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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
27/71

第二十七話 ママはヒーロー

♪淡い光が照らす木々

 襲う奇怪な白い霧

 悲嘆の河が怒るとき

 敗れた夢が怒るとき

 自由を求める戦いに

 愛する誰かを守るため

 青い光を輝かせ

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

 防衛隊怪獣攻撃班、通称MEC(Monster extermination corps) 日々襲い来る怪獣たちから命を懸けて市民を守る英雄たち。吉野隊長を筆頭に、三上隊員、田所隊員、そして科学班として作戦立案を行う阿久津蒼真隊員。彼らは日常の平和を守るため今日も戦い続けている。


「みんな集まってくれ」

 作戦室の扉が開かれ三河参謀長が入ってきた。その一言で散り散りに仕事をしていた隊員たちが次々と集まってくる。部屋の中央には、吉野隊長を中心に三上、田所、そして蒼真が集結していた。

 彼らの前には、三河参謀長が待ち構えており、その背後にはMEC隊員服を纏った二名が直立不動で立っている。蒼真が覗き込むと、一人は若い男、もう一人は女性であった。


「みんなご苦労」

 三河参謀長が静かに吉野隊長、三上、田所、そして蒼真を見回した。その顔はいつもと違い温和な表情を浮かべているように蒼真には見えた。

「えー、このたびMECに二名の隊員が新たに配属されることが決まった。これからみんなと共に戦う戦士だ。仲間として協力し合ってくれたまえ」

 三河参謀長の横に一歩前に出た二人の隊員が並んだ。


 右側に立つ隊員はまだ二十代の若者で、茶色の髪がMECのユニフォームには少し不釣り合いに見える。左側には三十代と思われる女性が立っており、その落ち着いた佇まいと整った美しさが、ショートの黒髪と相まって近寄りがたい冷たさを感じさせた。

「防衛隊入隊四年目の三浦淳です。若いですが、みなさんの足を引っ張らないようがんばります。よろしくお願いします」

 強張った顔の若い隊員が深々と頭を下げた。蒼真は拍手で迎えたが、他の隊員たちは敬礼で応えた。

 そしてもう一人の女性隊員が四名の隊員たちを見渡す。その目は睨みつけているわけではないが、鋭くきりっとした雰囲気を醸し出していた。


「今回、MECに配属されました鈴鹿アキです。入隊十年目、航空隊で鍛えてまいりました。未熟ではありますがよろしくお願いいたします」

 彼女が敬礼すると、吉野隊長、三上、田所もそれに応じて敬礼した。蒼真は拍手すべきか躊躇した。それは先ほどの出来事が原因ではなく、この女性の凛々しさに圧倒され、手を叩くことができなかったのである。そんな蒼真を鈴鹿アキが鋭く睨みつけた。蒼真はハッと我に返る。

 三河参謀長がアキの肩を軽く叩いた。


「彼女は防衛隊のエースパイロットでもあるが、宇宙物理学の博士号を持っている才女だ。阿久津隊員の生命科学と共に来るべき凶暴な怪獣に対して作戦を練るのにも活躍してくれるはずだ」

 三河参謀長の顔がさらに緩む。

「阿久津隊員、彼女と一緒に科学的見地で有効な作戦立案を頼む」

 鈴鹿アキが一歩前に進み蒼真の前に立った。

「鈴鹿です。よろしく」

 彼女が右手を差し出す。


「阿久津蒼真です。よろしく」

 蒼真が緊張した面持ちで右手を差し出すと彼女は力強くその手を握った。その手は蒼真がゾクッとするほど冷たかった。

「これからネイビエクスニウムを持つ強化された怪獣と戦わなければならない。みな心して、一致団結して職務に当たってくれたまえ」

「ハッ」

 全員が三河参謀長に敬礼する。その光景を蒼真は横から見ていた。最も近くに立つのは鈴鹿アキ。その端麗な顔立ちに見とれそうになるが、同時に不安が蒼真の頭をよぎる。何かとっつきにくい印象があるのだ。一緒に作戦立案を進める上で、この女性とうまくやっていけるのだろうか。

 その予感は数日後、現実のものとなるのであった。


 ×   ×   × 


「ネイビエクスニウム、この物質について鈴鹿隊員はどう考えますか?」

 防衛隊MEC科学班の実験室。小さなルビー色の石の前に科学班の隊員二名と蒼真が立ち、その前には鈴鹿アキが対面する形で立っていた。柔和な笑顔で話しかける蒼真に対しアキは腕を組み厳しい顔つきで石を見つめている。

 蒼真は実験室にアキを招いた。生命科学の分野からネイビエクスニウムについて語ることは難しすぎると感じたため宇宙物理学の見地から意見を求めたいと思ったのだ。彼女の専門知識と洞察力がこの未知の物質に対する理解を深める手助けになると信じていた。

「物理学の立場でなにが言えそうですか?」


「そうね」

 アキがフッと息を吐き、眉をひそめた。

「これほどの重い物質が崩壊もせずに安定して存在できていることは想定外ね」

 アキは腕を組んだ状態から右腕で頬杖をつき目を閉じた。

「ただ宇宙ではいろいろな物質の変化が起こっても不思議ではないから、絶対あり得ないとも言えない。事実目の前にそう言う物質があるのだから。だからその物質を宇宙人が利用してもなんの不思議もないわ」

 蒼真の眉間に皺が寄った。それはあまりにも一般論だったからだ。


 彼はすぐ横にいた隊員に目配せをし、隊員は少し離れた机から小さな透明の箱を持ってきた。その中には赤く輝く小さな破片が鎮座していた。

「前回現れた怪獣トリブロッケンの皮膚です。やはりネイビエクスニウムの反応がありました」

 蒼真がアキに説明を試みるがアキはその箱を一瞥しただけで依然として腕を組んだままだった。蒼真はその態度に苛立ちを覚えた。普通ならば興味を持ち、箱を覗き込むはずなのに彼女はまったく動かない。なぜだろう? 


 その疑問が蒼真の心に浮かぶ中、箱を持っていた隊員が恐る恐るアキに質問を投げかけた。

「鈴鹿隊員、この物質を粉砕できる物質はないのでしょうか?」

 アキは腕組みをしながら短いため息を吐いた。

「ダイアモンドを砕くためにはダイアモンドで砕くしかない。だとするとネイビエクスニウムを砕くためにはネイビエクスニウムしかない」

「でも我々にはネイビエクスニウムを見つけることも作ることもできません」

 気弱そうに蒼真の横にいた隊員が反論する。


「そうね」

 アキが小さく両手を上げた。

「降参ね」

 そう言って首を小さく横に振った。

「私ごときではどうすることもできないわ。今やれることは、できるだけ分析して、その結果を世界中の科学者に展開して、そして知見をもらうこと。それ以上でも以下でもないわ」

 そして、アキは短いため息を吐き、蒼真たちから顔をそらした。


「なので阿久津隊員、あとはよろしく」

「え、」

 そう言うとアキが実験室の出口に向かう。

「待ってくださいよ、他にないんですか」

 アキは背中越しに右手を上げ、何も言わずに実験室をあとにした。


「?」

 今度は蒼真が長いため息を吐く。

「なにが宇宙物理学専攻だよ、そんなこと誰でも言えるじゃないか」

 蒼真が詰まらなさそうにぼやくと、隣にいた科学班の一人の隊員が耳打ちした。

「鈴鹿隊員って、他人に対して結構冷たいのかもしれませんよ」

「え、そうなの?」

「ここだけの話ですけど、なんでも彼女、バツイチの子持ちらしいんですよ」

「バツイチ?」

 確かに彼女の見た目は美しく、その年齢を推測するのは難しい。しかしその落ち着いた雰囲気からは結婚していてもおかしくないと感じられる。


「でもバツイチと冷たい人とは関係ないんじゃないの?」

「それが、旦那さんが浮気して別れたらしいんですけど、その浮気相手がかわいい感じの人らしいんです」

「?」

 蒼真が首を傾げる。

「分からないんですか? きっと鈴鹿さん、思ったことずばずば言うタイプだから、家庭のことだとか子育てのことだとか結構衝突していたらしいんですよ。なんで、もっとほゎっとしたかわいい女性に元旦那さん惹かれたんじゃないかって」


「ほぉ」

「疲れたんじゃないですかね、元旦那さん、鈴鹿隊員に」

「へぇ」

 蒼真は話の内容よりもこの隊員がなぜそこまで詳しいのかに感心してしまった。

「で、子供さんはどうなってるの。いくつなの?」

「彼女の母親が面倒見ているみたいですよ。確か男の子で五歳らしいです」

「そうなんだ……」


 蒼真はその子と自分の子供時代を重ね合わせてしまっていた。看護師だった母に会えないことがどれほど悲しく寂しかったか。その記憶が蘇り胸に痛みを伴う。蒼真の心には過去の思い出と現在の状況が交錯し、複雑な感情が渦巻いていた。


「なんで、阿久津隊員も気を付けてくださいね」

「? どういう意味?」

「結構ズバズバ言うタイプですよ。阿久津隊員みたいに女性に免疫がない人は心折れてしまいますよ」

「女性に免疫がないは余計だよ」

 蒼真がムッとする。


 確かに今まで蒼真が出会ったどのタイプでもなさそうな女性であることは間違いなさそうだ。これから先うまくやっていけるんだろうか? 蒼真の胸に不安が広がる。

「でもまた教えて、君のアンテナ高そうだから」

「はい」

 科学班の隊員は命令を受けたときよりも元気に返事を返した。


 ×   ×   × 


「東北地方に怪獣出現、MECは直ちに出動せよ」

 緊急警報が防衛隊基地内に響き渡りスカイタイガーが出撃していった。作戦室では吉野隊長と蒼真がモニタを注視している。モニタにはのどかな山間の町に一本角を持つ二足歩行の怪獣が暴れている映像が映し出されていた。蒼真はその怪獣の胸に光るルビー色の石を凝視していた。

 連絡によると怪獣は山間地の温泉街近くの地中からいきなり現れたとのこと。怪獣の足元からは温泉の湯気が立ち昇っている。そんなことはお構いなしに怪獣は五階建てのホテルに体当たりしビルを崩壊させた。


「避難状況はどうなっている」

 吉野隊長が無線機前に座っていた三浦に問いかける。


「まだ避難は完了していません」

 吉野隊長が無線マイクを握る。

「スカイタイガー、避難が間に合っていない。できるだけ怪獣を足止めさせるんだ」

『三上機、了解』

『鈴鹿機、了解』

 無線を通じて両名の言葉が返ってくる。蒼真が見ているモニタにはスカイタイガーが怪獣のすぐ目の前まで近づいている様子が映し出されていた。


「三上隊員、鈴鹿隊員、怪獣の胸の部分を集中的に攻撃してください」

 蒼真が両機に指示を伝える。

『胸のネイビエクスニウムはミサイルでは破壊できないんじゃなかったのか』

 三上の疑問が蒼真に届く。

『ミサイルをスカイタイガーの機体に使われている金属に変更しました。以前の戦いでスカイタイガーが怪獣に激突したとき、破壊はできませんでしたが怪獣がかなり苦しみました。理由はまだ定かではないですが、今回も同じなら、効果はあるはずです』


『なるほど、やれる気がしてきたよ』

『三上隊員、お願いします』

『了解』

 三上が返答する。

 三上機が怪獣の前方に回り込みスカイタイガーが旋回してレーザーを怪獣の胸に発射した。しかしレーザーが胸に到達する前に赤い壁が現れ、その光線を反射した。


『くそ!』

 三上機が今度はミサイルを発射したが、赤い壁が再びミサイルを阻んだ。怪獣の手前でミサイルが破裂し火炎だけが空中で燃え盛った。その光景はまるで怪獣の防御力を誇示するかのようであった。

『蒼真君、怪獣の胸はバリアのようなもので守られている』

「仕方ありません、足元を狙って怪獣の動きを止めましょう」

 鈴鹿機が蒼真の指示を聞いていたのかどうかは定かではないが、怪獣の真上まで急上昇しそのまま急降下した。その勢いでミサイルを発射し怪獣の頭上に命中させた。怪獣はその衝撃に怯む。


「鈴鹿隊員、無茶するな」

 吉野隊長が叫んだが鈴鹿アキからの応答はなかった。モニタには鈴鹿機が再び上昇し、再度同じ攻撃態勢に入る様子が映し出されていた。急降下する鈴鹿機、その瞬間、怪獣の角が光り角から放たれた光線が鈴鹿機に命中した。

 スカイタイガーが炎上、そのまま地上に激突する。

「鈴鹿隊員!」

 蒼真が叫んだが無線から返答はなかった。モニタにはパラシュートが上空から地上へ降りていく映像が映し出されていた。アキは脱出に成功していたのだ。だがその位置は怪獣の目の前だった。


「三上、パラシュートから怪獣を引き離せ」

『了解』

 三上機がパラシュートと反対側からミサイルを撃ち込む。ミサイルは怪獣の背中に命中するも、怪獣は全く動じることなく振り向きもせずにパラシュートの方向に向かって進んでいく。鈴鹿機に不意を突かれた恨みがあるのか怪獣は確実に鈴鹿アキに向かって近づいていく。

「まずい」

 蒼真の腕の時計が青く光った。しかしこの場で変身するわけにはいかない。だがこのままではアキが危険にさらされる。パラシュートの目の前まで怪獣が迫る。そのときアキが何かを投げた。それが怪獣の胸元に届き閃光が怪獣の胸元で光った。


「ギャオー」

 怪獣の胸元で炎が燃え上がり怪獣はもんどりうって地面に倒れ込んだ。土埃が舞い上がり怪獣を包み込んでいく。その埃が収まったとき怪獣の姿も一緒に消えていた。その光景はまるで怪獣が存在しなかったかのように静寂が戻っていた。


 ×   ×   × 


「なんであんな無茶したんですか?」

 スカイタイガーの格納庫で蒼真は怪獣との闘いから帰ってきたアキを問い詰めていた。

「ああでもしないと怪獣を倒せなかったじゃない」

「でも一つ間違えれば……」

 アキは蒼真を見ずに新しい自分の機体を確認していた。

 ここはかつて芦名とよく話をした場所だった。しかしもう彼はいない。芦名も無茶な攻撃で撃墜されたのだ。みんなには内緒だが彼は生きている。ただ今ここにいないことは事実である。それは自暴自棄になった彼が無理を承知の攻撃を行ったからだ。今日のアキの行動はどこか芦名を思い起こさせるものがあった。だからこそ蒼真は彼女の本意を知りたかったのだ。


「この仕事はどんな場合でも一つ間違えば死に至る。どんな行動もリスクはつきものよ」

「それにしても」

 蒼真の脳裏に科学班のメンバーから聞いた情報が蘇る。

「確か、鈴鹿隊員には息子さんがいらっしゃると聞きましたが?」

 今まで蒼真を無視するように彼に目を向けていなかったアキが突然蒼真を鋭く睨んだ。

「よくご存じで」

「プライベートな話かもしれませんが、そんな話を聞いたもので」

 彼女のきつい目にやや怯む蒼真だった。


「さすが、科学班のリーダー、情報が早いのね」

「いえ、そう言うわけでは」

 アキは鼻で笑う。その冷ややかな目は変わらなかった。

「私が死んでも息子は悲しまないわ」

「え、そんな訳ないでしょ」

 蒼真はアキを睨みつけた。彼の心には母を失った悲しみが今も深く刻まれている。彼女の息子も同じように感じているはずだ。


「男の子は母親が恋しいはずです。まして小さいうちは」

 アキが軽く首を振った。

「阿久津隊員は結構マザコンなのね」

「うっ」

 蒼真の言葉に勢いがなくなる。

「そうですね。否定しないです」

 アキが首を傾げた。


「僕自身、幼い頃に母を亡くしたんで」

 アキの冷たい目が変わった。

「ごめんなさい。悪いこと言ったかしら」

「いいえ、僕のことはどうでもいいんです。ただ、重なるんです、自分の小さいときに。父は生まれたときにはいなくって、母は看護師でした。僕は母があまり家にいなくって、寂しい思いをしていたんです。そのあと災害で母を失いました。きっと鈴鹿隊員のお子さんも同じ思いかと」

「そうなのね」

 アキが腕組みをした。


「でも、阿久津隊員と違って、うちの息子はお父さん子なのよ」

 アキの表情が曇る。

「鈴鹿隊員の旦那さんて?」

「もう、どうせ知ってるんでしょ」

「はぁ」

 蒼真が気まずそうに下を向いた。


「まぁいいわ。話してあげる。浮気よ、女を作ってどこかへ逃げていったわ」

 彼女が長いため息を吐く。

「でも、大介、息子の名前なんだけど、彼には本当のことは言えなかった。だから彼には父親はヒーローで怪獣と戦って戦死したってことになってるの」

「そうなんですね」

 アキの表情がさらに曇った。

「で、大介はお父さんみたいに強くなってMECに入るんだって意気込んでるの」

「もしかして鈴鹿隊員は大介君の思いを分かってMECに志願したんですか? 怪獣と戦ったお父さんみたいなヒーローを目指して」

 アキの目が再び冷たくなる。


「そんな訳ないでしょ。今回は単なる人事異動」

「そうなんですか?」

 蒼真は納得いかない表情を見せる。

「でも、お母さんがMECの隊員なら大介君も鼻が高いでしょう」

「そうかしら」

 アキが目を閉じる。

「私はヒーローでもないし、大介が思っているほど強くもない。だから彼は私のこと嫌いだと思うの」

「そんな訳ないですって」

 蒼真が訴えかけた。


「大介とあなたは違うわ。それは母親である私が一番知っている」

「そう、ですか……」

 蒼真はいったん引き下がることにした。確かに大介君は自分とは違うかもしれない。でも母を思う気持ちは同じはずだ。たとえ母がヒーローでなくても、街のみんなから素晴らしい人だと言われようとも、自分の母は母なのだ。

「分かりました。鈴鹿隊員の言う通りかもしれません」


「そう、分かってくれた」

「でも、無茶な行動は控えてくださいね」

「えゝ、分かったわ」

 蒼真は軽く頷き作戦室に戻ることにした。アキはまだ機体の点検を進めていた。作戦室に向かおうとアキに背を向けたが、何となく気になり振り返った。アキは変わらず機体を確認しているが、さっきと違い目が潤んでいる気がした。


「鈴鹿隊員」

 蒼真が声を掛けると、アキが彼を見た。その目は再び冷たさを帯びていた。

「でも、もし鈴鹿隊員になにかあったら、大介君は間違いなく悲しいと思いますよ。僕と同じ思いをする子を生み出さないでくださいね」

 そう言うと蒼真は振り返り作戦室に向かった。


 ×   ×   × 


 今まで紹介する機会に恵まれなかったが、防衛隊基地の脇には小さな公園が併設されている。子供用の遊具はないため大人向けの公園と言うべきかもしれない。花壇には季節の花々が咲き誇り、公園全体には芝生が広がって、そこに寝転がることもできる。防衛隊員たちがひとときの憩いの場として利用するために作られた。


 蒼真も春先まではこの公園に来て芝生に寝転がりながら思索を巡らせていた。しかし、夏の暑さで外に出るのもおっくうになり、しばらくこの公園に足を運んでいなかった。だが、ここ最近、秋の気配が感じられるようになったこともあり、蒼真は久しぶりに頭を冷やすためにこの公園にやってきた。

「ネイビエクスニウム、どうやって対策すべきなんだ。やっぱりネイビーが持つサーベルでないとダメなのか」

 そうぶつぶつと独り言を言いながら蒼真が公園の入り口に立ったときふと公園で遊ぶ小さな男の子が目に入った。その子は無邪気に走り回り秋の風に舞う落ち葉を追いかけていた。


「? ここは子供用の遊具もないのにどうして男の子が?」

 蒼真がそう思いながら周りを見回すと男の子の近くにベンチがあり、そこには初老の女性と鈴鹿アキの姿が見えた。二人は何か話し込んでいるようだった。そのことを知ってか知らずか、男の子は公園の芝生の上を元気よく転がっている。

「もしかして、あれが大介君?」

 蒼真がアキに近づいていくと、アキも彼の存在に気付いた。その隣にいた初老の女性もアキの視線に気付いて蒼真の方を見る。MECの隊員服を見て慌てて女性が立ち上がった。


「こんにちは」

 蒼真が頭を下げた。

「こんにちは。初めまして。アキがいつもお世話になっています」

 初老の女性が蒼真に会釈した。その隣にいたアキの表情が少し歪んだように見えた。ゆっくりと立ち上がりその口角が下がった口元から、蒼真のことを紹介した。

「こちら阿久津蒼真隊員。私の新しい職場の同僚なの。阿久津隊員、この人は私の母です」

「阿久津です。よろしく」

「こちらこそ」

 初老の女性と蒼真が同時に頭を下げた。

 頭を上げた蒼真が芝生の上で遊ぶ男の子に目線を向けると、その視線を感じたアキの表情がさらに歪んだ。


「それから……」

 アキが男の子に視線を向けた。

「あれが大介君ですね」

 蒼真が男の子を見てアキに尋ねた。アキの口元が真一文字に結ばれる。

「そう、あれが私の息子の大介」

 男の子がアキの視線に気付いて彼女に近づいてきた。そして今度は蒼真の視線を感じたのかアキの後ろに隠れた。

「こんにちは」

 蒼真がアキの後ろを覗き込む。


「大介、こんにちは、は」

 アキが大介に強い口調で挨拶を促した。しかし大介はもじもじするだけで、蒼真を見ようとしなかった。

「大ちゃん、お兄ちゃんにご挨拶は」

 アキの母親が大介の肩を抱き、蒼真の前まで連れていった。

「こんにちは」

 大介がもじもじしながらも蒼真に挨拶した。

「大ちゃん、いい子だね」

 蒼真が大介の頭を優しく撫でると大介ははにかみながら蒼真を上目遣いで見た。その表情は先ほどの固い表情よりも柔和になったように見える。しかし蒼真が気になったのは大介の表情以上にアキの表情だった。彼女の顔には変わらず険しい表情が浮かんでいる。


「じゃぁ、そう言うことで、あとは母さんよろしく」

 そう言うとアキがその場を立ち去ろうとする。

「ちょっとお待ちよ。もう少し大ちゃんのそばにいてあげなよ」

「仕事があるんで」

 アキはそれ以上何も言わず防衛隊基地の方へ振り向くことなく歩いていった。その背中を悲しそうに見守る大介の目線が蒼真には気になった。


「すみません、愛想のない娘で」

 アキの母が深々と頭を下げる。

「なにかご迷惑、かけてませんでしょうか?」

「いえ、そんなことはないですが」

 と言いながら、蒼真はあの無謀な攻撃を仕掛けたアキの行動が頭をよぎった。

「この子がなつかないことを気にしてるんですよ」

 アキの母親が大介の頭を優しく撫でた。しかし、大介は変わらずアキが去っていった方向を見つめていた。

 蒼真は中腰になり、大介と同じ目線に立った。彼の視線は大介に優しく寄り添い、その小さな心に静かに語りかけた。


「大介君はママのこと好き?」

 大介は相変わらずもじもじして何か返事に困っているように見えた。蒼真はその様子を察し話題を変えることにした。

「大ちゃんはMECに入りたいの?」

「うん」

 大介が初めて蒼真に返事をした。

「お兄ちゃん、MECの人?」

「そうだよ」

 本当は科学班だけどね、とは言わず、胸のMECの文字を大介に見せた。


「いいな、僕も怪獣やっつけたいな、パパみたいに」

 アキの母の眉間に皴が寄る。

「ママもMECの隊員だよ。カッコいいと思う?」

「うん」

 大介が大きく頷いたがさっきの父親を語るときよりも目を伏せがちであることに蒼真は気付いた。

「大ちゃん、でも、ママに会えなくて寂しくない?」

「……」

 大介が黙り込むと蒼真は大介の気持ちと自分の過去の思い出を重ね合わせた。彼もかつて心に秘めた思いを抱えていた時期があった。そう、きっと大介も自分と同じはず。


「大ちゃんは、ママがパパと同じようにヒーローになってほしい?」

「……」

「そうだよね、ママはヒーローじゃなくて、大ちゃんのそばにいつもいてほしいよね」

 その言葉を聞いた大介の表情が固くなる。

「でも、怪獣は退治しないといけないんだ。僕、ママと約束したんだ。ママはMECで働いて怪獣をやっつけるんだ。だから、僕、ママがいなくても寂しくない。ママとの約束だから」

 大介の眉がハの字になり彼の寂しさが痛いほど蒼真に伝わってきた。その表情を見ながら蒼真は自分が小さかった頃を思い出した。

「お母さんは病気の人を治すために働いてるんだ。だから僕はお母さんのこと誇りに思ってる。だから我慢する。ひとりでもさみしくない」

 そんな強がりを周りの人たちに話していた記憶がある。


「もし、ママがヒーローで、でも、パパみたいに死んじゃったらどうする?」

「え、」

 大介の眉はさらに深くハの字を描き、潤んだ瞳からは数滴の涙が頬を静かに伝って流れ落ちた。

「いや……」

 そのか細い声が蒼真の耳に届いた。

「そうだよね、いやだよね。だって大ちゃんママのこと好きだもんね」

 大介が小さく頷く。

「お兄ちゃんもね、小さい頃、お母さんが働いていて一人で待ってるの寂しかったんだ。でもね、周りの人には寂しいって言わなかったの。だってお母さん、みんなのために一生懸命働いていたから。だからがんばって、寂しい、お母さんともっと一緒にいたいって言わなかったの。でもね、しばらくしてお母さん死んじゃったの。そのとき思ったんだ。もっとお母さんと一緒にいたかった、って。お兄ちゃんはね、大ちゃんにお兄ちゃんと同じ思いして欲しくないんだ」


 大介の目から大粒の涙が溢れ出し頬を伝って静かに流れ落ちた。彼は泣きじゃくりながら言葉を紡ぎ出すことができないでいた。

「ママと一緒にいたいよね。ママのこと好きだよね」

 大介が大きく頷いた。その瞬間、蒼真は大介を力強く抱きしめた。それはまるで昔の自分自身を抱きしめているかのような錯覚を覚えた。

「いいんだよ。我慢しなくって」

 大介は依然として涙を流し続けていた。蒼真は彼の涙をそっとぬぐいながら、優しい言葉で語りかけていた。


 ×   ×   × 


「鈴鹿隊員!」

 防衛隊基地の廊下で前を歩くアキを蒼真が呼び止めた。

「なに?」

 アキが振り返った。

「大介君のことですけど」

 蒼真が急いで歩みを進めアキに追いついた。向こうから来た隊員が一人、二人の横を通り過ぎていった。それ以外にはMEC作戦室に向かう廊下にはだれもいない。蒼真にとってはアキと二人きりで話すのに絶好の環境だった。


「大介がなにか?」

「さっき公園で大ちゃんと話したんですけど、彼、とってもいい子ですね」

「? なにが言いたいの。私の子にしては良い子だって言いたいわけ?」

 言葉では怒りが滲んでいたもののアキの表情は冷静そのもので、感情が一切現れていなかった。

「ここは防衛隊基地よ。そんな私的な話をする場所じゃないわ」

「それは分かっています。でも……」

「でも?」

 アキが蒼真を睨みつける。


「大ちゃんと話していて、僕と同じだと気付いたんです」

「同じ?」

 アキの眉間に皴が寄る。

「彼はお母さんが自分のそばにいて欲しいと思ってます」

「なにそれ、また死んだお母さんが恋しいって、あなたのマザコン話?」

「違います。彼は言いました。お母さんと一緒にいたい。死んで欲しくない。なによりお母さんが好きだと」

「そんな……」

 無表情だったアキが突然目を見開き、その驚きが顔に浮かんだ。


「そんな、そんな訳ないわ」

「いえ、彼ははっきり言っていました。お母さんに自分のそばにいて欲しいって」

 アキが大きなため息を吐いた。そしてゆっくりと話を続ける。

「あのね、大介は良い子だから周りの意見に流されやすいの。だからあなたに話を合わせただけだと思う」

「いや違います」

「違うって、母親の私が言ってるのに!」

 アキの表情がどんどん険しくなっていく。


「大介君の目は真剣でした。あれは嘘ついている目じゃない」

「母親の私より、あなたの方が大介のこと知っているとでも言いたいの」

「違います」

「なにが違うの!」

 アキの目が鋭く蒼真を睨みつける。しかし蒼真も負けてはいなかった。

「鈴鹿隊員は大介君の気持ちを分かろうとしていない。それはどこか彼に対して申し訳ない、と思っているからだと思います。だから彼の本当の気持ちを見ようとしていない。そんなお母さんの姿を見て、大介君もお母さんに本当のことが言えないんだと思います」

 アキが顎をしゃくり上げ、蒼真を見おろす。それは彼を見くだしているのかそれとも潤んだ瞳から零れ落ちそうな涙をこらえようとしているのか。


「あなたになにが分かるって言うの。人の家庭の中に入ってくるようなことはやめて。そもそも今は仕事中よ。そんな他人の家のことに首を突っ込んでいる暇があったら、この前東北に現れた怪獣ゴルゴスの攻撃方法をちゃんと考えて!」

 アキが蒼真に背を向けた。そして作戦室へと歩みを進める。

「大ちゃんはママが大好きって言ってましたよ。ヒーローでなくてもママが好きだって。あれは彼の本心ですよ」

 アキの歩みが一瞬止まったが彼女は振り向くことなく前を向き続けた。その瞬間、防衛隊基地に緊急指令が響き渡る。鋭いサイレン音が空気を切り裂き、緊張感が一気に高まった。


「東北地方に怪獣出現、MECメンバーは直ちに作戦室へ至急終結せよ」

 アキは蒼真を残して真っすぐ作戦室へ駆け出した。その後を蒼真も追いかける。アキは一度も振り向くことなくひたすら前を見据えて進んでいった。


 ×   ×   × 


「攻撃開始!」

 三上機と田所機がゴルゴスに向けてミサイルを撃ち込む。その爆発音が山間の村にこだまし緊迫感が増していく。しかしゴルゴスはビクともせず、依然として村の方向へ進んでいった。

 地上では、蒼真と三浦が住民の避難誘導を行い、迅速かつ冷静に人々を安全な場所へと導いている。今回の作戦で鈴鹿アキは前回の行動を踏まえた吉野隊長の判断により作戦室に留まることとなった。


 スカイタイガーとゴルゴスの激しい攻防が続く。なんとか前進を食い止めようと足元にミサイルを撃ち込むがゴルゴスはまったく怯むことなく前進を続ける。田所機が背中にレーザーを命中させると、振り返ったゴルゴスの角が赤く光りその角から発せられた光線が田所機に命中する。その勢いで前を向いたゴルゴスの角が再び光り今度は三上機をとらえる。その瞬間、二機のスカイタイガーが墜落していく様子を蒼真は目の当たりにする。


「ヤバ! このままじゃ、村が全滅する」

 三浦が蒼真の横でゴルゴスを見上げながら叫び声を上げた。蒼真は三浦に気付かれないように静かに後ろに下がる。彼の左手の時計はすでに青く光っていた。

「あっ、スカイタイガーだ!」

 三浦の言葉に反応して蒼真は空を見上げた。そこには確かにもう一機のスカイタイガーがやってくる。


「鈴鹿機?」

 蒼真が慌てて無線で呼びかける。

「鈴鹿隊員、出撃許可出たんですか?」

『自己判断よ』

「え、」

 鈴鹿機がゴルゴスに向けて猛攻を仕掛ける。しかし放たれたミサイルは依然としてゴルゴスにまったく効果を及ぼさない。


「鈴鹿さん! ゴルゴスの胸を、ルビー色の石を狙ってください」

『了解』

 鈴鹿機がゴルゴスの胸に向けてミサイルを撃ち込む。しかし、そのミサイルは空間に発生したバリアによって防がれてしまう。鈴鹿機は二度、三度と攻撃を繰り返すが結果は変わらず、すべてのミサイルはバリアに阻まれてしまう。

『これでもダメ、だったら』

 鈴鹿機が猛然とゴルゴスの胸に突撃する。


『怪獣の胸、バリアの内側に入り込めれば』

「鈴鹿さん、無茶しないで!」

 突進してきたスカイタイガーをゴルゴスが両手でしっかりと受け止めた。鈴鹿アキは今、ゴルゴスの巨大な手の中に囚われている。

「鈴鹿さん!」

 蒼真の声が無線を通じて鈴鹿機に届く。


『蒼真君、もしここで私が死んだら、大介にママは怪獣と戦って死んだヒーローだって伝えて』

「なにを言ってるんですか。ダメです」

『お願い、母としてなにもしてあげられなかった唯一の贈り物』

 ゴルゴスの巨腕に力が込められるとスカイタイガーの機体が軋み音を立て始めた。その圧力に耐えかねるように金属が軋む音が空気を切り裂くように響く。


『もう一つ、伝えて。ママも大介のことが大好き。そばにいてあげられなくってごめんなさい、って』

「ダメです。生きて、生きて返って!」

 ゴルゴスがまさにスカイタイガーを押しつぶそうとしたその瞬間、赤と青が交差する光の柱が目の前に立ち上がった。その光が消えたとき、そこには紺色に赤いラインが入ったネイビージャイアントが現れた。

 ネイビーはゴルゴスに向かって突進しその巨大な手に握られた鈴鹿機を奪い取ろうとする。ゴルゴスが抵抗する中、ネイビーとゴルゴスは激しく組み合い、ネイビーはゴルゴスの腹に強烈な膝蹴りを放った。その一撃に思わず怯んだゴルゴスがスカイタイガーを放り投げた。


「鈴鹿さん!」

 スカイタイガーがそのまま地面に叩きつけられる。ネイビーの動きが一瞬止まった、だがすぐにホッとした。空には白いパラシュートが開き、アキが脱出に成功していたのだ。

「ネイビー、後ろ!」

 アキの声がネイビーに届く。慌てて振り返るネイビーの目に、突進してくるゴルゴスの姿が映る。とっさに受け止めようとするが力が入り切らずに押し込まれ、ネイビーがそのまま仰向けに倒れる。

 上から覆いかぶさるゴルゴスがネイビーに拳を振り下ろす。苦しむネイビー、そのときレーザー光線がゴルゴスの胸に命中した。パラシュートからアキが撃ったMECガンの光線だった。怯んだゴルゴスの隙を突いてネイビーは逃れる。


 ネイビーは右手を天に突き出し輝くネイビーサーベルを手に持つ。ゴルゴスの角が光り光線がネイビーに向かうがそれをネイビーがサーベルで跳ね返す。その光線を受けたゴルゴスが後方に倒れ込む。ネイビーはすかさずゴルゴスに覆いかぶさりサーベルで胸の石を突き刺す。その石は粉々に砕け散った。

 ゴルゴスの胸のあとには赤い光が見える。ネイビーは左手を前に出して青い光線を放つ。それが赤い光線と交わった。ネイビーが立ち上がり後方へ下がったとき、ゴルゴスはもう動かない。そしてその姿はゆっくりと消えていった。


 ×   ×   × 


「無断出撃で鈴鹿隊員には一週間の謹慎を言い渡す」

 作戦室に吉野隊長の声が響いった。

「ご迷惑をおかけしました」

 アキが深々と頭を下げた。作戦室に居合わせた蒼真はその光景を遠目に見つめていた。

「一週間、息子さんとゆっくり過ごすんだな」

「え、」

 アキが蒼真に目を向けた。その鋭い視線は彼を睨みつけているかのようだった。蒼真はその視線に気付かないふりをして目をそらした。

「ありがとうございます」

 アキが再び一礼をして作戦室を出ていく。その姿を見た蒼真はすぐに彼女を追いかけた。作戦室を出た廊下にはだれ一人歩いておらず静寂が漂っていた。ほど近い場所で蒼真はアキに追いついた。


「鈴鹿さん、僕にあんな重い伝言を頼まないでくださいよ」

 アキが振り返りその視線は依然として冷たかった。だがすぐにその表情が緩み、蒼真がこれまで見たことのない柔和な微笑みが浮かんだ。

「そうね、ごめんなさいね」

 アキが蒼真に深々と頭を下げた。その姿に蒼真は一瞬困惑した。彼の想像を超えたアキの態度に彼は心の中で戸惑いを感じる。

「そんな、いや、そこまで謝らなくても」

 顔を上げたアキの目はいつもの涼やかな目に戻っていた。その視線に蒼真は何かホッとするような気持ちを覚えた。アキはやっぱりこうでないと、と感じたのだった。


「今回のことは確かに無茶をした私が悪い。でもこの仕事をしている限り、いつああなっても不思議じゃないわ」

「それはそうですけど」

 蒼真の表情が曇る。

「だから、蒼真君にはお願いがあるの」

「?」

「あなたには大介の相談相手になってほしいの」

「相談相手?」

 蒼真が首を傾げる。


「だって、母親の私より蒼真君の方が大介の気持ちが分かるんだから」

「それは……」

 蒼真が反論の言葉を口にしようとしたその瞬間、アキが彼の言葉を制した。

「私はね、どっか意固地なところがあって、彼に正直になれないことがあると思うの。だからあなたなら素直に大介の言葉を受け止めてあげられる」

 アキの真っすぐな視線を蒼真はしっかりと受け止めた。その目には決意と覚悟が宿っており蒼真は彼女の強さを感じた。彼の心に何かが静かに共鳴した瞬間だった。


「分かりました」

「ありがと、ほんとに蒼真君は良い子ね。大介と同じ」

 そう言うと、アキはにっこりと微笑んだ。そのまま蒼真に背を向け、廊下を進んでいった。蒼真は何も言わずに、彼女の後ろ姿を静かに見送った。

「早く、大ちゃんのところへ帰ってあげてください」

 そう思い、蒼真は足早に振り返り作戦室へと向かった。

《予告》三浦の恋人春菜、彼女は危険な任務に就く彼を心配するが、三浦はそんなことお構いなし。そんな中、春菜が怪獣クラビアンに襲撃される。そのとき三浦がとった行動は、次回ネイビージャイアント「囚われた愛、守るべき誓い」お楽しみに


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