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ネイビージャイアント  作者: 水里勝雪
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第二十六話 赤い光と共に

♪小さな生命いのちの声を聞く

 せまる不思議の黒い影

 涙の海が怒るとき

 枯れた大地が怒るとき

 終わる果てなき戦いに

 誰かの平和を守るため

 青い光を輝かせ 

 ネイビー、ネイビー、ネイビー

 戦えネイビージャイアント

「空に飛んだルビー色の石の破片についてですが、現場に到着した田所隊員が撮った映像がこちらです」

 作戦室の大型モニタの前にいつも通り吉野隊長以下、田所、三上が映像を見つめている。モニタの前に立つ蒼真がいつも通り解説役として立っている。

 蒼真が手元のタブレットを操作する。すると画像が送られ、赤い光るものが天に昇っていき時空の歪みに吸い込まれていく様が映し出される。


「今見えているのがビルマンデの胸にあったルビー色の破片です」

 空間の歪みに何かが見える。それは銀色に光る飛行物体。

「これは!」

 三上が声を挙げる。


「そうです。時空の歪みを利用して宇宙船が赤い石の破片を回収しています」

 赤い破片が一通り宇宙船に吸い込まれている光景が映像に映っている。

「この映像を撮ったあと宇宙船が時空の歪みの解消と共に消えて行ったんだ」

 田所が蒼真を補足する。

「おそらく、宇宙船は怪獣ビルマンデが現われたときと同じ異空間に逃げたのかと思われます」

 蒼真がさらに解説を加えた。その言葉に吉野隊長が腕組みをする。


「異空間?」

「最初にビルマンデが消えたとき、時空が歪みました。そのあと再びビルマンデが現われたとき同じように時空が歪みました」

 蒼真が画面を大写しにする。すると宇宙船が映っている部分が周りの青空と違い黒くなっている。

「これも仮説ですが、空間が歪み、そこに光が落ちていった結果、この部分だけが黒くなっていると思われます」


「部分的なブラックホールだと言いたいのか?」

 三上がいつも通りの冷淡な声で蒼真に問う。

「そうだと思います」

「敵は空間も操るのか。これは厄介だな」

 三上が吉野隊長と同じく腕を組んだ。


「彼らがどうやって空間を歪めているかは定かではありません。でもそのことよりももっと気になることがあります」

「? それはなんだ?」

 三上の目が嫌みなように蒼真に向く。

「現場を調査した結果、偶然にもこの赤い物体の破片を収集できました」

 蒼真がモニタから隊員たちを近くのテーブルに誘う。そのテーブルの上には白い布がかぶさった何かが置いてある。


「これになります」

 蒼真が白い布を剥がした。そこには人の拳ていどの大きさのルビー色の石が置かれている。

「この物体の正体はまだ不明です。これから調査に入ります」

 一同が覗き込む。石は妖しい赤い光を放ちながら輝いていた。

「確かに怪しそうだが、ただの石にしか見えないぞ」

 変わらない三上の冷めた声が他の隊員達の共感を得たのか周りが一斉に頷いた。


「実は、これと同じものを鳥居彩さんが持っていたと思われます」

「彩さんが?」

 田所が神妙な声を出す。

「彩さんは宇宙人からこの石を手渡されたと言っていたようです」

「彩さんか……」

 田所のうめき声にも似た言葉が一同の表情を曇らせた。


「この石がなにか重要なメッセージを秘めていると僕は考えています」

 蒼真はできるだけ気丈に振舞おうとした。だが逆にそれが周りの隊員達には伝わっているようだった。さすがの三上も神妙な面持ちで、

「彩さんがこの石を我々に早く提供してくれていたら……」

 その言葉に気丈を装っていた蒼真も落胆のため息を吐く。その蒼真に吉野隊長が軽く肩を叩いた。


「過去を悔やんでも仕方がない。我々は常に前を向いて進むんだ。でないと犠牲になった人たちに報いることができない」

 吉野隊長の言葉に一同が頷く。

「蒼真君、この石の調査の継続を頼む」

「承知しました。科学班の総力をあげてこの石の正体をつきとめます」

 蒼真がルビー色の石を大事に布でくるんだ。


「ただ、このことは芦名さんに伝えるべきかどうか……」

 蒼真がルビー色の石を大事そうに抱えながら吉野隊長に問う。

「分かっている。彼にはしばらく休暇を取る様に言ってある」

 吉野隊長が三上、田所を見る。

「しばらくは二人に頑張ってもらう。彼には今回の件、かかわらせるわけにはいかない。私情を挟めばどんな無茶でもしかねないからな」

 三上と田所が顔を見合わせる。三上がはぁと息を吐く。


「まぁ、しょうがない。しばらくはお前とで何とかしよう」

「おう」

 田所が元気のない返事をする。

「お願いします。芦名さんは大事な人を二度失いました。大事な人を守り切れなかった思いで心が乱れていると思います。とても出撃できるとは……」

「分かっているよ」

 田所が蒼真の肩をポンと叩いた。


「芦名もそうだが、なにより蒼真君も心を痛めてるんだろ」

「はぁ」

 三上が珍しく笑顔で、

「みんな悲しいんだ。蒼真君も無理するなよ」

「ありがとうございます」

 そう言うと、田所、三上の両名がパトロールへ向かうため作戦室を後にした。蒼真は両名を見送りながら彼らに感謝した。もし、もしあのとき、赤い石を狙えと言わなければ、自分が気絶してしまったことで芦名に全てやらせてしまった。もし自分の意識があればもっとできることがあったのでは。

 しかし、蒼真の心の痛みなど取るに足らないものかもしれない、なにより愛する人を失った芦名よりは。芦名の心の痛みをおもんばかると蒼真はいたたまれない気持ちになった。


 ×   ×   × 


 スカイタイガーの格納庫にはいつも通りの芦名がいた。彼は整備状況の書類を手に機体の確認を行っている。

「芦名さん……」

 芦名の後ろから蒼真が元気のない声で呼び止めた。芦名が振り返る。その顔には笑顔が浮かんでいたが、その目は蒼真には笑っているようには見えなかった。

 格納庫の中は、残暑の影響で熱気がこもっている。芦名の額にも汗がにじんでいた。蒼真にはその汗が涙に見えて、さらに心が苦しくなった。


「芦名さん、僕のこと怒ってますよね」

「いや」

「でも僕があのとき……」

 蒼真の顔が泣きそうになる。

「気にすることはない。君は正しいことを言ったんだ。あのまま怪獣を放置していれば市民に甚大な被害が及んでいた」

 はきはきと答える芦名の声にはどこか抑揚がなかった。


「それよりも自分がもっと早くにルビー色の石のことに気付いていれば、彩さんを失うことはなかった」

 芦名の顔から笑顔が消える。

「そんな、芦名さんの責任ではないですよ」

 蒼真の言葉に芦名の表情に笑顔が戻った。

「心配なんですよ、芦名さん、また自分を責めるんじゃないかって」

 芦名が開いていたファイルを閉じ、スカイタイガーの機体をポンポンと軽く叩いた。

「ありがとう、心配はいらないよ」

 芦名は近くにあったパイプ椅子に腰を下ろした。


「悪いのは宇宙人です。僕がなんとしてでも彼らのたくらみを暴いて、彩さんの仇を取って見せます」

 芦名が腰にあったタオルで顔の汗をぬぐった。

「そうだな、それが我々の役目だからな」

 芦名がタオルで顔を覆い、そのままやや前かがみの姿勢で話を続けた。

「ただ、今は、宇宙人への復讐とか、殲滅とかじゃなくて、静かに彩さんを送りたいんだ」

 蒼真は言葉を失った。普段と変わらない姿を装っている芦名の本音だと感じたからだ。

「もしルビー色の石が宇宙人からもらったことを知っていれば、もしわだかまりを考えずに彼女の行方を探していたら、いや、もしもっと早く自分の気持ちを打ち明けていれば……」


「ほら、やっぱり自分を責めてる」

 蒼真が屈んで芦名の顔を覗き込む。しかし彼の顔は変わらずタオルで覆われている。

「そうだな、いくら考えても彼女は戻っては来ない。今は自分を責めるより静かに彼女を送りたい。彼女との思い出を大事にしたい。だから心配は無用だよ」

 芦名がタオルをゆっくりと膝の上に置いた。その肩を落とした姿に蒼真は「心配するなと言われても……」と思った。


「隊長が芦名さんに休暇を取らせるって言ってました。休んだ方が良いと思いますよ」

「あゝ、そうさせてもらうよ。自分も少し休みたい」

 はー、と大きなため息を芦名が吐いた。

「休暇を取るなら富士五湖に神谷教授の別荘があるんですよ。そこを貸してもらうように美波に言っておきます」

「ありがとう。お言葉に甘えるよ」

 芦名はまだ椅子に座ったまま立ち上がろうとはしない。蒼真は彼を気にしながら美波に連絡を取ろうとその場を離れた。ふと振り返る、芦名の姿勢は先ほどと少しも変わっていなかった。肩を落とした姿は蒼真にはまるで魂が抜けた抜け殻のように見えた。


 ×   ×   × 


「蒼真さん、これ、見てください」

 眼鏡をかけた真面目そうな科学班の隊員が蒼真を呼び止めた。

「どうしたの?」

「こちらの検査機の前まで」

 彼の目の前には物質分析装置がある。蒼真はその装置に歩み寄った。

「このルビー色の石の元素分析です」

 眼鏡の隊員が示す先には分析器の結果が表示されている。そのモニタに映されているスペクトル分析結果に蒼真の目が釘付けになった。


「これは……」

 蒼真が息を呑んだ。

「これは、フレロビウムより重い?」

「そうなります」

 眼鏡の隊員が冷静に続ける。


「フレロビウムの元素より陽子十個分重いことになります。今まで発見された元素の中でもっとも重いものです」

「そんな……」

 今まで発見もされず、作ることもできない元素。これが何を意味するのか?

「もしかして……」

 蒼真が腰につけていたフレロビウム検知装置を当ててみる。

「反応がない」

 放射線が出ていない。と言うことは。

「この物質は非常に安定していると言うことですね」

 眼鏡の隊員が冷静に話し続ける。蒼真はルビー色の石を見つめた。物質として安定していて、どの元素よりも重い。


「この物質の硬度を計ってみよう」

「了解」

 眼鏡の隊員がルビー色の石を手に取って硬度計に向かった。蒼真もその後を追う。硬度計にルビー色の石をセットし計測器のボタンを押すと、硬度計の針が石を押し始めた。そしてあるところで止まった。眼鏡の隊員が計測器のボリュームを上げていく、止まった針はびくともしない。さらに押す。

「あっ」

 蒼真の叫び声があがったときには針は見事に折れてしまっていた。


「硬度は十五を超えています。ダイヤモンド以上に硬い」

 眼鏡の隊員もやや冷静さを欠いた声で言った。

 蒼真は自分の読みが当たったと思った。以前のビルマンデとの闘いの時、ネイビーサーベルが折れた。赤く変化したビルマンデの皮膚はこの物質で覆われていたのだ、と考えれば合点がいく。

「この物質を破壊する手段を考えないと……」

「こんな硬いものをですか?」

 眼鏡の隊員は蒼真の言葉に首を傾げた。


「とにかく、この物質は危険だ。なんとか特質を分析して対処法を考えないと」

「了解しました。調査の方は進めます」

 眼鏡の隊員がルビー色の石を計測器から取り外し研究室の奥へと運んでいった。それを見送る蒼真の心には不安が広がっていく。

「もし、あの物質で覆われた怪獣が現れたら、ネイビーは勝てるのだろうか」

 蒼真が身震いをする。


「宇宙人はさらに強力な怪獣を送り込んでくるだろう。でも僕は何も変わっていない。ネイビーが強化されるのは芦名さんが一体化してくれたとき…… その芦名さんも今は戦える状態にない」

 蒼真の不安はさらに広がっていく。

「芦名さん、大丈夫だろうか。早く復帰してくれないと強化された怪獣と戦えない。早く、早く立ち直って、芦名さん……」

 蒼真は近くにあった電話機を手にした。それは美波に連絡を取るためであった。


 ×   ×   × 


「ええ、芦名さんなら今、さとみさんと湖畔を散歩しているわよ」

 美波は携帯を手にしながら窓の外を見つめた。窓の外には静寂に包まれた湖畔の風景が広がり、手前には別荘の庭が青々とした美しい芝生で彩られている。

 ここは神山教授の別荘、芦名は休暇を取ってこの屋敷に滞在していた。蒼真は芦名のことを心配し、美波に付き添いを頼んでいたのだった。


「え、奥さんも来てるの?」

「えゝ、そうよ。私と芦名さんだけじゃ、心配だってことで、神山教授がさとみさんも行くようにって言ったらしいの」

「そうなんだ」

 蒼真の声が幾分小さくなる。

「なに、羨ましいの?」

「え、いや、違うって」

 蒼真が慌てて取り乱す。


「何うろたえているの?」

「いや、そう言うことじゃなくって、芦名さんの様子はどうなのって聞きたかったんだよ」

「そうね」

 美波は再び窓の外に目を向けた。湖畔の岸辺には芦名とさとみが佇んでいる。美波からは二人の後ろ姿しか見えないため、何か話をしているのか、それともただ黙って眼前に広がる富士山を眺めているのかは分からなかった。


「なんか普通にしているようなんだけど、やっぱりどこか元気がないかな」

「そうか、そうだろうな」

 蒼真の声が沈む。

「仕方ないわよ。彩さんが亡くなってまだ日も経っていないんだもん」

「まぁ、そうなんだけど」

 蒼真の声がさらに沈む。

「それよりも、蒼真君の方は何か分かったの?」

「うん、実は彩さんが持っていたルビー色の石、あれはとっても危険なものだったんだよ」

「危険?」

 美波が電話を片手に首を傾げる。


「詳しくは話せないんだけど、この先、怪獣がもっと凶暴化する気がする」

「そんなぁ」

 美波の声も沈む。

「でも必ずそうなるとは言えないんじゃない?」

「まぁ、そうなんだけど」

 蒼真の声は変わらず張りがない。

「でもネイビーがこの前戦ったとき、ネイビーサーベルが折れたよね。あれはあのルビー色の石が原因だと思う。このままじゃネイビーも苦戦するはず。だから早く芦名さんには元気になってネイビーと一緒に戦ってもらわないと」


「うーん」

 美波は納得のいかない雰囲気を電話越しに蒼真に伝えた。

「でも、それって、それって、蒼真君が強くなればいいだけの話じゃなくって?」

「?」

「だって、芦名さんは傷ついてるのよ」

「それは、そうだけど」

 美波の言葉に蒼真の言葉が途切れた。

「誰かに頼るんじゃなくって、自分で何とかする!」

 美波の語気が強まる。


「そう、そうかもしれないけど……」

「そうかもしれないけど!」

 さらに美波の語気が強くなる。

「でも、なんとかできるレベルじゃなくって……」

「なに言ってんの! 男でしょ。できるかできないじゃなくって、やる、その思いがないと、そんなんじゃ芦名さんに頼ってもだめよ」

 美波の圧が電話を通して蒼真を叩きのめす。


「分かったよ。気合だけは入れるよ」

「だけ、って」

「だって、科学的根拠が……」

「だからだめなの! 気合は気合、根拠なんてない!」

「すみません……」

 蒼真が観念したように謝った。


「話それたけど、とにかく、芦名さんのこと頼むよ」

「分かってるわよ」

 美波は満足したように再び窓の外を見た。そこにはさっきと同じ風景が広がり、芦名とさとみが語り合っている。しかしどこかさっきとは違う。芦名が身振り手振りで熱くさとみに語りかけている。何を話しているのだろう。

「?」

 美波の目に不思議なものが映った。さとみが金色の棒のようなものを持っている。芦名の陰でよくは見えないが、刀ぐらいの長さだろうか。


「あれ、さとみさん、あんなもの持ってたっけ?」

 さとみがその謎めいたものを芦名に手渡した。芦名はじっとそのものを見つめている。

「なにかしら?」

 美波が部屋の中から見ていることに気付いておらず、二人の会話は続いていた。そのとき携帯を通じて美波の耳にけたたましい警告音が飛び込んできた。

「緊急指令、緊急指令。富士山麓に巨大生物を確認。MECはただちに出撃せよ。繰り返す、巨大生物を確認、MECは出撃せよ」

 それは防衛隊基地内に発せられた放送だった。その瞬間、美波にも、そして電話の向こうにいる蒼真にも緊張が走った。


「どうしたの?」

 美波の問いかけに、

「怪獣が現れたらしい、君たちの所から近いかもしれない。気を付けて」

「分かったわ」

 美波が携帯に頷く。

「じゃぁ」

「蒼真君、気を付けてね」

「ありがとう」

 蒼真が電話を切ると無言になった携帯を美波が握りしめた。気合だと言ったものの蒼真が無茶をしないか心配になってきたのである。


「蒼真君、大丈夫かしら。そうだ!」

 蒼真を守れるのは芦名しかいない。そう思いながら美波は窓の外を見つめた。

「?」

 湖畔に佇んでいるのはさとみだけ。芦名の姿が見当たらない。

「芦名さん!」

 美波は慌てて外に飛び出した。

「さとみさん、芦名さんは?」

 と駆け寄る美波に、さとみは変わらず湖面の波を見つめながら答えた。

「怪獣出現の無線を聞いて、急いで現場に向かったわ」

「え、そんな、止めないと」

 美波が芦名を追おうとする腕をさとみが掴んだ。


「無理よ」

 さとみは静かに諭すように言った。

「彼は死ぬ気よ、今度の戦いで」

「え、そんな」

 美波はさとみの言葉に驚き、膝をついた。

「彼の決意は固いわ」

 美波は芦名が去っていったと思われる方向を見つめた。そして、ハッと気づいて携帯を取り出し、すかさずリダイアルのボタンを押した。しかしその呼び出しに蒼真が応じることはなかった。


 ×   ×   × 


「攻撃開始!」

 スカイタイガー吉野隊長機の指示で三上と田所の機体が一斉に攻撃を開始した。 彼らの目の前には、三本の角を振りかざし、怒りの咆哮を上げる二足歩行の怪獣が立ちはだかっている。怪獣は怒りに任せて足元の家々を踏みつぶし、街は炎に包まれ、瓦礫がそこかしこに散乱していた。


「三上、田所、胸の赤い石を狙え!」

 吉野隊長の指示の通り、怪獣の灰色の胸には燦然と赤い光を放つ石が埋め込まれていた。それはあのルビー色の石、彩を死に追いやった赤い光だった。

『了解!』

 田所と三上の両機がミサイルを発射した。それは確実に怪獣の胸の石に直撃する。着弾したミサイルから発煙が立ち昇りその煙が消えたとき、赤い光はまだ明々と輝いていた。


『くそ、まるで歯が立たない』

 三上の声が無線に流れてくる。

『隊長!』

 本部にいた蒼真の声が無線を通してスカイタイガーに届く。

『あの赤い石はダイヤモンドより硬い物質です。少々の攻撃では粉砕できないと思います』

「蒼真君、どうすれば良い」

『赤い石の粉砕方法はまだ見つかっていません』

 蒼真の返答に


『ならどうしろって言うんだ!』

 三上が苛立つ。

『確かに胸の石は粉砕できないですが、怪獣の表面の皮膚にはフレロビウムの反応があります。まずは怪獣の動きを止めるためにレーザーで足元を攻撃してみてください』

『了解』

 三上と田所の両機が発射したミサイルが怪獣の足元に着弾し、怪獣は足をすくわれた形でそのまま仰向けに倒れていった。

『よし、もう一発ミサイルをお見舞いするぜ』

 田所機が怪獣に向かって急降下した。すると、怪獣の胸の石から赤い光線が田所機に向かって飛んできた。


『わぁ』

 田所機は間一髪のところで光線をかわした。

『田所さん、大丈夫ですか?』

 蒼真が気遣う。

『大丈夫だ、でも、あのルビー色の石は厄介だな』

『まだ、どんなことが待っているか分かりません。注意願います』

『了解。ってか、分からないことに注意するなんて無理じゃん』

 田所機が上空を旋回している間に怪獣が起き上がってきた。


「?」

 怪獣の後ろ、遠くからもう一機のスカイタイガーが見える。

「あれは、あれは芦名機!」

『隊長、蒼真です。芦名さんが無断でスカイタイガーで出撃したと整備班から連絡がありました』

「なに!」

 芦名機が怪獣のすぐ目の前まで近づいて来ている。

「芦名、芦名なのか?」

『え、もう芦名さん、現場に到着したんですか?』

「芦名、出撃命令は出していないぞ!」

 吉野隊長の呼びかけに芦名機は応えようとしない。


『芦名さん、無茶はやめてください』

 怪獣の正面に回った芦名機がミサイルとレーザーを乱射した。怪獣はそのすさまじい攻撃に動きを止めた。

「芦名、やめろ。命令だ!」

『隊長、申し訳ありません』

 芦名の声が無線から響き渡った。その声からは、彼の固い意思が感じられる。

『隊長、これ以上怪獣の進撃を放置できません。あの胸のルビー色の石が元凶です。なので今から破壊します』


『芦名さん、無理です。まだあの物質の詳しいことは分かっていないんです』

 蒼真が叫ぶように芦名に呼びかける。

『蒼真君、あの石はネイビエクスニウムで破壊できる』

『ネイビエクスニウム?』

 蒼真はその言葉を知らなさそうだった。

『芦名さん、なんですか、そのネイビエクスニウムって?』

 芦名機が怪獣の前で旋回した。その芦名機に胸の石から光線が放たれそれが芦名機の尾翼に直撃した。炎がスカイタイガーを覆っていく。


『蒼真君、あとのことは任せた』

『え?』

 炎に包まれたスカイタイガーが怪獣に向かって行く。

『芦名さん!』

 芦名機がそのまま怪獣の胸に激突した。巨大な炎とともに赤い光が三々五々散らばり、怪獣は転げまわるように苦しみだした。

『芦名さん!』

 各スカイタイガーと本部のレーダーから芦名機の機影が消えた。蒼真の叫び声が各スカイタイガーに届いたときには、怪獣もまた姿を消していた。


 ×   ×   × 


 夕日が瓦礫の街を赤く染めていた。誰もいなくなった街の一角、六人の男女が一点を見つめている。

「勇敢にたたかった英雄の魂に敬礼」

 吉野隊長の号令で、三上、田所の両隊員が敬礼をする。彼らの前には瓦礫から拾ってきた木の棒が一本立っている。その先、焼け焦げたヘルメットが掛けられている。それは芦名のものであった。

 美波はその場に泣き崩れた。さとみは神妙な顔でヘルメットを見つめている。蒼真は美波を抱きかかえながらも自らの涙を止めることができなかった。


「芦名は死んだ。だが我々には悲しんでいる時間はない。怪獣がまたいつ、どこに現れるかもしれない、宇宙人の魔の手も防がなければならないなか、留まっていることは許されないのだ。我々MECはなんとしてでも人類の平和を守り抜かねばならない。芦名もそれを願っているはずだ」

 MECの隊員たちが鎮痛な面持ちで吉野隊長の言葉を噛みしめた。

「行こう、芦名の弔い合戦はこれからだ」

 三上の発言に田所が頷いた。その後、吉野隊長、三上、田所が墓標に背を向けた。そしてゆっくりとその場を離れていく。


「ごめんなさい。私がついていながら。蒼真君には申し訳ないわ」

 さとみが蒼真に近づき頭を下げた。

「奥さんのせいじゃないですよ。芦名さんは彩さんを失った時からきっとこのことを考えていたはずです。きっと誰も止めれなかった」

「ありがとう、許してくれるのね」

 さとみがもう一度頭を下げる。

「でも、本当に許せないのは芦名さんや彩さんを不幸にした宇宙人です。彼だけは許せない」

 さとみが頷いた。そう、許せない、蒼真の心に怒りが湧き上がってくる。

 蒼真は自分の胸で泣きじゃくる美波の涙をそっと指で拭った。


「美波、しっかりして」

「だって、だって、芦名さん、もういないんだよ」

「ヘルメットは見つかったけど、遺体は見つかってないんだ。僕は芦名さんが生きてるんじゃないかって、なんかそんな気がするんだ」

「え、」

 美波の涙が止まった。

「だから、泣かなくてもいいよ。きっと、きっと僕が芦名さん探してくるから」

 そう言うと、美波の体をさとみに預けた。


「僕はもう少しこの辺りの調査をしてから帰ります。さとみさん、美波をよろしく」

 さとみは美波の肩を優しく抱いた。

「さぁ、美波さん、ここは蒼真君に任せて、行きましょ」

 美波は無言で頷いた。さとみと美波は墓標に一礼しその場を離れていく。

 彼女たちを見送ったあと、ひとりその場に残った蒼真が墓標の方へ振り返った。夕日がヘルメットを赤く染めている。ふーっと息を吐き、蒼真が墓標の前に立った。


「芦名さん、ネイビエクスニウムってなんですか?」

 蒼真は芦名の最後の言葉が心の隅に引っかかっていた。彼は何を知っていたのだろう。それをどこで知ったのだろう。

「任したって言われても、なにも分からないじゃないですか。どうしろって言うんですか。なんで教えてくれないんです」

 そう、芦名からは何も聞かされていない。蒼真の胸にはこれからどうすべきか、何をすべきかが分からないまま芦名が逝ってしまった。芦名に対する悲しみと怒りにも似た複雑な思いが彼の心に広がっていく。

「一体、どうしろと……」

 蒼真が俯いた。そのとき聞き覚えのある声が、


「ネイビエクスニウムって言うのはな、この世で一番重い元素だ」

 八ッとして振り返ると、蒼真の目に声の主である健太が映った。

「お前が、なんでお前がネイビエクスニウムのことを知ってる!」

 健太が不敵な笑みを浮かべる。

「教えてもらったんだよ、黒い服のおっさんに」

 蒼真が身構える。

「それは宇宙人か?」

「さぁ、俺には関係ない。俺から見ればただのおっさんだ」

 健太が足元にあった空き缶を蹴飛ばす。缶は瓦礫の街へと飛んでいった。


「ネイビエクスニウムはフレロビウムと人の怒りのエネルギーが合間ってできる物質。ただ今の二つからではできない」

「?」

 健太は変わらない不適な笑みを浮かべながら蒼真に話しかけた。

「今言った二つにある媒体が係わってできるらしい」

「ある媒体?」

「それは、お前が持つ青い光。つまりネイビージャイアントが放つ青い光線」

「どいう意味だ!」

「ビルマンデの胸にあったルビー色の石にお前が放った青い光線が撃ち込まれたとき、この世で一番強い物質が完成したんだ」

「そんな……」

 蒼真は目を丸くし、彼の話を拒絶した。まさか、そんなことがあるはずがない。


「おっさんの計画では、今までの怪獣化した人の怒りのエネルギーとフレロビウムの融合したものがあの赤い石には封印されていたらしい。だから彩さんにあの石を預けて誰にも気づかれないようにしていた。それで、最後の仕上げとしてあの石に彩さんを閉じ込めた。お前にあのルビー色の石を青い光線で撃ち抜かせるために」

「すべては宇宙人の計画通りだと……」

 蒼真はガクッと前かがみになりひざをつく。そして健太を睨みつける。

「おいおい、俺は何もしていないぜ。あの物質を作ったのも、彩さんを殺したのもみんな阿久津蒼真、お前がやったことじゃないか」

 蒼真の体から力が抜けていった。その通りだ。この事態を招いたのはすべて自分のせいだと。

「まぁ、せいぜい新しい怪獣たちとよろしくやんな。くれぐれも簡単にやられるなよ。俺は偽善者のお前が苦しんでいるのを見るのが好きなんだから」

 そう言うと健太は蒼真に背を向けた。


「がんばれ、ネイビージャイアント」

 そう言うと健太がひとり瓦礫の街へ消えていった。

「くそ!」

 蒼真の拳が地面に叩きつけられた。彩の死も、芦名の自爆も、すべては自分のせい。そもそも何人の人生を不幸に陥れてきた? どれだけがんばっても、どれだけ苦しんでも、報われることはない。彼は無力感に押しつぶされそうになる。

 そのとき瓦礫の街の空が歪み、裂けるようにして空間が開いた。現れたのは三本角を持つ怪獣、全身が真紅に染まったトリブロッケンだった。


「くそ、まだ戦えと言うのか」

 蒼真は呆然と怪獣を見上げる。その胸に燦然と輝くルビー色の石に目を奪われた。彼の体からはさらに力が抜け絶望が押し寄せる。

 トリブロッケンは目の前の半壊したビルを力任せに叩き壊し、角が光を放つ。瞬時に周囲の建物が熱に包まれ猛烈な勢いで燃え上がった。

「僕はネイビエクスニウムで覆われた怪獣に勝てるんだろうか。そもそも芦名さんがいないのに、勝てやしない」

 トリブロッケンは瓦礫の街を更に無情に破壊し続け、その凄惨な光景に蒼真はただ呆然と立ち尽くしていた。そのとき彼の耳に声が飛び込んで来る。


「君は勝てるよ」

 蒼真がハッとなって振り返る。

「蒼真君なら大丈夫だ」

 その声の主は芦名雄介だった。

「芦名さん、生きていたんですね。やっぱり、僕の感は当たっていたんだ」

 蒼真は芦名の両手を掴み喜びに満ちた目で彼の顔を見つめた。しかし、芦名の顔には一切の表情がなくまるで幽霊のように無表情だった。


「いいかい、蒼真君。ネイビエクスニウムに覆われた怪獣に勝つためには、君がしっかりしなければならない」

 芦名の厳しい声が響く。

「よく聞いてくれ。ネイビエクスニウムに覆われた怪獣を倒すためには同じネイビエクスニウムの力が必要なんだ。ダイヤモンドを砕くにはダイヤモンドが必要なように、同じ理屈さ」

 芦名の右手には金色に輝くサーベルが握られており彼はそれをゆっくりと蒼真に手渡す。

「これはネイビエクスニウムでできた新しいネイビーサーベルだ。これを使えば怪獣を切り殺せる」

「これをどこで?」

「詳しいことは言えない。でも信じてほしい、これがあれば君は勝てる」

 蒼真は芦名の手からサーベルを受け取った。


「でも、芦名さんが戻ってきてくれたんで、もう安心です」

 蒼真の言葉に芦名の目はさらに厳しさを増す。

「これからは、蒼真君。君ひとりで戦わなければならないんだ」

 芦名が静かに告げた。

「えっ」

 蒼真は耳を疑った。

「いいかい、君はもう一人で戦える。誰にも頼らず、自らの力で敵を倒せる」

 芦名の厳しい目が蒼真に向けられる。


「いやいや、芦名さんがいないと僕は……」

 蒼真が反論するも芦名の言葉は強かった。

「甘ったれるな、君はもう一人で戦える」

 その言葉の強さに蒼真は圧倒された。なぜ芦名がそんなことを言うのか理解できなかった。

「芦名さんは、戦わないんですか?」

 蒼真が問う。

「あゝ」

「え、どうするんですか」

 蒼真が再び問いかける。


「旅に出る。自らの生きる意味を探すために」

 芦名の言葉には強い決意が感じられた。彩を失った今、芦名に自分と一緒に戦って欲しいとは言えない気がしたのだ。

「ひとりで戦えるね」

 蒼真は静かに頷いた。芦名は右手を蒼真の前に差し出す。その手の中で赤い光が煌めいていた。

「君にはこの力を授ける」

 芦名の言葉通りその赤い光は芦名の手を離れ蒼真の方へと向かっていった。そしてまるで運命に導かれるかのように蒼真の中に吸い込まれていった。


「これで君は赤い光線も、ネイビーサーベルも自由に使える。大丈夫、ひとりでも十分戦える」

 そう言うと芦名が蒼真に背を向けた。

「芦名さん!」

「追うな!」

 芦名の語気がいつもになく強い。

「君が向かうべきは後ろだ。後ろにいる怪獣を倒すんだ。このままいけば、街は、いや日本が大変なことになってしまう。早くいけ!」

「芦名さん……」


「いけ、ネイビージャイアント。戦え、ネイビー!」

 その言葉に弾かれるように蒼真は振り返った。彼の目には街を破壊し尽くすトリブロッケンの巨大な姿が映り込む。ビルが崩れ、煙が立ち上る中、蒼真の腕時計が青く光る。それを確認した彼は、決意を込めてゆっくりと左手を天に突き出した。

 その瞬間、トリブロッケンの前に巨人が現れた。その巨人は紺色の姿に、胸と腕、そして足に赤いラインが引かれている。ニューネイビージャイアントが誕生したのだ。

 トリブロッケンがネイビージャイアントを確認すると、怒りの咆哮をあげ突進してきた。地面が揺れ、瓦礫が飛び散る中、ネイビーは一撃、必殺のキックでトリブロッケンを蹴飛ばした。その力強さは、今までとは桁違いだ。


 仰向けに倒れたトリブロッケンにネイビーが飛び乗り顔に拳を打ち付ける。殴打され動けなくなったトリブロッケン。ネイビーはトリブロッケンの胸の石に向かって左手を突き出し、その手から青い光線が放たれた。光線はまるで星のように輝き、トリブロッケンの胸を貫いた。

 しかし光線がルビー色の石に到達する前に石の周りを光のバリアが覆った。そして青い光線は跳ね返されネイビーに直撃する。

「うぁー」


 ネイビーが後方へ飛ばされ仰向けに倒れた。今度は正気を取り戻したトリブロッケンが覆いかぶさる。トリブロッケンの角の攻撃をなんとか避けるネイビー。今度こそネイビーを突き刺そうと大きく振りかぶるトリブロッケン。その腹にネイビーが両足で蹴りを入れる。そのまま倒れるトリブロッケン。

 立ち上がったネイビーが左手を天に向かってあげる。その手には金色の輝きを放つ赤いサーベルが握られている。ニューネイビーサーベルだ。

 ネイビーが仰向けに倒れているトリブロッケンにサーベルを振り下ろす。まずは右腕がスパッと切り離される。


「ギャオー」

 ネイビーが返す刀で左腕を切り落とす。動きが止まったトリブロッケンの胸にネイビーが左手を突き出す。今度はバリアは現れない。そのまま青い光線はトリブロッケンの胸の石に命中する。

「ギャオー」

 トリブロッケンの胸が爆発しルビー色の石が粉々に砕け散った。しばらく手足をばたつかせていたトリブロッケンの動きが止まり、キラキラ光るルビー色の破片と共に静かに消えて行った。


 ×   ×   × 


 破壊された街に夕日が沈んでいく。その様子をひとり蒼真は眺めていた。誰もいない街、秋風が瓦礫の粉塵とともに蒼真に吹き付ける。

「本当にこれからやっていけるのだろうか。芦名さんがいない中、一人で怪獣と戦う。そんなこと可能なんだろうか」

 蒼真は傍らにあった墓標を見つめた。正直自信は全くない。しかし怪獣と戦えるのは自分しかいない。そう、もう芦名はいないのだから。


「できるか、できないかじゃない。やる、しかない」

 これは運命、半年前に故郷の海に誓ったはず。でも心がざわめく。今回の騒動で、蒼真の大切な人を幾人も失った。それは蒼真にとっても辛い出来事。心がうずくのは当然である。

 だがそんなことでめげている暇はない。今回以上に宇宙人は凶暴な怪獣を送ってくるに違いない。だとすると、また多くの人が苦しむ。これ以上、大事な人を失いたくもない。だから進む、それしかない。

「彩さん、芦名さん、見ていてください。必ず、宇宙人の野望を打ち砕きます。あなた方の犠牲を無駄にしません」

 蒼真は赤い太陽にそう誓うのであった。

《予告》新たな隊員が加わるMEC、鈴鹿アキは宇宙物理学博士で、バツイチの子持ち。蒼真は彼女の息子、大介に自分の子供の頃を投影する。出撃するアキが大介に込めた思いとは。次回ネイビージャイアント「ママはヒーロー」お楽しみに

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