ったんですけど」

 美波の顔から笑顔が消えた。


 その話が進む中、教授室の扉が静かに開いた。肩を落とし、視線を床に向けたまま、蒼真がゆっくりと姿を現した。

「蒼真君」

 美波の呼びかけに返事もせず蒼真が廊下を歩いて行く。

「ちょっと、MECへ行く話、どうなったの」


 蒼真は呆然としたまま歩みを進める。美波はノートパソコンを閉じ、八尾を無視するかのように蒼真の後を追った。八尾は首を左右に振りながらつぶやいた。

「どこが興味ないだよ、好きなくせして。素直じゃないな」


 ×   ×   ×


「俺が悪いって言うのかよ」

 駅前の噴水の前で、中年の男がつぶやいた。夕方が近づくと、住宅街へと続く駅には帰宅する人々が増え、部活を終えた学生たちと共に大きな人の流れが生まれていた。その流れに逆らうように男は立ちすくんでいた。時折、行き交う人々の肩が彼にぶつかるが、男は微動だにしなかった。


「えっ、ちょっと浮気したぐらいで離婚だ、慰謝料だって。浮気は男の甲斐性って昔の人は言ってたんだろ」


 男は手に持っていた離婚届を力強く破り裂いた。紙片は春風に乗ってひらひらと舞い、道端に散らばっていく。駅から降りてくる人々はそんな男の存在に気付くことなく通り過ぎていく。男の目は紙片の行方を追い、噴水の水しぶきが夕日に反射して輝く光が彼の目に飛び込んできた。彼は眩しそうに目を細めた。


「だいたい大した料理も家事もできないくせして、なんで俺ばっかりが悪者にならないといけないんだ」

「そうよね、おじちゃんは悪くないと思う」

 男の後方からか細い声が響いた。振り向くと、そこには少女が立っていた。夕日が彼女の白いワンピースを黄金色に染め上げ、その姿を輝かせている。男は再び眩しそうに目を細めた。


「お嬢ちゃん。どっから来たんだい」

「私のことはどうでもいいの。おじちゃんが怒ってるんで気になったの」

 男は訝しげに、

「大人の話だから、お嬢ちゃんには関係ないよ」

 と無視しようとする。


「でも私、おじちゃんより、おじちゃんの奥さんの方が悪いと思うの」

 男が目を見張る。

「ありがとう、お嬢ちゃん。おじさんうれしいよ」

 少女は微笑みを浮かべながら

「私、おじちゃんが奥さんのこと恨んでも仕方がないと思うの」

 恨む。そう、自分は妻を恨んでいる。少女の姿が、ふと妻の姿と重なって見えた。


「そう、そうだ。俺の方が正しい」

 少女の手には、いつの間にか薄汚れた麻袋がしっかりと握られている。

「私、分かる、おじちゃんはもっと怒った方がいい」

「そう、そうだよね」

 勢いづく男に少女が麻袋を差し出した。


「本当に怒りが爆発しそうになったら、これを開いて」

「なにこれ?」

「おじちゃんの思い、きっと叶うから」

 男は意味も分からぬまま麻袋を手に取った。その袋を見つめるうちに、再び怒りの炎が内臓の奥底から湧き上がってくる。


「くそ! 俺は、俺は、悪くない」

 男は麻袋を力いっぱい握りしめた。


 ×   ×   ×


 蒼真は庭から富士山を眺めていた。頂に雪を纏い、青空に広がるその美しい姿を見るのが好きだった。この自然をいつまでも守りたい。富士の樹海に生息する藻や菌類がこの自然を育んでいる。そんな研究を続けるつもりだった。物言わぬ小さな生命たちの声を聴くことが人の無遠慮な声とは違い美しいものだと感じていた。そういう世界が人間社会よりも自分には合っていると思っていたのに。

 母は言う、「父の贖罪のために戦え」と。師は言う、「自分の代わりに戦ってくれ」と。そして憧れの人は言う、「私たちを守るために戦って」と。


 でも、なぜ自分が戦わなければならないのか。命を落とすかもしれないのに。怪獣に勝てる保証などどこにもないのに。この戦いで自分が報われることはあるのだろうか。そんなものはない。きっとない。それでもみんな、自分に戦えと言う。なぜだ。


「逃げ出すか?」

 蒼真は自分の心に問いかけた、が、何か釈然としないものが残る。もし自分以外に怪獣を倒せる者がいないのだとすれば、やはり……


「なに悩んでるの」

 振り返るとそこに美波の笑顔があった。

「美波はどう思う?」

 蒼真の唐突な質問にも美波の笑顔は変わらない。

「MECに参加すること?」

「うん」

 美波がゆっくりと蒼真の近くまで歩み寄る。


「私は蒼真君にいつまでもここにいてほしいな」

「えっ」

 美波は蒼真の横で立ち止まり、彼の顔を覗き込むように見つめた。


「勘違いしないでね、なんとなく蒼真君がいないと話し相手が一人減って寂しいのよ」

「話し相手なら他にも……」

 蒼真の言葉を美波が遮った。

「あとね、どう考えても心配なの。一日中研究室にいて外にも出歩かない蒼真君がMECで務まるとは思えないのよ」

 美波が笑った。つられて蒼真も笑った。


「そうだよね。僕に務まるわけ、ないよね」

 蒼真の心は少し軽くなった。自分に期待する人間ばかりではないのだと感じたのだ。美波は蒼真の前に立ち、彼をじっと見つめていた。

「だから行かなくっても、いいんじゃない」

 蒼真の心が温かさで満たされる。本当なら涙がこぼれ落ちそうだったが、彼はそれをぐっと堪えた。

「でも、誰かが戦わないと」

 蒼真は唇をかみしめる。そんな彼に美波は変わらぬ笑顔で語りかけた。


「もしもよ、もしも蒼真君がMECに加わったとしても、なにかあればすぐに帰ってくればいいじゃない。私、シチューでも作って待ってるよ」

「ありがとう」

 嬉しかった。美波の言葉が。そう、自分には帰るところがある。ここには仲間がいる。その仲間を守るために戦えばいい。


 そう思ったとき、蒼真の腕時計が青く光った。

「美波、本当にありがとう。今からMECに行ってくるよ」

「蒼真君、無理しないでね」

 美波の口元は真一文字に結ばれ、その目は涙で潤んでいた。蒼真は静かに頷いた。


「じゃあ行ってくる」

 蒼真は振り返り、駆け出した。守るんだ、みんなを、そして美波を。

 建物の陰、美波の目が届かない場所で蒼真は立ち止まる。左手を見ると、まだ腕時計が青く光っている。それを確認し、彼はゆっくりと左手を挙げた。青い光が彼を包み込み、蒼真はその光に身を委ねた。


 光が消えた瞬間、一本角の四足怪獣が蒼真の目の前に現れた。辺りを見回すと、そこは臨海工業地帯で、多くのコンビナートが炎を上げて燃えている。

 ネイビーはファイティングポーズを取る。怪獣アンジラスが怒りを露わにして突進してくる。ネイビーはかろうじてそれを避けたが、アンジラスはすぐに折り返し再び突進してきた。今度は避けることができず、足を救われて倒れ込むネイビー。


 仰向けになったネイビーに覆いかぶさるアンジラス。怪獣の前足がネイビーの顔面を襲いかかる。

「くそっ、この怪獣の赤い光は、赤い光はどこだ」

 ネイビーは両手で角をしっかりと掴みアンジラスの動きを封じた。アンジラスが凶暴な鳴き声を響かせる、ネイビーは必死に両足を使って巴投げでアンジラスを投げ飛ばした。投げ飛ばされたアンジラスは仰向けになり、四足をじたばたと動かしている。立ち上がったネイビーは、アンジラスの腹に強烈な蹴りを入れた。


「ギャオー」

 アンジラスは転がるように起き上がり、そのまま後足で立ち上がってネイビーに倒れ込むようにのしかかった。ネイビーはそれを受け止めたが、その重さで足が地面にめり込んでしまった。

「重い……」

 ネイビーは右に体をかわし、アンジラスはそのまま地面に腹を打ち付けた。


「ギャオー」

 ネイビーは振り返り、アンジラスの背に乗り、その頭に拳を打ち付けた。そして角を力任せに掴み、へし折った。

「ギャーォ」

 アンジラスは手足をばたつかせる。ネイビーは背中から飛び降りアンジラスの正面に立つ。へし折られた角の中には、赤い光が見える。


「そこだ!」

 ネイビーは左手を突き出し、その手から放たれた青い光線が赤い光を捉える。アンジラスはその場に倒れ込んだ。


「ギャオーーー」

 長い咆哮が静まり、ジタバタしていた四本の足が止まった。やがてアンジラスの体は薄れ、ネイビーが見守る中でその場から消えていった。


 ×   ×   ×


「と言うわけで、MECの科学班に配属になりました」

 神山研究室のリビングで、蒼真は八尾と美波の二人に向かって深々とお辞儀をする。

「で、任務としてはフレロビウム検出器を使って怪獣関係の情報の検証を嘱託で請け負います」

「嘱託?」

 八尾と美波が声をそろえて突っ込む。


「なので、特に急ぎでないときは週に二日か三日、任務に当たれば良いと吉野隊長から命令されました」

 ポカンとする美波の横で八尾が、

「なんだよ。防衛隊職員になるもんだと思ってたのに」

「ほんとよ、心配ばっかりさせて!」


 美波が蒼真に抱き着いた。

「おいおい、美波、大げさだよ」

 蒼真が照れている。

「見ていられないぜ」

 八尾は吐き捨てるように、二人に向かって毒々しい言葉を投げかけた。


「でも、本当に良かった。もう帰ってこないかと思った」

 抱き付いた美波の肩に、蒼真はそっと両手を乗せた。美波は一歩後ろに下がった。

「とは言え、実際に怪獣が現れたら徹夜も含めて、一週間以上泊り込む可能性もないわけでもない」

 その言葉に美波が口先を尖らせる。

「また、そんなこと言って、心配させる」

「ごめん、でも僕の帰る場所って考えてみたらここしかないんだ。田舎には誰もいないし、ここでの研究は一生続けるつもりだし」


 美波に笑顔が戻った。かたや八尾は渋い顔をしたままだった。

「まぁ、そんなわけで、しばらくはここにいます。なのでこれからもよろしく」

 蒼真は再び頭を下げた。

「しょうがない、お前がいなくなれば美波ちゃんは俺のものだと思ってたのに」

 その言葉に美波が八尾を睨みつける。

「え、なんのこと?」

 蒼真が目を丸くする。


「なんでもない。なんでもない。八尾君、変なこと、言わないでよ」

「はい、はい。どうぞご勝手に」

 八尾は軽く首を横に振り、「付き合っていられない」と言わんばかりに部屋を出て行った。残された蒼真と美波。ばつの悪そうな表情を浮かべながら、美波は蒼真に背を向けた。


「蒼真君はもう、私がどんなに心配したと思ってるの」

 美波が再び頬を膨らませる。

「ごめん、でも嬉しかったよ、美波の言葉」

「えっ」


「だって、いつでもここに帰ってきて良いって言ってくれたときは、本当に嬉しかった。だからMECの仕事、請け負う気になったんだから」

 蒼真が嬉しそうに微笑む。

「当たり前でしょ。私たち仲間なんだから……」

「そうだよね、だからその仲間を守るために戦うんだ」


 蒼真が胸を張った。美波は小首を傾げながら

「ちょっとは男らしくなったかな。まぁ良いことね」

 二人は笑った。蒼真の心には再び温かい何かが満ちていった。



《予告》

フレロビウムの霧を追う蒼真の前に、花にも勝る美しい綾乃が現れる。なぜ彼女はメハジキの花を求めるのか、その謎が解き明かされるとき、怪獣ネオヌルスが現れる。次回ネイビージャイアント「憎しみの花」 お楽しみに。

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